孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

ロシア  クーデター未遂事件から20年 民主化「道半ば」

2011-08-21 22:16:44 | ロシア

(1991年8月19日 ソ連8月クーデターに対抗して、ロシア共和国最高会議ビル前の戦車の上で、国民にゼネストを呼びかけるエリツィン元大統領 “flickr”より By shizhao http://www.flickr.com/photos/shizhao/470996393/

【「今のロシアに市民社会はなく、20年前の期待と相反している」】
ソ連崩壊を導く契機となり、東西冷戦体制終焉へのターニングポイントでもあった、旧ソ連における共産党保守派による1991年8月のクーデター未遂事件から20年が経過したそうです。

“◇クーデター未遂事件
91年8月19日、ソ連のヤナーエフ副大統領ら共産党保守派8人でつくる国家非常事態委員会が全権を掌握し、ゴルバチョフ大統領は南部クリミア半島の保養先で軟禁された。ロシア共和国の大統領だったエリツィン氏は「国家クーデターだ」と非難し抵抗。22日に関係者が一斉逮捕され、計画は失敗に終わった。この事件でゴルバチョフ氏は権力基盤を失い、同年12月末のソ連崩壊につながった。”【8月21日 毎日】

エリツィンが戦車の上で、国民にクーデターへの徹底抗戦を呼びかける雄姿(彼の生涯で一番輝いていた瞬間でしたが・・・)はおぼろげに記憶に残っていますが、それ以外は・・・。

歴史的には重要な節目ですが、いまひとつ印象が強くないのは、他の多くの歴史的事柄同様に、様々な事柄が起こる日々のめまぐるしい時間の流れに埋没してしまいがちなことだけでなく、結局のところソ連は解体したものの、新たに生まれたロシアがどれほどソ連と異なるのか訝しく思われること、そして、当事国であるロシアで、クーデター失敗後のロシアについて懐疑的な見方が広がっている状況・・・そんなものが影響しているようにも思われます。

*****旧ソ連:クーデター未遂事件20年 熱気冷め…記憶も風化****
1991年のソ連崩壊の引き金になった、共産党保守派によるクーデター未遂事件から19日で丸20年。クーデター阻止のため数万人の市民がバリケードを築くなどした当時の熱気は冷め、事件の風化が進んでいる。
ロシアの民主派グループ「連帯」は19日、当時反クーデター派の拠点となったモスクワの旧最高会議ビル(現在は首相府)前で記念集会を開いたが、参加者は50人程度。政府の公式行事はなかった。

当時ソ連の一部だったロシア共和国の人民代議員で、クーデター阻止に立ち上がったビクトル・シェイニスさん(80)は「我々の行動が正しく、ロシアが民主化に向かったのは疑いないが、我々は“勝利”を過大視し、真の民主主義を実現できなかった。今のロシアに市民社会はなく、20年前の期待と相反している」と話した。

ロシアの世論調査機関レバダ・センターによると、クーデターが失敗した要因(複数回答)として、事件直後の調査では「国民の抵抗」が57%、「(エリツィン大統領ら)ロシア共和国指導部の断固たる行動」が55%を占めた。しかし、先月の調査では、それぞれ15%、13%に低落。逆に「クーデターの準備と組織の不十分さ」が28%(91年は34%)と最多で、冷めた見方が広がっている。

別の調査では、事件を「民主革命の勝利」とみる人は9%で、「単なる権力闘争」が41%だった。また72%がクーデターを首謀した8人の名前を1人も答えられず、クーデターに抵抗したルツコイ・ロシア副大統領(当時)らの名前を間違って挙げる人もいた。【同上】
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【「KGB出身のプーチンにとって、マスコミは“奉仕職員”にほかならない」】
エリツィン大統領のもとでの混乱を経て、プーチン大統領によって安定を取り戻したかに見えるロシアですが、いつしか進む道は大きくそれて、共産党による強権支配体制の旧ソ連時代に回帰したようにも見えます。
そんなロシアを表しているひとつが報道の統制の問題です。

****ソ連崩壊20年 解けない呪縛 新・停滞の時代****
閉塞感漂うジャーナリズム
「ロシアのテレビに風刺という手法がなくなり、テレビ出演を許されない者のブラックリストもできた。情報というジャンルはテレビから消えたに等しい」

かつて有力テレビ局NTVの看板番組で放送作家や司会者を務めたジャーナリスト、シェンデロビッチ氏(53)はこの10年間のテレビ事情をこう総括する。自らが「ブラックリスト」入りし、活動の場をラジオやインターネットに移した氏は「私の発言に触れる人はNTV時代の100分の1に減った」と語る。

現在のロシアでは、圧倒的影響力を持つ3大テレビ局が国もしくは国営企業の傘下にある。これらのニュース番組が最高実力者、プーチン首相(前大統領)や「双頭政権」の相方、メドベージェフ大統領の動向や発言を長々と詳細に伝えない日はない。
「旧ソ連国家保安委員会(KGB)出身のプーチンにとって、マスコミは“奉仕職員”にほかならない。奉仕を拒否する者は殲滅(せんめつ)するとの方針で彼は首尾一貫している」とシェンデロビッチ氏は指摘する。

民間のNTV標的
プーチン氏は2000年5月の大統領就任直後に報道・言論統制の布石を打った。真っ先に標的としたのが、チェチェン紛争などの報道で高く評価され、人気と影響力で抜き出ていた民間テレビ局NTVだった。
政権側は発足の1カ月後にNTVのオーナーだった富豪のグシンスキー氏を横領容疑などで拘束し、釈放と引き換えにNTVの株式譲渡を要求。局の経営権は国営天然ガス独占企業「ガスプロム」に渡り、01年4月には大衆の抗議運動も押し切って新たな経営陣と編集幹部が送り込まれた。(中略)

当時の社員約千人のうちシェンデロビッチ氏ら300人以上が自由な報道を求めて局を去った。しかし、その多くが移籍した局もまた放送免許を剥奪されるなどし、政権のテレビ包囲網は狭められていった。

新聞は一定の自由
モスクワのキオスク(売店)には10紙以上の新聞が並んでおり、政権を鋭く批判するものもある。国民の大多数が情報源とする主要テレビと違い、新聞には一定の自由がまだあるのだ。
モスクワ大学ジャーナリズム学部のザスルスキー学部長(82)はしかし、「ロシアは事実上、(大部数の)高級紙をもたない数少ない国の一つとなった。このことが政治や国民の知的水準に与える負の影響はあまりに大きい」と嘆く。

ソ連時代、共産党機関紙「プラウダ」や政府機関紙「イズベスチヤ」の部数は公称1千万部。1991年のソ連崩壊前後、言論の自由が花開いて新聞は人気を誇ったが、90年代半ばには部数が急減し、今や最も定評ある有力経済紙コメルサントでも公称13万部だ。モスクワでは昨年だけでリベラル系の2紙が消えた。
政治への関心低下や活字離れに加え、消費財の製造業や中小ビジネスが発達していないことによる広告の絶対的不足が響いている。

また、露ジャーナリスト同盟によれば、この20年間にロシアで殺害された記者は300人以上で、事件の解決率は8%にとどまる。
息苦しさを増すロシアの報道界では、「ジャーナリズムはもはや魅力的な職業ではない」(ミトコワNTV副社長)との言葉に説得力がある。【8月21日 産経】
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【「ソ連共産党の悪い例を繰り返す必要はない」】
ゴルバチョフ元ソ連大統領は、ロシアの民主化について「道半ば」とし、また、「ソ連共産党の悪い例を繰り返す必要はない」と、プーチン首相率いる「統一ロシア」が下院の3分の2の議席を占める現状に懸念を表明、さらなる民主化が必要だとの認識を示しています。
自身がソ連最高指導者として犯した誤りとして、ゴルバチョフ氏は「民主化しなければならなかったのに(祖国を)崩壊させてしまった」と述べています。

****ソ連:ロシア民主化「道半ば」 ゴルバチョフ元大統領****
・・・・ゴルバチョフ氏はソ連崩壊後のロシアの民主化について「道半ばだ」と述べ、今後5、6年がロシアの将来を左右する重要な時期になるとの考えを示した。
また、ゴルバチョフ氏はソ連崩壊の影響について「国家がバラバラになり、経済力は半分に落ち込んだ。旧ソ連圏の経済はまだ以前のレベルに回復していない。また世界は重要な支柱の一つを失った」と指摘。一方で「ソ連は官僚的で、構成共和国のイニシアチブや可能性を抑圧していた」と述べ、存続は困難だったとの認識を示した。【8月7日 毎日】
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なお、西側世界では非常に評価が高いゴルバチョフ氏ですが、ロシアにおいてはソ連崩壊の責任者として、すこぶる評判が悪いようです。

メドベージェフ大統領は産業構造の近代化や政治・司法の民主化など、プーチン路線とはやや異なる軌道修正を思わせる取組・発言もしていますが、どこまでプーチン路線を修正する気があるのか、基本的にはプーチン路線に乗っているだけなのか、よくわからないところがあります。

【「アジアの大国」と「強盛大国」】
そんなロシアの最近の話題としては、北朝鮮の金正日総書記の訪ロがあります。
今回の訪ロで注目されている事案として、天然ガスパイプラインの建設計画があります。
ロシアが進めている極東サハリンからウラジオストクに至るパイプライン建設を、朝鮮半島を縦断する形で韓国まで延長しようというもので、09年に露・韓が合同調査を実施することで合意しています。
この計画に北朝鮮もかかわれば、パイプライン通過料として年間1億ドル以上の利益が見込めるとされています。

****ロシア、「アジアの大国」狙う…金総書記訪問****
ロシアのメドベージェフ大統領が北朝鮮の金正日総書記をこの時期に迎えたのは、金総書記との首脳会談がロシアの国際的発言力の強化、特にアジアで存在感を高めるための絶好の機会になると判断したからだ。
ロシアは、この数か月に北朝鮮との関係を緊密化させた。フラトコフ対外情報局長官が5月に平壌で金正日総書記と会談し、国営ガス事業体ガスプロムや軍の幹部が相次ぎ訪朝。露朝関係筋は、こうした動きのきっかけは「北朝鮮からの働きかけだった」と証言する。

メドベージェフ大統領は、ウラジオストクでのアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議開催を1年後に控え、アジア重視を掲げて北東アジアの安全保障の枠組み作りに意欲を示す。今回の首脳会談では、金総書記から核問題をめぐる6か国協議再開に向けて何らかの言質を取り、「アジアの大国」として地歩を固める狙いがあるとみられる。【8月21日 読売】
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「アジアの大国」でも「強盛大国」(最近、「強盛国家」に格下げしつつあるとも報じられていますが)でも結構ですが、それ以前に国内でなすべきことが多いように思われる両国です。


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イスラエル、テロ事件に対しガザ地区への報復 ハマス軍事部門、“休戦”破棄を宣言

2011-08-20 20:43:23 | 中東情勢

(18日 現場で手当てを受ける、テロ攻撃により負傷したイスラエル軍兵士 “flickr”より By DTN News http://www.flickr.com/photos/dtnnews/6057526575/in/photostream

【「イスラエル市民を攻撃する者には、高い代償を払わせる」】
イスラエルが封鎖を続けるパレスチナ・ガザ地区の情勢が急速に悪化しています。
発端となったのは、18日、イスラエル南部エイラート近くで起きたテロ事件でした。

****イスラエル:南部で連続テロ、5人死亡****
イスラエル南部エイラート近くで18日午後(日本時間18日夜)、走行中のバスと乗用車に向けて対戦車砲が発射され、乗っていた5人が死亡した。その1時間半前には、多数のイスラエル軍兵士を乗せて走行中の路線バスが、追走してきた車から銃撃され、兵士ら10人が負傷した。軍は付近を捜索し、銃撃戦の末、容疑者3人を殺害した。軍は連続テロ事件とみて調べている。【8月18日 毎日】
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イスラエルのバラク国防相は事件直後に「事件の背後にはガザがある。我々は報復する」との声明を出し、また、ネタニヤフ首相は18日夜、テレビ演説で「イスラエル市民を攻撃する者には、高い代償を払わせる」と述べ、イスラエルへの攻撃には、直ちに報復すると警告しました。

実際、イスラエルはガザ地区への報復攻撃を行っています。
****イスラエル:ガザ地区を空爆、少年ら7人死亡****
イスラエル空軍は18日夕から19日未明にかけて、パレスチナ自治区のガザ地区各地を空爆。ガザを拠点とする武装組織「パレスチナ民衆抵抗委員会」(PRC)の幹部ら5人のほか13歳と2歳の少年を殺害した。パレスチナのマアン通信などが報じた。軍は18日午後にイスラエル南部で起きたバスなどへの銃撃事件にPRCが関与したとみており、報復目的の攻撃となった。
ネタニヤフ首相は空爆後にテレビ演説し、「テロ行為をした組織の幹部を除去した軍と治安当局を称賛したい」と語った。これに対し、PRCは銃撃事件への関与を否定した。【8月19日 毎日】
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イスラエル軍によると、ガザの武装勢力は少なくともロケット弾12発をイスラエルに向けて発射してイスラエルの攻撃に応戦。イスラエル中部アシュドッドの住民10人が負傷したと発表しています。

イスラエル側がテロ事件を起こしたと指摘してるガザ地区の武装組織「パレスチナ民衆抵抗委員会」(PRC)は、2000年ごろの結成で、レバノンのイスラム教シーア派組織ヒズボラから資金援助などを受けているとされるグループです。

エジプト側にも死傷者 イスラエルに抗議の方針
今回のイスラエル側の報復攻撃では、シナイ半島でイスラエル及びガザ地区に接するエジプトの軍兵士にも死傷者が出ています。

****ガザ境界でエジプト軍兵士ら2人死亡 イスラエル誤射か****
エジプト国営中東通信などによると、シナイ半島北東部のエジプトとパレスチナ・ガザ地区の境界付近で18日、エジプト軍の兵士ら2人がイスラエル軍の攻撃を受けて死亡した。イスラエル軍は、同国南部エイラット近郊でのバス襲撃事件に関与した武装勢力を追跡中に、エジプト軍兵士らを誤射したとみられる。

シナイ半島では2月のムバラク政権崩壊後、エジプト政府がガザ地区とエジプトの出入境制限を緩和する一方、治安機関の弱体化でイスラム過激派が流入。エジプトからイスラエル向けの天然ガスパイプラインが何度も破壊されるなど、不安定な状況が続いている。
シナイ半島の主要都市アリーシュでは同日、覆面をした男たちが、検問で治安部隊を銃撃、逃走した。【8月19日 朝日】
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エジプトの国営テレビは、18日の襲撃事件の実行犯を追跡していたイスラエル軍の攻撃ヘリの銃撃により、イスラエルとの国境警備にあたる治安当局者3人を含むエジプト人5人が死亡したと報じています。

****イスラエル襲撃、空爆に報復 非難の応酬、高まる緊張*****
・・・・詳しい経緯は不明だが、イスラエル軍によってエジプト人が殺害されるのは異例で、AP通信は19日、エジプトがイスラエルに抗議する方針と伝えた。
イスラエルは、襲撃事件の実行犯らがガザからエジプト領のシナイ半島を経由してイスラエルに侵入したと指摘、エジプトの国境管理がずさんだと批判していた。イスラエルとエジプトはシナイ半島で約180キロにわたって国境を接しているが、大部分は砂漠で、柵などは設けられていない。【8月20日 産経】
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ムバラク前大統領のもとでイスラエルと平和条約を締結したエジプトですが、もともと反イスラエル感情が強い土壌がありますので、民主化・ムバラク政権崩壊後、反イスラエルの風潮は強くなっています。次期大統領選挙においても、反イスラエルを主張するムーサ氏(アラブ連盟事務局長)への強い支持が目立っています。
今回の事件は、仮に誤射としても、アラブ世界におけるイスラエルの唯一の支援国エジプトとの関係に大きく影響する可能性もあります。

全パレスチナ武装組織に対して、イスラエルへの反撃を呼びかけ
また、ガザ地区を実効支配するハマスの軍事部門(テロ担当組織)カッサム旅団は19日、イスラエルとの休戦を「破棄する」と発表しており、今後、報復の応酬が拡大することが危惧されます。
ただ、ハマス報道官はこの発表について、「公式な立場ではない」と説明しているそうです。

****ハマス:「休戦破棄」宣言 イスラエル軍の空襲受け****
パレスチナ自治区ガザ地区を実効支配するイスラム原理主義組織ハマスの軍事部門・カッサム旅団は19日、イスラエルとの非公式な休戦を「破棄する」と系列ラジオで発表した。18日にイスラエル南部エイラートで起きた路線バスなどへの銃撃事件を機に本格化したイスラエル軍のガザ空爆に報復を宣言した形だ。空爆による死者は15人に達した。

イスラエル軍によるガザ侵攻が09年1月に終結した際、ハマスは非公式な休戦を宣言した。ガザからの情報によると、カッサム旅団は19日夜、この休戦を破棄すると発表、全パレスチナ武装組織に対して、イスラエルへの反撃を呼びかけた。ハマス報道官はロイター通信に発表は「公式な立場ではない」と説明している。

ロイター通信によると、18日のエイラートでの銃撃事件ではイスラエル側8人が死亡。イスラエル軍の報復空爆によるガザの死者は少年3人を含め15人に上った。ガザの武装勢力は18日夕以降、イスラエル領へロケット弾計24発を撃ち込んだが、ハマスは銃撃事件とロケット弾攻撃への関与を否定している。

ハマスの内部には、イスラエル軍の攻撃激化を恐れて、休戦を維持したい勢力もある。だが、カッサム旅団はガザ住民の不満の高まりなどを受け、休戦破棄を宣言せざるを得ないと判断したとみられる。【8月20日 毎日】
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イスラエルとしては、国内に住宅価格高騰などへの抗議行動を抱えていますので、パレスチナとの衝突は国民の不満を外へそらす好機となります。
ハマスのカッサム旅団は、対イスラエルのテロ工作などを行う組織ですので、イスラエルとの緊張は組織の存在感を高めることにもなります。
そうした事情が、衝突拡大を懸念させます。

遠のく交渉再開
なお、パレスチナ自治政府のマルキ外相は、9月20日にパレスチナの国連加盟を申請する方針だと明らかにしています。国連加盟ついては安保理理事国のアメリカの拒否権行使も予想されていますが、加盟が失敗しても、国連総会でパレスチナ国家樹立を支持する決議案採択を目指すなど、国際世論の喚起を狙っているとされています。

ただ、“パレスチナ側は、国連加盟を求める姿勢を見せながら、国際社会がイスラエルに交渉再開への圧力を強めることも期待している。中東和平を推進する米国と欧州連合(EU)、ロシア、国連の4者は交渉再開に向けた協議を続けており、アッバス議長も交渉再開の可能性を否定していない”【8月13日 読売】とも報じられていました。

最近のイスラエルの入植地における住宅建設許可、そして今回のガザ地区での応酬ということで、交渉再開はますます遠のいた感があります。
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インド  「現代のガンジー」 政府の腐敗・汚職問題に抗議するハンストにシン政権苦慮

2011-08-19 22:11:05 | 南アジア(インド)

(8月15日 ニューデリーの集会で支持者に囲まれる「現代のガンジー」こと、アンナ・ハザレ氏。(中央に座る白い服の男性) “flickr”より By Arun Sharma Photos http://www.flickr.com/photos/arunsharmaphotos/6048983607/ )

汚職まみれの“世界最大の民主主義国”】
インドは、多民族・多宗教国家ながら独立以来政党政治が定着しており、軍事クーデターなども起きていないことから、その膨大な人口と併せて、“世界最大の民主主義国”とも呼ばれています。
しかし、その政治に腐敗・汚職が蔓延していることは、これまでも何回か取り上げてきました。

****与野党に大型汚職が噴出****
汚職の影が差し始めたのは、60年代。当時のインドでは、政府が経済を厳しく統制しており、実業家が事業を始めたり拡大したりするためには、政府の許認可が必要だった。そういう許認可と引き換えに、賄賂を要求する政治家が現れた。

90年代に経済の規制緩和が始まると、汚職がなくなると期待されたが、むしろ汚職は激増した。政府はまだ土地と天然資源と多くの公共事業を牛耳っている。経済が急成長するなか、このような資源が莫大な経済的価値を持ち始めた。その結果、政界と産業界の癒着に拍車が掛かり、多くの議員や官僚が甘い汁を吸っている。

インドの市民団体「民主改革協会」の最近の調査によると、議会の議員540人のうち何と300人が大富豪だ。しかもその過半数は中流家庭の出身。つまり、政界に入ってから資産を大幅に増やしたことになる。

この1年間、インドでは汚職スキャンダルが立て続けに浮上した。ムンバイの退役軍人用住宅の一部が政治家や官僚、その仲間たちに提供されていたことが発覚。
10年秋にニューデリーで聞かれたコモンウェルス・ゲームズ(英連邦競技大会)の予算のかなりの額を与党・国民会議派系の政治家がかすめ取っていたことも露見した。

最大野党のインド人民党(BJP)もスキャンダルと無縁でない。南部のカルナタカ州で何百万プもの鉄鉱石が環境・労働規則を無視して採掘された上、税金を掛けられずに中国に輸出された一件に、BJPの政治家たちが関わっていた。

最も大きなスキャンダルは、携帯電話の周波数割り当ての入札で不正があり、不当に安い金額で携帯電話会社に免許が与えられていた事件だ。この不正で政府は推定で550億ドルの損失を被った。【6月22日号 Newsweek日本版】
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ふたりのハンスト
相次ぐスキャンダルに国民の怒りが高まるなか、今年4月、アンナ・ハザレという社会活動家がニューデリーで抗議のハンガーストライキを始めました。

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ハザレは故郷のマハラシュトラ州の村で10年間、私心を捨てて身を粉にして活動し、「環境に優しい村」を築き上げた人物。全国的な知名度はなかったが、ニューデリーの都心部でハンストを始めると、法律家や人権活動家が周囲に集まってきた。映画スターたちも現場に応援に駆け付けた。
ハンストの様子は、ネットメディアが24時間報じ続けた。インドの各地で、連帯を表明するための行進や徹夜デモも行われた。ハザレは一躍、汚職との戦いのシンボル兼リーダーのような存在になった。

もっとも、ハザレはガンジーのような人間ではない。権威主義的な面が強く、村で飲酒した若者を柱に縛り付けて殴らせたことがある。政治や社会に対する考え方も一貫性を欠く。
しかし、銀行に預金もなく、財産らしい財産もない質素な生活ぶりは、汚職政治家や汚職官僚と比べると輝いて見える。(中略)

中流層の支持を失い始めた政府は、ハザレにハンストの中止を要請。引き換えに、官民合同で汚職撲滅のための委員会を設けることを約束した。
この提案を受け入れて、ハザレはハンストを中止。閣僚5人とハザレが推薦した民間人5人で構成する委員会が発足し、オンブズマン制度を導入するための「ロクパル法案」の草案作りを始めた。オンブズマンには、汚職政治家と汚職官僚を罰する権限も与える方向だ。(中略)
 
ロクパル法の草案委員会設置が決まった頃、今度はスワミ・ラムデブという別の「聖人」が、腐敗根絶を求めてハンストをやると言い始めた。その最大の要求は、横領されてスイスなど外国の銀行に隠されている数十億げについて、インド政府が返還措置を取ることだ。・・・・・【同上】
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ハザレ氏を独立運動中に抗議の断食を多用した建国の父になぞらえ、メディアでは「現代のガンジー」と称賛されてもいました。

後に続いたラムデブ氏については、“ラムデブ氏は複数のテレビ局でヨガ講座の番組を持ち、毎日3千万人以上が視聴するという超有名人。ヨガ道場や伝統医学の薬局チェーンの経営でも成功し、英スコットランドの小島を所有。事業収入は110億ルピー(約200億円)に上るとされる。かねて政界進出が取りざたされていた。”【6月4日 朝日】という、社会的影響力の大きさから、騒ぎの拡大を恐れたインド政府は強硬姿勢に転換。
ハンスト会場に集まった数万人の支持者を強制排除し、その際、70人ほどの負傷者が出る混乱となったことから、国際ニュース的には、ハザレ氏よりラムデブ氏のハンストの方が大きく取り扱われました。

ただ、ラムデブ氏の主張は、汚職への死刑適用や高額紙幣廃止など、ハザレ氏以上に極端で、その活動も自身の政治的意図へ利用するパフォーマンス的なところもあります。
いずれにしても、腐敗・汚職が蔓延している多くの途上国・新興国同様、インドでも多少のパフォーマンスでその体質が変わることはないだろう・・・と、個人的にはこのニュースにはさほど関心は持っていませんでした。

【「インドにも民衆が主役の時代が来た」】
最初にハンストを実行した「現代のガンジー」ハザレ氏は、政府側が約束した腐敗防止法が骨抜きされたことに抗議し、今月再度のハンストを計画、当局に拘束されました。支持者数千人も拘束されたと報じられています。

****インド:社会活動家を拘束 支持者が大規模抗議行動****
インド政府の腐敗・汚職問題を追及してきた社会活動家、アンナ・ハザレ氏(74)が16日早朝、ニューデリーの自宅で警察に拘束された。ハザレ氏はこの日、腐敗に抗議する大規模ハンスト集会をニューデリーで計画していたことから、拘束はハンスト阻止が狙い。反発したハザレ氏の支持者は国内各地で抗議運動を展開し、支持者グループによると、約4000人が当局に拘束されたという。

インドでは昨秋以降、現職閣僚らが関与した大型汚職事件が相次ぎ、政財界を揺るがしてきた。市民の立場から腐敗批判の先頭に立ってきたハザレ氏の拘束は政府への反発を招きかねず、シン政権は対処に苦慮しそうだ。

当局はこの日、ハザレ氏が抗議集会を計画していたニューデリー中心部の広場一帯を、5人以上の集会を禁ずる地区に指定した。現場には警察官が大量に動員され、デモに参加しようと訪れた市民を次々と拘束した。
ハザレ氏の支持者団体の幹部、プラシャント・ブシャン氏は「平和的なデモを当局側は許可しない。これが世界最大の民主主義国といわれるインドの実態だ」と語った。

ハザレ氏は4月に大規模なハンスト集会を実施し、政権側に腐敗防止法の制定を約束させた。政府は法案を議会に提出したが、首相や裁判官らが処罰の対象から除外された内容だったため、ハザレ氏側が批判していた。【8月16日 毎日】
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シン首相は、17日の議会演説で「(社会の)平和と平穏を維持する最低限の措置だった」とハザレ氏の拘束を正当化し、「(ハザレ氏が)選んだ道は完全に誤っており、わが国の議会制民主主義に深刻な影響を及ぼす」と強く非難しています。

しかし、ハザレ氏拘束に抗議するデモは首都ニューデリーのほか、西部ムンバイや南部バンガロールなど全国に拡大し続け、04年のシン政権発足以来最大の危機となっています。
政権側はハザレ氏に譲歩する形で釈放していますが、その釈放も完全にハザレ氏のペースとなっています。

****インド:活動家ハザレ氏を19日釈放 シン政権大幅譲歩****
インド政府の腐敗・汚職に抗議し、警察に拘束された社会活動家、アンナ・ハザレ氏(74)は19日にニューデリーの刑務所から釈放される見通しになった。支持者が18日明らかにした。
ハザレ氏は拘束初日の16日夜に釈放を言い渡されたが、計画したハンスト集会に当局側がさまざまな制限を付けたことに抗議し、居座っていた。当局側が18日、人数制限なし、最大15日間の集会実施を認めたため、ハザレ氏が退去に同意した。

警察は当初、ハザレ氏を7日間拘束する予定だった。だが大規模な抗議デモが全国に広がったため、シン政権が釈放を決めた。政権側は、集会実施方法でも大きく譲歩し、主導権は完全にハザレ氏側に握られている。
ハザレ氏は、政府が腐敗防止法案を修正し、首相や議員らを処罰の対象にするまでハンストを続ける計画。政権側がこれに同意しなければ、混乱が拡大しそうだ。

首都では17日夜、数千人が中心部の「インド門」に集結し、ろうそくを手にハザレ氏への連帯を示した。参加者した弁護士、プラモード・セガルさん(45)は、「チュニジアやエジプトで民衆が立ち上がった。インドにも民衆が主役の時代が来た」と語った。

歯科医のN・S・アローラさん(47)は、「昨秋から大型の汚職事件が相次ぎ、我々は政府の誰についていけばいいのかわからなくなった。そこに突然、真の指導者(ハザレ氏)が現れた。清廉潔白の彼を全面的に支持する」と話した。多くの人が、建国の父ガンジーにハザレ氏の姿を重ね合わせており、ガンジーの肖像画を手にした参加者も多かった。本来なら違法な「無許可デモ」だが、次から次へと来る人々の波は止めようもなく、警察は遠目に眺めているだけだった。【8月18日 毎日】
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ハザレ氏が“真の指導者”かどうかはともかく、シン首相自身は、インドだけでなく世界の政治家としては珍しく、非常に清廉な人格として知られています。
しかし、“高齢で体力が衰えているせいか、無口で遠慮がちな性格のせいか、シンは決断を下すべきときに下さない。与党連合の一員であるドラビダ進歩同盟(DMK)の腐敗(携帯電話の周波数割り当ての入札での不正)が明らかになった後も、重要州の選挙でDMKと手を組み続けた。”【6月22日号 Newsweek日本版】という、リーダーシップの欠如が国民の不満を招いているようです。

腐敗・汚職はインドに限った話ではありません。と言うより、程度の差こそあれ、多くの国で日常的に見られる社会病理です。“インドみたいな国では、国民は腐敗・汚職については当たり前のこととして諦め、ある意味、受け入れて暮らしているのだろう・・・”と勝手に思っていましたが、やはり国民の怒りは政権を揺さぶるほど強いものがあるようです。

それで、政治だけでない社会全体の腐敗・汚職体質が変わるか・・・と言えば、難しいようにも思えますが、それは今は言うべきことではないでしょう。
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タイ  タクシン元首相、今月訪日 復権をアピール

2011-08-18 21:23:39 | 東南アジア

(“政治経験ゼロで臨んだ総選挙。当初は演説も原稿の棒読みで頼りなかったが、みるみる上達した。インタビューでは相手の目を見て、誠実に回答する。一方で「想定問答」からは外れず、失言や放言は一切ない。華やかな外見とは対照的な慎重、堅実ぶりだ”【8月5日 毎日】とのインラック新首相 
最低賃金(日額)を300バーツ(約787円)に引き上げるという選挙公約は「インフレ圧力を強め、失業率の上昇要因になりかねない」との指摘もあります。
兄タクシン元首相については、「兄のよいアイデアは取り入れる」とのことです。
“flickr”より By journalforeignrelations http://www.flickr.com/photos/65478866@N04/5960440854/)

訪日を手始めに「外交活動」を活発化
妹のインラック氏がタイ初の女性首相となったタクシン元首相は、亡命中の身ですが、復権へ向けた活動として日本を訪問します。
日本の入管難民法は懲役・禁錮1年以上の刑を受けた外国人の入国を原則として禁じていますが、“総合的判断”で例外規定が適用されたようです。

****タクシン元首相:政府、特例措置でビザ発給****
枝野幸男官房長官は15日の記者会見で、汚職事件により実刑判決を受けたタイのタクシン元首相に特例措置として日本への入国査証(ビザ)を発給したと明らかにした。在ドバイ日本総領事館で発給したという。

日本の入管難民法は懲役・禁錮1年以上の刑を受けた外国人の入国を原則として禁じている。枝野氏は、タイ政府から(1)東日本大震災の被災者支援が目的で、2国間関係の増進につながる(2)インラック政権はタクシン氏の渡航を禁止しない政策を取るのでビザ発給を支援してほしい--と要請があったと説明。「要請を踏まえ総合的に判断した」と述べた。【8月15日 毎日】
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タクシン元首相は、東日本大震災の被災地を訪問し、塩害などでコメ栽培が困難になった農家が希望すれば、タイ北部で中長期にわたり、農地を提供する案を示す予定だそうです。
しかし、汚職事件により実刑判決を受け亡命中のタクシン元首相が、どういう権限で農地提供を保証するのでしょうか?

****タクシン氏訪日へ、被災農家にタイの農地提供*****
タイのタクシン元首相は今月下旬の訪日時、東日本大震災の被災地農家にタイの農地を提供するなど、復興協力策を提案する。
複数の関係者が17日明らかにした。日本の復興に積極的な姿勢を強調し、国際社会に事実上の復権をアピールする狙いもある。タクシン氏は訪日を手始めに「外交活動」を活発化させる構えだ。

タクシン氏は22~28日まで日本に滞在し、都内で超党派議員や経済人と懇談するほか、25~26日は宮城県の被災地を訪れる。その際、塩害などでコメ栽培が困難になった農家が希望すれば、気候的にジャポニカ米の栽培に適したタイ北部で中長期にわたり、農地を提供する案を示す予定という。

被災地の自治体が復興資金を確保するため地方債を発行し、東南アジア各国が購入して資金調達を支援する案も検討している。タクシン氏は首相時代、アジア域内で国債などの取引を活発化させる「アジア債券市場」構想を主導しており、構想に弾みをつける狙いもあるようだ。【8月18日 読売】
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30閣僚中、約20閣僚が「タクシン・ファミリー枠」】
もっとも、インラック新政権組閣にあたっては、“30閣僚中、約20閣僚が「タクシン・ファミリー枠」として割り当てられ、14閣僚がタクシン氏と前妻の意向によって、それぞれ抜擢(ばってき)された”【下記産経】とのことですので、農地ぐらいどうにでもなるのでしょう。

****タイ新政権発足 国防相にタクシン派 軍出身、交渉役期待*****
10日に正式発足したタイのインラック新内閣の顔ぶれをみると、インラック首相の兄、タクシン元首相の色合いが鮮明だ。国防相には、タクシン政権時代に国防副大臣を務めたユタサック氏が起用され、今後の軍との関係が注目される。昨年の大規模デモを主導した、反独裁民主統一戦線(UDD)の幹部の入閣は、「国民和解」に配慮し見送られた。
全閣僚の就任宣誓式は10日、プミポン国王が入院しているバンコクの病院で行われた。インラック氏が提出した閣僚名簿は、9日に国王の承認を得ていた。

首相を除く全35閣僚のうち、インラック氏が所属する最大与党・タイ貢献党からは、30人が入閣した。
タイ政界筋などによると、この30閣僚中、約20閣僚が「タクシン・ファミリー枠」として割り当てられ、14閣僚がタクシン氏と前妻、2閣僚がインラック氏、4閣僚がタクシン氏の別の妹の意向によって、それぞれ抜擢(ばってき)された。

具体的には、ユタサック国防相やスラポン外相、ティラチャイ財務相などが、タクシン氏の後押しで入閣。インラック氏は、ヨンユット貢献党党首と、内相などを歴任したチャルーム氏を、いずれも副首相に起用した。
ユタサック国防相は陸軍出身でもある。インラック政権にとっては、反タクシン派の急先鋒(せんぽう)ともいえる軍との交渉、間合いの取り方をひとつ間違えば、命取りになりかねない。国防相に陸軍出身者を起用したのも、軍との交渉役という重責を見据えてのことだ。
ユタサック氏の起用について、プラユット陸軍司令官は、軍の経験がないよりもいい、との反応を示している。だが、現実には「ユタサック氏の軍への影響力はあまりなく、交渉役として期待はできない」(タイ消息筋)との見方もある。

スラポン外相はタクシン氏の親戚で、貢献党副党首から入閣した。外交経験はなく、タイ紙バンコク・ポストは、外務当局者の「外務省で彼を知る者は、数人しかいない」とのコメントとともに、失望感を伝えている。
一方、貢献党の最大の支持母体で、閣僚ポストを求めていたUDDからの入閣が見送られたのは、反タクシン派の反発を避けるためで、UDD内に一定の不満を残す結果となった。【8月11日 産経】
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“14閣僚がタクシン氏と前妻、2閣僚がインラック氏・・・・”、しかも、その14閣僚に国防・外務・財務などの重要閣僚が含まれるということで、実質的タクシン内閣であることは歴然としています。
政治経験のないインラック氏の推薦枠が2名のみというのは、仕方がないところでしょうか。
しかし、“前妻”とか“別の妹”とか、政治の私物化はごく当然のことと認識されているようです。

それにしても、こうした「タクシン・ファミリー枠」が公然と語られることには違和感もあります。
国民和解を最大課題とするインラック政権ですが、タクシン元首相が前面に出過ぎると、反タクシン派の反感も強まりそうです。「いまさら、そんなきれいごとを言っても何の意味もない・・・」というところでしょうか。
なお、タクシン元首相は組閣関与について、“「彼女(インラック首相)ら自身が決めたが、アドバイスはした」と述べ、一部関与したと認めた”【8月14日 朝日】とのことです。

タクシン復権で、「プレアビヒア」問題は沈静化の方向
カンボジアのフン・セン首相と親しいタクシン元首相が背後にいるインラック政権誕生で、カンボジアとの国境紛争は沈静化の方向に動いているようです。

****タイ:カンボジア国境で「軍民の交流再開」…報道官****
カンボジアと国境の管轄権を巡る軍事対立を続けたタイ陸軍第2管区司令部のプラウィット報道官は17日、毎日新聞の取材に対し、「インラック政権発足後に国境の状況は衝突前に戻り、軍や民間人の交流が再開された」と述べ、新たな軍事衝突が起きる可能性がなくなったことを明示した。さらに、24日にタイ側で両軍の現地司令官が出席する「地域国境管理委員会」が開かれるとも明言。紛争地域からの両軍の撤退に向けた交渉も進む見通しとなった。

報道官は「タイ側の農業技術セミナーに150人のカンボジア農民が参加している」と語り、「今月末までには両国貿易のため国境に臨時の検問所も開設される」と述べた。貿易や観光などの経済活動も軍事衝突前の水準に戻る見込み。

両国は06年、カンボジアが国境の山岳寺院「プレアビヒア」を世界遺産登録申請したことをきっかけに対立を深め、今年2月と4月には寺院周辺などで過去最悪規模の武力衝突に発展。タイの地元住民1人を含む少なくとも28人が死亡した。

両国民にはそれぞれ寺院は自国領土との意識はあるものの、両国関係がここまで悪化したのは、タクシン氏支持を明確にしてタイの政治対立に介入したカンボジアのフン・セン首相に、タイの反タクシン派が激しく反発したためだ。

しかし、7月上旬のタイ下院選で2年8カ月ぶりにタクシン派の野党タイ貢献党が圧勝。インラック政権が発足したのを受け、フン・セン氏は「両国間の悪夢は終わった」と発言した。さらに自国のメディアにタイ新政権への批判を控えるよう要請するなど和解ムードを高めている。【8月18日 毎日】
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なお、タクシン元首相は、日本訪問の直前か離日直後に「個人的な旅行」としてカンボジアを訪問する予定です。
どういう理由であれ、カンボジアとタイの緊張が緩和されるのは結構なことです。

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リビア  反体制派の首都包囲網狭まる アメリカは“スマートパワー”で対応

2011-08-17 20:02:49 | 北アフリカ

(8月13日 政府軍との戦闘の末、首都トリポリ防衛の重要拠点ザウィヤの近郊に迫る反体制派 
それにしても、「トヨタ」のピックアップは、テクニカルとして世界中の反政府勢力、ゲリラ勢力御用達です。その性能はもちろんですが、広く使用されるにつれて部品調達が容易になるという利点が更に高まること、また、一種の“ブランド”の魅力があるようです。“flickr”より By DTN News  http://www.flickr.com/photos/dtnnews/6039968508/in/photostream )

危惧される“寄せ集め集団のもろさ”】
昨日取り上げた弾圧が続くシリア情勢と同様に、一進一退で事態がなかなか進展しないのがリビア情勢。
特に、先月末には、反体制派軍部隊を指揮するアブデル・ファター・ユネス軍最高司令官が東部ベンガジに向かう途中、武装グループに襲撃され、護衛2人とともに殺される事件があり、反体制派の内紛との見方から、内戦状態が膠着しているリビア情勢の先行きに新たな不安を加えました。

ユネス氏は逮捕状が出されたことをうけ、ベンガジでの委員会に呼び出され、事情聴取を受けるためにベンガジに向かう途中で暗殺されました。ユネス氏はカダフィ政権の公安相でしたが2月に離脱、反体制派の軍事作戦を指揮してきました。しかし、カダフィ氏の長年の側近だったことから、政府側との関係継続を疑う声があったと報じられています。

****リビア反体制派司令官殺害、内紛との見方強まる****
リビアの反体制派軍事部門を率いるアブドルファタハ・ユニス最高司令官が7月28日に射殺体で発見された事件は、反体制派の内紛との見方が強まっている。
カダフィ政権の元幹部や、政権に弾圧されたイスラム主義者も加わる寄せ集め集団のもろさが浮き彫りとなっている。

ユニス氏の射殺体は反体制派の拠点ベンガジ郊外で見つかった。反体制派軍事部門の幹部はAP通信に、ユニス氏に同行していた反体制派民兵2人が「裏切り者」と叫びながら発砲した、と証言した。別の反体制派幹部はロイター通信に対し、殺害に関与したのは、カダフィ政権によって投獄され、現在は反体制派に加わるイスラム主義者との見方を示した。【8月1日 読売】
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この事件の混乱を収束するため、リビア反体制派の国民評議会(TNC)のムスタファ・アブドルジャリル議長は今月8日、徹底的な改革を目指すとの理由で事実上の内閣を解散しました。

重要拠点ザウィヤを制圧
内紛含みの反体制派ですが、戦線の方はここにきてようやく首都トリポリ包囲網が狭まりつつあります。
長く争奪戦が続いていたトリポリ近郊のザウィヤを反体制派が制圧したと報じられています。

****リビア:反体制派が首都への補給路制圧*****
リビアの反体制派は14日、首都トリポリから西へ約50キロのザウィヤを制圧した。隣国チュニジアからトリポリへ食料や燃料を運ぶ幹線道路沿いの港町で、政権側への主要な補給路を断った。反体制派がただちに首都へ攻め入る情勢ではないが、東西両側の沿岸を押さえ、包囲網を狭めたことになる。ロイター通信が報じた。

ロイター通信によると、反体制派が13日夜から14日朝にかけてザウィヤを制圧し、中心部の市場で反体制派側の旗を掲げた。少数の政府軍兵士が今もビル屋上などから射撃を続け、ザウィヤからチュニジアへ延びる幹線道路でも戦いは続いている。また政府軍へのガソリンの主要な供給源となっているザウィヤ北部の精製所はなお、政府軍が支配しているという。
報道に対し、リビア政府のイブラヒム報道官は、反体制派による制圧を否定した。

ザウィヤを巡っては今年3月上旬、反体制派が制圧した後に政府軍が奪還するなど、激しい攻防が繰り広げられてきた。北大西洋条約機構(NATO)主導の多国籍軍が、政府軍施設などを空爆し、援護している。【8月15日 毎日】
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内相、“観光”でカイロへ
また、沈みかけた船からネズミが逃げ出すように、政権幹部の離反も報じられています。
****リビア内相、家族とカイロ到着…亡命か****
AP通信によると、リビアのナスル・マブルーク・アブドラ内相が15日、家族9人とともにカイロ空港に到着した。
空港当局者の話として伝えた。アブドラ内相は、チュニジアから特別機で入り、来訪の目的を「観光」と話しているといい、亡命の可能性もある。

リビアの最高指導者カダフィ氏の打倒を目指す反体制派部隊は、首都トリポリに近い西部ザウィアをほぼ手中に収めるなどカダフィ氏の牙城への包囲網を狭めている。亡命ならば、政権幹部の離反はカダフィ氏にとって大きな打撃だ。
リビアでは、北大西洋条約機構(NATO)指揮の多国籍軍による空爆が始まった今年3月、クーサ外相(当時)が英国に亡命している。【8月15日 読売】
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(その後の報道で、アブドラ氏は内相ではなく、副内相であると報じられています。)

アメリカ:“スマートパワー”で民主化を目指す
内相がこの時期に“観光”はないと思います。
こうした戦線の動き、幹部離反を受けて、手をこまねいていた感もあったアメリカも「カダフィ政権に残された日はわずかだ」(パネッタ米国防長官)と元気になってきました。

なお、“オバマ政権が、カダフィ政権やシリアのアサド政権を退陣に追い込めないことに、野党共和党などからは批判も出ている。これに対し、クリントン長官は「我々は(軍事力に依存しない)スマートパワーを行使している」とし、国際社会と協調して両政権に圧力をかけていく方針を強調した。”【8月17日 朝日】とのことです。

“スマートパワー”とはなんだろう?と思ったのですが、下記毎日記事では“賢明なる力”と訳されています。
軍事力に頼らず、外交力や経済力、文化発信力などを総合した力といった意味合いのようです。

****米国務長官:「賢明なる力」でシリア、リビア民主化*****
クリントン米国務長官は16日、ワシントン市内で開かれたシンポジウムで、民主化運動に対する弾圧が続くシリア、リビア両国の情勢に言及し、米国は軍事力に頼らず、外交力や経済力、文化発信力などの「スマートパワー(賢明なる力)」と国際協調によって両国の民主化を目指す考えを明らかにした。

シリアのアサド大統領に退陣要求せず、リビア空爆で後方支援に徹するオバマ政権の外交に対しては、米内外に「弱腰」や「無策」などの批判もある。クリントン氏の発言は軍事力偏重・単独行動主義だったブッシュ前政権との差異を強調したものだが、一方で弾圧による両国の犠牲者が増え続けているのも事実であり、今後は人道危機に対するオバマ政権の関与の在り方が問われそうだ。

クリントン氏はシンポジウムで、サウジアラビアのアブドラ国王や、シリアの友好国トルコのエルドアン首相が先週、アサド政権を強い調子で非難したことに言及。「米国はこれらのオーケストラの一部であり続けている」と述べ、中東諸国を巻き込んだ国際協調によってアサド政権を追い詰める考えを明示した。

また、クリントン氏は、空爆開始から5カ月が経過した今も最高指導者カダフィ大佐が居座り続けるリビア情勢について「これは戦略的忍耐の実践だ」と述べ、カダフィ氏の打倒をあくまでもリビア国内の反カダフィ派に任せる考えを強調。アラブ諸国がリビアの反体制派支持に方針転換した経緯を挙げ、「これこそが、米国だけでなく全ての人々が普遍的価値のために犠牲を払う私の見たかった世界だ」と述べた。

シンポジウムには、パネッタ国防長官もそろって出席。パネッタ氏は、リビア東部を拠点とする反カダフィ派が戦力を拡大しているとの現状分析を披露し、「カダフィ氏の時代は余命いくばくもない」との見解を示した。【8月17日 毎日】
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「スマートパワー(賢明なる力)」にしろ、「オーケストラの一部」にしろ、世界のリーダーを自負し、先頭に立ちたがるアメリカらしからぬ対応ではありますが、イラク・アフガニスタンで身動きがとれず、財政赤字増大に苦しむ現状では、これ以上の軍事力行使はできないというのが実態でしょう。

トリポリ防衛戦、新政権の性格・・・懸念される問題
「カダフィ氏の時代は余命いくばくもない」かもしれませんが、カダフィ政権側はスカッドミサイルを始めて使用するなどの反撃態勢を強めています。
この先、カダフィ大佐が首都トリポリを死守すべく、住民を人間の盾にした市街戦が展開される事態となれば、決着には相当の時間を要しますし、何より人的被害が大きく膨らむものと懸念されます。

ただ、欧米軍隊と異なりリビア反体制派勢力は、人間の盾にも躊躇しないかも・・・。スリランカ内戦でも起きた事態です。それは最悪の結果をもたらします。

更に、内戦勝利後を考えると、ユネス軍最高司令官殺害で露呈した反体制派内部の問題が表面化してきます。
アメリカが敢えて先頭に立つ気にならないのも、カダフィ後の新政権の性格が不明確なことがあるのでしょう。

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シリア  反政府行動弾圧の手を緩めないアサド政権

2011-08-16 22:21:43 | 中東情勢

(8月13日 1週間に及ぶハマでの弾圧を終えて移動する戦車の車列 “flickr”より By DTN News http://www.flickr.com/photos/dtnnews/6039032128/in/photostream

【「次の段階に進むことが望ましい」】
反政府デモへの弾圧が続くシリア情勢については、7月12日ブログ「シリア  米仏大使館襲撃で、米国務長官は“アサド大統領の退陣は不可避”との認識」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20110712)で取り上げたところですが、その後も、どこそこの街で何人が死亡・・・といった記事が毎日流されるだけで、これといいった大きな動きがないまま推移しています。

8月4日には、これまでのバース党による一党支配体制から複数政党制へ移行する新政党法を承認する大統領令が出されましたが、抗議行動にも、弾圧にも変化は見られません。

****シリア:民間人死者2000人に 安保理報告****
国連の安全保障理事会は10日、アサド政権による反政府デモ弾圧が続くシリア情勢について会合を開き、担当事務次長補から報告を受けた。報告によると、弾圧開始以来の民間人死者数は約2000人に達し、英国のパラム次席大使は「対シリア圧力を強めるため安保理は追加措置を検討しなければならない」と強調した。

パラム次席大使は会合後、「政府側による人権侵害は続いており、改善は見られない」と指摘。ライス米国連大使も会合で「国連が危機の解決に向けてシリアに特使を派遣するなど、次の段階に進むことが望ましい」と述べた。

報告によると、シリアでは弾圧が始まってから約2000人の民間人が死亡。約3000人が行方不明となり、1万3000人が拘束されている。これに対して、シリアのジャファリ大使は「国連の報告と安保理の見解は事態を誤って伝えている」と反論した。【8月11日 毎日】
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【「我々の忍耐は限界だ」】
大きな動きがない中で、情勢変化を敢えてあげれば、弾圧を止めようとしないシリア・アサド政権に対する近隣アラブ諸国の批判が強まっていることでしょうか。
サウジアラビアのアブドラ国王は8月7日、「殺人マシンをやめよ」「シリアでの出来事を容認できない」と強い調子でシリアを批判し、「手遅れになる前に熟考し、改革を実行すべきだ」とアサド大統領に要求すると同時に、駐シリア大使の召還を明らかにしました。
その後も、クウェートとバーレーンが大使召還を決めています。

****シリア:周辺国から非難…バーレーンなど大使召還相次ぐ*****
シリア政府による住民弾圧で、サウジアラビアに続きクウェートとバーレーンが8日、シリアからの大使召還を決めた。さらにアラブ連盟(22カ国・機構)が懸念を表明するなど周辺地域からの相次ぐ非難にアサド政権の孤立が深まっている。

シリアの友好国トルコのエルドアン首相も「我々の忍耐は限界だ」と批判。9日にシリア入りしたトルコのダウトオール外相はアサド大統領と会談し、弾圧中止を強く求めた。
またペルシャ湾岸のアラブ6カ国で作る湾岸協力会議も6日、「即時に暴力を中止し、改革と人権保障を進めるべきだ」との声明を発表。イスラム教スンニ派最高権威機関アズハル(カイロ)の指導者、タイエブ総長は8日、「アラブの悲劇に終止符を打つべきだ」と声明で訴えた。(後略)【8月9日 毎日】
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【「アサド大統領がいない方がシリアの利益になる」】
世界中の民主化の守護神であるアメリカや、リビアへの積極的な介入を実行した欧州各国は、シリア・アサド政権への批判は行っていますが、実効ある対抗措置は取れずにいます。

****米、シリアに追加制裁 近くアサド大統領に退陣要求か****
米政府は10日、シリアに対する経済制裁の強化を発表した。世界各国にも圧力の連携を呼びかけ、同国の包囲網を狭めている。オバマ大統領は近く、アサド大統領の明確な退陣要求に踏み切るとの観測が強まっており、米国の対シリア政策は転換点を迎えつつある。

米財務省が10日発表した制裁対象は、シリアの国営銀行と同国最大の携帯電話通信会社など。資産を凍結し、米国関連の取引を禁じる。実質的にアサド政権の反体制派弾圧に対する制裁で、大統領本人らの資産凍結に続く追加措置だ。

カーニー米大統領報道官は10日、「アサド大統領がいない方がシリアの利益になる。国際社会は日増しに団結して、非難の声を強めている」と表明。最近のサウジアラビアなどによるシリアからの大使召還や、トルコのダウトオール外相による9日のシリア訪問などの動きに米政府が関与していることを示唆した。【8月11日 朝日】
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クリントン米国務長官は7月11日の時点で、シリアの首都ダマスカスの米国大使館と米大使公邸がアサド大統領支持派のデモ隊に襲撃されたことを受け、「アサド大統領は正統性を失い、(改革の)約束を果たすのに失敗した」と述べ、アサド大統領の退陣は不可避との認識を示していますが、“アサド大統領の明確な退陣要求”は特段の変化があるのでしょうか?
いずれにせよ、アメリカが退陣要求したところで、アサド大統領がそれに従うことは考えられません。

中東のパワーバランスを考えると、イランなど周辺国や、ヒズボラ・ハマスなどの過激派組織に大きな影響力を持つシリア・アサド政権が崩壊して空白が生じることをアメリカは本音としては望んでいない・・・と見られています。
また、欧州各国がリビアを持て余し、アメリカはイラク・アフガニスタンを抱えている状況では、シリアへの軍事介入という選択肢はありません。
そうした事情が、欧米各国の腰の重さの背景にあります。

モスク破壊、艦砲射撃?
そうした国際社会の及び腰を見透かすように、アサド政権の弾圧は激しさを増しています。
TVニュースで観た、モスクのミナレットが戦車からの攻撃で崩れおちる様子が衝撃的でした。
モスクが反政府行動の集合場所などの役割を果たしていることから、各地でモスクを狙った攻撃がなされているそうです。
イラクやアフガニスタンで外国勢力があんな攻撃を行ったら、イスラムへの冒涜として大変な騒ぎになりますが、同じイスラムであるアサド政権側は躊躇がないようです。

もっとも、“同じイスラム”とは言っても、世俗的な傾向が強いアサド政権は人口の1割のイスラム教アラウィ派(シーア派の一派)を支持基盤としているのに対し、現在反政府行動を行っているのは、人口的には圧倒的多数派である地方の保守的なスンニ派が多いという宗派的な事情はあります。


****シリア:民衆に艦砲射撃、住民25人死亡 政権は強硬姿勢****
アサド政権が民衆蜂起の武力弾圧を続けるシリアで14日、北部ラタキアを軍と治安部隊が海上の艦船などから攻撃し、反体制団体などによると、少なくとも住民25人が死亡した。艦砲射撃は3月に民主化要求デモが始まって以来初めてと見られ、政権側の強硬姿勢がさらに強まった形だ。

一方、アサド大統領の退陣を求めるデモは同日も北部アレッポや中部ホムス、首都ダマスカス周辺部などで発生。事態収拾の糸口も見つかっていない。

シリア国内の反体制団体「地域調整委員会」によると、政権側はデモが続いていた海岸沿いの地区などに13日から戦車や装甲車を配置。女性や子どもを除く住民の出入りを厳しく制限し、インターネットや電話の接続を切った上で、14日未明に大規模攻撃を始めた。

住民の一人はロイター通信に「2隻の船が砲撃するのを見た」と証言。政権支持派の武装集団が車で回り、住民に発砲するなどしているという。ラタキア南部に住む弁護士は毎日新聞の電話取材に「軍は激しく撃っている。夜8時ごろまで銃声が続いた」と語った。

一方、シリア国営通信はラタキアの状況について「機関銃や手投げ弾で住民を脅かす武装集団の掃討を行った」とし、治安要員2人が死亡、41人が負傷したと伝えた。海上からの攻撃は否定した。また、「多数の知識人らが外国の介入に反発している」とし、武力弾圧の中止を求める国連やアサド政権幹部への制裁強化を図る米欧をけん制した。【8月15日 毎日】
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【「弾圧をやめれば多数派の報復を招きかねない」】
海上からの“艦砲射撃”には驚きました。殆んど市民への無差別攻撃になりますが、本当でしょうか?
こうした攻撃の手を緩めないアサド政権について、“アサド政権が弾圧を続ける理由について、アルアハラム戦略研究所(カイロ)のハッサン・アブタレブ副所長は、アサド一族を含む人口の1割のイスラム教アラウィ派が、多数派のスンニ派住民を統治する構造を指摘。「弾圧をやめれば多数派の報復を招きかねない。政権は弾圧を続けるしかない」と話す。 反体制派も強力な指導者がいるわけではなく、アサド政権には、「今のうちなら反乱の芽を潰せる」との判断も働いているようだ。”【8月16日 朝日】といった指摘があります。

当分、抗議行動と弾圧が繰り返される状況が続きそうです。

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中国  頻発する住民抗議行動、暴動

2011-08-15 22:42:55 | 中国

(14日 遼寧省大連市 化学工場から有害物質の流出の恐れがあるとして、工場の撤去を求める市民ら1万2千人以上が同市政府庁舎前に集まりました。市当局は、市民の抗議活動を受け、工場の即時操業停止と早期移転を即日で決定しました。 “flickr”より By treasuresthouhast http://www.flickr.com/photos/74568056@N00/6040583127/

市民に過度な暴力を振るう「城管」】
中国の住民抗議による“暴動”は、ごく日常的な現象と言えるほど多発しています。
その原因としては、地方政府による土地収用に関するものが多いと聞きますが、「城管」と呼ばれる路上の取り締まりを担当する機関の職員による暴力行為に対する抗議もしばしば発生しています。
11日に貴州省で起きた暴動も、そうした「城管」の暴力がきっかけとなったようです。

****中国・貴州省で暴動、「城管」の暴力がきっかけ****
11日午後、中国・貴州省で暴動が発生し、数千人が路上に出て翌日未明まで車両の破壊や放火などを行った。国営新華社通信が12日、報じた。この暴動で警察官10人が負傷した。
国営ラジオ放送CNRのウェブサイトによると、暴徒はトラックで幹線道路を封鎖したという。

新華社によると、「城管」と呼ばれる路上の取り締まりを担当する機関の職員が、違法駐輪したとして女性から自転車を押収しようとした際に、この女性に暴力を振るったことが暴動のきっかけだったという。
中国版ツイッター「新浪微博」では12日、この暴動についてのコメントは遮断されている。

■暴動を引き起こす「城管」
城管の職員は、市民に過度な暴力を振るうと批判されることが多く、多くの中国人に嫌われている。近年の暴動には城管職員の行為がきっかけになったものも多い。
前月にも中国南部の都市で、城管職員が足の不自由な果物売りの男性を殴ったことをきっかけに数百人規模の暴動が起きている。違法駐車したとして荷車を押収されたことに抗議していたというこの男性は、殴られた際のけががもとで死亡した。【8月12日 AFP】
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他のアジア諸国同様に、中国でも路上を占有した商行為はごく普通に見られますので、城管の職員がそれを厳しく取りまろうとすれば、トラブルが多発することは容易に想像できます。

社会の安定のために早期の事態収拾
環境汚染が深刻な状況を受けて、地方政府と結託した企業による有害物質垂れ流しなどへの抗議行動もしばしば見られるパターンです。

****中国:市民抗議で化学工場移転へ 大連で若者らデモ****
中国遼寧省大連市は14日、市内の化学工場の移転を求める若者を中心とした市民の抗議活動を受け、工場の即時操業停止と早期移転を決定した。中国当局が市民の抗議活動の要求を即日受け入れるのは極めて異例。
中国東北部最大の経済都市で市民らの抗議が地元政府を公然と批判するまでに発展、社会の安定のために早期の事態収拾を図る必要に迫られたためとみられる。

新華社電によると、抗議活動の参加者は約1万2000人。午前に市政府庁舎前で始まった抗議は午後に入り、工場建設を許可した当時の市トップの責任追及や官僚の腐敗一掃を求める声も目立つようになり、数百人の警官隊が動員された。参加者の一部は市内でデモ行進したが、大きな衝突はなかった。

市民らが移転を要求したのは大連福佳大化石油化工有限公司の工場で、ポリエステル繊維などの原料となるパラキシレンを生産している。
8日に台風が接近した際、工場近くの防波堤が決壊。有毒物質が漏れ出す恐れが強まり、住民らが避難した。正式な許可が出る前に生産を開始していたとの疑惑も出ており、工場の移転を求める声が一気に高まった。

市民らは抗議活動で「福佳大化は出ていけ」「大連の環境を守れ」と連呼。一時は大連市トップの唐軍・共産党委員会書記が市民らの前で工場移転を約束、デモ解散を求めたが、座り込みは移転決定が伝えられた夕方まで続いた。

関係者によると、デモ呼び掛けの中心になったのは学生ら。中国当局はネット上の呼び掛けを削除するなどしたが、携帯電話のショートメッセージなどを通じ広まった。【8月15日 毎日】
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“中国当局が市民の抗議活動の要求を即日受け入れるのは極めて異例”とのことですが、市民の抗議行動による社会混乱への危機感がそれだけ当局側に強いということでしょう。
市民側で、ショートメッセージなどが活用されるのは、中国に限らず世界的な現象です。当局側にとってはコントロールが難しくなっています。

【「地元当局が停電地域を選別している」】
四川省成都では停電に抗議して道路封鎖などの抗議行動が行われたことが報じられています。
****中国:成都で住民5000人が道路封鎖 停電に抗議*****
香港紙「東方日報」は15日、中国四川省成都で14日夜、地元住民約5000人が停電に抗議して道路をふさぐなどの抗議行動を起こし、警察当局と衝突したと伝えた。死者や負傷者は確認されていない。

報道によると、現地では気温40度近い日が続くが、電気や水が止まった状態となっている。停電は、収入の比較的少ない人たちが多く住む地域で発生しており、住民は「地元当局が停電地域を選別している」と不満を募らせていた。【8月15日 毎日】
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抑圧された住民の意思が大衆行動として噴出
こうした頻発する抗議行動の原因は様々ですが、地方政府のトップから末端の城管に至るまで、住民の利益ではなく自分たちの利益追求・保身に走り、往々にして企業と癒着していること、公権力行使にあたっても住民保護の意識が希薄で強権的な権力行使が行われることなど、住民側に地方政府への不満・不信感が強く存在しています。

欧米や日本のような社会であれば、中央政府にしろ地方当局にしても、選挙によって選ばれた住民・国民の代表によって管理される建前であり、なにがしらかの民意が反映されるシステムが存在しますが、事実上の共産党一党支配体制の中国にあっては、政府は住民とは関係ないところで存在するものであり、住民と特に地方政府の間には対立の構図があるように見えます。


住民と権力の間に相互依存的な一体感が欠如しているため、普段は抑圧されている住民の意思が、何らかのきっかけで抗議行動や“暴動”という形で噴出しやすいように思われます。
数千に、あるいは一万人を超える住民が集まり、当局の責任者を批判する様は、文化大革命当時の激しい大衆行動を彷彿とさせるものもあります。
当局側は、そうした住民の大衆行動を恐れ、普段から何とかこれを抑え込もうとする・・・ということにもなります。

【「高官も水飲み百姓の苦しみを理解しろ」】
下記の記事は、「政府高官」に対する中国庶民の批判的感情を表しているように思えます。

****一等車の「後退的進歩」に見る中国の高速鉄道文化が日本にまだ及ばない点****
今年1月、時事通信社が発行する時事速報にある私のコラムで、次のようなことを取り上げた。
昨年の9月のことだ。内陸の安徽省合肥市の訪問を終えて上海に帰る際、新幹線の中国版である高速鉄道を利用した。そこで予想外のトラブルに巻き込まれた。

私と妻が乗っていたグリーン車に相当する一等席車両に、数人の男女が空席を見つけて勝手に入り、席を占領した。ほどなく検札に来た若い女性の車掌が問題に気付き、駅の入場券しか持っていないこの男女らに一等席車両を出てもらうよう求めた。しかし、男女らはいろいろな理由を並べ、頑として動こうとしなかった。車掌はかなり訓練を受けているらしく、ずっと笑顔を保ったまま説得し続けた。

娘とそう年齢の変わらないこの車掌に感心して、私は「車掌さんの勧めに従ったら」と思わず援護射撃的な発言をした。すると男女らが一斉に矛先を私に向けてきた。「余計なお世話だ。お前に関係ないだろう」。
そこまで言われると、私もそう簡単には引き下がれない。「この車両の乗客として私にも関係があるのだ」と反論した。

男女らがさらに騒ぎ出した。その戦術には呆気にとられた。
「あんた、見た目では高官のようだな。あんたは百姓である俺たちの血税を使ってこの一等車に乗っているのだろう。俺の女房は病気にかかっているよ。どうして俺たち貧乏人がこの車両に乗ってはいけないんだ、高官も水飲み百姓の苦しみを理解しろ」

私を政府高官に仕立てて攻撃してくる戦術だ。これは今、中国各地で見られる社会現象である。特権的な地位にある政府関係者、公務員、警察、「城管」と呼ばれる都市治安補助員に対し、国民は大きな反感を抱いている。庶民がこうした政府関係者らと衝突を起こすと、人々はまず政府関係者側を批判する。しかも、その批判はたいてい的を射ている。

一方、こうした社会現象に目をつけ、私利私欲を満たすため新手の戦術を練りだした輩もいる。この高速鉄道の一等車でまさにそうした人たちに出会ったのである。喧嘩になると、「政府高官」とされてしまう私は立場が悪くなる。相手はそこを計算してしたたかに攻撃してきたのだ。
幸い、一等車内の乗客は私と同じ立場にいる人間ばかりで、誰もその手の攻撃に関心を払おうとしなかった。結局、男女らは車掌にせかされ一等車から去り、車内はようやく静けさを取り戻した。
共産党の幹部や政府役人が民衆に信頼されない問題があるから、若い女性車掌を助けようとした私が、逆に悪役の「高官」にされてしまったのだ。(後略)【7月21日 DIAMOND online】
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国民側にある政府関係者への反感・批判、“その批判はたいてい的を射ている”ような腐敗構造・・・経済活動でみると日本と殆んど変わらないような中国社会ですが、本質的な部分でかなり異質な社会でもあります。
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アメリカ  アフガニスタン撤退、医療保険制度改革、財政赤字削減・・・難題を抱えるオバマ大統領

2011-08-14 21:22:41 | アメリカ

(8月4日で50歳を迎えたオバマ米大統領 “50歳になると、誰でもその人の人格にふさわしい顔になる”(ジョージ・オーウェル)“flickr”より By 89AKurt http://www.flickr.com/photos/53074154@N00/5938759378/

アフガニスタンの治安維持に引き続き関与
債務上限引き上げ問題では、時間切れぎりぎりまでもつれこんだものの、とりあえずはデフォルトを回避したオバマ米大統領ですが、問題は山積しており、気の休まる暇はなさそうです。

外交面での最大課題であるアフガニスタンからの撤退については、オバマ大統領は6月下旬、約10万人の駐留米軍のうち、1万人を今年末までに撤収させ、更に2万3000人を来年夏までに帰還させる撤収計画を発表しています。

その撤退計画を開始したのに合わせたように、今月6日、駐留米軍のヘリが中部マイダンワルダク州で撃墜され、搭乗していた米特殊部隊員ら30人を含む計38人が死亡しました。01年に始まったアフガニスタン戦争で、一度に犠牲になった米兵の数としては最多となっています。

アフガニスタン政府高官によると、今回の米軍ヘリ撃墜は、タリバン側の司令官が、タリバンの会合があると、うその情報を米軍に流し、米軍部隊を現地におびき出して実行した“罠”だったとのことで、また、パキスタン人4人が協力していたということです。【8月9日 AFPより】

撤退計画への影響も取り沙汰されていますが、オバマ米大統領は、アフガニスタンの治安維持に引き続き関与していく考えを強調しています。

****米大統領、アフガンへの関与継続を強調 ヘリ事故受け*****
アフガニスタンで6日に北大西洋条約機構(NATO)軍のヘリコプターが墜落し、多くの米兵らが犠牲になったことについて、オバマ米大統領は8日、「我々の兵士たちは、アフガンをテロリストの安全な隠れ家としないために働き続ける」と述べ、オバマ政権としてアフガンの治安維持に引き続き関与していく考えを強調した。

パネッタ米国防長官も同日、米フロリダ州タンパで開かれた米軍関係の式典で米兵の犠牲に触れ、「我々は彼らやその家族に、命を捧げる原因となった戦いを決して中断しないと誓わなければならない」などと述べた。(後略)【8月9日 朝日】
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なお、ヘリを襲撃したタリバン勢力の居場所を米軍がつきとめて8日に空爆し、メンバーをほぼ殺害したと発表されています。

【「憲法上の限界を超える」】
内政面での最大の成果である医療保険制度改革法についても、全米各地で26州の共和党系知事らが違憲訴訟が起こしており、ジョージア州のアトランタ連邦高等裁判所は12日、医療保険制度改革法が合衆国憲法に違反するとの判決を下しています。

****米国:医療保険改革法は違憲 アトランタ連邦高裁****
米南部ジョージア州のアトランタ連邦高等裁判所は12日、オバマ政権下で昨年成立した医療保険改革法が、国民に保険加入を義務付けているのは憲法違反との判断を下した。医療保険改革を1期目の最大の成果と位置づける大統領には大きな痛手となった。

3人の裁判官のうち2人が、14年から保険加入を義務付け、違反者に罰金を科すとした医療保険改革法の枠組みを違憲と判断した。原告は14州の共和党の知事や州司法長官。
この法律をめぐっては、オハイオ州のシンシナティ連邦高裁が合憲との判断を出しており、最終的な判断は最高裁に委ねられる。

来年11月の大統領選でも、医療保険改革は争点となるのは必至で、最高裁の判断は大統領選前の来夏にも下される可能性がある。【8月13日 毎日】
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アメリカの場合、医療保険は民間保険会社が売る商品であって、日本や欧州のような社会保障制度とは異なります。民主党が最後までこだわった新たな公的保険制度創出は、共和党の反対で断念されました。
オバマ政権の改革法は、保険加入者に補助金を支出し、保険会社への規制を強めることで、カバー範囲を広げ、保険を購入しやすくしようとするものです。

“国民皆保険制度がない米国では国民の4千万人超が無保険状態で、2019年には5400万人に達する。保険会社の支払い拒否や医療に伴う破産も社会問題化。法案は中低所得層に税額控除や補助を付与した上で、国民の保険加入を事実上義務化。保険料高騰を抑制し、既往症による加入拒否などを禁ずるため保険業界への規制を強める。”【10年3月22日 毎日】

しかし、判決は保険の商品としての側面を重視し、「民間会社から保険を購入するかしないかの個人の決定」を立法措置で縛ることは「憲法上の限界を超える」と判断しています。

オバマ政権が内政の最大成果として誇示する医療保険制度改革法に高裁が違憲判断を下したことで、同法に反対する野党・共和党が、大統領選挙の争点として、法律撤廃に向けた攻勢をさらに強めるのは確実と見られています。

紛糾必至の米財政特別委員会 失敗すれば「トリガー条項」発動
先日、なんとかかんとかデフォルトを回避した財政問題についても、決着した訳ではありません。
今後は、超党派の特別委員会で11月下旬までに財政赤字削減の具体案を策定する段取りになっています。
しかし、増税を阻みたい共和党と、社会保障関連費削減を最小限に抑えたい民主党との新たな攻防の舞台となることが予想されています。

****米財政特別委12人 増税めぐり紛糾必至 茶会系議員も選出*****
米議会は11日、財政赤字削減を協議する超党派の特別委員会のメンバー12人を決定した。一度は撤回した増税案の復活を狙う与党民主党に対し、野党共和党は保守系草の根運動「ティーパーティー(茶会)」系の議員も送り込み、増税阻止の構え。財政不安と米国債格下げが世界経済に波紋を広げる中、激しい攻防は必至の顔ぶれとなった。

新人議員ながら、特別委のメンバーで最も注目が集まりそうなのが共和党上院のツーミィ氏だ。
ツーミィ氏は昨年の中間選挙で茶会の強力な後押しを受けて議席を獲得。「ワシントン(米政府と議会)が努力すべきなのは、徹底した歳出削減だ」と訴える。
「小さな政府」を掲げ増税に猛反対する茶会系議員は、連邦債務上限引き上げ交渉でも「歳出を削れ」と主張し党指導部を突き上げた。
特別委に選出された他の共和党議員も民主党が重視する社会保障制度の見直しを含む大幅な歳出カットを求めている。

民主党は米景気の減速で歳出削減には慎重だ。
とくに下院ナンバー3のクライバーン氏を特別委に送り込んだペロシ下院院内総務は「赤字を減らす一方で、社会保障も強化すべきだ」と安易な野党への妥協にくぎを刺す。
オバマ大統領も11日にミシガン州で行った演説で、「億万長者のための税制の抜け穴をふさぎ、大企業にも適切な税負担を求める」との持論を強調し、特別委にプレッシャーをかけた。

紛糾必至の論議の調整役は、共同委員長を務める民主党上院のマリー氏と共和党下院のヘンサーリング氏に委ねられそうだ。ともに指導部の一員で両党に太いパイプをもつが、委員長としての権限を分け合ったため、かえって論議をまとめきれない懸念も残る。
大統領選に向けた動きも加速するなか、特別委には市場や同僚議員など“外野”からの牽制(けんせい)も強まりそうだ。(中略)【8月13日 産経】
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特別委員会は11月に赤字削減策を報告し、議会が12月23日までに採決することになっています。
もし、特別委が削減策をまとめられなかったり、議会で否決された場合は、「トリガー(拳銃の引き金)条項」に基づき13年1月から10年間にわたり、高齢者向け医療保険などから計1.2兆ドルの歳出カットが強制的に始まるため、先日のデフォルト騒ぎのような緊張が今後再度高まることが予想されます。
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ミャンマー  ASEAN議長国を目指す政権側と、政治活動再開を目指すスー・チーさんの神経戦

2011-08-13 20:24:15 | ミャンマー

(8月8日 23年前の民主化運動弾圧犠牲者を悼む式典に出席し、「あの出来事を想起し忘れないでもらいたい」と記帳するスー・チーさん “flickr”より By Burma Partnership http://www.flickr.com/photos/burmapartnership/6021066699/ )

対立を避け、今後も会談を継続
長年の自宅軟禁解除後の動向が注目されるミャンマーの民主化運動指導者アウン・サン・スー・チーさんは、12日アウン・チー労働相と解放後2回目の会談を行い、「双方が協力していく」との共同声明を出しています。

先月25日の1回目の会談では、内容はあきらかにされず、会談後のスー・チーさんの硬い表情が印象的でしたが、今回は異例の共同声明が出され、今後も会談を続けていくことも確認されたそうです。
背景には、民主化をアピールしてASEANの議長国に就きたい政府側、政治活動再開に向けて政府側との接点を求めたいスー・チーさん側、双方の思惑があります。

****国の発展に協力」スー・チーさんと政権が共同声明****
ミャンマー(ビルマ)政府の閣僚と民主化運動指導者アウン・サン・スー・チーさんが12日、最大都市ヤンゴンで会談し、国の平和や安定、民主主義の進展などに向けて「双方が協力していく」との共同声明を出した。ただ、双方の思惑には隔たりが大きく、民主化の進展には懐疑的な見方が強い。

スー・チーさんと政府側との会談は昨年11月の自宅軟禁解除以降、2回目。先月25日と同様、アウン・チー労働相と会った。民主化運動関係者によると、こうした共同声明は、今年3月まで続いた軍事政権時代を含めて初めてという。声明では対立を避け、今後も会談を続けていくことも確認された。

スー・チーさんが率いる国民民主連盟(NLD)は政府に少数民族との停戦を求め、14日には地方での会合も計画するなど、徐々に政治活動の幅を広げつつある。これに対し、政府は今のところ直接的な警告や妨害はしておらず、容認する構えを見せている。
12日、首都ネピドーで記者会見したチョー・サン情報相も「政府が国民和解を求める中でNLDとも協力していきたい」と述べ、昨年の総選挙に参加せずに解党扱いになったNLDに政党登録を勧めた。

政府の対応が変化した背景には、2014年に東南アジア諸国連合(ASEAN)の議長国に就きたいとの意向があると指摘されている。議長国は1年交代。14年の議長国の決定に向けて「さらなる民主化が必要とする欧米に向けたアピール」(ヤンゴンの外交筋)との見方だ。
スー・チーさん側にも事情がある。現状のままでは政治活動は著しく制限されており、政府との接点を見つけることで、実を取りたいという意向があるとみられる。

今回、一般論では協力に合意したが、NLDが求めてきた約2千人の政治犯の釈放など具体的な課題に踏み込めば、双方はすぐにぶつかるとの指摘もある。
反軍政のイラワジ誌のアウン・ゾー編集長は「両者の対話にとって重要な一歩だが、民主化という観点では、政治犯の釈放や少数民族地域での人権弾圧の停止など具体的内容はなく、今後を注視する必要がある」と話す。【8月13日 朝日】
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【「開かれた政府」を強調
民主化進展をアピールしたい政府側は、報道官任命し初の記者会見も実施しています。
****ミャンマー:報道官任命し初の記者会見****
ミャンマーのテインセイン大統領はチョーサン情報相を政権の報道官に任命し、12日に首都ネピドーで情報相による初の記者会見が開かれた。政権はこの日、労働相を民主化運動指導者、アウンサンスーチーさんの元に派遣して会談させるなど、民主化進展をアピールした。テインセイン政権は14年の東南アジア諸国連合(ASEAN)議長国就任を目指しており、軍事政権当時からの秘密主義を修正して「開かれた政府」を強調する狙いがあると見られる。

会見には地元メディアのほか毎日新聞など外国報道機関の現地通信員も招かれ、10日付で報道官に任命された情報相が少数民族武装組織との停戦協議の進展状況などを説明。今後定期的に記者会見を開くとし、政府の情報公開姿勢を強調した。

政権は外国メディアの政権批判報道に反発し、これまで外国人記者の入国を厳しく制限してきた。しかし米国大統領など世界の要人が訪れることになるASEAN議長国になれば、外国人記者の受け入れは必須。政府は14年をにらんでメディアとの関係改善に乗り出した可能性もある。(後略)【8月12日 毎日】
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ASEAN議長国は、1年間の持ち回り制で、2014年がミャンマーの順番となっています。
06年にも議長国になる順番でしたが、民主化の停滞を批判する欧米諸国に配慮した他の加盟国に促され、辞退した経緯があります。
ミャンマー政府は議長国就任で国際舞台に復帰し、政権の正統性を内外に示したい考えとみられています。

人権侵害で国際批判を浴びるミャンマーがASEAN議長国というのは、核開発を続ける北朝鮮がジュネーブ軍縮会議の議長国となったとの同様に、皮肉な感があります。
ただ、そのことでミャンマー政府の民主化への対応が多少なりとも改善するのであれば、意味がない訳でもないかも・・・。議長国を認めないと、再び殻に閉じこもってしまう恐れがあります。

政権がどこまで自身の活動を容認するか試す狙い
スー・チーさんの活動については、最近いくつか報じられています。
7月28日には、政府と反政府少数民族武装組織の仲介役を果たす用意があると表明しています。

****ミャンマー:スーチーさん「政府と少数民族武装組織仲介*****
ミャンマーの民主化運動指導者、アウンサンスーチーさん(66)は28日、対立が続く政府と反政府少数民族武装組織の仲介役を果たす用意がある、と表明した。スーチーさんは多数派のビルマ族でありながら少数民族にも人気が高い。政府がスーチーさんの仲介を認める姿勢を示せば、政府と少数民族の対立は解消へ向けて前進する可能性がある。

スーチーさんは28日、テインセイン大統領と、政府に抵抗するカレン族、カチン族など四つの少数民族武装組織に対する書簡を公開した。それぞれに即時停戦と対話を要求。さらに「和平に全力を尽くす」と述べ、仲介役を果たす決意を示した。政府から地方遊説などの政治活動を封じられ、スーチーさんは、少数民族問題で影響力を発揮し、存在感をアピールする狙いがあるとみられる。

地元メディアによると四つの少数民族組織のうち、政府と停戦合意を結んでいるものの武装解除を拒否して戦闘状態が続く「カチン独立機構」(KIO)幹部は、スーチーさんの呼びかけを強く歓迎。一方、停戦合意も結んでいない「カレン民族同盟」(KNU)幹部は毎日新聞に「スーチーさんの仲介を歓迎するが、政府との対話はカレン族抑圧の停止が条件だ」と述べた。

これに対し政府の反応は不明だ。ロイター通信は「呼びかけは政府を怒らせそうだ」と報道。しかし地元記者の一人は「呼びかけは、スーチーさんと政府高官の会談直後に行われた。政府側がスーチーさんに少数民族問題で役割を果たすよう示唆した可能性がある」との見方を示す。

3月に民政移管を果たしたミャンマー政府は、3年後の14年に持ち回りの東南アジア諸国連合(ASEAN)議長国に就任することを望んでいる。そのためには、スーチーさんとの対話など民主化問題の進展や、少数民族との対立解消が必要となる。【7月29日 毎日】
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ここでも、ASEAN議長国を目指すミャンマー政府の立場が出てきますが、この際、そこをうまく活用する形で、“実をとる”のが賢明ではないでしょうか。

また、政治活動が厳しく制限されているスー・チーさんですが、明日14日にはヤンゴン北郊の都市バゴーへ日帰りの“政治旅行”が予定されています。7月のバガン旅行では政治色を一切排除し、政府側を刺激しない対応をとっていました。

****ミャンマー:スーチーさん政治旅行へ 自宅軟禁解除後初****
ミャンマー民主化勢力「国民民主連盟」(NLD)によると、連盟を率いるアウンサンスーチーさん(66)は14日、自宅があるヤンゴン北郊の都市バゴーへ日帰り旅行する。連盟は「政治活動の一環」としており、スーチーさんは10年11月の自宅軟禁解除後としては初の「政治的旅行」の目的地に近場を選び、政府の反応を試す狙いとみられる。

バゴーはヤンゴンの北約80キロ。民主連盟によると、スーチーさんは図書館の開館式典に出席し、地元の政治関係者と会談する予定という。

政府はスーチーさんの地方への影響力拡大を恐れ、地方遊説や視察などを行わないよう警告している。03年には地方遊説旅行を強行したスーチーさんと連盟幹部が軍事政権に一斉拘束され、スーチーさんはそのまま昨年まで自宅軟禁された。【8月8日 毎日】
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このあたりのことは、当然、12日のアウン・チー労働相との会談で話がなされているはずです。
“政権がどこまで自身の活動を容認するか試す狙いとみられ、神経戦のような両者の攻防が続いている”【8月12日 毎日】とも。

【「あの出来事を想起し忘れないでもらいたい」】
23年前の民主化運動弾圧事件の記念日である8月8日には、スー・チーさんもセレモニーに参加し、「あの出来事を想起し忘れないでもらいたい」と記帳しています。

****スー・チーさん「忘れないで」 民主化運動から23年、式典で記帳****
ミャンマーで1988年8月8日、学生らが民主化などを要求し全国規模のデモを繰り広げ、軍の無差別発砲で3千人以上の犠牲者を出した事件から、8日で23年を迎えた。ヤンゴン市内で開かれたセレモニーには、民主化運動指導者、アウン・サン・スー・チーさんも出席し「あの出来事を想起し忘れないでもらいたい」と記帳した。

「8888民主化運動」として知られるこの事件は、ミャンマー政治におけるひとつの節目であった。
88年7月から9月にかけ、政治的自由の抑圧と経済の停滞に不満を抱く学生らによる、自然発生的な激しい民主化運動が起こった。その絶頂ともいえる「8888」を挟み7月、26年間におよんだビルマ社会主義計画党による一党独裁体制が、ネ・ウィン同党議長の辞任によって終焉(しゅうえん)する。9月には、盛り上がる運動を武力で弾圧した軍が権力を掌握し、今日に至っている。
「8888」はその後、スー・チーさんを民主化の旗手に押し上げもした。

ミャンマーでは、「8888」の活動家を含む2100人以上がなお、政治犯として収容されたままだ。ヤンゴンでのセレモニーには約400人が出席し、「8888」に加わった男性は「民主主義のために命を落とした人々を思いだす。当時の学生活動家らはまだ牢獄(ろうごく)にいる」と語り、解放を要求した。

海外に亡命している活動家も多い。7年3カ月の間拘束され、今はタイに在住している男性もそのひとり。「女性への暴行、電気ショック、独房…。こうしたことは今も行われており、改善されることは将来もないだろう」と話す。
この日、世界に散らばる亡命者から、「自由で民主的」なミャンマーを求める声が上がった。【8月9日 産経】
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ミャンマー政府が政治犯釈放にまで踏み込めば、アメリカなどの国際社会は一定に評価することになるでしょうが・・・。

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イスラエル  住宅価格高騰に対して広がる抗議行動 住宅難打開策として入植地住宅建設承認?

2011-08-12 21:05:59 | パレスチナ

(イスラエル・テルアビブの目抜き通りに出現した抗議のテント村 “flickr”より By Shachar Laudon pics http://www.flickr.com/photos/45712602@N07/5959221151/

【「所帯を持つことを想像できない」】
中東・北アフリカの民主化要求運動に触発される形で、イスラエルでも民衆の抗議行動が起きているそうです。
イスラエルの場合、要求の中心は住宅価格高騰への不満があるとのこと。

****イスラエル:住宅価格高騰に抗議のテント村****
イスラエルの住宅価格高騰に抗議する若者が7月中旬、テルアビブの目抜き通りの緑地帯でテント暮らしを始め、インターネット交流サイト・フェイスブックで仲間を募った。所得格差への不満を持った、民主化要求運動「アラブの春」に触発された中間・低所得者層が賛同、税負担や教育費の軽減を求める広範な運動になっている。

緑地帯はテント約400張りの村になり、今月6日には各地で計約30万人がデモ行進。テルアビブのビデオ編集者、ジュリアンさん(29)は「所帯を持つことを想像できない」と憤る。自身の月収は多くて6000シェケル(約13万円)だが、アパート家賃はその半分。年金など社会保障とも無縁だ。

ネタニヤフ首相は対応を約束しながらも、財政支出は拒んだまま。テント村は当面、存続しそうだ。【8月10日 毎日】
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【「住民の抗議デモに応える政策で、政治的な意図はない」】
これだけの話であれば、取り立ててどうと言うこともない記事ですが、こうしたイスラエルの住宅価格高騰が中東和平交渉にも関係してくる可能性があります。

イスラエルとパレスチナ自治政府の中東和平交渉は、イスラエルが入植地への住宅建設を止めないことで頓挫しており、パレスチナ自治政府は直接交渉を見限る形で、9月の国連総会でパレスチナ国家を承認する決議案の採択を求める方針で動いています。イスラエルは、こうした一方的行動は和平のためにならないと反発しています。

そうした一方で、和平交渉の差し当りの障害となっているイスラエルの入植活動について、イスラエル政府は、新たに東エルサレム入植地で1600戸の住宅を建設する計画を承認しました。

****東エルサレム入植地に住宅1600戸の建設を承認、イスラエル****
イスラエルのエリ・イシャイ内相は11日、東エルサレムの入植地ラマトシュロモに、新たに1600戸の住宅を建設する計画を承認した。内務省報道官によると、東エルサレム内の2地域に計2700戸の住宅を建設する計画も、近く承認する見通しという。

ラマトシュロモの住宅建設計画は2010年3月に発表されたが、中東和平協議の地ならしとしてジョゼフ・バイデン米副大統領がイスラエルとパレスチナを歴訪したタイミングでの発表だったため米国が不快感を示し、両国の外交問題に発展した経緯がある。

今回の発表を受け、パレスチナ側は強く反発。パレスチナが国家承認を得て国際連合への正式加盟を目指すなか、中東和平協議再開への道を模索する国際社会からの反発も必至だ。

一方、イスラエル内務省は今回の承認について、あくまで経済的な理由によるものだと説明。国内で数週間前から続く住宅価格・生活費の高騰に対する住民の抗議デモに応える政策で、政治的な意図はないと強調している。【8月12日 AFP】
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“住宅価格・生活費の高騰に対する住民の抗議デモに応える政策で、政治的な意図はない”という説明が、どこまで実態を表しているのか、イスラエル政府の国際批判を避けるための単なる口実にすぎないのか・・・そのあたりはよくわかりませんが、入植地居住者は、宗教的背景を持った強硬なユダヤ教徒というよりは、単に経済的に入植地の方が住宅取得が容易だからという理由の者が多いという話は以前から聞いています。

いずれにしても、パレスチナ側が強く反発している入植活動ですから、仮に“政治的な意図はない”にしても、結果はすこぶる政治的です。

【「入植費用が、税金を押し上げているのは確かだ」】
イスラエルにおける住宅価格などの物価高、その背景にあるとも言われる税金の高さについては、巨額の安全保障支出のせいにされることが多いようですが、ヨルダン川西岸への入植費用や、ユダヤ教超正統派への福祉予算の膨張、非競争的な産業構造に原因があるとの指摘もあります。

****イスラエル 物価高に抗議の嵐吹く****
それは数人の大学生が住宅価格や家賃の上昇に抗議して、テルアビブの目抜き通りにテントを張ったところから始まった。食料品やガソリンなどの価格高騰に不満を募らせた人々がそれに加わり、デモ参加者の数はついに2万人に達した。

中東での騒乱になぞらえて、これをイスラエル版「アラブの春」と呼ぶ者もいる。ネタニヤフ首相は最初こそ事態を軽く見ていたが、後に長期的な改革を約束。だが、抗議者たちを解散させることはできなかった。
労働者総同盟ヒズタドルートのトップは、政府が物価を下げて低中所得者層の生活を守る努力をしなければ、全国規模のデモに踏み切ると迫った。

数年前まで、テルアビブの物価は世界的にみればそこそこの水準だった(主要都市の物価ランキングで40位近辺)。だが03年以降、順位は次第に上がり、昨年はある調査で19位に。東京やモスクワよりは安いが、ニューヨークよりも高いという。

イスラエルでは巨額の安全保障支出のせいで税金が欧米より高いからという説明が一般的だ。なかでも悲惨なのは自動車で、100%の購入税がかかるため新車はアメリカの2倍も高い。
しかし、国防予算は70年代以降激減し、昨年はGDPの6.3%程度にとどまっている(アメリカは約4.7%、フランスやイギリスは3%未満)。

一方でヨルダン川西岸への入植費用や、ユダヤ教超正統派への福祉予算は膨らんでいる(労働年齢にある超正統派の男性のかなりの数が、国から生活費をもらって宗教を学んでいる)。
イスラエル経済に関する著書もあるデービッド・ローゼンバーグは、政策に圧力をかける強力なロビーの存在を指摘する。「入植費用のはっきりした数字は分からないが、税金を押し上げているのは確かだ」

国が小さく人目が800万弱と少ないため、主要産業にほとんど競争がない点を理由に挙げる経済学者もいる。その結果、ビジネスは少数の者に牛耳られる。「15~20ほどの一族がイスラエル経済をほぼ支配している」とバルイラン大学の経済学者ダニエル・レビは言う。

デモ参加者たちの要望をかなえるには経済の抜本的な改革が必要だ。しかし金利は歴史的に低い水準にあり、不動産価格や賃貸料は上昇を続けるだろう。デモによる需要の伸びに応じて、テントの価格まで上昇中だ。    【8月10日号 Newsweek日本版】
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