孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

アメリカ  人種的緊張を高める警官の過剰暴力  暴力を容易に誘発する“銃社会”の現実

2014-12-15 21:45:52 | アメリカ

(12月13日 ニューヨークの抗議デモ “黒人の命だって大事なんだ!”“殺人警官を刑務所に!”“沈黙=同意” “flickr”より By ChrisN126 https://www.flickr.com/photos/chrisnarvaez/15995734256/in/photolist-qnujvE-qpLsRx-qpAuut-qpAufa-q8dJkU-qpGYDo-q8jWWx-q8jWUZ-q8cVVh-qpGYJU-q8cVU5-q8dJdQ-q8cVPW-psMdNu-q8cW2Q-psMdL5-q83GZC-qn5NZS-psBaQV-q7YS4A-q88riV-qptVwC-q7ZGsS-q88sQT-qpnpRB-qptUYd-q7ZJjs-qpnqT6-psydFS-qptWnf-q88qGV-qpnoC4-qpqkXZ-q8bo2i-psQENi-psBaU3-qpAmKp-qnjeiW-q8boYP-q8bnzB-qpjMpr-qpApF4-q7RAs1-q7R6ES-qn7H7W-psD6pr-q7R6CC-qnBCUE-ptiZM6-qp2vo9)

全米各地で抗議のデモ
アメリカでは黒人に対する白人警官の過剰とも思える対応、問題を起こした警官の不起訴処分が続き、13日も全米各地で抗議のデモが行われています。

「人種のるつぼ」ニューヨークでは、多様な人種を含む25000人規模で行われています。

****<米国>黒人暴力に抗議、NYで2万人超がデモ****
全米の主要都市で13日、警官による黒人への暴力などに抗議するデモが行われた。

公共物の破壊行為容疑などで西部カリフォルニア州オークランドでは、少なくとも45人、東部ボストンでは23人が逮捕された。また、ニューヨークでは警官2人がデモ参加者から暴行を受けたという。

ニューヨークでは2万5000人以上(AP通信)が参加。同市内での一連のデモでは最大規模となり中心部のマンハッタン地区を数時間かけて行進した。

「人種のるつぼ」ニューヨークを象徴し、デモには多様な人種が加わっていた。
フィリピンからの移民でコックとして働くパオロ・メントザさん(43)は「米国は民主主義の国で、誰もが平等のはず。でも警察は白人や金持ちを優先的に守り、有色人種や貧乏人には冷たい」と不満を語った。

デモを主催した団体のメンバーで黒人女性のシネード・ニコルスさん(23)によると、ツイッターなどソーシャルメディアで参加を呼びかけた。

黒人少年を射殺した白人警官が不起訴となり暴動に発展した中西部ミズーリ州ファーガソンなどのグループとも連絡を取り合っているという。

ニコルスさんは「事件が忘れられないうちに行動を起こすことが大事だと思い、デモを計画した。これからも闘い続ける」と語った。(後略)【12月14日 毎日】
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首都ワシントンでも、ファーガソンで銃撃され死亡したマイケル・ブラウンさんや、ニューヨークで首を絞められて死亡したエリック・ガーナーさんらの家族も参加して、約1万人のデモ行進が行われました。

****米首都で1万人黒人死亡抗議デモ****
全米で白人警官が黒人住民を死亡させる事件が相次いでいることに抗議する大規模デモが13日、ワシントン中心部で行われた。

約1万人がホワイトハウス近くの広場から米議会に向けて行進し、人種偏見や差別の撤廃を訴えた。

参加者はニューヨークで首を絞められて死亡した黒人男性、エリック・ガーナーさんが最後に口にした「息ができない」という言葉や「正義がなければ平和はない」のかけ声を上げて行進した。

被害者家族もデモに加わり、ガーナーさんの母親は抗議の声に耳を傾けるよう政府や議会に求め、次の首都訪問は偏見や差別の撤廃を「祝福するために来たい」と語った。

ミズーリ州ファーガソンで射殺されたマイケル・ブラウンさんの母親は「すごい人波。後押ししてくれてありがとう」と謝意を示した。

デモ参加者は全米各地から駆けつけ、メリーランド州職員の女性(47)は「肌の色で息子が警官からひどく扱われた。人種にかかわる政府の政策は不十分だ」と訴えた。デモはニューヨークやボストンなどでも行われた。【12月15日 産経】
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すべての死亡事件が報告されているわけではないため、正確な数は誰にも分からない
日本や欧州では、警官が街中で発砲するといったことはほとんどありませんが、アメリカでは“警察に射殺される人の数は、1日平均1人を超える(すべての死亡事件が報告されているわけではないため、正確な数は誰にも分からない)。”【英エコノミスト誌 12月13日号】とのことで、今回問題となったような事件も日常的に発生しているようです。

“すべての死亡事件が報告されているわけではないため、正確な数は誰にも分からない”というのが、その実態を物語っています。

****刑事司法体系:裁かれる米国警察****
米国は法執行制度を全面的に見直す必要がある

店内の防犯カメラが、痛ましい経緯を明らかにしている。場所はオハイオ州にあるウォルマートの店舗。ジョン・クローフォードさんは、店の棚から手に取ったオモチャのエアライフルを持って立っていた。恐らく、買うつもりだったのだろう。

彼はそのオモチャの銃を床に向け、携帯電話で話しながら、ほかの商品を見て回っていた。近くで遊んでいる子供たちは、彼を危険な存在だと思っていない。近くに立つ母親も同じだ。

だが、「黒人男性が銃を持って人々を脅している」という通報を受けて出動した警官が店内に突入し、クローフォードさんを射殺した。

近くにいた子供たちの母親は、その後のパニックで心臓発作を起こし、死亡した。今年9月、大陪審はクローフォードさんを撃った警官の不起訴を決定した。

相次ぐ黒人射殺事件で抗議行動に火
ほとんどの人は、この話を聞いたことがないだろう。というのも、こうした悲劇は、恐ろしいほどありふれているからだ。

米国の警察に射殺される人の数は、1日平均1人を超える(すべての死亡事件が報告されているわけではないため、正確な数は誰にも分からない)。

だが、最近起きた2つの事例が、全米規模の抗議行動に火をつけた。1つ目は、ミズーリ州ファーガソンで、黒人のティーンエイジャー、マイケル・ブラウンさんが、コンビニで強盗を働いた直後に射殺された事件だ。
射殺時の状況は曖昧で、よく分かっていない。

2件目は、無害な中年黒人男性、エリック・ガーナーさんが、ニューヨークの路上でタバコを販売していただけの咎で警官に窒息死させられた事件だ。

この事件は、5人の警官が見ている中で起きた――そしてこの時は、近くにいた人が一部始終を撮影していた。

これまでのところ、米国内の議論の大半は、人種問題に焦点が当てられている。それについては、筋違いとは言えない。犠牲者はすべて黒人で、関わっていた警官のほとんどは白人だったからだ。

米国の黒人は、刑事司法体系が自分たちを守るのではなく、自分たちにとって不利に働いていると感じている。米国の白人のおよそ59%は警察を信頼している。

だが黒人では、その割合は37%にとどまる。この事態は深刻だ。法の執行に不信を抱く人種グループが存在すれば、社会契約が損なわれる。

また、世界における米国の道徳的な評判にも傷をつけている(中央情報局=CIA=による拷問が明らかになったこともプラスには働いていない)。だが、米国の過去に根ざす人種的分断は、簡単に緩和できるものではない。【英エコノミスト誌 12月13日号】
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3億丁もの銃が溢れる銃社会アメリカ
この問題は、人種差別の問題である以前に、警官によってなぜ過剰なまでの暴力が使用されるのか?・・・という問題でもあります。

その背景には、日本や欧州の感覚では理解しがたい“銃社会アメリカ”の現実があります。
夥しい銃が存在しているため、警官も身を守るためには、条件反射的な発砲、それも相手のとどめを刺すような発砲が求められています。

****撃つな****
しかし、前述のような残酷な事件を吟味するにあたっては、また別の視点も存在する。国家による過剰な暴力の使用という問題である。

この問題にも複雑な原因があるが、その大半は改革で改善できる可能性がある。

米国の法執行制度がほかの先進国と比べてどれほど気まぐれで暴力的であるかを、米国民の多くは全く認識していない。制度を改善することで、米国は、今よりも安全で、黒人と白人の双方に公平な国にできるだろう。

米国の刑事司法体系には称賛すべき点もある。例えば、ニューヨーク警察はデータ主導の取り締まりの先駆者だ。しかし、全体として見れば、米国は全く間違った理由から世界の標準とかけ離れている。

米国では、成人人口の1%近くが投獄されている。この割合は、先進国平均の5倍を超える。ある推計によれば、米国の黒人男性は、3分の1の確率で刑務所暮らしを経験するという。

量刑も厳しい。一部の州では、常習的だが暴力的ではない犯罪者に対して、仮釈放のない終身刑が科されることもある。ほかの先進国では例のないことだ。

また、米国の警察には、貪欲になる動機がある。法律により、犯罪に関わっているという疑いがあるだけで資産を差し押さえ、その売却益を備品の購入に充てることが認められている。

さらに、ほかの国々が地域密着の警察活動に力を注いでいるのに対し、米国の一部の警察は準軍事組織となり、グレネードランチャーや装甲車を装備している。

重武装の特別機動隊(SWAT)による強制捜索の回数は、1980年には年間3000回だったが、現在では5万回にまで増加しているとする推計もある。

何よりも、米国の法執行プロセスでは、死亡事例が異常なほど多い。部分的な数字だけを見ても、2013年には警察により少なくとも458人が射殺されている。これに対して、イングランドとウェールズでは、警察により射殺された人は1人もいない。

すぐに発砲する警官がこれほど多いのは、1つには、あまりにも多くの米国民が銃を持っているからだ。

2014年には、警官46人が射殺されている。警官が暴行を受けた件数は、2013年に5万2000件に上った。強盗阻止のために現場に出動する警官は、たった1つのミスで定年退職まで無事にたどりつけなくなる可能性があることを意識している。

本誌(英エコノミスト)がしばしば指摘しているように、米国の殺人率がほかの先進国の数倍に上る理由は、概ね銃で説明がつく。

そして、警官が若い黒人男性に発砲する割合が異様に高いのは、単純に差別意識では片づけられない。

警官に撃たれる米国民のおよそ29%は黒人だが、警官を殺害した犯人のうち、人種が分かっている者のおよそ42%もやはり黒人なのだ。

米国に3億丁もの銃が流通していなければ、こうした状況のほとんどが変わるはずだ。だがその変化は、悲しいことだが、すぐには現実にならないだろう。とはいえ、警察による暴力を減らす方法はほかにもある。【同上】
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“銃社会アメリカ”の改革が一向に進まないことは、これまでも何回か取り上げてきました。
根強い“銃信仰”があるアメリカでは、選挙でも銃規制が取り上げられることは殆どありません。取り上げれば票を失うだけですから。

銃乱射事件や、ファーガソンでの抗議デモの暴徒化などが起きると、多くの住民が自衛のために銃の購入に向かい、銃砲店は大繁盛する・・・というのが今のアメリカです。

透明性の確保 責任の明確化 警察に軍事化阻止
“銃社会”をすぐに変えることはできなくても、警官にカメラを装備させて、何が起こったのかを明確にさせることはできます。

オバマ大統領も12月1日、警官の小型カメラ装着を全米で強化するための予算を議会に要請する方針を明らかにしています。

問題が起きたときは、その責任を問う中立・公正な判断が求められます。

また、警察がまるで軍のように重装備化されていることも、人種絡みの敏感な問題をいたずらに刺激するところとなっており、改善が求められます。

****装甲車を減らし、警官のカメラ装着を増やせ****
第1の手段は、透明性の確保だ。すべての警察に対して、死亡させた人数を連邦政府に報告させるように義務づける必要がある。

また、各自治体は、新しい機器の購入を検討するのなら、警官にカメラを装着させるべきだろう。装着したカメラは、どちらの側にとっても不当行為の抑止力になり、のちの調査も容易になる。ブラウンさんを撃った警官がカメラを身につけていれば、誰の目にもことの経緯が明らかになっていたはずだ。

第2の手段となるのが、責任の明確化だ。問題のある警官を、もっと免職しやすくする必要がある。

米国にある1万2500の地方警察署の多くは小規模のものだ。組織内の懲戒委員会が身内の警官3人で構成され、うち1人が調査対象の警官により指名されるケースもある。

警官がなんらかの罪に問われた場合、起訴するか否かの判断は、地元の警察と密に連携している地方検事に委ねられる。警察関係者と一緒にバーベキューをしたり、再選を目指す際に警察組合の支援を仰いだりする地方検事に、だ。

あるいは、市民で構成される地域の「大陪審」が起訴の判断をすることもあるが、彼らの耳に入るのは、検事が聞かせようとする内容だけだ。

責任を明確化するためには、訴えの内容の審理を外部から招いた独立した裁定人に委ねる必要がある。

最も難しい第3の手段は、警察の軍事化の方向を逆転させることだ。

警察の仕事を犯罪者との戦争であると考える人が、あまりにも多い。貧困地区では、警察が占領軍と見なされることも少なくない。

警察に必要なのは、訓練を強化し、武器を減らすことだ。その手はじめとして、国防総省は地域の警察への軍備品の配布をやめるべきだ。

米国は今でも、多くの点で他国の模範となる存在だ。米国経済のエンジンは勢いを取り戻している。米国の価値観は、良識ある人なら広めたいと考えてしかるべきものだ。

だが、どんな社会においても背骨の役割を果たす刑事司法に関して、米国の制度には根深い欠陥がある。それを変えるのは難しいだろう。だが、変革の機はとうに熟している。【同上】
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いくつかの改善策はあるにしても、問題を蒸し返すようですが、やはり“銃規制”の問題をなんとかしないとアメリカの現状が大きく改善することは難しいようにも思えます。

ほとんど“病気”とも思えるアメリカ社会の“銃依存症”は、患者本人に自覚がない以上、どうにもなりません。

国内に“銃依存症”を抱える国の行動は、国際的な国家間の問題においても、日本のような国の行動とは異なるものになる可能性があります。

今後、集団的自衛権で関係が深まるパートナーの“病状”には、よく注意しておく必要があります。
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