孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

アメリカ  CIAによる過酷な尋問の実態を批判した報告書を公表

2014-12-11 21:43:21 | アメリカ

(2009年5月22日ブログでも使用しましたが、拷問反対集会での「水責め」のデモンストレーション写真 “flickr”より By Isabel Esterman http://www.flickr.com/photos/isa_e/2023183793/)

事実上の拷問は「米国の世界での地位を著しく傷つけた」】
アメリカ上院情報特別委員会は9日、2001年の同時多発テロ後にブッシュ前政権下で中央情報局(CIA)がテロ容疑者に対して行った水責めなどの過酷な尋問に関する報告書の要旨を公表しましたた。

報告書は12年12月に議会で承認されましたが、非公開扱いとされました。
今回、約520ページの要約版として公表された背景には人権と人道問題を重視するオバマ大統領が、過酷な尋問に反対し、公表を求めていたことがあります。

報告書は、尋問について「CIAが政策形成者らに説明していたものより残酷」とし、「正確な情報を得る手段として効果的ではなかった」と批判。また、詳細をホワイトハウスや議会にも伝えずに「独走」したとも報告しています。

板に寝かせた容疑者の手足を縛り、布で目隠しをして顔に大量の水を浴びせる「水責め」などの、外傷を与えずに最大限の肉体的、精神的苦痛を与えることで、テロ計画や組織の情報を得ようとした「強化尋問技術」については、事実上の拷問だとの批判が強く、オバマ大統領が09年の就任直後に大統領令で禁止しています。【12月10日 毎日より】

“事実上の拷問”というより、“拷問そのもの”でしょう。

****<CIA>尋問は拷問…テロ情報取得「効果なし」上院報告書****
◇同時多発テロ後実施
同委は09年から、CIAが同時多発テロ後に国外の「ブラックサイト」と呼ばれる秘密基地にテロ容疑者を拘束し、極秘に実施してきた「強化尋問技術」(EIT)と呼ばれる過酷な尋問について、内部文書などから包括的な検証を実施。報告書は6700ページを超えるもので、要旨約500ページや結論部分約20ページなどが公開された。

報告書によると、秘密基地には119人を拘束。テロ容疑者に対し、水責め▽氷風呂▽最大180時間眠らせない睡眠妨害▽子供や親に危害を加えるとの脅迫--などを行っていた。

コンクリートに裸の体を固定されて低体温症で死亡したケースもあった。同委のファインスタイン委員長は上院で演説し、「強圧的な尋問手法が用いられ、一部は拷問に相当するものだった」と指摘した。

一方、EITの対象だった39人のうち7人からは何の情報も出てこなかった▽EITを受けていない拘束者も正確な情報を出してきた--などとし、EITがテロ容疑者から正確な情報を得たり、容疑者の協力を得たりするうえで効果はなかったと結論づけた。

報告書はまた、司法省に不正確な情報を繰り返し提供することで拘束や尋問の法的な側面の検証を妨げたり、ホワイトハウスや議会に対しても正確で十分な情報の提供をせず、EITの効果があると印象付けたりした、とCIAを批判。

EITに対する世論の批判に対抗するため、CIAが一部メディアに不正確な情報を流して世論形成をしようとしたことなども指摘した。

オバマ大統領は09年の就任直後、ブッシュ時代の過ちを明確にして、EITを含めた残虐な尋問手法を中止した。オバマ氏は報告書要旨の公表を受けた声明で「米国の世界での地位を著しく傷つけた。こうした手法を用いることは二度とない」と拷問との決別を確約した。

これに対し、CIAのブレナン長官は、過ちがあったことは認めながらも、EITにより「(テロリストの)攻撃計画を阻止し、テロ容疑者を拘束し、人命を救うことにつながる情報を入手することに確かにつながった」との声明を出し、「効果がなかった」との指摘に反論した。【12月10日 毎日】
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「強化尋問技術」の内容については、以下のようにも報じられています。

****水責めだけじゃないCIAの拷問法****
バラク・オバマ米大統領が「拷問」と呼んだCIA(中央情報局)の「強化尋問テクニック」。米上院情報委員会が9日に発表した報告書の要旨で、その残酷きわまりない実態が明らかになった。
 
CIAはすでにテロ容疑者にこうした尋問を行っていたことを認め、テロに関する「唯一無二の、その他の方法では入手不可能な」情報を得るためには有用なテクニックだと主張してきた。

しかし報告書を見ると、こうした手法が有効だった事例はほとんどなく、CIAは関係当局に事実を隠蔽するような報告を行っていた疑いがある。

CIAが用いた残酷なテクニックの代表格が水責めだ。傾斜した板に足を上にして容疑者を固定し、鼻と口に水を注ぎ続けて溺死寸前の状態に追い込む。CIA内部ではイニシャルのKSMで通っていたアルカイダの大物幹部ハリド・シェイク・モハメドには、水責めによる尋問が15セッション行われた(1回のセッションで繰り返し水責めに遭わされる)。

睡眠を奪うこともCIAの常套手段だ。テロ容疑者は「最高180時間、通常は立ったままか、苦痛を伴う姿勢で、ときには両手を縛って頭上に上げさせたまま」一睡もできなかったと、報告書は述べている。「長期間睡眠を奪われた被収容者のうち、少なくとも5人が幻覚に苦しむようになったが、そのうち少なくとも2人に対して、この処置が続行された」

CIAの内部文書から、長時間苦痛を与え続ける手段として、無理な姿勢をとらせる拷問が日常的に行われていたことが分かる。

KSMに対する「最初の水責めセッションは30分間行われ、それに続いて体を横にした無理な姿勢をとらせたが、このやり方はCIA本部が事前に許可していなかったものだ」と、報告書は指摘している。「(グアンタナモ米軍)基地の責任者は法的に問題になるのを恐れて、医療スタッフにこの尋問について(上層部に)報告しないよう命じた」

また報告書によると、アブ・ズベイダ容疑者は「棺桶サイズ」の箱に11日と2時間閉じ込められ、引き続き「幅52.5センチ、奥行きと高さ0.75メートルの窮屈な箱」に29時間閉じ込められた。


報告書はさらに、「上級の尋問官」の証言として、「『自分たちが確認できただけでも』17日間立ったまま壁に鎖で縛り付けられていた収容者がいた」と語っている。

顔に平手打ちをくらわせる、全裸にする、壁にぶつけるなどの手法が多くの場合、複数同時に用いられていた。数人の尋問者が容疑者を取り巻き、「母親を連れてきて、目の前で性的に虐待してやろうか」とすごむこともあったという。

報告書は「荒っぽい連行」と呼ばれていた手法も伝えている。「5人ほどの捜査官が収容者に向かって怒鳴り散らし、独房から引きずりだして、衣服を切り裂き、絶縁テープで縛って体の自由を奪い、フードを被せ、長い廊下を延々と引き回しながら、平手打ちやパンチをくらわせる」というものだ。

食事と水分を摂ることを拒否した容疑者には「直腸から」の水分と栄養補給が強制された。ある容疑者は「無理やり直腸からボトル2本分の栄養ドリンクを注入され、その後同じ日に『ランチ・トレー』と称して、ヒヨコマメとゴマのペースト、ソースを絡めたパスタ、ナッツ、干しぶどうを『ビューレ状』にしたものを直腸に注入された」という。

こうした尋問に耐えかねて、自殺を図る容疑者も続出した。報告書要旨の序文で、ダイアン・ファインスタイン上院議員はCIAのテロ容疑者の扱いを「アメリカの法律にも、国際条約の遵守義務にも、アメリカ人の価値観にも反する」として、厳しく糾弾している。【12月11日 Newsweek】
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CIAや共和党は内容・公開を批判
「国家安全確保に対して死活的に重要な役割を果たし続けてきた」(ブレナン長官)と強く自負するCIAは、報告書が公開間近とみられていた今年3月、委員会スタッフのコンピューターに不正に入り込んで捜索していたことが発覚するなど、報告書公表に抵抗してきました。

オバマ大統領の“弱腰”を批判する共和党も、報告書公開に反発しています。
報告書作製には共和党も当初は参加していましたが、意見の対立から離脱し、結局民主党だけでまとめられました。

****<CIA>上院報告書、反論で公開遅れ…民主主導に共和反発****
・・・・ただ、CIAは報告書の内容を受け入れたわけではない。ブレナン氏は報告書公表後の声明で、尋問の有効性を改めて主張したうえで、「拘束や尋問の仕組みに関わったCIA当局者の誰からも聞き取りが行われていない」とし、同委の調査は不十分だと批判。

報告書のテロリストの拘束や人命の保護につながる特別な情報を引き出せなかったとする部分などに「同意しない」と反論した。

来年1月から議会上下両院で多数派となる共和党からは、マコネル上院院内総務と同委員会のシャンブリス議員が共同声明を発表。

報告書を「議会民主党がイデオロギーに基づいて取り組み、歴史的事実をねじ曲げて記録した」と批判した。
報告書公開については「海外で反発を生み、米軍などの脅威になる」「テロ組織が反米宣伝に使う」などの指摘も出ている。【12月10日 毎日】

確かに、北朝鮮の外務省報道官は9日、アメリカなどの要請で、北朝鮮の人権侵害が国連安全保障理事会で初の公式議題となったことについて批判、CIAの拷問や白人警官による黒人青年の射殺事件などを例に挙げ、「アメリカで 蔓延 している人権侵害から問題視すべきだ」とも強調しています。【12月10日 読売】

まあ、北朝鮮が何を言おうがかまいませんが、“イスラム教スンニ派過激組織「イスラム国」などとの対テロ戦が続く状況下で、尋問の実態が公表されればテロ組織が報復しかねず、米国人をはじめとする人質にも危害が及ぶとの懸念が反発を増幅させた。”【12月11日 産経】とのことです。

チェイニー前副大統領「この報告書は全くのたわごとだ」】
テロなどの危険も想定される状況で、テロ組織と関係があると疑われる人物から拷問によって情報を引出し、テロを未然に防ぐというのは、国家として当然の行為だとの考えはもちろんあります。

****CIAの拷問報告書は「たわごと」、チェイニー前副大統領が反論****
米中央情報局(CIA)がテロ容疑者に行っていた過酷な尋問の実態を明らかにした米上院報告書について、ディック・チェイニー前米副大統領は10日、「ひどい内容」で「全くのたわごと」だと激しく批判した。

チェイニー氏は、自身が副大統領を務めたジョージ・W・ブッシュ前政権下で採用された「強化された尋問手法」について、完全に正当化できると主張。

「9.11同時多発テロの犯人を捕らえ、さらなる攻撃を防ぐため、まさに必要なことを行っただけだ。そして、われわれはその両方に成功した」と米FOXニュースに語った。

上院が9日に公表した500ページ余りの報告書は、国際テロ組織アルカイダの容疑者に対してCIAが使っていた暴行や直腸栄養法、睡眠妨害などの尋問手法を、これまでに確認されていた以上に残虐なうえ、有用な情報をもたらさなかったと酷評。

CIAが意図的に、収集した情報の価値をめぐる議会とホワイトハウスの判断を誤らせたと結論付けた。

チェイニー氏はこれらの指摘を真っ向から否定。「この報告書は全くのたわごとだ」「昨日は『ばかな!』と言ってしまった。申し訳ないが、実際に使った言葉で言わせてもらう」と、公的な場での使用が下品とされる俗語を大声で言い放った。

その上でチェイニー氏は、上院の調査には「大きな欠陥」があり、「尋問プログラムに関与した主要な人物への聞き取り調査を行おうとさえしなかった」と非難した。

■ブッシュ前大統領は「知っていた」
上院報告書は、ブッシュ前大統領がこれらの尋問手法に関して報告を受けたのは導入から4年後の2006年で、ブッシュ氏は報告の内容に「不快感を示した」としている。

しかし、チェイニー氏は「大統領も尋問プログラムの不可分の一部であり、大統領の許可は不可欠だった」と述べ、ブッシュ氏が蚊帳の外に置かれていたとの報告を否定した。

一方、ブッシュ氏が各尋問手法の詳細を細部まで認識していたのかという質問に対しては、チェイニー氏は曖昧な返答にとどまり、「手法について議論はした。大統領を議論から排除しようとはしなかった」とのみ語った。

またチェイニー氏は、9.11米同時多発テロを首謀したと自白しているハリド・シェイク・モハメド被告など、重要な容疑者を尋問する取調官は断固たる態度でなければならないとの見解を示唆し、次のように述べた。

「容疑者の両頬にキスをして『お願いです、どうかご存知のことを教えて頂けませんか』と聞くべきなのか?もちろん、そんなわけはない」【12月11日 AFP】
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拷問をめぐるオバマ・チェイニーの論争は以前からのものです。
2009年5月22日ブログ「アメリカ 水責めなどの“過酷な尋問”をめぐり、オバマ大統領とチェイニー氏が論戦」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20090522

おそらく、日本のネット世論などもチェイニー前副大統領と同様な考えでしょう。
ドラマ「24」のジャック・バウアーも。

捕虜・虐待経験があるマケイン議員は公開を支持
一方、自身がベトナム戦争当時に捕虜となり、虐待を体験した共和党重鎮のマケイン上院議員は報告書を支持しています。

****<CIA>マケイン議員が民主党主導の報告書公表を支持****
 ◇演説を上院の本会議場で
捕虜への虐待は、悪い情報を多く引き出すということを私は個人的な経験から知っている--。米上院情報特別委員会が中央情報局(CIA)による過酷な尋問に関する報告書の要旨を公表した9日、オバマ政権への厳しい批判で知られる野党・共和党のマケイン上院議員が、民主党が主導した報告書の公表を支持する演説を本会議場で行った。

マケイン氏はベトナム戦争で捕虜となり、拷問で骨や歯を折られるなど5年半にわたって虐待を受けた。後遺症で両手は今も高くは上がらない。

報告書の公表に共和党の多くの議員は反対しているが、マケイン氏は「真実は時として受け入れがたいものだ。しかし、米国民は国家を定義づける価値観が安全保障政策によって軽視される時には、その真実を知らなければならない」と主張。

拷問を受けている人は意図的に間違った情報を流すようになるため、過酷な尋問は情報獲得につながらないと指摘し、報告書の中身を支持した。【12月10日 毎日】
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ベトナム・ハノイのホアロー収容所には、マケイン議員の捕虜当時の写真などが多く公開されています。
もちろん、ベトナム側の対米接近の路線に沿ったものですが。

理想は、それを掲げるのが辛いときに掲げてこそ
****CIA収容所 ポーランドに存在****
アメリカ議会が同時多発テロの後、テロ容疑者に過酷な尋問が行われたとする報告書を公表したことに関連して、当時のポーランドの大統領は、尋問が行われた収容所がポーランド国内にあったことを明らかにしました。

当時ポーランドの大統領だったクワシニエフスキ氏は10日、ワルシャワで記者会見を開きました。
この中で、尋問が行われたCIA=中央情報局の収容所がアメリカの要望でポーランド北部の軍事施設に秘密裏に設けられていたことを明らかにしました。

CIAの秘密収容所について、ポーランド政府はこれまで一貫して存在を否定していました。

一方、元大統領は、内部で過酷な尋問が行われたことは一切知らなかったと主張し、「内部の情報が入らず対応に不信感を抱いたので、2003年、アメリカ側に施設を閉鎖させた」としています。

CIAの秘密収容所は、ポーランド北東部だけではなくリトアニアやルーマニアそれにタイやアフガニスタンにも存在したと指摘されていて、真相究明を求める声が高まっています。【12月11日 NHK】
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仮に「強化尋問技術」を正当化する場合であっても、自分たちは清潔なテーブルで楽しく食事をしながら、他国の施設で秘密裡に・・・というのは“偽善”であり、“卑怯”でしょう。
国民全員が自らの手を血と汚物で汚しながら、「それでもこれは必要なのだ」と自身に問いかけるべきでしょう。

“オバマ氏は09年1月の就任直後から、ブッシュ前政権が残したイラク、アフガニスタンという「負の遺産」の清算に主眼を置いた。米国が租借し、テロ容疑者が収容されているグアンタナモ米軍基地の閉鎖も、公約にしている。報告書の公表は清算の一環だ。”【12月11日 産経】

そうしたオバマ大統領の考えが、2009年のノーベル平和賞受賞時のオスロでのスピーチに示されています。

****オバマ大統領:オスロ演説****
・・・・武力が必要な場合、私たちは一定の行動規範で自分たちを縛らなくてはなりません。それは道徳的な要請、かつ戦略的な要請です。

何のルールにも従わない凶悪な敵と対決する時でさえ、アメリカ合衆国は、戦争遂行のふるまいにおいて世界の手本にならなくてはならないと考えます。

それこそが自分たちと敵を分け隔てるものなのだと。それこそが私たちの力の源泉なのだと。
だからこそ私は、グアンタナモ収容所の閉鎖を命令しました。だからこそ私は、アメリカはジュネーブ諸条約を遵守すると改めて確認したのです。

自分たちの理想を守るために戦っているのに、その戦いにおいて自分たちの理想を曲げてしまっては、自分自身を失うことになります。

理想を掲げるのが楽な時だけそうするのではなく、そうするのが辛い時に掲げてこそ、自分たちの理想を守ることになります。・・・・【2009年12月11日 「ニュースな英語」】
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今ではそのカリスマも地に落ちたオバマ大統領ですが、当時このスピーチはアメリカ国内ではおおむね好評でした。
「正義の戦争」「正しい戦争」(just war)を前面に打ち出したオバマ大統領でしたが、その考えの妥当性には賛否もあります。

個人的には、「理想を掲げるのが楽な時だけそうするのではなく、そうするのが辛い時に掲げてこそ・・・」というのは好きなフレーズです。
腹の足しにならない“理想”など一顧だにされない今の日本では「馬鹿か!死ね!」と罵倒されるだけでしょうが。
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