孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

ロシア  天然ガスパイプライン「サウスストリーム」の計画を中止 揺れる中東欧諸国

2014-12-07 21:18:28 | ロシア

【12月2日 毎日】http://mainichi.jp/select/news/20141203k0000m030076000c.html


【「ロシアは圧力に屈しない」】
ロシア経済はウクライナをめぐる欧米による制裁に加えて、ロシア財政を支える原油の価格が下落していることもあって、厳しい状況になっています。

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ルーブルの為替相場は2日、一時、1ドル=54ルーブル台に急落し、現行制度の最安値を更新した。先週初めの45ルーブル前後から、1週間余りで約16%下がり、6月末に比べると4割近くも安い。

景気の先行きを不安視した投資家がルーブル売りに走った。ロシア経済発展省が今週、来年の経済成長予想を1・2%からマイナス0・8%に下方修正したことが背景にある。

対ロ制裁が長引く見通しで、原油の想定価格も1バレル=100ドルから80ドルに引き下げた。

ロシアは資源価格の高騰に支えられ、成長を続けてきたが、制裁やルーブル安の影響ですでに新車販売など個人消費は減速。景気後退に陥れば、リーマン・ショック直後の2009年以来となる。

市場関係者には下方修正した予想さえ、「奇跡が起こらない限り難しい」という声もある。【6月4日 朝日】
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しかし、プーチン大統領の支持率は70%水準で高止まりしています。

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ロシアの調査機関「世論基金」によると、プーチン氏の支持率は2月の45%からクリミア併合宣言後の4月に64%に上昇。最近も70%を続けている。

ロシアでは、「危機はロシアの弱体化を狙った欧米の策略」との見方が強いうえ、テレビのニュースでは連日のように、「ウクライナ軍が東部の住民を攻撃した」と伝えている。

多くのロシア人は、親ロシア派武装勢力が住民を守っていると考えており、欧米に対抗するプーチン氏の姿勢を評価しているようだ。【同上】
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こうした高い支持率に加えて、豊富な外貨準備高を有しているため今すぐの通貨危機は避けられることもあって、プーチン大統領は強気の姿勢を変えていません。

****<ロシア>プーチン大統領が年次教書演説「圧力に屈しない****
ロシアのプーチン大統領は4日、クレムリンで年次教書演説を行った。

ロシアによるウクライナ南部クリミア半島の編入強行や、同国東部で続く紛争などウクライナ情勢が国際社会を揺るがした今年1年を反映し、ロシア政府の行動の「正しさ」を主張し、国民を鼓舞する内容となった。

「ロシアにとってクリミアは文化的にも神聖さにおいても大きな意味を持つ。イスラム教とユダヤ教にとってのエルサレムの『神殿の丘』と同様だ」。プーチン氏は冒頭、強い批判を浴びたクリミア編入について、こう強弁した。

ロシアの軍事介入が指摘されているウクライナ東部に関しても「住民を武力鎮圧する試みをどうして支持できようか?」と訴え、ウクライナのポロシェンコ政権を支える欧米をやり玉に挙げた。

その欧米による対露制裁には「ロシアは圧力に屈しない」と強調し、逆に「新技術育成や競争力強化といった発展のきっかけになる」とアピールした。

ただ、強気の発言とは裏腹に、ロシア経済は(1)欧米の制裁(2)主要輸出品の原油の価格下落(3)記録的なルーブル安--の三重苦に見舞われている。

プーチン氏は演説でこの点に触れざるを得ず、▽中央銀行と政府に対して「ルーブルへの投機をはねのける措置」▽地方自治体に対して「食料品と医薬品の価格管理」--を実施するよう指示した。

ロシアに対して最も厳しい態度をとる米国を意識して「ロシアをユーゴスラビアのように解体させたいと望む外国勢力がいることは明白だが、我々はそんなことは許さない」と敵意をあらわにし、「どんな試練にも立ち向かい、勝利する」と締めくくった。【12月4日 毎日】
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【「受け取れるはずだった金はEUに要求すればよい」】
こうした状況で、プーチン大統領は12月1日、ロシア産天然ガスを黒海経由で欧州に運ぶパイプライン「サウスストリーム」の計画中止を示唆し、その後ロシア国営ガス企業「ガスプロム」から建設中止が発表されています。

****ロシア大統領 パイプライン計画中止も****
ウクライナ情勢を巡ってロシアと欧米が対立を深めるなか、プーチン大統領はロシアから黒海の海底を経由してヨーロッパに天然ガスを輸送する新たなパイプライン計画を中止する可能性を示唆しました。

「サウス・ストリーム」と呼ばれるこのパイプライン計画は、2006年のロシアとウクライナのガスを巡る紛争をきっかけに、ロシアからウクライナをう回する形で黒海の海底を経由してヨーロッパに天然ガスを輸送するもので、2年前からすでに一部で工事が始まっています。

この計画についてロシアのプーチン大統領は1日、訪問先のトルコで、EUが実現に消極的だとしたうえで、「ヨーロッパ側が望まないのであれば、計画は実現しない。計画の中止は互いの協力関係に損失をもたらすが、ヨーロッパ側の選択だ」と述べ、中止する可能性を示唆しました。

さらにプーチン大統領は、「液化天然ガスの計画を進めるなどして、ほかの地域にガスを送る」と述べ、ヨーロッパ以外にガスの輸出を増やす考えを強調しました。

ロシアとEUは、ウクライナ情勢を巡って互いに制裁を科すなど対立を深めており、パイプライン計画が中止されれば、さらに関係が悪化することが懸念されます。【12月2日 NHK】
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ロシアからすれば「サウス・ストリーム」は、問題を起こしやすいウクライナを迂回することで、欧州への安定供給を確保できるというパイプライン計画です。

しかし、EUは単にルート問題だけでなく、エネルギーを政治利用しがちなロシアへの依存自体を引き下げる視点から、ロシア以外の天然ガスを欧州にもってこようという「ナブッコ・パイプライン」を計画していました。

ロシア主導の「サウスストリーム」は欧米主導の「ナブッコ・パイプライン」と競合する計画で、ロシアが「ナブッコ・パイプライン計画を阻止するプラン」ともいわれています。

欧米主導の「ナブッコ・パイプライン」の方は、肝心の天然ガス供給先が確保できていない問題や「サウスストリーム」との競合問題もあって、計画は棚上げされています。

EUとしては、そもそも独自計画に競合する「サウスストリーム」には反対の姿勢であったことに加え、ウクライナ問題をめぐるロシアとの対立から、欧州委員会が「計画凍結」を求めていました。

その意味では、「サウスストリーム」計画中止はEU指導部としては歓迎する話ではありますが、現実問題としては、パイプラインが通過する中東欧の国々はエネルギーの安定供給確保に加えて、通過料収入にも期待して、建設を望んでいるという実態があります。

なお、ドイツなどは、ロシア産ガスをウクライナを迂回して移送する別の北方ルート「ノルドストリーム」をすでに稼働させています。

「サウスストリーム」を中止して、トルコ経由の別ルートを建設するという今回のロシア決定は、EU内部の利害対立を煽り、EUを揺さぶる狙いがあるものと見られています。

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(ロシア国営ガス企業「ガスプロム」の)ミレル社長はこの日、ロシアとトルコが、黒海経由でトルコにつながる新たなガスパイプラインの建設で合意したことも発表した。

サウスストリームのためにロシア側で準備した施設を生かし、最終的にギリシャの国境付近まで延ばすことを計画。

欧州への新たな供給ルートを示し、利害が対立する欧州各国を揺さぶる狙いもうかがえる。【12月2日 毎日】
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ロシアの狙いどおり、「サウスストリーム」に期待していた中東欧各国からはEUの対応への不満が出ています。

****ガスパイプライン「南ルート」建設中止 中東欧諸国、不満と嘆き****
ロシアのプーチン大統領が欧州向け天然ガスパイプライン「南ルート」の建設中止を表明し、パイプラインが経由する予定だった中東欧諸国が政策の変更を迫られている。

安定的なエネルギーの調達先を確保する必要が出てきたためだ。欧州連合(EU)全体としては、建設中止はエネルギーの対露依存脱却の方針に沿うものの、域内の思惑の違いが明らかになった形だ。

「公式声明があるまで中止されたとみなさない」。プーチン大統領の突然の中止表明を受けて2日、望みをつなぐように語ったのは、南ルートの欧州側の玄関口となるはずだったブルガリアのルカルスキ経済相だ。
露側から事前の通知はなかったという。

ブルガリアは天然ガスのほぼ100%をロシアから輸入し、ウクライナ経由のパイプラインで受け取っている。EUから規定違反との指摘を受けて建設計画は凍結したが、南ルートを実現させたいのが本音だ。

欧州では南ルートについて、ロシアの影響力が高まるとして疑問視する向きが強かった。「ロシアの戦略的後退」(英紙フィナンシャル・タイムズ)などと、建設中止を歓迎する意見も多い。

だが、パイプラインが通る予定だった中東欧諸国への影響は大きい。ブルガリア同様、ロシア産ガスへの依存が比較的高く、過去に露側がウクライナへのガスを止めた際、大きな影響を受けた。

EUはカスピ海産ガスをバルカン半島経由で運ぶ「ナブッコ・パイプライン」も計画したが、南ルートとの競合で棚上げされた。

財政が苦しい国も多く、通過手数料が入らないことも痛手だ。EU加盟交渉中のセルビアのブチッチ首相は「大国間の争いの代償を払わされた」と不満を吐露。

ハンガリーの関係者はEU側に「ナブッコに続き、今後は南ルート。どうしたらいいんだ」と訴えたとも伝えられる。

南ルートの計画中止は経済制裁で圧力をかけてきた外交的成果といえるが、ロイター通信はEUにとっても「悩みの種」だと報じる。

ハンガリーなどはこれまでも制裁反対を主張するなどしており、EU全体の協調に影響を及ぼす可能性も否定しきれない。【12月5日 産経】
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【「ハンガリーは自らロシア衛星圏に入る道を選んだのか」】
不満を持つ中東欧諸国のなかでも、以前からEU方針に反旗を翻していた、また、「非リベラル国家」を目指すというハンガリー・オルバン政権の対応が特に注目されます。

****ハンガリーはEUに反旗:「サウスストリーム」がもたらす亀裂****
・・・・サウスストリームは12年12月に露グラスノダール地方アナパで着工されたのを皮切りに、13年10月にはブルガリアで、翌月にはセルビアでも建設が開始された。

しかし、その後のウクライナ危機を背景に、欧州委員会は加盟国に建設の中断を事実上指示。ブルガリアはこれに従った。EUへの加盟を目指すセルビアのブチッチ首相も、EUの方針に従うと神妙な態度を見せた。

ところが強権的統治を行っているとして欧米で批判の的となっているオルバン首相率いるハンガリーは公然と、欧州委員会に反旗を翻した。

11月初め、オルバン与党フィデス・キリスト教民主国民党(KDNP)連合が議席の3分の2を握るハンガリー議会は自国のエネルギー当局の許可があればパイプラインを建設できると規定する修正法案を可決した。

EUのエネルギー安保戦略に基づくEU法よりも、ハンガリー国内法が上位に立つと宣言したのだ。

このことは欧州に「非常ベル」となって鳴り響き、欧州委員会は、EUのエネルギー安保戦略を傷つけるものだとしてハンガリーに釈明を求める騒ぎとなった。

ロシア衛星圏入り?
EUがエネルギー分野でのロシア依存からの脱却を合言葉にする中、ハンガリーは逆に、ロシア圏へ取り込まれようとする動きを強めているように見えるのは確かだ。

ハンガリー議会は今年2月、パクシュ原発で原子炉2基を増設する事業で、ロシア国営ロスアトムに発注することを承認した。(中略)

オルバン政権は去る9月には、ウクライナを支援するための「天然ガス逆輸出」を停止し、ロシアへの露骨な配慮を見せ、これも欧州委員会に衝撃を与えた。

欧米では今、「ハンガリーは自らロシア衛星圏に入る道を選んだのか」という問いがしきりに発せられている。

「非リベラル国家」を宣言
1990年代に青年宰相として颯爽と登場した当時のオルバン首相は、反共の自由主義者として知られていた。ハンガリー出身の投資家ジョージ・ソロス氏の「開かれた社会」のメンバーとして活動していた経歴もある。

しかし、今では「劇的に変節を遂げた政治家としてはナポレオンに匹敵する」と言われるほど、自由主義政治家の面影は失われてしまった。

オルバン政権は憲法裁判所の違憲審査権限を縮小するなど強引な政策を次々に打ち出し、EUから司法、中央銀行、情報保護当局の独立性について「EU法違反」と認定された。

そんなオルバン首相が世界の耳目を集めたのは7月の「非リベラル国家」演説だった。

4月の総選挙で再選を果たしたばかりのオルバン首相は、「EU加盟国だからと言って、民族的基盤に則った『非リベラル国家』の建設は不可能ではない」と述べた。

「非リベラル国家」とは、自由の基本原則は保持しながらも自由の度合いは制限されている国と定義しているとみられ、オルバン首相はその成功の具体例としてロシア、中国、トルコの名を挙げ、ハンガリーもそうした国の形を目指すと宣言した。リベラリズムに対抗して国力を増強する「国家資本主義」への傾斜と解釈できる。

厳しい地政学的条件
だが、単に、ハンガリーがやみくもにロシアに急接近していると見るのは皮相的かもしれない。

ロシアとドイツに挟まれた厳しい地政学的条件から、東西の狭間で生き抜かねばならない非スラブであるマジャールの宿命が今のハンガリーの姿に映し出されているとも言える。

隣国ウクライナの危機を間近に目撃したハンガリーは、EUに頼り切っていては危険だという思いを抱いたに違いない。

何しろ、ハンガリーは天然ガスの国内消費の8割が輸入であり、さらに輸入先の8割がロシアという、エネルギーの対露依存度が極めて高い。

古来、スラブ民族に囲まれて生きてきたマジャール人は独立不羈、裏を返せば孤立感の強い民族と言われ、そうしたメンタリティーが、EU加盟国でありながらロシアに接近する独自の「東方外交」につながっている。

サウスストリームに話を戻せば、ハンガリーはロシアと良好な関係を築き、EUに対して天然ガスの上流国となる戦略位置を占めようという狙いがあり、その結果、ロシアへの影響力も担保する構想であることは間違いのないところだ。

引き返せない? サウスストリーム
サウスストリームをめぐっては、ハンガリーだけが批判の矢面に立っている図式だが、「関係国はいずれもこのプロジェクトを推進したいと考えている」(欧州外交筋)。
(中略)
ロシアから直接天然ガスを運ぶパイプライン「ノルドストリーム」が既に稼働しているドイツ政府はサウスストリームについてほとんど言及していない。

この夏、メルケル首相は、ベルリンを訪問したブチッチ・セルビア首相と共同会見に臨み、その際、サウスストリームについての質問も出たが、メルケルはそれには触れなかった。
科学者らしく、事態の経過を注意深く観察するいつもの政治手法を決め込んでいるかのようだ。

サウスストリームをめぐる動きは、エネルギーのロシア支配から脱し、供給源の多角化を目指すEUの決意のほどを計るリトマス試験紙ともなっている。

だが今のところは、エネルギー戦略におけるEUの弱さ、ハンガリーに代表される「欧州内に強く働いている遠心力」を印象付けている。【11月22日 佐藤伸行氏 フォーサイト】
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現実には、ロシアの方から計画中止を宣言された形になっていますが、今後EUがどのように求心力を回復すべく対応するのか注目されます。

“中東欧にはロシアからの投資に期待が強く、ロシアの揺さぶりが続けば、対ロ制裁をめぐってEU内の亀裂が広がる可能性もある。”【12月3日 朝日】


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