孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

ギリシャ  大統領選出前倒しという「危険な賭け」に出たサマラス首相

2014-12-14 23:21:32 | 欧州情勢

(最大野党・急進左派連合のツィプラス党首 大躍進した2012年5月総選挙時の写真 政権を手にしたとき、どのような施策がとれるのか・・・ “flickr”より By Teacher Dude https://www.flickr.com/photos/teacherdudebbq2/7163931100/in/photolist-bV428s-c3AZnG-c3AZgw-c3AZjY-c3AZcS-eki4Jg-fQzPsu-dhdUk3-ekoU5s-ekoQzo-ekoVvU-eki7Zt-ekoNk1-4Dqg75-nmxChY-c3B9m9-c3B9xh-bT8Gr6-ekhLM2-ekoych-eki2nn-mKDnpL-c3B9go-c3B93w-c3B8Zh-c3B9EN-c3B9cU-c3B96Y-c3B9Bo-bTmJmz-nmt7kx-nD2P1A-nD3iRn-nD3inB-nmxPx5-nmt7tP-nCPvmj-nEPyFz-nCEZVk-nD3iAn-nEPziX-nmxC1q-nCKtXe-nCXNaX-nCKu34-nmxPvS-nmxB6F-nCKtdP-nmxCGL-nEPzva)

安倍首相、早期解散の賭けに見事な勝利
日本では、総選挙の投票が終了し、開票作業が始まったところです。
解散当初は、自民党は議席を減らすのでは・・・との観測がありましたが、現段階の予測では、自民党が単独でも300議席をうかがう勢いで、公明党を含めた与党では3分の2も・・・という情勢のようです。

「アベノミクス」という一般国民には判断が難しい問題について、明確な結果が出る前の段階でその継続を争点にする形で早期解散に打って出た安倍首相の思惑が的中した見事な政治的勝利と言えます。

第2次安倍政権成立当時、自民党の政権復帰、安倍首相の掲げる大胆な金融緩和政策に期待する形で、為替・株価が大きく動き、「アベノミクス」という言葉が一人歩きした感がありますが、「アベノミクス」によって日本の経済構想がどのように変わったのかは、よくわからないところでもあります。

「アベノミクス」を云々するまえに、それが脱却を目指す「失われた20年」というものが、いったい何なのか?何に問題があるのか?言われるほどにネガティブな状況なのか?・・・等々の議論が必要でしょう。

もっとも、私を含めて一般国民としては難しい理屈は理解しがたいので、自分の財布の中を覗いて判断するしかないところです。

「アベノミクス」については、著名な経済学者である伊東光晴氏のインタビュー記事がわかりやすかったので、紹介しておきます。

****アベノミクスは何もしていない・・・伊東光晴氏****
 -アベノミクスの是非を問うとして衆議院が解散されました。
 
伊東 問うも何も、安倍晋三政権はこの二年間何もしていない。
政権の政策はもちろん、安倍首相によって日銀総裁に据えられた黒田東彦氏による金融緩和にしても、成果は何もない。

株価の上昇を成果という向きがあるが、そもそも株価は政権交代前の二〇一二年十一月から上がり始めた。この株価を決めたのは東京証券市場を支配していた外国人投資家の動きだった。外国人投資家の買い越しは解散風など吹いていなかった同年十月第二週から既に始まっていた。

 -円安を評価する声もあります。

伊東 政権交代直後から始まった円安は、為替介入によるものに他ならない。財務省財務官の専権事項であり、黒田日銀による金融緩和とは関係ないと私は断言する。

日銀による金融政策が、経済に好影響を与えるなどということはない。外国からの株投資マネー流入は、リーマンショックで落ち込んでいたものが戻ったにすぎない。そのタイミングと政権交代の時期が重なっただけなのだ。

 -さらに追加された金融緩和によって何がもたらされますか。
 
伊東 日銀が市中銀行から国債を買って供給した円のほとんどは日銀の当座預金口座に積み上がっている。日本の市場に流れることもなければ外国に向かってもいない。結局日銀は政府の発行する国債を買って、国債が下落するリスクを上げているだけ。

今後、国債が下落して、金利か1%でも上がれば政府は予算編成すらできなくなる。
税収は金利返済で吹き飛び、財政は立ち行かなくなるだろう。
 
-消費増税の先送りには問題があるということですか。
 
伊東 日本の財政の収入と支出は乖離し続けている。本来は平行に推移しなければならないものが、収入は現状
維持しながら、財政支出だけが右上がりで増えている。

「経済成長すれば税収が増えて財政が安定する」なんて言う人聞かいるが、そんなことはありえない。日銀が引き受けた国債で財政出動してもほとんど意味がない。(中略)

 -日本経済への処方簾は何ですか。

伊東 そんなものはない。景気停滞期には安静にしてやり過ごすしかないし、できないことを見抜く叡智が必要。

特に人口減少期に入った日本で、これに対応する方法は一つではない。個別の企業によって対処方法は異なるし、
自治体によってもその取り巻く状況ごとに考えなければならない。

ただ、そこで知恵を絞れば、個別の企業や自治体の単位では生き残っていくことができる。ただし、日本が直面する少子化は世界でどこも経験のないレベルのスピードで進む。

「困難に直面する先進国」として試されていることを自覚しなければならない。何もせずにやった気になっている政権に期待しているようではだめだ。【選択 12月号】
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今後、安倍首相は本来の目的である「戦後レジームからの脱却」に向けて、憲法改正も視野にいれた動きをとると思われますが、日中関係を含めた国際情勢のなかで、それらの施策が持つ意味が問われるときが、安倍政治が評価されるときでしょう。

大統領を選出できなければ解散総選挙 緊縮財政路線は?】
景気刺激政策と財政安定の問題は、日本だけでなく、世界の多くの国々が直面している問題です。

財政破たん寸前までいった欧州経済のトラブルメーカーでもあったギリシャは、EUやIMFの支援を受けて財政安定を目指した緊縮財政を進め、信用力回復とともに経済状況は幾分持ち直した感があります。

4月10日には、財政危機で2010年以降停止していた国際金融市場での長期国債の発行を再開し、今年は2008年以降では初めて、わずかながら0.4%の経済成長が期待されています。

しかし、EU・IMFに強いられていると国民に評価されている緊縮財政のもとで、失業率は8月で25.9%と依然として高い水準にとどまっています。特に、若年層(15~24歳)の失業率は下降してきたものの、50.7%(ギリシャ統計局2014年7月)といまだ著しく高い状況です。

国民には疲弊感も強く、総選挙を行えば、緊縮財政を批判する左派勢力の勝利も予測されています。

サマラス首相・与党勢力にすれば、「EU・IMF支援体制からの脱却」を国民に示したうえで総選挙に臨みたい・・・という思惑があります。

“ギリシャのアントニス・サマラス首相とその同僚たちにしてみれば、これはどちらかと言えば財政の問題ではない。国の威信の問題であり、民主主義国では当然予想される政治的な計算の問題なのだ。”【10月27日付 英フィナンシャル・タイムズ紙】

政治的なスケジュールとしては、2016年6月に予定されている総選挙の前に、来年2月に予想されていた次期大統領を選ぶ議会内投票があります。

サマラス首相は、今年末で国際支援を終了させ、「EU・IMF支援体制からの脱却」の実績を掲げて来年の大統領選挙を乗り切れば、2016年の総選挙も勝てる・・・という思惑でした。

しかし、ユーロ圏財務相会合が8日、サマラス首相が目指していた年末での支援終了について、2カ月間の延長を決定したことで、首相・政権与党は大統領選出を前倒しするという賭けに出ることを決定しました。

もし、前倒しした議会内での大統領選出で決められないと、自動的に解散総選挙になるという「危険な賭け」でもあります。

****ギリシャ首相、危険な賭け 大統領選出前倒し 与党苦境、財政再建影響も****
欧州連合(EU)などの支援を受けて財政再建中のギリシャで、サマラス首相が大統領選出を前倒しして行うと決め、波紋を広げている。

連立与党が大統領選出に失敗すれば、国会は解散・総選挙となり、緊縮財政に反対する野党の躍進が確実視される。緊縮策でようやく光が見えてきた取り組みが頓挫し、欧州にも影響を与えかねないからだ。

大統領選出は、パプリアス大統領の任期満了に伴い来年2月に予定されていたが、政府は今月17日に前倒しして実施すると決定。

首相は9日、候補としてEUのディマス元欧州委員の擁立を発表し、「大統領が選出されれば、雲は晴れる」と述べた。

首相の決断の背景には、ギリシャの支援をめぐるユーロ圏の動向がありそうだ。ギリシャ経済の先行き不安が拭えないユーロ圏財務相会合は8日、サマラス首相が目指していた年末での支援終了について、2カ月間の延長を決定した。

これでは首相は財政再建に道筋をつけたと胸を張ることができず、緊縮策に疲弊した国民の反発が政権に向かいかねない。

このため、首相は大統領選出を前倒しし、早期の支援終了を目指す方針をアピールする方が得策だと考えたものとみられる。

とはいえ、連立与党には難問が立ちはだかる。大統領選出には定数300の国会で最低でも180票を確保する必要があるが、3度の投票でもこれを満たさなければ国会が解散される。

連立与党は155議席にとどまっており、首相の決断は「危険な賭け」とも指摘されている。

財政緊縮への国民の不満は強く、世論調査では反緊縮派で最大野党の急進左派連合が首相与党の新民主主義党をリード。

総選挙となって急進左派が政権を握れば、ユーロ圏との交渉だけでなく、6年連続のマイナス成長から脱した経済や財政再建にも影響しかねない。

大統領選出の前倒し実施が決まった直後には同国の国債利回りが上昇し、株式市場では株価が1日としては1987年以来最大の下げ幅を記録した。【12月12日 産経】
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早期の選挙に打って出ることで日本。安倍首相は成功しましたが、ギリシャ・サマラス首相はどうでしょうか?
大統領選挙での「180」のハードルは高く、「年明けの総選挙は免れられない」との観測が広がっているとも言われています。

そうなれば、EU懐疑派の急進左翼進歩連合が勝利し、緊縮財政路線が大きく修正されるのでは・・・、その結果、ギリシャにとどまらず欧州経済全体の危機が再来するのでは・・・とも懸念されています。

首相周辺は、仮に総選挙になっても「今ならまだ勝機がある」という判断でしょう。

****ギリシャ危機、再燃懸念 17日の大統領選出、混迷の気配****
ギリシャの大統領選が17日に行われる。選出が行き詰まれば解散総選挙に追い込まれ、欧州連合(EU)主導の緊縮策に反対する野党の躍進が予想される。ユーロ危機の震源地となった同国政治の混迷は、再び世界経済を揺るがす可能性がある。

ギリシャの大統領は国会(一院制、定数300)の投票で選ばれる。最終的には180以上の賛成票が必要だが、連立政権の保有議席は155にとどまる。

3回の投票を経て決まらなければ国会を解散し、総選挙となる。与党は無所属議員の取り込みを図るが、地元記者には「年明けの総選挙は免れられない」との観測が広がっている。

現段階の国民の政党支持率は、EU懐疑派の急進左翼進歩連合が27%で首位。与党の新民主主義党の22%を上回る。総選挙になれば急進左翼が勝つとの見通しが高まっている。

大統領選はもともと来年2月に予定されていたが、サマラス首相が8日に前倒しを発表した。EU側が構造改革を伴う支援策の延長を決めたため、その痛みが国民に浸透する前に選挙に打って出たとみられる。

与党は政党支持率では劣勢にあるものの、「だれが首相にふさわしいか」という世論調査では、サマラス首相がわずかに急進左翼のチプラス代表を上回っている。経済成長率も今年は7年ぶりにプラスに転じる見通しで、サマラス政権は現段階であれば勝機はまだあると見ている模様だ。

ギリシャでは2009年、政府による債務隠しが明らかになり、国債の償還ができなくなるとの見通しから、金利が急騰。国債を保有する各国銀行の信用不安にもむすびつき、欧州全体の経済危機を招いた経緯がある。

急進左翼が政権を担うことになれば、緊縮財政の路線が修正され、債務不履行(デフォルト)やユーロ圏を離脱するリスクが高まる可能性がある。

混乱を見越して、ギリシャの金融市場は動揺。大統領選の前倒しが8日に発表された後、株式市場は12日までの4日間で約20%下落した。

米経済通信社ブルームバーグは「1987年以降最悪の値下がり」と伝える。10年国債の金利も8日の7・24%から12日には9・11%まで上昇した。イタリアなど各国の株式市場にも影響が広がっている。【12月14日 朝日】
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もっとも、EU懐疑派の急進左翼進歩連合(ツィプラス党首)ですが、総選挙で勝利したとしても、ストレートにこれまで主張してきたような政策に変更はできないのでは・・・との観測もあります。

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SYRIZA(急進左派連合)が政権を握った時に、これまでの主張通りの政策を強力に実行するかどうかは定かでない。また、解散総選挙でSYRIZAが圧倒的過半数を獲得することは考えにくい。

恐らく、SYRIZAが第1党になれば同党のアレクシス・ツィプラス党首は連立政権の首相になり、連立を組むほかの政党や金融市場から圧力を受けて、ギリシャの債権者との和解に傾くことになるだろう。

そうなった場合、SYRIZAに率いられたギリシャは、無謀な財政でも終わりの見えない緊縮財政でもない、責任感にある程度影響された政策を経験することになるだろう。

ツィプラス氏は常々、ギリシャがユーロ圏にとどまることを望むと発言している。このスタンスは、正真正銘の左派の政策に自動的に歯止めをかけるものだ。【10月27日付 英フィナンシャル・タイムズ紙】
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ギリシャが抱える本当の問題
ギリシャにとって経済政策云々以上に必要なのは、社会・経済に深く根付く“クライエンテリズム(恩顧主義)、賄賂、そして私腹を肥やす行動”であるとも指摘されます。
しかし、この体質改善は経済再建以上に難しいようです。

****ギリシャ:緊縮から脱しても利益誘導と賄賂は残る****
ギリシャの恩顧主義、そして富裕層の身勝手さは、20世紀に入って何度も困難に遭遇したが、そのいずれにも屈しなかった。2度の世界大戦にも、外国による占領にも、内戦にも、軍の独裁にも滅ぼされなかった。今度も、つまりトロイカという名の外国人領主(EU・IMF)がこの地を去った後に生き残ったとしても、決して驚いてはいけない。【同上】
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