孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

オーストラリア  即日の党首選でギラード首相再選 過去の過ちに関する公式謝罪

2013-03-21 23:53:05 | 国際情勢
党首選実施の求めに対し、首相は即座の実施を明言
オーストラリアの政権与党である労働党では、党内支持を固める現党首・ギラード首相と、国民的人気が高い前党首・ラッド前首相の確執が続いています。
その労働党の党首選挙をギラード首相が「本日実施する」と急遽表明し、同日行われた選挙には対立するラッド前首相出馬せずギラード首相が再選されたという、オーストラリア政情に疎い人間には「どういうこと?」といった感のニュースが報じられています。

****党首選は本日!人気の前首相、不意突かれ不出馬****
オーストラリアのギラード首相(51)は21日、与党・労働党の党首選を同日中に行うと急きょ表明。
党首選は実施されたが、返り咲きを狙うケビン・ラッド前首相(55)らは出馬せず、ギラード氏が無投票で再選された。

21日の下院本会議で、労働党内でラッド氏に近い閣僚が、9月の総選挙に向け、党の支持率向上のため党首選を実施するよう求めると、首相は即座の実施を明言した。不意打ちを食らった形のラッド氏は「状況が整っていない」として不出馬を余儀なくされた。

労働党の支持率は、3月上旬のニューズポール社世論調査でも34%と低く、党内では国民の人気が高いラッド氏の復帰を求める声が根強い。ギラード政権は21日、注目が高かった報道機関への監督・規制強化のための法案を、成立のめどが立たないとして撤回する失態を演じた。首相は、これを機に再びラッド氏待望論が盛り上がる前に、先手を打って党首選に踏み切ったとみられる。【3月21日 読売】
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下記記事は今回党首選ではなく、ギラード首相がラッド前首相に圧勝した昨年2月の前回党首選に関するものですが、ギラード・ラッド両氏の間の抗争がわかります。

****豪労働党首:ギラード首相が再選 党内は結束不足露呈*****
オーストラリアの与党労働党は27日、所属国会議員による党首選を実施し、現職のギラード首相が102票のうち71票を獲得、対立候補のラッド前首相に大差をつけて勝利し、首相の座を維持した。

ただ、党首選では複数の主要閣僚が「ギラード氏では総選挙に勝てない」とラッド氏支持を打ち出すなど、党内の結束不足を国民に露呈。世論調査ではラッド氏がギラード氏を圧倒しており、来年末の総選挙前に党内で「ラッド待望論」が再燃する可能性もある。

ラッド氏は外相だった今月22日、訪問中の米ワシントンで「首相の信任が得られていない」として外相辞任を表明。一方、ギラード氏は23日、党内不和の原因だった権力闘争で「一気に決着をつける」として、党首選の実施を発表していた。

地元紙が発表した最新の世論調査では、回答者の52%が労働党党首にラッド氏を望むと答え、ギラード氏の26%の倍に上った。最大野党・保守連合との二者択一でも労働党支持は46%と5割を切った状態が続いている。豪AAP通信は「ラッド氏を党首に復帰させれば、次の選挙で十分に保守連合と戦える」との専門家の分析を紹介している。

2010年6月、副首相だったギラード氏は、当時のラッド首相に対し、支持率急落を理由に党首選の実施を要求。ラッド氏は辞任し、ギラード政権が誕生した。ギラード氏が今後、支持率上昇を実現できなければ、総選挙を前に辞任を求める党内の圧力が高まる可能性が高い。【2012年2月27日 毎日】
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今更勝ち目のない選挙に向けて陣頭に立つ理由はない?】
今回の突然の党首選実施については、“労働党の重鎮クリーン元党首は21日、党首交代論に決着をつけるべく首相に党首選を要求、ラッド氏に出馬を促した。これに対し首相は直ちに21日中の党首選で応じると表明。反主流派の足並みがそろわないうちに勝負を仕掛けた”【3月21日 時事】とのことですが、本当に突然の党首選だったのでしょうか?党内ではこういう事態も想定されていたということはないのでしょうか?
本当に突然の選挙実施だとしたら、即日で実施というのはあまりに強引で、反対派からの批判で大混乱しそうなものですが・・・・。

ただ、与党労働党は支持率で野党保守党に大きくリードされており、9月にも行われる総選挙では敗北することが予想されています。ラッド前首相が“今更勝ち目のない選挙に向けて陣頭に立つ意思はない”という話であれば、ラッド前首相が出馬しなかったのも、ギラード首相が“党首に立つ意思がないなら、党内で足をひっぱるようなまねはしないで!”という趣旨で党首選を強行したのも分かる気がします。

****連邦労働党支持率再び下がる****
党首もアボットがギラード上回る

3月18日付フェアファクス系紙は最新のニールセン世論調査を掲載した。その結果によると、連邦労働党は失地回復がならず、再び野党保守連合に水をあけられ、「首相適任者」でもトニー・アボット野党保守連合リーダーが、ジュリア・ギラード連邦首相を上回っている。

2010年の総選挙で労働党が、無所属議員、緑の党議員の支持で少数派内閣を樹立して以来、ギラード、アボット両党首は「不人気」レースを突っ走ってきたが、最近まで常にアボット氏が不人気でリードしてきた。
最近になってギラード氏の不人気ぶりがアボット氏を上回り始めている。ギラード政権はその実績ではかなり優れているが、内輪の目配りをもっぱらとする官僚的政治家や裏工作ばかりが得意な労組出身政治家揃いで、バラク・オバマ米大統領のように一般国民に顔を向け、政策を国民に納得させられる「雄弁家」がいないとの指摘も常にある。

調査は、有権者1,400人を対象に電話で実施したもので、政党支持率では労働党がわずかに1%上昇して31%に、対する保守連合は47%と大きく先行している。また、プレファレンス票集計後に相当する二党択一の質問でも労働党44%に対して保守連合56%と大きく隔たっている。党首同士の対決では、ギラード首相支持率が38%に対して不支持率が58%となっており、アボット保守連合リーダーは支持率43%に対して不支持率53%となっている。

また、ケビン・ラッド前首相を労働党党首として期待する率が62%あるのに対してギラード現労働党党首支持率は31%とちょうど2対1の比率になっている。しかし、9月の選挙前の党首交代の可能性についてギラード首相は、「あり得ない。憶測ばかりが広まっているがあり得ない」と否定している。

また、ラッド氏も今更勝ち目のない選挙に向けて陣頭に立つ理由はなく、「党首に返り咲く気は毛頭ない」と否定している。ただし、労働党支持者の間ではラッド支持、ギラード支持がほぼ均衡しており、前者が51%、後者が48%となっている。また、党首候補と見なされているビル・ショーテン、グレッグ・コンベー、ボブ・カー3氏についてはほとんど誰も見向きもしていない。【3月18日 日豪プレス】
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なお、即日の党首選が異例なら、ギラード首相は総選挙については今年1月、異例の長期事前公表を行っています。

“1月30日、ギラード首相がキャンベラのナショナル・プレス・クラブで講演を行っている。講演では選挙の年を迎えたギラード労働党政府が、いかなる政策課題、優先課題を掲げるのか、あるいは既に青写真が提示された、社会保障分野や教育分野における重要改革に関して、どの程度詳細な内容を公表するのかなどが注目されていた。ところがギラードは講演の中で、今年の8月12日に連邦総督に対して下院の解散を進言し、そして次期連邦下院解散および上院半数改選の同日選挙を9月14日に実施するという、「爆弾発言」を行っている”【3月2日 日豪プレス】

当然、保守党対策、党内対策など、いろんな思惑があっての「爆弾発言」だった訳ですが、そのあたりについては、【3月2日 日豪プレス】http://nichigopress.jp/nichigo_news/tenbo/47154/ に詳述されています。

【「生涯心に残る傷と苦しみを生み出した」と謝罪】
オーストラリア関連で、もうひとつ記事がありました。

****オーストラリア政府、強制的な養子縁組みで初めて正式に謝罪****
オーストラリアで戦後から20数年間にわたって未婚女性が出産した子どもが強制的に養子に出されていた問題について、オーストラリア政府は21日、初めて正式に謝罪した。

1951~75年にかけて、オーストラリアでは未婚女性など社会的に望まれない妊娠をした女性が出産した子どもが強制的に養子に出されていたことが上院の調査で確認されたことから、ジュリア・ギラード首相は21日の声明のなかで、「生涯心に残る傷と苦しみを生み出した」と謝罪の言葉を述べた。

上院が調査を行った当時の母親や子どもたちの証言から、およそ22万5000人の新生児が強制的に母親から引き離され養子となっていたことが明らかになった。

当時のオーストラリアは国民の大多数が保守的なキリスト教徒で、妊娠した未婚女性は親戚の元に送られるか、教会など宗教団体が運営する施設に入所させられていた。女性たちは出産前から生まれてくる子どもを養子に出すことを承諾する署名をしていたが、上院の調査から、女性たちは子どもを養子にだすことは避けられないとして強制的に署名させられたり、承諾書の署名が偽造されていたりしたことが分かった。 

養子に出された子どもたちの出生証明書は、全当事者の幸福のためには事実を「消し去る」ことが望ましいとの理由で里親となった両親の名で発行されていた。

このため女性たちが、後になって引き離された子どもたちを取り戻すことは困難となっていた。【3月21日 AFP】
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過去の誤った施策に関する謝罪ということでは、白人の入植に伴い2世紀にわたりオーストラリア先住民のアボリジニに対して行われた不当な行為について、2008年2月にラッド前首相が議会で謝罪した件が思い起こされますが、そのほかにも09年11月には「忘れられたオーストラリア人」に関する謝罪も行っています。

****孤児虐待の歴史に謝罪 英国から豪州へ 養護施設で強制労働*****
オーストラリアのラッド首相は16日、1930~60年代に、同国内の養護施設や孤児院で、同国だけでなく英国から連れて来られた孤児らが、強制的に働かされるなど精神的、肉体的虐待を受けていたことを認め、政府として公式に謝罪した。
ただ、豪州と同様に英国から送られた孤児を安い労働力として使っていたニュージーランド政府は、同国内の被害者にはすでに十分な補償は行ったとして、政府として謝罪する必要はないとしている。

ラッド首相は16日、キャンベラの国会で、被害者代表を前に演説し、「政府として謝罪する。皆さんは子供のときに説明もなく家族と引き離された。施設に入れられて、虐待を受けた。申し訳ない」と述べた。

豪州の調査によると、20世紀中に英国やマルタから送られてきた子供は6000人から3万人に上る。彼らはほとんど孤児とされたが、実際は家庭が貧しかったために親に捨てられたり、「より良い生活があるから」などと誘われたりしたほか、中には「旅行させるから」と言ってだまされて連れてこられたケースもあったという。

これら英国からの子供だけでなく、豪州国内で、家庭崩壊や母子家庭であることを理由に養護施設や孤児院に送られた子供も同様に強制的に働かされ、虐待を受けた。これらの子供たちは、特に「忘れられたオーストラリア人」と呼ばれ、約50万人に上るという。

豪政府は先住民のアボリジニと白人の間に生まれた子供に対しても、19世紀後半から1世紀にわたり、アボリジニの親から引き離して育てる「隔離政策」をとった。アボリジニを白人社会に同化させるためだ。ラッド首相は昨年2月、これについても公式に謝罪している。対象とされた子供は約10万人に上り、こちらは「盗まれた世代」と呼ばれている。【2009年11月17日 産経】
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過ちを素直に認め謝罪する勇気は称えられるべきものでしょうが、オーストラリアという国家は過去に相当のことをやってきている・・・という印象もあります。
ただ、それはオーストラリアだけの問題ではなく、どこの国も過去の歴史を振り返れば“負の遺産”というべき過ちは多々あります。やはりオーストラリア政府の謝罪する勇気を称えるべきでしょう。
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パキスタン  ザルダリ政権、パキスタン初の任期満了文民政権となる

2013-03-20 22:49:24 | アフガン・パキスタン

(今期限りでの退任が決まっているアフガニスタン・カルザイ大統領(左)と、再選を目指すパキスタン・ザルダリ大統領(右) 中央はキャメロン英首相 “flickr”より By The Prime Minister's Office http://www.flickr.com/photos/number10gov/8445068696/

【「あらゆる困難にもかかわらず、任期満了を果たすのは、素晴らしい歴史的な功績だ」】
パキスタン下院は16日、5年間の任期を満了し解散。ザルダリ大統領率いる与党パキスタン人民党主導の内閣も総辞職しました。パキスタンでは文民政権が任期満了したのは初めてとのことです。60日以内に総選挙が実施されることになっています。

****パキスタン 初の任期満了 文民政権、総選挙へ****
パキスタン下院が16日、建国以来初めて任期(5年)を満了した。文民政府は近く選挙管理内閣に移行し、60日以内に総選挙が実施される。

クーデターなどで文民と軍の統治を振り子のように繰り返してきた同国で文民政権が下院の任期満了を迎えるという記念すべき節目を迎えた。ただし、治安や経済の悪化など課題は山積したままだ。
アシュラフ首相は16日夜、国民に向けた演説で「あらゆる困難にもかかわらず、任期満了を果たすのは、素晴らしい歴史的な功績だ」と感慨にひたった。

1947年に英国から独立したパキスタンでは、現与党パキスタン人民党を結成した初代首相のズルフィカル・アリ・ブット氏が軍事クーデターに遭い処刑された。
娘のベナジル・ブット首相や現最大野党パキスタン・イスラム教徒連盟シャリフ派率いるシャリフ首相も軍が後ろ盾の大統領に解任されたり、クーデターで倒されたりした。

今回、下院が任期満了を迎えられた要因はいくつかある。軍は今も強権を持つが、この数年で発達したメディアが監視の目を光らせた。
最高裁も軍に政治干渉を戒める判断を示した。クーデターに出れば米国から軍事援助を打ち切られかねず行動の選択肢が狭められ、影響力が限定された。

人民党とシャリフ派も以前ほどの不毛な政争を避けており、ジャーナリストのイムティアズ・アラム氏は「二大政党が成熟度を示し、民主政治の道を踏み外さなかった」と指摘する。

一方で政府は、イスラム武装勢力のテロや物価高騰、慢性的な電力不足、ザルダリ大統領らの汚職問題で揺れてきた。国際通貨基金(IMF)の支援を重ねて仰がなければならなくなるのは不可避とみられる。

総選挙は、国民の不満が高まる中、シャリフ派が支持を拡大しているとされるほか、ムシャラフ前大統領も事実上の亡命先から帰国し参戦する意欲を見せている。【3月18日 産経】
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上記記事にあるように、ザルダリ政権は“イスラム武装勢力のテロや物価高騰、慢性的な電力不足、ザルダリ大統領らの汚職問題”などを抱えて、決して良い実績を残した訳ではありません。

また、軍部に対する影響力を持たず、自らの過去の汚職問題で最高裁からは糾弾を受けており、むしろ、いつ倒れてもおかしくない非常に脆弱とも見られていた政権でした。
実際、軍部によるクーデターを阻止するためにアメリカに支援を要請したとされる“メモゲート事件”の発覚や、大統領の汚職問題への取り組みを政府に求める最高裁判断によってギラニ前首相が辞任に追い込まれるなど、政権は絶えず揺さぶられてきました。

それにも関わらず大方の予想に反し、ザルダリ政権はパキスタン初の任期満了文民政権となった訳ですが、非常に意外な結果と言えます。
故ブット元首相時代は夫の立場を利用して、関与した案件で10%のリベートを要求するということで“ミスター10%”とも揶揄されていたザルダリ大統領ですが、強運のせいや単にしぶといだけでなく、混乱を乗り切る政治的資質にめぐれた政治家なのかもしれません。

外交面においても、インドとのカシミールにおける関係悪化も事態の拡大にはいたらず、なんとなく収まってきています。
パキスタンへの不満を募らせているアメリカとの関係も、イスラム冒涜問題などでの反米世論高揚があるなかで、決定的破綻には至っていません。
少し褒めすぎでしょうか。

****ピンチ一転、長期政権 パキスタンのザルダリ大統領****
・・・・「ザルダリ氏の強さのカギは現在の下院の勢力にある」と語るのは、主要英字紙ドーンのコラムニスト、シリル・アルメイダ氏。下院は大統領を罷免できるが、ザルダリ氏が長男のビラワル・ブット氏とともに共同総裁を務めるパキスタン人民党(PPP)を中心とする与党勢力は強く、罷免に必要な下院3分の2以上の賛成は得られない状況にある。

ザルダリ氏は政治的なサバイバル能力も備えている。アルメイダ氏によると、野党の攻撃にも冷静さを崩さず水面下で対応し、同国で繰り返されてきた“恩讐政治”もやらない。アルメイダ氏は、「これらは誰もが知らなかったザルダリ氏の能力」と表現し、その結果、「ザルダリ氏は物事を動かすのに必要な51%の支持を獲得することができる」と話す。

一方、マスード氏は、「ザルダリ氏は敵の強みと弱みを見抜き、相手に先んじて動くことができる」と分析する。例えば、軍についてザルダリ氏は(1)国際社会は軍政を受け入れない(2)軍は武装勢力との戦いで手いっぱい(3)最大野党は軍による政権転覆を支持しない-という“弱み”を把握している。その上で、軍を試す挑発的な発言を行い、軍が反発すれば一歩退き、また挑発を繰り返して、「軍とうまく対峙(たいじ)してきた」(マスード氏)という。(後略)【2012年1月29日 産経】
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昨年3月の上院選挙では議席を大きく伸ばした与党のパキスタン人民党ですが、ザルダリ大統領は今回の下院総選挙でも勝利し再選を目指しています。
再選できなければ、過去の汚職問題ですぐに起訴され再び塀の中に戻されてしまう(過去にも汚職容疑などで逮捕され、8年間収監された経験があります)でしょうから、失敗は許されません。

政権交代の可能性
これまでの選挙では強さを発揮してきたザルダリ大統領・パキスタン人民党ですが、今回選挙は苦戦が予想されています。
対抗勢力としては、故ブット元首相時代からの宿敵でもあり、国民的人気が高いと言われるシャリフ元首相率いるパキスタン・ムスリム連盟・シャリーフ派のほか、クリケットの元スタープレイヤーでもあるイムラン・カーン氏率いるパキスタン正義行動党が注目されています。

****パキスタン国民議会 近く選挙へ ****
パキスタンで、任期満了に伴う国民議会の選挙が近く実施されることになり、治安が改善せず経済成長も伸び悩むなか、与党の支持率が低迷していることから、政権交代の可能性が指摘されています。

パキスタンのアシュラフ首相は16日夜、テレビ演説を行い、任期満了に伴う国民議会の選挙を近く実施するため、選挙管理内閣の発足に向けて各党と大詰めの協議をしていることを明らかにしました。
そのうえでアシュラフ首相は、隣国イランの天然ガスをパキスタンに輸送する計画などを説明し、与党はエネルギー不足の解消に向けて全力を挙げているとアピールし、再び政権を握ることに強い意欲を示しました。

しかしパキスタン国内では、テロが頻発するなど治安が改善せず経済成長も伸び悩むなか、世論調査では与党の支持率はシャリフ元首相が率いる野党を下回っていて、政権交代の可能性が指摘されています。

また、選挙では、クリケットの元人気選手だったイムラン・カーン氏が率いる政党がどこまで躍進するのか注目されているほか、国外で事実上、亡命生活を送っているムシャラフ前大統領が選挙に立候補するため今月下旬に帰国すると宣言していて、実際に帰国すれば、国内で逮捕状が出ていることから混乱するおそれもあります。【3月17日 NHK NEWSweb】
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1月に大規模抗議行動でザルダリ政権を揺さぶり、政府に早期解散を約束させたイスラム教指導者タヒル・カドリ氏は、軍部の支援を受けているとも言われていますが、総選挙ではどのような対応をするのでしょうか。

【“過去の人”】
なお、記事で名前のあがっているムシャラフ前大統領ですが、すでにその政治的影響力は失われており、いささか“過去の人”の感があります。帰国自体も難しい状況です。
故ブット元首相やシャリフ元首相も亡命生活からの帰国を果たしていますが、民主化を牽引する存在としてアメリカの支援を受けていた故ブット元首相や、国民的人気が高いシャリフ元首相と異なり、ムシャラフ前大統領には帰国が受け入れられる要素がみあたらないように見えます。

****ムシャラフ前大統領、政界復帰に意欲も…逮捕・暗殺の危険 パキスタン****
事実上の亡命生活を送るパキスタンのムシャラフ前大統領は、任期満了に伴い5月中旬までに行われる同国の総選挙に参加するため帰国して政界へ復帰する意欲を示している。
しかしブット元首相暗殺事件に関連して逮捕される可能性があるほか、イスラム武装勢力から命を狙われており、帰国が実現するかどうかは不透明だ。

今月1日、ドバイで記者会見したムシャラフ氏は「私に対する容疑や身の危険があるそうだが、恐れていない。(どうなるかは)神に委ねる」と述べ、帰国の意思を強調した。同氏はその後、24日にパキスタン南部カラチに戻り、支持者5万人の集会に参加すると発表。自ら設立した新党を率い総選挙に臨むという。

パキスタンでは2007年に現与党パキスタン人民党の総裁だったブット元首相が、やはり事実上の亡命先から帰国後に暗殺された。この際、大統領だったムシャラフ氏には適切な警備態勢を取らなかったとの容疑がかけられており、裁判所がムシャラフ氏から事情を聴くため逮捕状を出している。上院もムシャラフ氏が帰国すれば逮捕、起訴すべきだとの決議を採択した。

さらに、大統領時代、イスラム武装勢力への厳しい取り締まりを断行したムシャラフ氏は何度も暗殺未遂事件に遭っており、帰国すれば身に危険が迫るのは明らかだ。

こうした事情から、ムシャラフ氏は昨年1月にも帰国の意思を示しながら、実行に移すことはできなかった。ただ69歳のムシャラフ氏にとって今回の総選挙の機を逃せば、政界復帰や帰国がいっそう難しくなるのは間違いない。それだけに、帰国により強い熱意を燃やしているもようだ。

ムシャラフ氏は陸軍参謀長だった1999年、クーデターを起こし、その後大統領に就任した。しかし、政権末期には、人民党や最高裁から強権政治を激しく批判された。ブッシュ米政権からも民主的な対応を要求され、大統領職の辞任と事実上の亡命生活へと追いやられた。
今回、帰国しても軍の十分な保護を受けることができるとは限らず、強固な支持基盤もない。パキスタンではすでに「過去の人」との印象が強い。

パキスタンの安全保障・政治評論家、カムラン・シャフィ氏は「かつての陸軍参謀長が法廷で裁かれることになれば軍にとってやっかいな出来事になるため、軍はムシャラフ氏に帰国しないよう求めているといわれている。帰国できるとは思わない」と話した。【3月20日 産経】
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【“明日のパキスタン女性”】
一方、“明日のパキスタン女性”を象徴するのが、タリバン襲撃事件の傷から奇跡的な回復をとげたマララ・ユスフザイさん(15)です。

****タリバン銃撃のパキスタン少女、英国で学校生活を再開****
パキスタンでタリバン勢力に銃撃され頭部に重傷を負ったマララ・ユスフザイさん(15)が19日、治療を受けていた英国バーミンガムの学校に登校し、学校生活を再開した。

ユスフザイさんは、女性が教育を受ける権利を否定するイスラム過激派のタリバンを批判。昨年10月の事件後、反タリバンのシンボルとして世界から注目を集め、ノーベル平和賞の候補にも挙がっている。

父親に連れられて登校したユスフザイさんは、「とてもわくわくしている。学校に戻る夢がかなった」と喜びを口にし、「世界のすべての女の子にこの基本的な機会が与えられるべきだ」と訴えた。
また、英国での学校生活については、「パキスタンのクラスメートに会えなくて寂しく思う。でも、バーミンガムで新しい先生に会って、友達を作ることを楽しみにしている」と期待を膨らませていた。【3月19日 ロイター】
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米軍  駐留女性兵士の3割が軍内部でレイプ被害 相次ぐ駐留米軍による犯罪 “神との距離”

2013-03-19 23:41:47 | アメリカ

(これまでも女性兵士は戦闘斥候などの戦闘任務を実際に行っており、1月のペンタゴンの発表はこれを認めるものという指摘もあります。写真は2005年当時、イラクで警備にあたる女性兵士 【1月28日 INTERNATINAL BUSINESS TIMESより】http://jp.ibtimes.com/articles/39976/20130128/521374.htm

【「今ですら性暴力の告発は難しい。最前線で公正な判断ができるのだろうか」】
やや旧聞に属する話ですが、1月末、アメリカは女性兵士の直接戦闘参加を認める方針を発表しています。

****米軍、女性にも戦闘任務を認める方針****
レオン・パネッタ米国防長官とマーチン・デンプシー米統合参謀本部議長は、女性兵士にも直接戦闘に参加する任務を認める方針を24日にも発表する。匿名の国防総省高官が23日明らかにした。

米軍にとっては、バラク・オバマ大統領政権下で同性愛者であることを公言して軍務に就くことが認められたことに続く大きな変化となる。空軍と海軍は既に女性の戦闘任務を禁じる規定をほとんど撤廃しているため、主に陸軍と海兵隊が今回の措置の影響を受ける。実施には2016年1月までの猶予期間があるという。

前線とそうでない場所の区別があいまいだったイラクやアフガニスタンで任務に就いていた女性兵士に死傷者が出ていたことから、女性への戦闘任務の全面的な開放を求める声が10年以上前から上がっていた。

議会民主党と人権団体は今回の決定を歓迎している。パネッタ国防長官は昨年2月、戦闘関連の約1万4000の任務を女性に開放していたが、一部の活動家からは不十分だという批判も出ていた。米国防総省によると、現役米軍人のうち女性は全体の約14.5%にあたる約20万4000人を占めている。【1月24日 AFP】
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上記記事にもあるように、人権団体もこの性差別を改善する決定を概ね好意的に見ています。
世論調査では、アメリカ人の70%以上が、女性が戦闘部隊に参加することに賛成しているそうです。
しかし、男性兵士の中には、「異性がいると気が散る」や「男性の方が敵を倒すことに向いている」など、反対する声が多くあるとか。【1月25日 FCIより】

この話題を引っ張りだしたのは、下記の記事を目にしたからです。
駐留米軍の女性兵士の3割が軍内部で“レイプ”されているとの実態調査が報告されています。
“性的いやがらせ”ももちろん問題ですが、“レイプ”となると文字どおり重大な犯罪です。

****駐留部隊:米女性兵士の3割、軍内部でレイプ被害****
米英軍主導の侵攻から20日で10年を迎えるイラクや国際部隊の駐留が続くアフガニスタンに派遣された米女性兵士延べ28万人の3割以上が、上官らから性的な暴行を受けていたことが分かり、米国内で「見えない戦争」と問題視されている。
連邦上院の軍事委員会で13日、「軍内性的トラウマ(MST)」と呼ばれる心的ストレスに関する公聴会が初めて開かれた。新たな被害を恐れ沈黙を余儀なくされてきた被害者は「風穴が開いた」と歓迎している。

カリフォルニア州図書館調査局が昨年9月に発表した実態調査によると、イラクとアフガニスタンに派遣された女性兵士の33.5%が米軍内でレイプされ、63.8%が性的いやがらせを受けたと回答した。国防総省も問題を認めている。軍内での性的暴力は2010年だけで、男性の被害も含め推計1万9000件にのぼる。
上院公聴会で議長を務めたバーバラ・ボクサー議員は「被害申告が出ているのは17%にすぎない」と指摘。「この問題の公聴会を開くのに10年もかかった。変革の第一歩だ」と意義を強調した。

イラク戦争中の03年にクウェートに派遣された前後に米国内基地で上官から性的暴力を受けたコーリン・ブッシュネルさん(39)は、公聴会をインターネットの生中継で見ながら「草の根運動で長年取り組んできたことがようやく公に明るみに出た」と興奮した。証言する予定だったが心的外傷後ストレス障害(PTSD)のため断念。議長の言葉に救われた思いがした。

クウェート派遣前に男性上官からレイプされ、帰還後に女性上官から性的暴力を受けた。「上官を訴えても自分を助けてくれる人がいると思えなかった」。精神的なバランスを崩し、06年に退役。2人の子供がいる家には帰れず、5年近くホームレス生活を続けた。「自分が恥ずかしく、行く場所がなかった」

05年のイラク派遣中に変死した女性米兵ラベナ・ジョンソンさんの両親が、自殺と断定した軍に「殺害された」と異議を唱えていることを知った。ジョンソンさんの遺体には、殴られ、レイプされたと見られる痕が残っていた。下士官時代のつらい記憶と重なり「彼女の無念を伝えるのが使命」と感じた。昨年夏から3カ月、全米12州の退役軍人組織を巡る行脚に出た。

退役軍人庁の11年の統計によると、ホームレスの女性退役軍人のうち39%が軍内性暴力の被害者だ。市民団体「女性兵士行動ネットワーク」によると、10年に退役軍人庁のPTSD認定基準が緩和されたが、MSTは申請の32%しか認められていない。全体平均は53%だ。

米国防総省は1月、直接戦闘地域への女性派遣を禁ずる規定の撤廃を発表した。ブッシュネルさんは女性の戦闘任務参加を歓迎しつつ、「今ですら性暴力の告発は難しい。最前線で公正な判断ができるのだろうか」と不安を語った。【ロサンゼルス堀山明子】
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女性兵士にとっては“敵”は身近に潜んでおり、前面の敵との戦いと同時に「見えない戦争」も戦わないといけない状況のようです。
個人的には、どうしてそんな環境に自ら希望していくのか・・・という疑問は残ります。
日本における自衛隊はかつてはやや“日蔭の存在”的なところもありましたが、現在では社会的に認知され、国防軍云々も議論されています。しかし、アメリカ社会にあっては、軍隊はもっと身近な愛国心を具体化させるものなのでしょう。よくわかりませんが。

実戦配備された軍隊は生死と向き合う極度の緊張を強いられます。特に、米軍は世界でも最も実戦に配備されている軍隊です。
その緊張が身内の女性への暴力という形で噴きだすこともあるのでしょうか。

市民にBB弾を乱射。追いかけてきた警察官を車ではねて逃走し、警察官が拳銃を発砲
軍内部の規律の乱れは米軍に限った話ではありません。アフリカなどでは政府軍兵士は反政府勢力より住民から恐れられているような国もあります。究極の暴力である戦闘行為に参加するということは、人間の精神にかなりの影響を与えずにはおかないとも想像されます。

日本でもしばしば米軍兵士による犯罪が問題となりますが、事情は韓国でも同じ・・・というか、もっとひどいようです。

****在韓米軍 禁酒令など措置=米兵の犯罪相次ぎ****
在韓米軍が米兵による犯罪が相次いでいることを受け、禁酒令などの措置を取るなど事態の沈静化に乗り出している。

韓国に駐留する米第8軍は18日、犯罪を犯した米兵に「不名誉除隊」を含む措置を講じると発表した。また、「違法行為を根絶し、不適切な行動の再発を防ぐための措置を取っている」として、関連部隊に禁酒令や3~4日間の外出・外泊禁止などを命じたと強調。米兵が関わった事件で韓国警察に協力する方針を明らかにした。
米第2師団も同日に声明を発表し、遺憾を表明。「第2師団の兵士が犯した不適切な行動により、60年以上築き上げてきた韓米関係が後退することを座視しない」として、全兵士に飲酒禁止や週末休暇禁止命令を出したと表明した。

在韓米軍が過去に比べ厳しい措置を取っているのは、米兵による犯罪の頻度や被害が深刻な水準に達しているためとみられる。
韓国では今月2日、米兵3人がソウル都心で市民にBB弾を乱射。追いかけてきた警察官を車ではねて逃走し、警察官が拳銃を発砲する事件があった。17日には米兵が居酒屋で暴れ、通報を受けて駆けつけた警察官を暴行した。【3月18日 聯合ニュース】
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“市民にBB弾を乱射。追いかけてきた警察官を車ではねて逃走し、警察官が拳銃を発砲する”・・・・今回使用されたBB弾がどのようなものかは知りませんが、BB弾は一般にはサバイバルゲームなどでも使用されるエアガンです。それでもこんな事件が日本で起きたら大騒動になります。
もちろん、韓国でも問題となっています。

****相次ぐ在韓米兵犯罪 韓国大統領府が米に対策求める****
韓国青瓦台(大統領府)は最近相次いで発生した在韓米兵による犯罪について、米側に懸念を表明したことが18日、分かった。
朝鮮半島安保に危機が迫り、新政権が韓米関係を強固にする方針を打ち出す中、在韓米兵による犯罪が相次ぎ、両国関係への悪影響を考慮したものとみられる。

青瓦台の外交安保関係者は同日、聯合ニュースの電話取材に対し「在韓米兵による犯罪が相次ぎ、米側とともにその原因を分析中だ」と話した。その上で米側と協議して関連対策を強化する方針であると明らかにした。
これに関連し、青瓦台外交安保室は17日に外交通商部担当局長を青瓦台に呼び、在韓米軍と在韓米大使館に強力な対策を求めるよう指示した。
同関係者は「米側もこの問題を深刻にみており、内部的により強力な措置を取るとみられる」と話した。(後略)【3月18日 聯合ニュース】 
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前出記事の米軍禁酒令などは、こうした韓国側の抗議への対応でしょう。
「原因を分析中だ」とのことですが、軍内部におけるレイプにしろ、相次ぐ犯罪にしろ、前述のように軍隊という戦闘参加組織の本質に関係しているように思われます。

ベトナム戦争、イラク戦争、アフガニスタン・・・・こうした戦闘に参加した米軍兵士の多くが、戦場での恐怖とストレス、市民を殺害したことによる良心の呵責などからPTSD(心的外傷後ストレス障害)に苦しみ、社会復帰できずにいることは周知のところです。
だからこそ、最近の米軍は人間兵士ではなく無人機やロボットなど多用するようになってきているところです。

【「ジーザス・ラブズ・ニュークス(イエス・キリストは核兵器を愛する)」】
ちょっと変わった米軍関連の話題としては、キリスト教との密接な結び付きを指摘した記事もありました。
「神は軍の文化の一部になっている」・・・とのことです。

****陸軍士官学校生 キリスト教重視に反発、自主退学 米軍「神との距離」苦慮****
宗教行事参加で特権/銃照準器に聖書一節
米軍が宗教問題に揺れている。陸軍士官学校「ウエストポイント」で最近、キリスト教重視の校風に反発する無宗教の学生が学校側と対立し、今春の卒業を待たずに退学した。また、陸・空軍の実戦部隊もここ数年、キリスト教との“近すぎる距離”が批判されている。米憲法は国家と教会の分離を明確に規定しており、軍は対応に苦慮している。

◆「礼拝拒めばトイレ掃除」
「学生の多くは異論を唱えようとしない。堂々と意見を述べれば、卒業後の陸軍内でのキャリアに支障となるからだ」。5月の卒業式を間近に控え、2カ月前にウエストポイントを退学したブレーク・ペイジ氏(22)はこう語った。

無宗教のペイジ氏によれば、学生はキャンパスの教会での礼拝を事実上強制され、礼拝を拒んだ場合、トイレの清掃や机ふき、芝刈りなどを命じられる。ペイジ氏は同校幹部から、「神のいない『穴』の開いた心を埋められなければ、いい士官にはなれない」とも言われたという。

米軍は士官教育に社会道徳を説くキリスト教を重視し、ウエストポイントでも宗教行事に積極的に出席したり、教会の合唱団に参加したりすれば、休暇を優先的に取れるといった特権が与えられる。キリスト教と距離を置くペイジ氏の立場を理解する教師も一部いたが、同氏は「無宗教の学生が軽んじられ、校内で白眼視されることに耐えられなかった」と振り返る。

米空軍士官学校(西部コロラド州コロラドスプリングズ)でも2005年、聖書の教えに忠実な福音派の学生を優遇したり、非キリスト教徒の学生に改宗を勧めたりしたことが発覚し批判が起きた。
10年に実施した学生対象の調査によれば、同校は05年以降、宗教的に寛容な雰囲気にはなった。ただ、宗教行事に参加すべきだとの圧力にさらされていると感じる学生は少なくなく、「無宗教の学生への寛容さに欠ける」と答えた非キリスト教徒の学生は08年比20%増の約半数に達した。

◆「キリストは核を愛する」
アフガニスタンに展開する陸軍内でも10年、聖書の一節を刻んだ銃の照準器が使われていたことが問題となり、「米軍が(イスラム教徒と敵対したキリスト教徒の)『十字軍』のようにみられかねない」との懸念が軍内外から噴出した。
国防総省の幹部は「米通貨のコインにも『われわれは神を信ずる』との一節がある」と強調し、事態の沈静化に努めたが、部隊幹部は、イスラム教徒が大半のアフガン人の感情に配慮して、同照準器の使用は望ましくないと提言した。

米紙クリスチャン・サイエンス・モニターによれば、空軍のミサイル部隊でも長らく、核ミサイルを担当する将校向けにキリスト教の倫理教育を施してきた。発射ボタンを押すことへの戸惑いをぬぐい去るためで、「秩序維持を目的とした敵への攻撃は正当化される」という聖職者の教えなどが紹介されたという。
空軍兵の間で冗談交じりに、「ジーザス・ラブズ・ニュークス(イエス・キリストは核兵器を愛する)」との名称で呼ばれたこの倫理教育には疑義が示され、11年に中止となった。

ペイジ氏は、キリスト教と米軍との密接な結び付きについて「神は軍の文化の一部になっている」と指摘。今後は政教分離を推し進めるため、ウエストポイントでの自身の体験や軍と宗教の関わりをまとめた書籍を執筆する予定だ。【2月25日 産経】
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ケニア、ジンバブエ  大統領選挙めぐる動き 民主主義の形としての選挙は行われるものの

2013-03-18 23:56:18 | アフリカ
9日に日本を発ったネパール旅行を終えて、今日帰国しました。
下記の内容は16日にカトマンズで書いたものですが、停電のためアップできず、17日に宿泊した中国・昆明ではネット接続はできているのにエクスプローラが開かず、18日は上海・福岡・鹿児島と移動のためアップの機会がなく・・・・という訳で、更新が延び延びになっていたものです。結局、鹿児島の自宅からの更新になりました。
(そんな訳で内容的には古くなっているかも)

ケニア:選挙結果について最高裁に異議申し立て
アフリカの選挙をめぐる話題が2件。
最初はケニア。ケニアでは今月4日に大統領選挙が行われ、現大統領の後継者であるケニヤッタ副首相が得票率約50%で、野党候補のオディンガ首相の46%を僅差で抑えて勝利しました。

約50%(正確には50.0いくらという小数点第2位で50%を超えた数字だったと思います。現在カトマンズは停電中でネット検索ができませんので)というのが微妙なところです。
50%を切っていれば上位2名の決戦投票になるところで、選挙前は決戦投票にもつれるのではないかと見られていました。

2007年の前回大統領選では、再選を目指すキバキ元大統領と野党オディンガ氏が激しく争い、選挙結果をめぐって流血の部族間抗争が起き、1100人以上が死亡、60万人以上が避難生活を余儀なくされつという大混乱に陥いりました。最終的に新たに首相ポストを設け、キバキ氏が大統領にオディンガ氏が首相に就任して権限を分担する形で落ち着きましたが、オディンガ首相は勝利を盗まれたと主張しています。

オディンガ首相としては、50%というきわどい数字(無効票の再チェックを行えば容易にくつがえる可能性がある数字です)で再び大統領選勝利を阻まれた形で、納得していません。

****ケニア大統領選:結果に異議申し立て…次点の首相陣営****
東アフリカ・ケニアの大統領選でケニヤッタ副首相(51)の当選が発表された開票結果について、次点のオディンガ首相(68)の陣営が16日、最高裁に異議申し立てをした。2週間以内に裁定が下る見込み。選挙結果が無効となれば、その後60日以内に再選挙が行われる。

ロイター通信によると、異議申し立てに伴い、オディンガ氏の支持者ら約100人が最高裁周辺に集結。警官隊が解散させるため催涙ガス弾を発射した。

ケニアでは07年の前回大統領選で、当初オディンガ氏の大差リードが伝えられたが、キバキ氏(現大統領)の当選が発表された。オディンガ氏の出身民族ルオ人がキバキ氏の出身民族キクユ人を襲撃するなどして、全国で1000人以上が犠牲となった。【3月16日 毎日】
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なお、ケニヤッタ副首相とウィリアム・ルト副大統領候補は前回選挙における混乱を主導したとして国際刑事裁判所(ICC)に提訴されており、ケニヤッタ氏が勝利した場合には、大統領就任後も裁判で長時間拘束される可能性があるとも報じられています。

最高裁判断で決着がつけば幸いですが、両候補の対立は出身部族を背景にしており、部族間の流血の争いになる可能性があり懸念されています。
ケニアは資源に依存した経済構造が多いアフリカ諸国にあって、バランスのとれた経済発展を実現している“優等生”ですが、そのケニアしてこの政治混乱・・・・といったところです。それとも、政治は混乱しても経済は着実と評価すべきでしょうか。

ジンバブエ:次期選挙に向けて新憲法国民投票
もうひとつの話題はジンバブエ。
ムガベ大統領のもとで経済崩壊したジンバブエも前回大統領選挙で大混乱に陥りました。
第1回投票では野党候補のツァンギライ氏がリードしましたが、ムガベ陣営の暴力によって決戦投票辞退を余儀なくされ、国際的な調停もあって、ムガベ氏を大統領、ツァンギライ氏を新設ポストの首相とするケニア方式でなんとか決着しました。
そのジンバブエで次期大統領選挙に向けた動きです。

****ジンバブエ:新憲法めぐり国民投票****
アフリカ南部ジンバブエで16日、新憲法案の是非を問う国民投票が行われた。賛成多数で承認される見通し。新憲法下で行われる予定だった次期大統領選・議会選の実施に道筋がつくことになる。
新憲法案では大統領権限が縮小され、大統領任期が最長で2期10年に制限される。選挙は今年7月実施説が浮上している。【3月16日 毎日】
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次回はムガベ大統領は出馬しないでしょうが、ツァンギライ氏側有利の情勢になったとき、既得権益層がこれを黙って許すか・・・・懸念されます。

選挙が既得権益をめぐる争いとなるのはアフリカ諸国に限った話ではありませんが、選挙という民主主義の形をとりながらも、民主主義の実情が伴わないケースがアフリカで多いのも事実であり、残念なことです。
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インド沖合いの海賊誤認殺害事件で、イタリアが裁判中兵士を一方的に自国へ

2013-03-17 01:25:48 | 南アジア(インド)
現在、ネパールを観光旅行しています。
今日16日は、ポカラから首都カトマンズに戻ってきました。
安心して歩けたポカラ(停電の暗闇で、一雨降ったあとの水たまりだらけのグチャグチャになった道を歩くときは別ですが)に比べ、カトマンズでは前後左右から襲い掛かる車・バイクに気を使います。

【「イタリアはインドを『バナナ共和国』扱いしている」】
海賊警護の関係でインドとイタリアが揉めているそうです。
約1年前にインドの沖合いで、イタリア船籍タンカーを警護していたイタリア海兵隊兵士がインド人漁船員を海賊と誤って射殺した事件があったのですが、インドで裁判中のそのイタリア海兵隊兵士が選挙投票のためイタリアに一時帰国したままインドに戻ってこない・・・ということのようです。

****大使出国させるな」、保釈兵士逃亡でインド・イタリア間に確執****
インド内務省は15日、同国駐在のイタリア大使を出国させないよう、国内各地の空港当局に警戒態勢を命じた。殺人事件の被告として裁判にかけられていたイタリア人兵士2人が、保釈中にイタリアへ帰国したままインドへ戻っていない事態をめぐり、両国関係は今週に入って緊張の度合いを高めている。

インド内務省筋によると、同省は15日、出入国管理当局に対し、イタリアのダニエレ・マンチーニ駐インド大使を「無断で出国させないよう注意せよ」とファックスで通達した。インド最高裁判所が同日、この問題をめぐる次回審問が行われる18日までマンチーニ大使の出国を禁じる命令を出したことを受けた処置という。

■発端はタンカー護衛中の事件
事態の発端となったのは、昨年2月にイタリア海兵隊の兵士2人がインド沖で、インド人漁船員2人を射殺した事件。この海兵隊員らはイタリア船籍の石油タンカーを護衛中で、近づいてきた漁船を海賊と誤って撃ったと主張している。

事件の裁判は当初、インド・ケララ州の地方裁判所で始まったが、その後インド最高裁へ移され、特別法廷の設置が命じられた。しかし、マッシミリアーノ・ラトーレ被告とサルバトーレ・ジローネ被告の2人は、今年2月末に行われたイタリア総選挙で投票するため4週間の保釈を認められて帰国したまま、現在もインドへ戻っていない。

イタリア外務省は18日、両国間の「外交論争」を考慮し、保釈期間が過ぎても両被告はインドに戻らないと発表した。イタリア政府は、銃撃は国際水域でイタリア船籍の船舶をめぐって起きたものであり、海兵隊員2人はイタリアで裁かれるべきだと主張している。これに対しインドは、自国領海内で起きた殺人事件だと反論している。

■悪化する両国関係、「バナナ共和国扱い」の批判も
両国の関係は、イタリアの軍用ヘリコプター12機、総額7億4800万ドル(約720億円)規模をインドが購入する取引をめぐる汚職疑惑が持ち上がっていることでも悪化しており、インド政府は契約の破棄さえちらつかせている。

マンチーニ大使は12日、インド外務省に呼ばれ、海兵隊員2人の身柄を直ちにインド側に引き渡すようランジャン・マタイ外務次官から要請された。インド各紙の報道によれば、マンチーニ大使は最高裁で引き渡しを個人的に保証したため、2人が戻らなければ国外追放される可能性もある。

海兵隊員をインドへ戻さないというイタリア政府の発表に対しインドの主要野党、インド人民党(BJP)は、「イタリアはインドを『バナナ共和国』扱いしている」と強い非難を表明した。インド国内では政府の対応に怒りが広がっており、マンモハン・シン首相の人形を燃やすなど激しい抗議も起きている。

こうした強い反発を受け、普段は穏健なシン首相も13日、「(イタリアが)自分たちの約束を守らなければ、わが国とイタリアの関係に重大な結果を引き起こすだろう」と述べた。

インドは一歩も譲らず
マンチーニ大使は「両国はともに成熟した民主主義国であり、これらの困難を克服できると確信している」と述べているが、事件が起きたケララ州のオーメン・チャンディ州知事の「いかなる譲歩もあり得ない。海兵隊員たちはインドで裁判を受けるべきだ」という言葉がインド側の姿勢を代表している。

インドPTI通信によれば、チャンディ知事は「外交上の地位を利用して、相手の国の最高裁をだます国などあるものだろうか。イタリアがもしも約束を守れないならば、外交上の悲劇となるだろう」と非難している。【3月15日 AFP】
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イタリアは計器データをもとに公海上で起きたと主張、インドは領海、後に接続水域で起きたと主張しています。
イタリアとしては、事実関係をねじまげるインド側の対応にはつきあえない・・・というものでしょう。
どちらが真実なのかは、もちろんわかりません。
なお、事件当時の報道では、“海兵隊員らは警告射撃しかしていないと主張している”とも報じられていました。

そうした事実関係をめぐる争い以外に、イタリア側には軍としての作戦中の行為が刑事的に裁かれることへの抵抗・軍の論理もあるように思えます。
アメリカの無人機がパキスタン領内で行う爆撃で民間人犠牲者が多数でていることに関して、アメリカがこれを止む無しとして作戦を継続していることと似たような意識も感じます。
こうした事件の可能性があるからこそ、アメリカはアフガニスタン撤退後の残留部隊に関して刑事免責を求めているのでしょう。

インド側はこれまで、裁判中の2兵士にクリスマス休暇の一時帰国を認めるとか、最高裁に特別法廷を設けるなどのイタリア側に配所した対応も行っています。

相手国のナショナリズムによって自国民が不当に裁かれる・・・・というイタリア側の気持ちはわかりますが、記事を読んだ印象としては、裁判中の被告を一時帰国を認めた特別待遇を利用して勝手に自国にとどめてしまうというのは、国際信義を踏みにじる対応のように思えます。

裁判を継続すればインド側は有罪判決を譲らないでしょうが、これまでのインド側の配慮も考えると、インド国内で1,2年服役したのち身柄をイタリアに移すなどの外交的対応もあったのではないでしょうか。
「イタリアはインドを『バナナ共和国』扱いしている」と批判されてもやむを得ないようにも思えます。

それにしても、インド南部の沖合いで海兵隊警護が必要なほど海賊が横行しているのは知りませんでした。
はるかソマリアから出張してくる海賊がいるようです。2011年2月には、ムンバイ沖合いで28名のソマリア海賊が逮捕されています。
“インド沿岸警備局バサラ将官は同日、各国の商船に対して、海賊出没が懸念されるインド南西ケララ州沖の危険地域に近づかないよう呼びかけた。”【2011年2月11日 大紀元】

インド南部のケララ州はインド北部に比べるとはるかに穏やかな気風の地域ですが、かつての和寇と同様に、ソマリア出張組だけでなくインド国内の海賊もいるのではないでしょうか。
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シリア  反体制派内で増すイスラム原理主義勢力の存在感

2013-03-16 09:58:12 | 中東情勢
チベット難民キャンプ
今日15日もネパール・ポカラを観光しています。
ヒェンザ~ダンプス~フェンディのハイキングコースを歩き、マチャプチャレなどの美しい風景を堪能しました。

帰途、ヒェンザ近くにあるチベット難民キャンプによってもらいました。
正確に言えば、キャンプの大きなチベット寺院です。読経の最中だったのですが、ジャパニーズ・ブッディストだと言ったところ入っていいとのことで、中を拝見させていただきました。

寺院の境内は、観光客目当てのみやげ物屋が並んでいます。おそらく就労などの制約があるなかでは、キャンプ最大の収入源なのでしょう。
特に、通常の寺院と変わりなく、“難民キャンプ”といった雰囲気はありません。今回は居住区は訪れませんでしたが、そちらも難民キャンプというよりはチベット人街といった雰囲気のようです。

50年ほどの歴史のある古いキャンプで、チベットを実際に脱出した人は相当の高齢になっているものと思われ、若い人は2世、3世でしょう。
制約と保護のもとで、仕事の機会も少なく、将来の展望もなく毎日をすごす・・・といった、アメリカインディアンの居留区にも似た閉塞感があるようにも思われます。

難民受け入れ側の苦悩
一方、シリア難民の方は、生死がかかった緊迫した毎日です。
受け入れる側も重い財政負担に苦しんでいます。

****トルコ軍、シリア難民に発砲も=急増でキャンプ満員―違法な越境ルートに変化****
内戦に発展したシリアの反体制運動開始から15日で2年となる中、100万人を突破したシリアから周辺国への難民の増加が止まらない。隣国トルコの難民キャンプは建設が追い付かず、シリア側にもキャンプの設置が進む。難民急増に危機感を強めるトルコ側が、越境しようとする難民に発砲する事件も起きている。

シリア北部ヤジバーグ村に設置された反体制武装組織「自由シリア軍」の検問所。オリーブ畑を歩いて約300メートルでトルコ側に至る越境ルートの一つだ。パスポートなどを持たないシリア難民や義勇兵(イスラム戦士)の移動、武器の密輸に使われてきた。

難民の流入を黙認してきたトルコ軍だが、検問所のオマル・バドリ指揮官(27)によると、約10日前からトルコ軍は難民の越境を認めず、軍の発砲で少女と高齢男性の難民計2人が負傷する事件も発生した。

トルコ側にも事情はあるようだ。トルコ当局者によれば、同国は既に17カ所のキャンプに18万5000人を収容。新たなキャンプの建設も進むが、財政負担が重くのしかかっている。100万人を突破した周辺国へのシリア難民は、事態が改善しなければ、年末には300万人に達するとの予測もある。

バドリ指揮官は「戦火を逃れてきた難民は一体どこに行けばいいのか」と、国際社会の対応の遅れに不満を示す。
アサド政権による激しい弾圧が続く中、国際社会の無策にもいら立ちを強めている。外国からの武器は昨年6月ごろに入って以来、ほぼ途絶えているという。バドリ指揮官は「反体制派への支援を約束した国際社会はうそつきだ。
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シリア・アサド政権への対決姿勢を鮮明にし、これまでシリア難民に寛容な対応をとってきたトルコですが、増え続ける難民の対応に苦慮しているようです。

攻撃力がある上、略奪といった逸脱行為も少ない
一方、上記記事にもあるように反体制派への武器支援については、欧米はこれまで慎重な姿勢をとってきました。そのことが「国際社会はうそつきだ」といった批判にもなる訳ですが、武器支援をためらう最大の理由は、反体制派内でのイスラム過激派の存在です。支援した武器が結果的にアルカイダとも協調するイスラム過激派組織に渡ってしまう事態を懸念しています。

****シリア、原理主義国家目指す=ビンラディンは「総司令官」―イスラム武装組織指揮官****
内戦が続くシリアの反体制イスラム武装組織「アハラル・シャム」の北部アザズの地元指揮官アブ・マフムード氏(43)は15日未明、時事通信のインタビューに応じ、アサド政権崩壊後にシャリア(イスラム法)に基づく原理主義的な国家の創設を目指す考えを表明した。さらに、国際テロ組織アルカイダの元首領ビンラディン容疑者について「ムジャヒディン(イスラム戦士)の総司令官だ」と表現、思想的に同調する姿勢を示した。

指揮官は主要な反体制武装組織「自由シリア軍」との違いについて、「反アサド政権という点で相違はないが、政権打倒後の国家造りでは意見の違いがあるかもしれない」と説明した。

イスラム武装組織は戦闘力が高いといわれることに関し、指揮官は「真のイスラム教徒は死を恐れない。殉教すれば天国が待っている」と述べ、戦闘中の死を恐れていないことを強調。自爆作戦については「自爆でしか攻撃できない場合に実施する。組織の指導者は殉教を名乗り出た人々のリストを持っている」と述べ、自爆志願者が多数いることを明らかにした。【3月15日 時事】
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こうしたイスラム過激派組織は戦闘力が高いだけでなく、住民支持を獲得しているという点でも存在感を強めています。

*****イスラム武装勢力が台頭=信仰心あつく住民に人気―少数派や欧米は懸念・シリア*****
内戦が続くシリアの反体制運動開始から15日で2年が過ぎた。同国では離反兵らが結成した反体制武装組織「自由シリア軍」に加え、イスラム武装組織が台頭。信仰心があつく殉教作戦もいとわないため攻撃力がある上、略奪といった逸脱行為も少ないとあって、住民の信頼を獲得している。

シリアでは、米政府がテロ組織に指定し、国際テロ組織アルカイダともつながる「ヌスラ戦線」や「アハラル・シャム」、「ムハンマド軍」など複数の反体制イスラム武装組織が活動。欧米諸国はアサド政権崩壊後にこうしたイスラム勢力が欧米敵視のテロ行為に走る可能性があるとして、反体制派への武器供与に二の足を踏んでいる。

激戦が続く北部の要衝アレッポに住むサーレムさん(32)は「自由シリア軍は問題を起こすこともあるが、イスラム勢力は宗教的な戒律に従い、逸脱行為がない」と評価する。北部アザズの地元有力者は「イスラム勢力は弱者に対する食料の配布などイスラムの喜捨に基づく活動もしており、これが支持を受けている要因だ」と説明する。【3月15日 時事】
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エジプトで穏健派イスラム主義のムスリム同胞団が大きな力を得たのも、イスラムの教えに沿った住民福祉活動がありました。
住民がそうしたイスラムの教えに沿った活動を評価して支持するというのなら、それを否定することもできません。
国家を含め、住民の面倒をみてくれる組織が他にないのですから。
“シャリア(イスラム法)に基づく原理主義的な国家”についても、伝統的な生活様式で暮らす地方の貧困層にとっては違和感もあまりないでしょう。

ただ、不寛容な宗教と武器が支配する社会は、個人の自由・人権を根本的価値観とする日本などからすると受け入れがたいものです。アフガニスタンのタリバン政権にみられるように、原理主義的社会は決して住民の幸せにも繋がらないように思えます。
イスラム原理主義を選択しようとする人々にどのように対処すべきか、悩ましい問題です。
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カンボジア特別法廷  高齢化で被告死去や運営の資金不足の問題

2013-03-15 01:35:39 | 東南アジア
現在、ネパールを観光中です。昨日からはヒマラヤに近い観光都市ポカラに滞在しています。
今朝起きると、ホテルの部屋の窓に、大きなマチャプチャレの姿があり感激しました。

マチャプチャレは標高6993m、名前の由来は「魚の尾」。ポカラ市街からはマッターホルンのような尖った山容が望めますが、眺める方角を変えると、ふたつのピークが丁度魚の尾のように見えることからの名前です。
今日は、ノーダラからサランコットまでの10km程度を、現地ガイドと一緒に歩きました。

関係者の高齢化
今日、気になったニュースはカンボジア特別法廷に関するもの。

****イエン・サリ元副首相が死去=ポト派ナンバー3、裁判中―カンボジア****
カンボジア旧ポル・ポト派のイエン・サリ元副首相が14日、プノンペンの病院で死去した。87歳だった。ポト派による大量虐殺に関し、人道に対する罪などに問われていたが、特別法廷で行われていた元副首相の裁判は死去に伴い近く終結する。
心臓に持病があり、4日朝、体調不良を訴えて入院していた。

ポト派をめぐっては、最高指導者だったポル・ポト元首相は既に死去。ナンバー2のヌオン・チア元人民代表議会議長らの裁判が続いているが、関係者の高齢化が進んでいる。元副首相の死去により、自国民を大量虐殺した暗黒時代の真相解明はさらに遠のく恐れがある。
*****************

被告の高齢化の問題はかねてから指摘されていたところですが、懸念が現実のものとなっています。
起訴されたポト派最高幹部である被告4名のうち、今回死去したイエン・サリ元副首相の妻イエン・チリト元社会問題相は、認知症で公判の維持が困難だとして、昨年9月、釈放されています。
残るのは、ナンバー2であったヌオン・チア元人民代表会議議長(86)、と、対外的な顔であったキュー・サムファン元幹部会議長(81)の2名です。

法廷職員の給与未払い
特別法廷は、被告の高齢化のほかに、運営のための資金不足という問題を抱えています。
日本はこれまでの費用の44%を負担してきています。

****虐殺糾明、資金難で危機 判事・職員300人、給与未払い ポル・ポト派特別法廷*****
カンボジアの旧ポル・ポト政権の国民大虐殺を裁く特別法廷で、運営資金が不足して昨年末から約300人の職員給与が未払いとなっている。
裁判が長期化し、国際社会の支援が枯渇しているためだ。審理にも影響が出始め、判決に真相究明を委ねる被害者たちは危機感を募らせている。

●長期化で支援枯渇
特別法廷が始まったのは2006年7月。国連とカンボジア政府の共同運営で、判事や職員は、国連側の百数十人とカンボジアの約300人からなる。給与は国連スタッフには国連が、カンボジア人には同国政府が支払う仕組みだ。
だが、カンボジア政府の負担分も、実際には大半が諸外国の支援でまかなわれている。法廷事務局の説明によると、今年は約930万ドル(約8億6千万円)が必要なのに、7割以上が不足。そのため給与が払えず、職員の契約更新もできない状態だ。未払いを不服として出勤しない職員も出始めているという。

日本は国連平和維持活動(PKO)に初めて自衛隊を派遣したのがカンボジアだった経緯もあって、当初から積極的に拠出を続け、最大の支援国となっている。これまでの拠出総額は計約7913万ドルで、全体の44%を占める。2番以下の豪州10%、米国7%、独6%と比べて突出している。

財政危機を乗り越えるには他国からの支援増が不可欠で、日本は関連の国際会議などで、東南アジア諸国連合(ASEAN)などに協力を呼びかけている。だが、当事国のカンボジアが約4%しか負担できていないことや、世界的な景気低迷の影響から、まとまった援助を新たに名乗り出る国は見当たらない。

日本は今後も支援する方針だが、当初3年で終結する見通しが、裁判の長期化で拠出が膨らんでいることや、日本に負担が集中している現状を疑問視する声は政府内にもある。
今年1月、現地の日本大使館は、同じく資金が不足しがちな国連側への支援として248万6千ドル(2億3千万円)の追加支援を表明したが、その際法廷に「公正、効率的、迅速な運用を」と運営の改善を促した。

●人員減で審理に遅れ
法廷は資金不足で書記官の数が減り、審理が週4回から3回に減ってさらに長期化するという悪循環に陥っている。元同法廷判事の野口元郎さんは「カンボジア政府と国連は、裁判の今後のあり方について真剣に検討すべき時期に来ている」と指摘している。

法廷の危機を、最も憂えているのは被害者や犠牲者の遺族だ。
ポル・ポト政権時代に祖父母や父、6人の兄弟を亡くしたシナさん(58)は「とても残念」と話す。
家族を失い、自分も一時刑務所に収容され、生きることがつらかった。特別法廷が始まって「新しい人生が生まれた」と思った。これで正義が証明される、もうひどい時代に戻らない、と希望を持てた。
処刑施設として知られる「S21収容所」に一時連行され拷問を受けた経験があるメットさん(55)も、「どうか支援を続けて欲しい」と訴える。
「次の世代で過ちが繰り返されないために、裁判は続けなければならない」【2012年2月15日 朝日】
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暗黒時代の真相解明
これまでも何度か取り上げたように、カンボジアのフン・セン首相は、自身がかつてはクメール・ルージュの一員だったこともあり、過去を蒸し返す特別法廷にはあまり積極的ではありません。資金難も首相のそうした姿勢の反映でしょう。

特別法廷の目的は被告らの責任を追及することより、強制労働、粛清によって病死、餓死を含め170万人以上が死亡するという惨劇が何故起こったのかという真相を明らかにすることでしょう。
誰が、どのような目的で命じたのか。膨大な犠牲者の発生を幹部はどのように考えていたのか・・・。

肩書き上は国家元首の立場にあったキュー・サムファン元幹部会議長には、政権内での大きな権限はなかったと見られています。
ポル・ポトに次ぐナンバー2であったヌオン・チア元人民代表会議議長の発言が注目されますが、特別法廷のあり方を批判して、独自の主張を続けています。

*****法廷は正義もたらさず 元ポト派ナンバー2が非難*****
カンボジアの旧ポル・ポト政権による大虐殺を裁く特別法廷で22日開かれた元最高幹部3被告の公判で、ナンバー2だったヌオン・チア元人民代表議会議長(85)が「この法廷は私に正義をもたらさない。事実のほんの一部しか取り上げないからだ」と特別法廷を強く非難した。

裁判は21日から本格審理入りし、22日は弁護側が冒頭陳述。ヌオン・チア被告は裁判が対象とするポル・ポト政権時代だけでなく、ポト派が倒した親米ロン・ノル政権時代や、ベトナムの侵攻によるポル・ポト政権崩壊以後にも目を向ける必要があると強調、ベトナムや米国に対する非難を2時間近くにわたり繰り返した。

首都からの住民強制移住については、首都の食料不足やベトナムのスパイを監視するためだと主張。貨幣廃止は外部の敵対勢力による買収の防止などが理由だったと述べた。【2011年11月22日 MSN産経】
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被告が2名に絞られたことで、裁判の迅速化、費用の節減につながる面もあるのでは。
最低限この2名の裁判をきちんとやりとげて、過去に一定のけじめをつけられることを願います。
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ミャンマー  スー・チー氏 住民抗議を退け、銅山開発続行を報告

2013-03-14 02:31:46 | ミャンマー

(雲がかからなければポカラ市街から「ネパールのマッターホルン」マャプチャレの大きな姿が望めるのですが・・・
“flickr”より By gordontour http://www.flickr.com/photos/gordontour/5532058123/

ヒマラヤに響く遠雷
9日に日本を出発して、ネパールを観光中です。
今日13日は首都カトマンズから、ヒマラヤトレッキングのベースとなっているリゾート都市ポカラへ朝の飛行機で移動。
飛行機からは万年雪を戴いたヒマラヤの山々を、ほんの一部だけですが眺めることもできました。

ただ、ポカラの空港に降り立つと天気はいいのですがガスっており、マチャプチャレをはじめとするアンナプルナ
山を眺めるなら乾期の冬場がお勧めです。
ポカラには3日間滞在し、4日目の朝カトマンズに戻ります。この間にマチャプチャレを眺めることができるかは日頃の行い次第・・・ということ、あまり期待しない方がいいということでしょうか。
前回12年前に訪れた際にもなかなか拝めず、あきらめていた最終日夕方に思いがけず姿をあらわし、その美しさに感動したものです。
午後から天気が崩れ、今もときどき遠くで雷鳴みたいなものも聞こえます。明日の天気は大丈夫でしょうか。

ポカラと言えばトレッキングですが、そんな体力も時間もお金もないので、明日・あさってはお手軽ハイキングなどを楽しむ予定です。
でも、到着したこの日は特に予定もありません。
観光スポット的なものもあることはあるのですが、あまり動き回る気にもならず、街中を少し歩き、旅行会社で翌日のハイキングのアレンジを済ませ、安宿で知り合った日本からの方(リタイアされた年齢の方ですが、今日はパラグライダーを楽しまれたそうです)としばし雑談し、2時すぎ頃からは部屋でゴロゴロしていました。

日本から持ってきた昔懐かしい「猿岩石」(!)の文庫本をしばらく読み、ネットでいろいろ検索し、疲れたら昼寝・・・せっかくネパールまで来て、そんな形で時間をつぶすのはもったいないとも思いますが、自分がしたいことをやりたいようにやるのが休日という気もします。
もっとも、部屋の大き目の窓から異国の町を眺めながらゴロゴロするのは、日本の自宅で同じように過ごす時間とは、また何か違ったもの、日常から切り離された開放感的なものがあります。

本当はこの時間にいつもより早めにブログを書き上げてしまいたかったのですが、持参のポンコツPCのバッテリーが切れ、恒例の停電のため出来ませんでした。
ポカラの電力事情はカトマンズよりましかも・・・と、少し期待していたのですが、大差ないようです。今日の午後は時から通電しています。

【「国の将来のためには軍と国民の和解も必要で、反対派こそなぜ抗議するのかを熟慮すべきだ」】
今日目に付いた記事は、11日ブログで取り上げたミャンマー・スー・チー氏に関するもの。
11日ブログは最後に“スー・チー氏が、民主化運動の象徴から現実政治化へ転進し、将来的には大統領としてミャンマーを導くのか、あるいは、理想は語ることはできても現実問題への対応はできないことをさらけ出すのか、今後の動向が気になるところです”と書いたのですが、ちょうどそのことに関係することです。

****ミャンマー:スーチー氏の調査委が銅山開発認める 反発も****
ミャンマー中部の銅山開発を巡る反対運動を巡り、野党指導者アウンサンスーチー氏が委員長を務める調査委員会は「開発継続」を認める報告書を公表した。
事業は軍系企業と中国の合弁で、報告書は「開発中止は外国投資を冷え込ませる」と指摘し、国益に配慮した。民主化勢力が加勢する反対派は「住民軽視だ」と抗議行動を再開する意向で、矢面に立った格好のスーチー氏に対し風当たりが強まる可能性がある。

反対運動は、レパダウン銅山の一部住民が昨年6月、土地収用への「補償金が不十分」として始めた。この動きに僧侶を含む民主化活動家が合流し、開発中止を求める運動に発展。治安部隊は11月、開発予定地を「占拠」した反対派数百人をガス弾を使い強制排除、多数の負傷者が出た。

このためテインセイン政権の要請でスーチー氏をトップとする調査委員会が発足。11日公表された報告書は「地元住民への適切な補償と雇用機会の提供が必要だ」と問題点を指摘しつつ「開発は中国の利益というより国益にかなう」と強調。「開発の一方的な中止は中国との関係に悪影響を与え、外国企業がこの国への投資に関心を失うことにもつながる」と懸念を示した。

反対派は、治安部隊が強制排除の際に「深刻なやけどを負う白リン弾を使った」と非難していたが、報告書はこの事実を認めながら、反対運動は「地元と無関係な組織の扇動で広がった」と指摘した。また、反対派が主張する「環境影響」についても「大きな影響はない」と否定した。

銅山開発の契約は、親中国政策を続けた軍政期の2010年に結ばれており、契約も反対派の強制排除も「中国への配慮では」との指摘がある。スーチー氏は12日、取材に「中国や軍が問題のメーンではない。調査委は、この国の将来を考慮した。そのためには軍と国民の和解も必要で、反対派こそなぜ抗議するのかを熟慮すべきだ」と自制を求めた。

スーチー氏に対しては西部ラカイン州での宗教対立や北部カチン州での政府軍と武装組織の戦闘を巡り「静観しているだけだ」と国内外から批判がある。国際人権団体ヒューマン・ライツ・ウォッチのロバートソン氏(アジア局長代理)は「ノーベル平和賞受賞者というより二流政治家」と酷評している。【3月13日 毎日】
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中部モンユワのレパダウン銅山については、以前ブログで取り上げたことがあります。
環境汚染を主張して反対する住民・僧侶に対し、治安部隊がこれを実力で排除し、多数の犠牲者が出ました。
この銅山開発の主体が、既得権益層の軍関連企業とミャンマーに大きな投資を行っている中国関連であることも、問題をデリケートにしています。

調査報告を任された民主化運動の象徴スー・チー氏がどのような判断を下すのか非常に注目されていた案件です。
スー・チー氏は当初から、「国の将来にとって正しいと思うことをする。私の決断が皆さんを喜ばせるとは限らない」と述べ、銅山閉鎖を支持しない可能性を示していました。

実際、住民側にとっては厳しい、白黒をはっきりさせた報告書となっています。
住民らに報告するため現地入りしたスー・チー氏に対して、住民からは厳しい抗議の声が上がり、“地元記者によると、現地では報告書に不満を持つ住民ら約250人が集結。「スー・チー氏はいらない。報告書も調査委もいらない」と気勢を上げた。”【3月13日 時事】とのことです。

レパダウン銅山の実態がわかりませんので、今回報告書の評価も難しいところです。
現実政治家への転身を見せているのか、「ノーベル平和賞受賞者というより二流政治家」なのか。
政権側に利用されているという批判もあるでしょう。

もとより、政権側に屈しない姿勢を貫いたスー・チー氏は、その存在自体が民主化運動・反政府運動の象徴だったわけですが、具体的政策について彼女がどのような考えを持っているのかは、いままであまり触れられてきませんでした。

開発・成長によって国民生活がよくなるという目に見える実益なしには、民主化への国民の支持をつなぎとめることもできません。
また、既得権益層や中国とのいたずらな軋轢も、今後の改革を続けていくうえでマイナスになるという判断もあるでしょう。

そうしたことも踏まえたうえでの現実的判断だったのでしょう。
「反対派こそなぜ抗議するのかを熟慮すべきだ」といった発言からは、ミャンマーは軍政によって失われた年月を取り戻さねばならないという、豊かさ・経済的成長へのスー・チー氏自身の強い思いが窺えます。

それにしても、住民抗議活動に“白リン弾”を使用するというのは、ミャンマー治安部隊の体質が旧態依然であることを示しています。
こうした面についてはスー・チー氏の口から厳しい指摘があってしかるべきでしょう。それなしには、開発独裁的な既成政治家とあまり変わるところがないことにもなります。
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パキスタン  イランからの天然ガス輸送パイプラインの起工式

2013-03-13 02:10:37 | アフガン・パキスタン
【「パイプラインは両国の平和と安全保障、発展を担うだろう」】
現在、ネパールを観光旅行中です。今日はカトマンズ市内と古都バクタプルの定番観光スポットをまわっていました。
ネパールはいいところですが、昨日も書いたように、道路・交通事情の悪さと電気不足には困ります。

首都カトマンズは、道路などのインフラ整備がないまま、車・バイクが急増するとどうなるかという見本のような街です。大勢が歩いている細い道に、次々に車やバイクが突っ込んできて、歩くのも大変です。

電気に関しては計画停電が行われており、今日の通電時間は9時から午後3時までと、午後の8時以降です。
旅行者もネット利用の時間やPC・デジカメ電池の充電など、通電時間に合わせる必要があります。

逆に言えば、カオス状態の道路事情でも、12時間の計画停電でも、そんなものだと馴れてしまえばそこそこに生活は出来る・・・ということでしょうか。

おそらくパキスタンも似たような状況でしょう。
パキスタンが不足しているもののひとつが、エネルギー・天然ガス。その天然ガスを隣国イランからパイプラインで持ってこようという計画がありますが、イラン側の建設はすでに終了しており、パキスタン側の工事の起工式が行われています。

****イラン、パキスタンに天然ガス輸出パイプライン****
イランのアフマディネジャド大統領とパキスタンのザルダリ大統領は11日、イラン南東部チャバハールで、天然ガスをパキスタンに輸出するパイプラインの起工式に参加した。

両大統領は「パイプラインは両国の平和と安全保障、発展を担うだろう」との共同声明を出し、連携強化をアピールした。パイプライン計画は、イラン南部アサルエとパキスタン南部ナワーブシャーを結ぶ全長1880キロ・メートルで、イラン側の建設はすでに終了している。

11日からパキスタン側の建設を始め、2014年末までの完成を見込む。ただ、パキスタンでは、イスラム教シーア派のイランとの接近を嫌うスンニ派過激派の妨害も懸念されている。【3月12日 読売】
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アメリカの圧力
このイラン・パキスタンを結ぶ天然ガス・パイプラインの構想は随分昔から、恐らく二十数年前からあります。
ようやく実現に向けて動き出した・・・というところです。
当初の計画では、パキスタンから更にインドに輸送するというものでしたが、経済制裁で外資不足に苦しむイランを助けるものとして、イランを敵視するアメリカの圧力でインドは計画から離脱した経緯があります。

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・・・・インドが切望するのは原子力だけでない。イランの天然ガスをパキスタン経由でインドへ輸送する、3国の頭文字を取った「IPI」パイプライン計画。構想19年を経た計画は4月下旬、イランのアフマディネジャド大統領がパキスタン、インドを歴訪し、にわかに実現への可能性が高まった。

だが、イラン敵視政策を取る米国は、一気に逆襲を図った。インド石油・天然ガス省の高官は「米国の圧力はすさまじかった」と証言する。米外交官らは「ブッシュ大統領の顔に泥を塗る気か」「IPIを先に合意したら、米議会は原子力協定を承認しない」とインド政府に働きかけたという。

さらに今月4日、米議員団はシン首相を訪れ、国際原子力機関(IAEA)との査察協定締結を条件に、9月の米議会で原子力協定を承認することを確約。その際、「イランの核開発に対する国連制裁に同意してほしい」と迫った。・・・・【2008年7月24日 毎日】
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もし、インドが参加した形で計画が実現すれば、かねてより紛争の火種が絶えないインド・パキスタン関係の改善にも資するものだったはずですが・・・・。

当然にパキスタンにもアメリカの圧力はありますが、“パキスタンは対テロ戦の長期化を背景に、深刻なエネルギー不足に陥った。この2年間は、首都を除く全国各地で1日の半分は停電し、相次ぐ工場の閉鎖で失業者が増加。家庭用ガスや自動車燃料も不足し、物価の高騰で市民生活は破綻(はたん)寸前だ。このため反政府感情は高まり、内政を不安定化させている。”【2010年6月23日 毎日】という逼迫した実情があります。

また、インドは、同国を特例扱いにした米印民生用原子力協定によってアメリカから見返りを得ているのに対し、パキスタンには認められていません。

更に、もともとパキスタンとアメリカの関係は、対イスラム武装勢力の作戦への協力を求めるアメリカに対し、アメリカの無人機攻撃で民間人犠牲が出ているパキスタン世論には強い反米感情があるということで、同盟関係とは言いつつも微妙なものがあります。

そうした事情でパキスタンは、「パキスタンは国連安保理の対イラン追加制裁決議は考慮するだろうが、米の独自制裁に従ういわれはない」(ギラニ前首相)と計画を進め、2010年6月、イラン・パキスタンの間で建設合意調印式が行われました。

資金・治安の問題も
計画が遅れていた理由としては、アメリカの圧力のほか、資金的な問題もあります。
当初はインドから年約10億ドルの通過料収入を当て込んでいたパキスタンにとって、09年当時で12億ドルといわれる建設費の負担は重いものがあります。

もうひとつの問題として、治安の問題が以前から指摘されています。

****イラン-パキスタン パイプライン計画多難 テロの影と米の圧力と****
・・・・まずは、パイプラインが通過するバルチスタン情勢だ。イランと国境を接するパキスタン南西部バルチスタン州には、両政府に抵抗する武装組織が複数あり、既存の別のガスパイプラインや送電設備などへの攻撃を繰り返している。

武装組織のうち、パキスタンを拠点にイラン国内でテロ活動を行うイスラム武装組織「ジュンドュラ」(神の兵士)は、最近もイスラム教礼拝所で自爆テロを起こした。イランは、同組織のネットワークを一掃しなければパイプライン計画にも影響を及ぼすと、パキスタンに警告している。・・・・【2009年7月1日 産経】
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冒頭記事にもあるように、パキスタンでは、イスラム教シーア派のイランとの接近を嫌うスンニ派過激派の妨害も懸念されています。パキスタン国内ではスンニ派過激派によるシーア派を標的にたテロが相次いでおり、今回パイプラインも格好の標的となります。

中国も関心
なお、この計画には中国も強い関心を寄せています。パキスタンとしては、インドの代わりに中国に延伸させて、通過料を得たいところでしょう。
パイプライン延伸以外にも、“パイプラインのルートの周辺にあるグワダルでは、中国の資金援助で大規模な港湾施設が建設されており、中国へのガスの海上輸送も可能となる。”【09年7月1日 産経】といった方法もあるようです。
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ミャンマー  スー・チー氏率いる「国民民主連盟(NLD)」 結党以来初の本格的な党大会

2013-03-11 20:11:49 | ミャンマー
ネパール:道路、水、電気・・・問題山積
現在、ネパール・カトマンズを観光中です。
12年ぶりのネパールですが、当然ながら車・バイクが道路に溢れる状況になっています。
その分、野良牛の姿が通りから消えたようです。

問題はその道路。“古い街並みが残るカトマンズ”ということは、道路も古くて狭いままということにもなります。
そこへ車とバイクが乗り入れ、通りを歩く人々の中にはマスクで口・鼻を覆う人も少なくありません。
また、でこぼこ道路、未舗装の道路なども相変わらずで、細い裏通りを走るときなどはロデオ状態で、乗車しているだけで疲れます。(もちろん、幹線道路はまともです)

ガイド氏の話では、政治家が国民生活のことを考えていないせいで改善が進まないとのこと。
同じ理由で、ヒマラヤに豊富に存在する水の供給も不足しているそうです。
街を走っていて気付いたのは、ガソリンスタンドに並ぶ(多分)バイクの長蛇の列。生半可な長さではありません。給油できるまで数時間はかかるのではないでしょうか。

もうひとつ不足しているのが電気。
朝起きる停電中。ホテルで訊いたところ、今日月曜日は午後1時から6時までと、午後9時以降が電気を使える時間とのこと。ガイド氏の話では12時間の計画停電を行っており、以前に比べると少しはましになった方とか。

もっとも、計画停電が行われているのはネパールだけではありません。
現在の状況は知りませんが、以前の旅行経験で言えば、バングラデシュやミャンマーも同じような状況でした。

ミャンマー:NLD党大会 中執委の若返りは限定的
そのミャンマーですが・・・と、話を強引にミャンマーに持っていきます。

****ミャンマー:スーチー議長を再選、指導部倍増 NLD大会****
ミャンマーの野党「国民民主連盟(NLD)」は10日、最大都市ヤンゴンでの党大会で最高意思決定機関「中央執行委員会」のメンバー15人を選出し、議長(党首)にアウンサンスーチー氏(67)を再選した。「党運営が中央集権的だ」との内外の批判を受け、新指導部に「新しい血」(スーチー氏)を入れた。15年総選挙での政権獲得に向け4月から新たなスタートを切る。

ミャンマーは11年3月、軍政から民政のテインセイン政権に移行。民主化改革を加速させる中、民主化勢力の「本家」国民民主連盟に対し、「意思決定のあり方も旧態依然で、自らの民主化がまず必要だ」との指摘が相次いだ。仮に総選挙で勝利しても、政権を委ねることへの懸念も漏れていた。

8日開会した党大会には各支部で選出された代議員約900人が参集。中央委員(120人)を選出し、この中から中央執行委員を選んだ。スーチー氏を含め7人だったこれまでのメンバーは全員(60歳以上)が再選、さらに8人(うち半数は少数民族)が新たに加わり倍増した。執行部拡充の背景には、スーチー氏の後継候補や政権に参画できる人材を幅広く育成する狙いもある。

スーチー氏は9日の式典での演説で、指導部の選出を巡り「この国を真の民主国家にするという党の目的に沿った人物を選んでほしい」と要望。「新旧の世代にかかわらず新しい血を入れないといけない」と述べていた。
ただ、新メンバー8人は50〜70歳代で、若い世代から不満が出る可能性がある。【3月10日 毎日】
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懸案事項となっていた組織の若返りはあまり十分ではなかったようです。

*****スー・チー氏、党首に再選…ミャンマー最大野党****
ミャンマーの最大野党・国民民主連盟(NLD)は党大会最終日の10日、最高決定機関である中央執行委員会の改選を行い、アウン・サン・スー・チー氏ら従来のメンバー7人に加えて8人を起用、15人体制に拡充した。

ただ、焦点だった中執委の若返りは限定的で、党の今後の具体的な活動方針も示されぬまま閉幕した。
党大会は1988年の結党以来初めて開かれ、NLDが2015年の総選挙で過半数獲得を狙う上での体制固めの行方が注目された。幹部人事ではスー・チー氏を党首に再選する一方、中執委は50~70代の8人を新たに加えることにした。

ただ、40代以下からは、補欠要員として2人が選ばれただけだった。スー・チー氏は閉会式後の記者会見で、「中執委は経験や知識が必要で、若い世代はまだ十分ではない」と説明したが、地方組織の代議員(32)は「若手の委員をもっと増やすべきだ」と語った【3月10日 読売】
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【「新しい血」を入れることへの「既得権層」の抵抗
党大会開催にあたっては、一部支部では混乱もあったようです。

*****ミャンマー:スーチー氏、組織再構築へ NLD党大会*****
ミャンマーのアウンサンスーチー氏率いる野党「国民民主連盟(NLD)」は8〜10日、最大都市ヤンゴンで全国党大会を開く。1988年の結党以来初の本格的な大会で、15年の総選挙に向け新指導部を発足させ、活動方針を打ち出す。スーチー氏の議長再選は確実だが、大会代議員選出を巡り一部の支部でゴタゴタがあり、スーチー氏は総選挙に勝利して大統領の座を得るためにも、組織の再構築を急ぐとみられる。

国民民主連盟のニャンウィン報道官によると、大会には全国から約900人の代議員が参集。中央委員(120人)を選出し、その中から最高指導部「中央執行委員会」(現在スーチー氏を含め7人)の委員を選ぶ。
だが昨年後半から今年初めにかけ、代議員選出を巡り西部イラワジ管区、中部マンダレー管区で主に新旧世代間の対立が表面化。街頭で数百〜1000人規模が「長く党に貢献してきたのに外された」「コネで選ばれている」などと抗議行動を起こし反発した。イラワジ管区では130人以上が脱党して新党を結成する騒動にも発展し、党大会は2度にわたり延期された。

国民民主連盟は長く軍政と対峙(たいじ)してきた。だが、11年3月の民政移管に伴い発足したテインセイン政権が矢継ぎ早に民主化改革を進める中、かつての結束と緊張感が緩み、「民主化勢力」としての方向感を見失いつつあるとの指摘もある。

ビジネス界などからは「国民民主連盟はまず自らの民主化に取り組むべきだ」と冷ややかな声も漏れる。中央執行委員会メンバーは全員が60歳以上。有能な人材の発掘や若返りによる組織の活性化は急務だ。若い世代の党内改革要求が相次ぐ中、代議員選出を巡る対立は、党幹部に「新しい血」を入れることへの「既得権層」の抵抗という構図もある。

ミャンマーでは次期大統領への「スーチー待望論」が根強い。だが、135以上の多民族で構成されるこの国で、国民民主連盟は多数派ビルマ族が主体。今も政府軍と少数民族カチン族武装組織が交戦する中、特にスーチー氏に「なぜ静観しているのか」と国内外から批判が出ている。問題解決に向けたスーチー氏や党への期待感の裏返しでもあり、党も「国民政党」への脱皮を迫られている。【3月7日 毎日】
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組織の若返りが十分に進まない背景には、“党幹部に「新しい血」を入れることへの「既得権層」の抵抗という構図”があるようです。

国民政党への脱皮 政権との距離
もうひとつの問題が少数民族問題へ対応、国民政党への脱皮という点ですが、新たに選出された中央執行委員8名のうち半数が少数民族出身という形になっています。

ただ、少数民族への配慮を重視すれば、少数民族への反感も強いビルマ族支持者の支持を失う恐れもあるということで難しい問題です。

もうひとつの重要な問題は、上からの民主化政策を進めるテイン・セイン政権との距離のとり方でしょう。

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式典には旧軍政下に翼賛政党として結成された政権与党「連邦団結発展党(USDP)」のテーウ副議長が来賓として出席。スーチー氏は「国家の将来にとり良いサインだ。手を携えれば国民の利益になる」と述べた。

党大会は、スーチー氏らが88年に民主化・反政府勢力を結集し発足させて以来初。与党幹部の出席は、軍政と民主化勢力が敵対した時代が過ぎ去ったことを演出した格好ともなった。【3月10日 毎日】
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「国民民主連盟(NLD)」の党大会に政権与党「連邦団結発展党(USDP)」から来賓が出席する・・・・驚くべき変化です。
“かつての結束と緊張感が緩み、「民主化勢力」としての方向感を見失いつつある”との指摘もありますが、方向としては、テイン・セイン大統領とともに民主化を推進するということでいいのではないでしょうか。

スー・チー氏が、民主化運動の象徴から現実政治化へ転進し、将来的には大統領としてミャンマーを導くのか、あるいは、理想は語ることはできても現実問題への対応はできないことをさらけ出すのか、今後の動向が気になるところです。
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