孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

マララさんノーベル平和賞受賞 祖国で根強い反発 それでも夢の実現に向けて

2014-12-12 22:07:13 | アフガン・パキスタン

(授賞式、スピーチ前の緊張した表情でしょうか 左は同時受賞のサティヤルティさん “flickr”より By Mundo33 https://www.flickr.com/photos/87718284@N06/15806688617/in/photolist-q5MpQ6-q5CUKQ-pqd7rj-q5Zo3f-q6a1vj-q641gU-qnALPt-pqR5fk-qntYve-qjVtEu-qnE2J2-qntVtc-q67grh-pqUjBa-pqUm9t-pqUmfv-q67iv7-q66Hwd-pqBDqs-qnxk5f-pqR4Kn-q63pyL-q6dLE4-qnE5hi-q6f97P-qnAKag-q6418s-qnAM4X-pqR5rH-q643bW-qnADfY-qntUqR-qko131-qnE4vt-q66GGN-q67hKj-q67hoN-q6f96B-qnACoN-pqEVgE-qknZ1b-qntV4V-qknWuu-pqEVt3-qntYvz-q6fa3g-qknZ3A-q6f9rM-pqUkMX-q6dLMZ)

【「この賞は、教育を望む世界中全ての少女のためのものだ」】
日本人研究者3人が物理学賞受賞ということで話題にも多く取り上げられているノーベル賞ですが、平和賞は、これも周知のようにパキスタンの17歳の少女、マララさんがインドの児童人権活動家カイラシュ・サティヤルティさんとともに受賞しました。

マララさんが、女子教育の大切さをネットで訴えていたことでイスラム過激派の襲撃で重傷を負い、奇跡的な回復後も精力的な活動を続けていることは、これまでも何度も取り上げてきました。
(10月11日ブログ“マララさん、ノーベル平和賞受賞 「これが終わりではなく始まりに過ぎない」”(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20141011

****マララさん、ノーベル平和賞受賞=史上最年少17歳―児童人権活動家の男性も****
2014年のノーベル平和賞授賞式が10日午後1時(日本時間同9時)からノルウェーのオスロ市庁舎で開かれた。

子供の教育の権利を訴えてきたパキスタンの教育活動家マララ・ユスフザイさん(17)と、子供の労働の撲滅を目指すインドの児童人権活動家カイラシュ・サティヤルティさん(60)が受賞し、メダルと証書が贈られた。

2人はこの後記念演説し、マララさんは教育問題を「最優先課題」として取り組むよう世界の指導者らに向けて呼び掛けた。

マララさんの17歳での受賞は、すべての部門のノーベル賞を通じ歴代最年少。

マララさんは演説で、賞が自分のためではなく「教育を受けたいと願っている忘れられた子供たち、平和が欲しいと望んでいるおびえた子供たち」のものだと強調した。

また、全ての子供が学校に行くまで活動を続けることを誓い「これが子供の教育のための最後の闘いとなる」よう望むと述べた。

世界の指導者たちに行動を求める一方で、こうした活動は政治家や指導者だけでなく「私やあなた、われわれの義務だ」と指摘、「この仕事を今から終わらせよう」と締めくくった。

一方、サティヤルティさんも「すべての子供たちに生きる権利、自由になる権利、健康になる権利、教育を受ける権利を与えるのはきょうだ」と語り、政府や企業、宗教指導者らに子供への暴力を終わらせる努力に取り組むよう求めた。【12月10日 時事】
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マララさんは受賞前の記者会見で、
「子供たちが必要としているのは、1冊の本と1本のペンです。それだけで本当に子供たちの未来、世界が変わるのです」
「なぜ本とペンを子供たちに与えられないのでしょうか」「私は、子供たち全員が学校へ行き、教育を受けられるようにしていきたい」とも語っています。【12月9日 読売より】

授賞式には、2012年にイスラム武装勢力に頭部を銃撃された際、巻き添えになって負傷した友人2人と、女性が教育を受ける権利を訴えるナイジェリア人やシリア人の少女活動家らを招待し、「私の主張は独りの声ではない」と強調、「この賞は、教育を望む世界中全ての少女のためのものだ」と訴えました。【12月9日 時事より】

印パ首脳は国内の強硬派に配慮
祖国パキスタンは隣国インドと宿命的な対立を続けていますが、今回インド人のサティヤルティさんとの同時受賞ということで、マララさんは両国首脳の出席と関係改善をも期待していましたが、残念ながら国際関係の現実はそのような少女の夢をかなえてはくれませんでした。

****<ノーベル>平和賞授賞式 印パ首相は欠席 関係改善見えず****
10日のノーベル平和賞授賞式では、受賞者のマララ・ユスフザイさん(17)が期待していた母国パキスタンと、敵対する隣国インドの両首相の出席は実現しなかった。

印パ両国は領土問題などを巡って分離独立(1947年)以来、60年以上にわたって敵対しており、領有権を争うカシミール地方では今年も国境を挟んで両軍の激しい衝突が発生した。

インドのカイラシュ・サティヤルティさん(60)との同時受賞をきっかけに関係改善を期待する声も出ていたが、両国間の対話は停滞している。

「印パ首相が来てくれれば、関係改善をお願いするいい機会になったと思う」。マララさんは9日、記者会見でこう語った。10月に受賞が決まった際は印パ両国の首相に「出席をお願いしてみる」と語っていたが、パキスタン政府からは特に反応はなかったという。

カシミールでは国境や実効支配線を挟んだ衝突が断続的に続いており、今年10月には印パ両軍による砲撃で周辺住民ら約20人が死亡。今月5日にはインド軍の基地がパキスタン側から越境したとみられる武装集団に襲撃され兵士ら13人が死亡するなど、過激派によるテロ行為も活発化した。

両国はいずれも核保有国だけに、平和賞の同時授賞は印パ関係改善を促す意味合いがあった。だが、領土問題解決の糸口は見えていない。

インド側カシミールに住む社会活動家、ファルーク・ムシュタルさん(62)は「カシミールの緊張関係は平和賞だけでは改善しない」と語る。

インドのモディ首相は5月、就任宣誓式にパキスタンのシャリフ首相を招き関係改善を期待させた。しかし、8月に予定していた外務次官級協議は、パキスタン側がカシミール地方の分離主義者に接触をはかったとして出席を拒否。

その後も対話は進展していない。パキスタンの政治アナリスト、カディム・フセイン氏は「両首相は対話に反対する国内の強硬派に配慮せざるを得ないため、今回も授賞式に出席するというリスクを取れなかったのではないか」と話した。【12月10日 毎日】
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【「西洋の価値観を押しつけられている」との反発も
過激派から命を狙われながらも教育の大切さを訴え続け、「世界中の人々を突き動かした」(オバマ米大統領)マララさんへの賞賛は欧米世界では今さら語る必要もないものがありますが、多くのメディアも報じているように、祖国パキスタンには彼女を欧米の操り人形とみなすような反感が根強くあります。

「女性は母親や姉や妹、そして妻であるだけではなく、アイデンティティーを持ち、認知されるべきです。女の子は、男の子と同じだけの権利を持っているのです。」(受賞スピーチ)という欧米的価値観を体現する彼女への評価が欧米で高い分だけ、そうした反感も強い・・・とも言えます。

****<ノーベル賞>平和賞マララさんに母国パキスタン内に反感も****
 ◇「西洋の価値観を押しつけ」と 専門家「背景に反米感情」
女子教育の必要性を訴え史上最年少のノーベル平和賞受賞者となったマララ・ユスフザイさん(17)。
母国パキスタンでは、受賞を歓迎する声がある一方、マララさんに批判的な意見も少なくない。

「女子教育の権利」には賛同しつつも、近代的な学校教育を主張するマララさんに「西洋の価値観を押しつけられている」と感じているためだ。

専門家は、米国主導の「対テロ戦争」に振り回されてきた国民の反米感情が背景にあると指摘する。

「欧米の伝統や文化は我々とは違う。我々には独自の価値観がある」。全パキスタン私立学校連盟のミルザ・カシム理事長は、マララさんの自伝「わたしはマララ」を「欧米の視点」と切り捨てる。

同連盟は2013年、自伝の中の一部の表現が「反イスラム的だ」として加盟校での閲覧を禁止。今年11月には自伝タイトルをもじった「わたしはマララではない日」を設定し、抗議デモを行った。

カシム氏は「女性教育に反対ではないし、(マララさんを銃撃したイスラム過激派)タリバンを支持するわけでもない」と言う。だが、マララさんが「イスラム教や国家を不当に批判し、パキスタンの誤ったイメージを広めた」と非難する。

マララさんの銃撃(12年)は悲惨な事件として欧米メディアを中心に大きく報じられ、パキスタンの女性が置かれた境遇や教育の現状に批判が集まった。

このため、パキスタンでは銃撃を仕組まれた「陰謀」とする見方さえある。北西部の大学生(18)は「事件があったから平和賞が簡単に取れた」と語る。

北西部ペシャワル大のサルファラーズ・カーン教授はこうした「マララ批判」の背景に「米国の対テロ戦争に対する否定的な感情がある」と分析する。

パキスタンは01年、米国から対テロ戦争への協力を迫られた。それまでアフガニスタンのタリバン政権(当時)を支えてきたが、アフガン攻撃を容認した。

国内でも「テロリスト暗殺」を目的に米国の無人機による空爆が繰り返された。これが反米感情を高め、イスラム過激派の活動もかえって活発化した。

インドのシンクタンクによると、今年も1500人以上の民間人がテロの犠牲になった。「治安悪化は米国のせい」(南部カラチの会社員)との思いを抱く人も少なくない。

一方、マララさんは西洋式の近代的な学校教育の重要性を主張しており、欧米で広く支持を得てきた。カーン教授は「マララさんの主張は西欧の価値観と重なる。

このため、批判的な人たちはマララさんが欧米の価値観を広めるために活動しているとみている」と指摘する。

だが、マララさんの受賞が教育関係者に希望を与えているのも事実だ。イスラマバードの教育NGOで働くワカス・バジュワさん(36)は「マララさんの努力で国民の意識は高まっている。政府の支援も得やすくなった」と語り、今後のマララさんの活躍に期待を寄せた。【12月10日 毎日】
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“銃撃を仕組まれた「陰謀」とする見方”・・・・今年4月にパキスタンを観光した際にも、ガイド氏が全く同じようなことを語っていました。
「イスラム過激派は本当に狙ったのなら、外すはずはない。奇跡的に回復し、本が出版され・・・仕組まれたものだ」

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・・・・イスラム強硬派がマララさんを今も非難し続けることは驚きに値しない。
だがマララさんの支持者たちにとって理解が困難なのは、パキスタンの中間層から非難の声が出ている点だ。彼らは女子にも教育を受けさせたいと熱心ではあるが、自国の問題を国外で報じられることには反対している。(中略)

マララさんに対する憎悪の一部は、保守的な宗教観や女性の地位向上の反対などに由来する。ただ、パキスタンの多くの人は同国における武装勢力との10年に及ぶ衝突が米国によってもたらされていると考えており、この衝突に対する疑念もマララさんへの憎悪につながっている。(中略)

「マララのことが嫌いな人々」と題されたSNSフェイスブック(Facebook)のページには、マララさんの顔写真に牙を合成した写真と、米軍無人機の攻撃で死亡したとされる子どもたちの遺体の写真が並べられていた。これはマララさんが美化される一方で、欧米の暴力による犠牲者たちのことは全く伝えられていないとの主張だという。”【10月17日 AFP】
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もちろん、マララさんを支持し賞賛する声もパキスタン国内にも多くありますが、手放しで喜べない現実があることも指摘しています。

****称賛の一方、根深い問題指摘****
(パキスタンの)英字紙ドーン(電子版)は、(中略)マララさんの受賞は「パキスタンにとって栄誉である一方、いかに国が国民に対して義務を果たしてこなかったかを思い知らせるものだ」と指摘。

「非寛容と頑迷」に満ちた者たちが長期間、幅を利かせてきたとし、2012年にマララさんを銃撃した「パキスタンのタリバン運動(TTP)」などの武装勢力の横暴を非難した。

そして、「彼女が現在も帰国できないという事実が、こうした勢力が継続して力を持っていることの証明だ」との見解を示した。

同紙は12日の署名記事で、TTPとの戦いでは、マララさんが「正しい側であることは明白だが、この国で勝利していると考えるのは難しい。だからこそ彼女の戦いは価値あるものだ」と訴えた。

また、パキスタンの英字紙ニューズ(電子版)も11日の社説でマララさんを称賛する一方、「外国勢力の“スパイ”とみる向きも多かった」と言及した。

その上で、1979年にノーベル物理学賞を受賞したパキスタン人のサラム氏が、イスラム世界で異端視されている教団に属していたために、パキスタン国内では業績が無視されていることにもふれた。

社説は、2人のノーベル賞受賞者の評価が国内で割れているとし、「われわれはマララが安全に帰ることができ、命の危険を冒すことなく活動できるような国に変えなければならない」と結んだ。【12月20日 産経】
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TTP「多くのマララたちが殺されるだろう」】
「そこには、二つの道しかありませんでした。声を上げずに殺されるのを待つか、声を上げて殺されるか。私は後者を選びました」(受賞スピーチ)という彼女の活動が祖国で反感を招いてしまう・・・・なんとも残念な現実です。

授賞式に合わせて、2年前にパキスタンでイスラム過激派勢力に銃撃された時に着ていた制服が初めて公開されました。

****マララさん、銃撃時の血の付いた制服見て涙****
・・・・AFP通信などによると、マララさんは血が付いた制服を見て泣き出し、(同時受賞の)サティアルティさんが「あなたはとても勇敢だ」とマララさんを抱きしめたという。【12月12日 読売】
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当然ながら、イスラム過激派はマララさんの受賞を苦々しく見ています

****多くのマララ殺される…イスラム武装勢力が警告****
パキスタンのイスラム武装勢力「パキスタン・タリバン運動」(TTP)は11日、同国出身のマララ・ユスフザイさん(17)がノーベル平和賞を受賞したことに関し、「(欧米が)マララを通じてイスラム教を侮辱するならば、全てのパキスタン人がタリバンになり、多くのマララたちが殺されるだろう」と警告する声明を出した。

TTPは2012年にマララさんを銃撃した反政府過激派組織。声明ではマララさんについて、「パキスタンの社会を破壊するため邪悪な勢力と結託した」としている。【12月12日 読売】
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一方のマララさんは、受賞スピーチで敢えてイスラム過激派を強く批判しています。

****マララさん、イスラム過激派を非難 演説に付け加え****
「あなたたちは(イスラム教の)聖典コーランを学んでいないでしょう」

ノーベル平和賞を受賞したマララ・ユスフザイさん(17)は10日の演説で、イスラム過激派を強い口調で非難した。テロに訴えて女子教育の権利を否定し、自らを殺害しようとした過激派を、イスラム教の観点から批判した。

マララさんは受賞演説で、「コーランの中で、アラーの神は一人を殺せば人間性すべてを殺すことと同じだとおっしゃった。預言者ムハンマドは、自らも他者も傷つけてはいけないと説いているのを知らないのか」と続けた。

マララさんが事前にノーベル賞委員会に提出した演説原稿にはコーランのくだりはなく、最終盤で自ら付け加えたようだ。身ぶりを交え、学ぶ権利を奪う暴力を改めて批判する姿に、会場は大きな拍手に包まれた。【12月11日 朝日】
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コーランを引き合いに出しての批判・・・・いささか“危ない”ものにも思えますが、何事もないことを願います。
彼女は自分の命を懸けることを厭わないのでしょうが。

【「母国を助けて国を前進させたい」】
マララさんは、「将来は首相になりたい」との無垢な抱負を語っています。

****マララさん「将来は首相になりたい****
・・・・その後の記者会見で、マララさんは「母国を助けて国を前進させたい。だから、政治に関わろうと決めました。将来、大勢の人に支持されれば首相になりたいです」と将来の目標を話しました。

そして、パキスタンで初の女性首相となったブット元首相が手本だと説明したうえで、「母国の子どもたちすべてが質の高い教育を受けられるようにしたい」と述べました。

さらに、「ノルウェーにも女性リーダーがいる」とソルベルグ首相をたたえ、政治を含むあらゆる分野で女性がさらに活躍すべきだと訴えました。(後略)【12月12日 NHK】
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日本では、「将来は首相になりたい」なんて話す少年・少女はいなくなりました。
17歳にもなれば、そんな“かっこ悪い、ダサいこと”などは決して口にしません。
いかに現実と折り合いをつけ、大過なく生きるか・・・それが多くの人の考えるところでしょう。

個人的には、マララさんの現実に真正面から取り組む姿勢を応援したいと思います。

ただ、先述のような宗教的価値観の違いだけでなく、反米感情に根差した批判も根強いなかで、今後多くの挫折を経験するのでしょう。
そうした際に、今回のノーベル平和賞受賞が新たな挑戦の支えとなることを期待します。

「われわれはマララが安全に帰ることができ、命の危険を冒すことなく活動できるような国に変えなければならない」(パキスタンの英字紙ニューズ)・・・・1日も早く実現することを願います。
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