孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

血なまぐさい1日  シドニー、フィラデルフィア、そしてパキスタン・ペシャワル

2014-12-16 22:06:13 | アフガン・パキスタン

(パキスタン・ペシャワル 負傷して病院に運ばれる女子生徒 【12月16日 AFP】)

シドニー:「イスラム国」に共感する「一匹おおかみ」的な単独犯か 移民・難民対応への影響も
今日は、各地で血なまぐさい事件が報じられる1日でした。

オーストラリア・シドニーでは昨日からの立てこもり事件が、銃撃戦の結末となり、犯人のほか人質2名が犠牲となりました。

****シドニー立てこもり 射殺の犯人はイラン出身の難民 人質の男女2人も犠牲に****
オーストラリアの最大都市シドニー中心部のカフェに武装した男が客や従業員を人質に立てこもった事件で、地元警察の特殊部隊は16日午前2時(日本時間同0時)すぎ、店内への強行突入に踏み切った。

警察発表によると、実行犯が銃撃戦で死亡したほか、人質の男女2人も犠牲になった。さらに警官1人を含む4人の負傷者を出して、事件は約16時間ぶりに解決した。

警察は単独で「リンツ・ショコラ・カフェ」に立てこもった男について、イラン出身の難民で、自称イスラム教聖職者マン・ハロン・モニス容疑者(50)と断定。

人質を解放するよう説得してきたが、午前2時すぎ、人質6人が自力で脱出した直後に店内で発砲音が起きたため、特殊部隊が銃撃を加えながら店内になだれ込んだ。

人質は計17人だったことが判明。突入の時点で数人が店内に残っていたが、店長の男性(34)と、女性客(38)が死亡した。人質の死傷が銃撃戦によるものか、容疑者に危害を加えられたのかは明らかでない。
地元警察の幹部は、強襲を断行したことについて、「突入しなければより多くの人命が失われていた」と説明した。

死亡したモニス容疑者は、アフガニスタンで死亡したオーストラリア軍人の遺族に侮辱的な手紙を送りつけたほか、元妻の殺害に関与するなどしていた。

オーストラリアのアボット首相は、容疑者について「暴力的犯罪に多数かかわり、(イスラム教)過激派への心酔や精神的な不安定さを抱えていた」と指摘。米治安当局は、容疑者にテロ組織などの背景がないことを豪当局に伝えていた。【12月16日 産経】
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事件は、イランから豪州に政治亡命していた自称イスラム教聖職者のモニス容疑者(50)によるものとされていますが、元妻殺害での従犯など、複数の犯罪容疑で起訴されている問題の多い人物でした。

****シドニー立てこもり 前妻殺害の共犯、黒魔術と称し性的暴行…奇行重ねた実行犯****
・・・・現地メディアによると、豪州治安機関は、モニス容疑者が2007年、アフガニスタンで死亡したオーストラリア兵士の遺族に脅迫的な手紙を送ったことで、同容疑者に注意を払ってきた。09年にはインドネシアのホテルで爆弾テロの犠牲者になった遺族にも同様の手紙を出した。

昨年は前妻の殺害をめぐり共犯として訴追された。今年4月にはシドニー西部で10年以上前に「黒魔術」と称して性的暴行を行った容疑に問われた。10月には40件の余罪も追加され、現在保釈中だった。

イラン出身の容疑者は、最近はシドニー南部に居住。自身のウェブページで警察の追及に「(私の)政治的な行動は止められない」などと投稿。内部告発を公開する民間ウェブサイト「ウィキリークス」創設者のアサンジ氏が「政治的な理由」で告発されているなどと訴えた。(後略)【12月16日 産経】
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州検事総長は“複数の犯罪容疑で起訴されていながら自由の身にあったことには重大な疑問点があるとし、どのような抜け穴があったのか綿密に検証するよう、州および連邦政府の各当局に要請したことを明らかにした。”【12月16日 AFP】

モニス容疑者は、イランの国教であるイスラム教シーア派からスンニ派に改宗し、「イスラム国」とバグダディ指導者に忠誠を誓うと自身のウェブサイトに記していたと報じられており、犯行時には「イスラム国」の旗を持ってくることなどを要求していますが、アボット豪首相は16日朝に記者会見し、「イスラム国の象徴を使い、自らの行動を覆い隠そうとした」と述べ、イスラム国と直接関係したテロの可能性は低いことを示唆しています。

“「イスラム国」のメンバーではないが、共感して犯行に走る「一匹おおかみ」的な単独犯だったとされる。”【12月16日 時事】とも。

犠牲となった人質2名は、他の人質のため体を張った行動に出た結果、犠牲になったと報じられており、その死を悼む悲しみが大きくなっています。

****3児の母、体張り妊婦かばう=犠牲者に称賛の声―豪人質事件****
・・・・カトリーナ・ドーソンさん(38)は弁護士で、3児の母。16日未明に警官隊と犯人が銃撃戦になった際、妊婦の友達をかばおうと覆いかぶさり、銃弾に倒れたとみられている。

トーリ・ジョンソンさん(34)は、事件の舞台となったカフェのマネジャーだった。他の人質を逃そうと、犯人の銃につかみかかり、撃たれたとの目撃情報があるという。(後略)【12月16日 時事】
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「移民の国」オーストラリアが増大する難民受け入れに苦慮していることは、このブログでも何回か取り上げてきました。
2013年10月5日ブログ「オーストラリアを目指すボート・ピープル  取締りを強化する豪、中継地インドネシアと協議」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20131005)など。

イランからの密航者の多くは、迫害などで追われた政治難民ではなく、より良い生活を求める「経済移民」と見られています。

国内には移民・難民との軋轢もあり、今回事件の影響が懸念されます。

なお、イラン外務省報道官は「宗教の名の下に恐怖をもたらす非人道的な手法で、決して容認できない」と非難しています。

【「銃社会」アメリカで繰り返される銃による事件
アメリカでは、連続発砲事件が起きています。

****米で連続発砲事件、6人死亡 容疑者は逃走****
米北東部ペンシルベニア州フィラデルフィア近郊で15日、発砲事件が3件相次ぎ、6人が死亡、1人が重傷を負った。警察は逃走中の容疑者の男の行方を追っている。

同州モンゴメリー郡検察当局によると、警察が行方を追っているのはブラッドリー・ウィリアム・ストーン容疑者(35)。

撃たれた7人は容疑者と親類関係にあった。ストーン容疑者は武装していることから、警察は付近の住民に屋内にとどまるよう警告している。

犯行の動機は今のところ不明。地元メディアによると、犠牲者の1人はストーン容疑者の元妻のニコール・ヒルさんで、深夜にローワーサルフォードにある自宅で幼い娘2人の目前で射殺されたとみられる。容疑者とヒルさんは娘の養育権を争っていたという。

またランズデールの住宅でも2人の遺体が見つかり、1人はヒルさんの祖母とみられる。ストーン容疑者について、米ABCテレビ系列のWPVIは、元兵士だとの情報を伝えた。

ほかの犠牲者の遺体は、ヒルさんの姉妹が住んでいたとみられるサウダートンの住宅に警察が突入した際に見つかった。また住宅からは10代の負傷者がヘリコプターで病院に搬送されたと、NBC系列の「NBC 10」は報じている。【12月16日 AFP】
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ブラッドリー・ストーン容疑者(35は元海兵隊員で、心的外傷後ストレス障害(PTSD)などを患っていたとも報じられています。【12月16日 産経より】

「銃社会アメリカ」については、昨日ブログでも多発する警官による黒人への過剰暴力問題で取り上げたほか、これまでも再三言及してきましたが、何度こうした事件が起きても銃規制が一向に強化されないのがアメリカの現実です。

そうした現実にあって、銃乱射事件遺族が銃製造メーカーを告発したとのニュースもあります。
ただ、おそらく遺族が満足するような結果はでないのではないでしょうか。

****銃メーカーなど提訴=米小学校乱射事件の遺族ら****
米東部コネティカット州ニュータウンの小学校で2012年12月、児童ら26人が銃撃され死亡した事件で、児童9人の遺族と負傷した女性教師が15日、犯行に使われた銃のメーカーと卸業者、販売店の3者を相手取り、過失責任を追及する訴訟を州の裁判所に起こした。米メディアが伝えた。

訴えられたのは銃メーカーのブッシュマスター社(本社ノースカロライナ州)など。遺族側は使用された同社製のライフル銃ARー15について、軍用に設計されたもので、一般市民に販売されるべきではなかったと主張している。【12月16日 時事】 
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パキスタン:TTPの軍への報復「やつらにも同じ痛みを味わわせたい」】
血なまぐささで突出するのが、パキスタン・ペシャワルで起きた(まだ銃撃戦が続いているとのことですから、“起きている”と言うべきでしょう)イスラム武装勢力「パキスタン・タリバン運動」(TTP)による学校襲撃事件です。

時間が経過するごとに、被害者数が増えており、死者はメディアによっても異なりますが、100名を超えているようです。

****学校襲撃で126人死亡=過去最悪規模のテロ―タリバンが犯行声明・パキスタン****
パキスタン北西部カイバル・パクトゥンクワ州の州都ペシャワルで16日、武装集団が軍運営の学校を襲撃し、国営ラジオによると、生徒ら126人が死亡した。

学校を標的としたテロ事件としては、パキスタン国内では過去最悪の被害という。イスラム武装勢力「パキスタン・タリバン運動」(TTP)が犯行を認めた。

地元当局によると、同日午前、パキスタン軍の制服姿の武装集団5、6人が学校に侵入し、教室にいた生徒らに対して無差別に発砲。生徒らを人質に取って立てこもり、駆け付けた治安部隊との間で銃撃戦が展開された。

地元メディアによると、校外に避難した生徒は「教室にいたところ、外から銃声が聞こえ、先生が『机の下に伏せろ』と叫んだ。その後、軍の兵士がやってきて校舎の外に避難したが、多くの生徒が血を流して廊下に倒れていた」と証言した。

同校は軍関係者の子供が多く通う公立学校。事件当時は教師や生徒ら約500人が校内にいたとみられる。

パキスタン軍は6月以降、北西部の北ワジリスタン地区に地上部隊を投入し、TTPの大規模掃討作戦を実施。
TTPスポークスマンは今回のテロに関し、声明で「軍はわれわれの家族を殺害した。その痛みを分からせるために学校を狙った」と主張した。【12月16日 時事】 
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“パキスタン軍司令部によると、事件発生から3時間以上が経過した時点でも銃撃戦が続いている。
事件発生当時、校内にいた生徒や職員数百人について、軍は大半が避難したとしているが、治安関係者は現在も校内にとどまっていると述べ、状況把握が食い違っている”【12月16日 AFP 19:55】 

「パキスタン・タリバン運動」(TTP)は、イスラム法による統治を掲げ、支配地域では女性の教育を禁じており、ことしのノーベル平和賞を受賞したパキスタンの少女、マララ・ユスフザイさんを銃撃し頭に重傷を負わせたことでも知られています。

マララさんのノーベル平和賞受賞については、「(欧米が)マララを通じてイスラム教を侮辱するならば、全てのパキスタン人がタリバンになり、多くのマララたちが殺されるだろう」と警告する声明を出していました。

今回襲撃された学校は、軍が運営する、軍関係者が集中する学校ということで、軍が進めるTTP掃討作戦への報復とされていますが、マララさんの受賞との関連も懸念されます。

****<パキスタン>タリバン学校襲撃 犠牲者は多数の子供たち****
パキスタン北西部ペシャワルで起きた学校襲撃事件は、多数の子供たちが犠牲になり、内外に衝撃を与えた。

犯行声明を出した武装勢力「パキスタン・タリバン運動」(TTP)は今年、パキスタン軍の集中攻撃を受けてきたが、反撃能力を維持している。

隣国のアフガニスタンと同様、パキスタンの「テロとの戦争」も出口がまったく見えない状態だ。

タリバンのコラサニ報道官は、ロイター通信に対し、「我々が軍(運営)の学校を標的にしたのは、政府(軍)が我々の家族を狙っているからだ」と、犯行の目的を語り、こう続けた。「やつらにも同じ痛みを味わわせたい」。

2013年の下院選挙に勝利し、首相に返り咲いたシャリフ氏は、公約に掲げた「タリバンとの和平」の実現のため、今年2月には代表団による協議にこぎ着けた。

だがその後もタリバン側が攻撃をやめなかったことから6月にはタリバンなどが潜伏する北ワジリスタン管区に軍を投入し、掃討作戦を開始。政権は和平路線を放棄していた。タリバンは、政府の作戦への報復として今回、学校を襲撃した。

北ワジリスタン管区などアフガン国境地帯では、米国の無人機による空爆作戦も続けられている。タリバンの歴代指導者や司令官も米無人機によって殺害されてきた。だがそのたびに後任者が選ばれ、タリバンは勢力を維持してきた。

タリバンに12年に銃撃されたパキスタン出身のマララ・ユスフザイさんは、今月10日のノーベル平和賞授賞式で「平和」と「教育」の重要性を改めて訴え、世界に感動を与えた。

だが、その声はタリバンには届かない。パキスタンでは、タリバンの報復を恐れ、マララさんへの称賛をためらう住民が多い。
また、マララさんを「反イスラム的な欧米思想にかぶれた人物」ととらえる、欧米的価値観への根深い反発もある。

今回、タリバンが軍運営の学校を標的にしたのには、マララさんを積極的に支持しない住民感情につけこみ、タリバンへの支持拡大を図ろうとする狙いもある。

パキスタンでテロ攻撃が盛んになったのは、01年のアフガン戦争開戦以降だ。米国の「テロとの戦争」に協力したムシャラフ政権(当時)への反発からだ。米軍の誤爆などで多数のアフガン住民が犠牲になったことから反米感情が高まった。

米軍などアフガン駐留軍は今月末で任務を終了し、アフガン戦争は大きな区切りを迎える。だが、アフガニスタン、パキスタン共に治安回復のめどはなく、今後もタリバンなど武装勢力による攻撃は続きそうだ。【12月16日 毎日】
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学校には小学生から大学生が通っており、「子供ではなく、大人の兵士を殺害するよう指示してある」(TTP報道官)【12月16日 毎日】、あるいは“戦闘員らは、学年が上の生徒を撃つよう命じられているという”【12月16日 AFP】とのことですが、犯行現場ではそんな識別は無理でしょう。

“タリバンのコラサニ報道官は、ロイター通信に対し、「我々が軍(運営)の学校を標的にしたのは、政府(軍)が我々の家族を狙っているからだ」と、犯行の目的を語り、こう続けた。”とも。【12月16日 毎日】

パキスタンの「テロ地獄」は今に始まった話ではありませんが、軍の学校が襲撃され、多くの生徒が殺戮される・・・ということで、今後の軍の対応にも影響しそうです。

シャリフ政権としては、和平交渉でもテロが止まず、軍に突き上げられる形で掃討作戦に変更したものの、やはりテロは止まず・・・ということで、今後の対応に苦慮しそうです。

血なまぐさい事件が多発した1日でしたが、別にこうした事件がない“穏やかな1日”であっても、常に世界の各地で紛争・衝突が続き、毎日多くの犠牲者が出ているのも現実です。
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