孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

ネパール  ただ今旅行中 旅はいつもトラブル

2013-03-10 21:00:49 | 中国
昆明空港は遠かった
2013年3月10日、ネパール一人旅行・・・・正確に言えば、ネパール・カトマンズへのフライトを中国・昆明の空港で待っています。
昨日9日に鹿児島から上海に着いて、上海から昆明に移動、昆明で1泊しました。

ネパールは十数年ぶりですが、アジア方面への旅行はある程度の回数だけはこなしてきていること、出発直前まで仕事の整理とかに追われバタバタしていたことなどで、緊張感があまりない“ぼんやりモード”

昆明の安宿はネットで予約・入金済みですが、移動・食事など多少のお金は必要です。ただ、前回までの旅行で残っていた中国の人民元、140元程度は持っています。帰路でも昆明で1泊する予定ですから、これでは足りませんが、宿泊費などは支払い済みですから多額は必要ありません。

空港で両替すると1回あたり50から60元(日本円で900円弱)の手数料をとられるため、小額の両替では手数料支払いのために両替するようなものです。「まあ、あとで考えよう・・・」と問題先送り。

それでも、上海での浦東空港から虹橋空港への移動も航空会社の無料バスチケットをゲットするなど、無難にこなし昆明に深夜10時半頃到着。
昆明も十年ほど前に雲南旅行で着たことがあります。空港は市内に近かったような記憶があります。そのときは空港の白タクに相場の倍以上の金額をぼられた記憶もあります。

(このあたりは、昆明からカトマンズに飛ぶ飛行機の中で書いています)
今回は白タクの誘いを無視して、正規のタクシー乗り場へ。
あいかわらずの“ぼんやりモード”でしたので、手持ちの人民元で行けるだろう・・・ぐらいにしか考えていませんでした。
安宿の名前・住所を書いた地図を見せますが、要領を得ません。聞いたこともない安宿のせいもありますが、あとで分かったのですが、私の書いた住所が間違っていたせいもあります。それでもなんとなく「OK」ということになり出発。

高速道路をひた走ります。こんな遠い空港だったかな・・・・?(これも後でわかったのですが、昆明の空港は昨年6月に市内から25kmはなれたところに新規オープンしたものだそうです。どおりで真新しい大きな空港でした)
メーターがどんどん上がります。
50元を超えますが、まだ市街は見えません。手持ちの140元で足りるだろうか?頭の中で警戒警報が点滅し、“サバイバル・モード”に入ります。

手持ちのお金を握り締めてメーターを見つめますが、無情にも上がり続けます。140元なんて日本円では2000円程度です。うかつでした。中国で100元も払えば相当の遠くまでいける・・・という感覚しかなかったものですから。
それはそうなんですが、新空港はそれ以上に遠かったようです。お金が足りなくなったら途中で降りないと・・・。でもそれからどうしよう?
とにかくホテルまで行って、ホテルで両替できれば・・・。いろんな場面を考えます。

ようやく高速を降りて市街に入りますがすでに100元を超えています。
たまらず、言葉の通じないドライバーに握り締めているお金を見せて大丈夫か聞きます。話を理解したのかはわかりませんが、大丈夫・・・・とのこと。

でも安宿の場所がわかりません。会社と連絡を取っていますが、それでもわからないようです。(私の書いた住所が架空の場所になっていたせいもあります)そうこうしているうちにもメーターは上がります。
ようやく着いたようで、「ここから20mほど路地を入ったところだ」とのこと。
金額を尋ねると、手持ち金額の140元。(今朝、市内から空港へは80元で行きました)。手持ち金を見せたので、その額全部を請求されたのかもしれませんが、一応メーターは120元近くまでなっていますし、高速料金もありますので大差はありません。

ホテルはどこ?救いの神現る
とにかく手持ち金の範囲で着いたことに喜んで指示された方向に歩きますが、目指す安宿は見当たりません。
警戒警報が赤ランプ状態となり、アラームが鳴り響きます。
夜中12時頃、暗い通りで一人、現地通貨なし、宿が見つからない・・・・、もうタクシーにも乗れません。

ちょうどそこに30歳ぐらいの男性がひとり建物から出てきましたので、すがる思いで、バウチャーに書かれたホテル名を見せて訊ねます。男性は、自分は知らないが、かかれているホテルの電話番号に電話してみるとのことで、建物に引き返します。

しばらくして出てきた男性は、案内するからついて来いとのこと。
喜んで着いていくと、「車に乗って・・・」と。「いや、今中国のお金の持ち合わせがなくタクシーは乗れない」と言うと、「いや、お金はいらない。私の車に乗って」 その男性の知り合いが運転する車で、少し走り、「ああ、あそこだ!」
先ほどの場所からそんな遠くではなかったようです。

日本では中国の評判は最悪ですが、なかにはこんな人もいます。もちろんひどい人もいるでしょう。日本でも同じです。
信じられないほどの親切に感謝して、目指すホテルにチェックイン。デポジットも日本円で払います。ミネラルウォーターを買うと、手持ち金ゼロ。なんとかしないと空港にも行けず、旅はここでストップしてしまいます。

日曜日 両替は?】
明日はどうしても両替をしないと。でも明日は日曜日。銀行は?ホテルの人は多分やっているとは言ってくれましたが。警戒警報の赤ランプは消えたものの、依然黄色のランプが点滅状態。
とにかく疲れました。持っていたピーナッツ菓子を少し食べて、寝ることに。

日付変わって3月10日、朝。
昨夜の親切な男性の出現もラッキーでしたが、今日の昆明からカトマンズへのフライトが昼過ぎの遅いフライトだったのもついていました。朝一番のフライトだったら両替する時間もなくアウトでした。
ホテル近くの中国銀行の前で開店の9時を待ちます。営業時間の表示では日曜日も業務を一部やっているようです。

もし、銀行で両替できないときは、向かいの大きなホテルのフロントで頼もうか・・・。それもだめなら、宿泊ホテルに戻って、誰か外国人客を捕まえて、僅かに持っている米ドルを両替してもらうように頼もうか・・・。あるいは、予備で持っている古いデジカメを誰かに買ってもらおうか・・・いろいろなケースを考えます。

いろいろ心配しましたが、9時にちゃんとオープンした中国銀行では、問題なく両替が出来ました。
これでようやく、“サバイバル・モード”から“観光モード”へ。
家族連れなどで賑わう近くの大きな湖の公園を散策。遅い朝食も。

トラブルにもめげず
そんな、こんなで今飛行機の中にいます。
今回は大事に至らずラッキーでした。
これまでも、旅行中いろんなトラブルにも出会いましたが、後から振り返れば笑い話です。
そのときは真っ青ですが。

今はカトマンズのホテルにいます。
街は相変わらずのカオスですが、大都会よりなんとなく落ち着きます。
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北朝鮮制裁 実効性は中国次第 中国独自の制裁措置も

2013-03-09 09:15:02 | 東アジア
強制力を増したこれまでになく厳しい内容
核実験を強行する北朝鮮に対して、国連安保理は中国を含む全会一致で、これまで以上に厳しい制裁を決定しています。

****北朝鮮制裁決議を採択=金融規制・貨物検査義務付け―全会一致で圧力強化・安保理****
国連安全保障理事会は7日午前(日本時間8日未明)、2月に3回目の核実験を行った北朝鮮に対し、制裁を大幅に強化する決議案を全会一致で採択した。北朝鮮との金融取引の規制や貨物に対する検査を国連加盟国に義務付けるなど、強制力を増したこれまでになく厳しい内容で、挑発行為を繰り返す北朝鮮に対し国際社会の断固とした姿勢を示した。

ライス米国連大使は採択後、記者団に対し北朝鮮が挑発行為を続ければ「制裁はますます厳しくなり、孤立は深まるだろう」と警告。中国の李保東国連大使は、「この決議は(北朝鮮の)核計画に反対する国際社会の新たな決意の表れだ」と強調し、制裁の「全面的履行」を加盟国に求めた。

常任理事国の米国と中国を中心にまとめた決議は、核実験を「最も強い表現」で非難。国連憲章第7章の下で、決議に法的拘束力を持たせた。
資産凍結や海外渡航禁止の対象となる団体・個人、禁輸品目の追加指定など既存の制裁を拡大する一方、新たな措置として、北朝鮮の核・弾道ミサイル計画などに貢献し得る金融サービスの提供や、資産の移動を阻止するよう加盟国に義務付けた。

また、北朝鮮に関係した貨物に禁輸品の疑いがある場合、加盟国は自国領内で貨物の検査を行うよう義務付けられた。こうした措置はこれまで加盟国への「要請」にとどまっていた。
このほか、外交官特権を悪用した不法活動を念頭に、北朝鮮の外交官に対する警戒を強めるよう加盟国に要請。安保理決議違反や制裁破りを手助けしたと判断される北朝鮮国籍の人物については原則、強制送還するよう加盟国に義務付けた。【3月8日 時事】 
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韓国との不可侵合意を破棄
当然のように、北朝鮮は“韓国との不可侵合意を破棄する”といった強い反発を示しています。

****北朝鮮、南北不可侵合意を破棄 制裁決議に反発****
北朝鮮は8日、国連安全保障理事会で対北制裁決議が採択されたことに反発し、韓国との不可侵合意を破棄するとともに南北直通電話も遮断すると発表した。

北朝鮮の祖国平和統一委員会(CPRK)は、国営朝鮮中央通信(KCNA)を通じて発表した声明で、「南北間の不可侵に関する全ての合意を無効化する」と宣言。さらに「韓国側に、南北直通電話もただちに遮断すると通告した」と述べた。【3月8日 AFP】
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なお、これに先立ち、北朝鮮は米韓合同軍事演習に抗議して“朝鮮戦争の休戦協定の効力を全面白紙化する”ことを発表しています。

****休戦協定を全面白紙化=板門店代表部の活動も中止―米韓演習に反発・北朝鮮軍****
北朝鮮軍最高司令部は5日、スポークスマン声明を出し、米韓合同軍事演習などを非難した上で、「重大措置を取る」として、米韓演習「キー・リゾルブ」が始まる11日から朝鮮戦争の休戦協定の効力を全面白紙化すると表明した。さらに、北朝鮮軍の板門店代表部の活動を中止し、米朝間の軍事電話も遮断するとした。朝鮮中央通信が伝えた。

休戦協定は事実上死文化しており、過去にも北朝鮮軍が「義務履行放棄」を表明したことはあるが、「全面白紙化」と宣言するのは初めてとみられる。(後略)【3月5日 時事】
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いつもながらの瀬戸際外交というか、恐喝外交です。

北朝鮮の最大の支援国である中国の真剣度が試される
常に指摘されるように、北朝鮮に制裁がどの程度実効を持つかは、北朝鮮の後ろ盾となって、経済的に北朝鮮を支えている中国の対応次第といいたところです。

****連安保理制裁決議 試される中国の真剣度****
国連安全保障理事会で7日に採択された北朝鮮の核実験に対する制裁決議の内容は、「国連の制裁では最も厳しい」(ライス米国連大使)との評価もある。だが、その実効性は加盟国の取り組み次第だ。とりわけ、北朝鮮の最大の支援国である中国の真剣度が試される。

これまでの決議で加盟国は、制裁を実施するための法整備など国内で取った措置について安保理に報告を提出することが求められている。だが、制裁違反を調査する安保理の専門家パネルが昨年5月にまとめた報告書によると、提出したのは93カ国(昨年3月現在)で、加盟国全体(193カ国)の半分以下。北朝鮮の核問題に無関心な国が多いのも現状だ。

新決議の目玉の一つは、加盟国への「要請」だった貨物検査の強化だ。禁輸物資を積んだ疑いのある北朝鮮出入りの貨物について、自国領域内での検査が義務化され、公海上での検査を拒否した船舶の入港を禁止することも義務となった。

専門家パネルの報告書では、昨年5月までの1年間で貨物検査を実施したとの加盟国からの報告は3件のみ。「義務化」に伴う報告の増加が期待されるが、加盟国が国内法に従って検査することに変わりはなく、検査内容や厳しさに差が生じる可能性はある。

一方、中国は北朝鮮と経済関係が深いだけでなく、大連港が禁輸品の積み替え港としてパネル報告書にたびたび登場。新型弾道ミサイルの移動式発射台車両を北朝鮮に輸出した疑いもある。中国の制裁実施への真剣度が問われるのは、こうした経緯があるためだ。

今回、強い内容の新決議に中国が同意した背景には「挑発行為を続ける北朝鮮への不快感があった」(国連外交筋)。だが李保東(りほとう)国連大使は7日の採択後、決議が制裁だけでなく、北朝鮮の核問題をめぐる6カ国協議再開に言及している点を強調。「目下の優先事項は緊張を緩和し、交渉に戻ること」と述べ、中国の基本姿勢に変化がないことを示した。
新決議が実効性を上げるためには、米国や日本、韓国による中国など他国への働きかけも問われる。【3月8日 毎日】
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【“不快感”の中国:独自に事実上の制裁
中国が北朝鮮支援を続けていることは事実ですが、一方で、中国の指導・助言を無視する形で続く昨今の北朝鮮の挑発行為に強い“不快感”も持っているのも事実のようです。
中国としての“独自の制裁”も報じられています。

****中国:北朝鮮核実験に事実上の制裁 輸出規定を厳格化**** 
北朝鮮による3度目の核実験(2月12日)を受け、中国が北朝鮮に対する輸出規定の運用を厳格化したうえ密輸の取り締まりを強化することで、核実験に対する事実上の制裁を加えていたことが分かった。

この結果、北朝鮮で食料価格が急上昇するなど、市民生活に影響が出ているという。核実験に対する国連安全保障理事会での制裁論議が大詰めを迎えるなか、最大の支援国・中国が単独で北朝鮮に圧力をかけた形で、北朝鮮はさらに態度を硬化させそうだ。

複数の中朝経済関係者によると、中朝貿易の拠点である中国遼寧(りょうねい)省丹東の税関で2月末ごろから、輸出規定が厳格に運用され、北朝鮮に向かうトラックの積載重量や品目などが詳細に点検されるようになった。以前には検査されることがなかった運転席や車両の下部も詳しく調査されるようになり、「北朝鮮への物資輸送を中国当局が妨害している」(貿易関係者)との指摘も出ている。この結果、北朝鮮への物流が大幅に滞っているという。

また、国境を流れる鴨緑江(おうりょくこう)下流域などで横行する密輸に対しても取り締まりが強化され、北朝鮮への食料や生活物資などの持ち込みが激減している。
密輸ルートで北朝鮮に運び込まれる食料は、コメや果物が多く、北朝鮮国内の価格は急騰。核実験以降、平壌の市場では1キロ当たり5500ウォン(実勢レートで約60円)だったコメが9000ウォン(約100円)▽ミカンが同1万5000ウォン(約160円)から2万5000ウォン(約270円)−−とはね上がり、市民生活を直撃しているという。

ただ、中国の圧力は限定的とみられ、中朝間の共同開発事業は続けられている。中朝共同で開発する黄金坪島(ファングムピョンド)(鴨緑江に位置する北朝鮮領の中州)をみれば、3月に入ってからも大型トラックが中国側から出入りを続け整地作業を進めるなど影響はみられない。

中国は北朝鮮に対する圧力を、税関手続きの厳格化などの形で加えながらも、北朝鮮経済を壊滅に追い込むような経済協力などの大きな枠組み面では変更しないとみられる。【3月7日 毎日】
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“中国の圧力は限定的”とは言いがらも、コメが6割ほども値上がりするというのは、市民生活への影響も大きいようにも思えます。思った以上に圧力をかけている・・・という感もあります。
ただ、北朝鮮の内情はまったくわかりませんので、判断もしにくいところです。
また、おそらく今回措置は、北朝鮮側に中国の不快感を伝える一時的なものなのではないでしょうか。

“血盟”関係の中国と北朝鮮の関係の現状は、外部からは窺い知れぬものがありますが、中国としては、北朝鮮が中国の意に従わないこと、それによって面子をつぶされること、また朝鮮半島の緊張が高まることなどについては苦々しく思っているところでしょう。最近は中国国内でも北朝鮮に対する強い対応を求める声も出ているとか聞きます。
ただ、一方で軍部や党指導層において北朝鮮との強固な人脈があることも指摘されています。

経済・資源などで北朝鮮の生命線を握る中国としては、少なくとも、緩衝地帯でもある北朝鮮の体制崩壊につながるような不安定化は望んでいませんので、制裁措置とはいってもおのずと限定的なものになることは予想されます。
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中国 温家宝首相、最後の活動報告 にじむ無念と不満 置き去りにされた民衆

2013-03-07 22:43:56 | 中国

(全人代で活動報告を行う温家宝首相 【3月5日 新華社新華網】http://big5.xinhuanet.com/gate/big5/jp.xinhuanet.com/2013-03/05/c_132209541.htm

政治体制改革の決意表明にも拍手なし
5日に北京・人民大会堂で開幕した中国の国会にあたる全国人民代表大会(全人代)で、温家宝首相が引退を前に、最後の政府活動報告を読み上げました。

庶民的なイメージで慕われた温家宝首相ですが、天安門事件の再評価や中国政治を揺るがした薄煕来事件を巡る論議を含め、任期中しばしば口にした改革の訴えは現実政治の壁を崩すにはいたりませんでした。
温家宝首相に対しては、そうした実績が伴わないことで、“口先だけ”の批判もあります。
最後の舞台での改革の訴えも、大きな共感を得るには至らなかったようです。

****中国全人代:温首相、引退前に無念にじむ…活動報告****
中国・北京の人民大会堂で5日開幕した全国人民代表大会(全人代=国会)で、温家宝首相(70)が引退を前に、最後の政府活動報告を読み上げた。庶民的なイメージから「平民宰相」として人気も高かった温氏。

2期10年の在任中に世界第2の経済大国となった実績などを強調した。だが、温氏が訴え続けてきた政治体制改革は遅々として進まず、むしろ無念さがにじむ内容となった。
「権力が過度に集中し、制約を受けていないという状況に対し、制度面から是正する」。壇上の温氏が強い口調で政治体制改革の決意を示しても、拍手はなかった。

温氏は可処分所得の増加や高速鉄道網の整備など経済発展による成果をアピールした。同時に、貧富の格差拡大や官僚の腐敗など「経済・社会の発展に多くの矛盾と問題が存在していることを我々ははっきりと認識している」と述べ、改革が道半ばであることを率直に認めた。

03年の全人代で首相に就いた温氏は近年、「政治体制改革の保障がなければ、経済体制改革の成果も失われる」と、政治体制改革の必要性に何度も言及した。土地の強制収用問題では陳情者から話を直接聞いた。08年の四川大地震では、発生の数時間後に現場に到着。避難所で被災者の訴えに熱心に耳を傾ける姿が「国民に寄り添う首相」を印象づけた。

だが、改革は思うようにはいかなかった。汚職などの規律違反で処分された官僚は昨年は約16万人。昨春には薄熙来重慶市党委書記(当時)による汚職事件が発覚し、政治的混乱も招いた。改革に積極的な言動は保守派の反発も強かったとされ、「指導部内で孤立している」とも評された。昨秋には米紙ニューヨーク・タイムズが親族の不正蓄財疑惑を報道。即座に否定したが、温氏本人に「負」のイメージが残った。

活動報告は前年の33ページから27ページに短縮され、読み上げ時間も例年は2時間を超えていたのが今回は1時間45分で終了した。習近平指導部は会議の簡略化など無駄をなくすよう求めており、報告の短縮も指導部の意向に沿ったものとみられる。

報告を終えた温氏は壇中央に歩み寄り、約2970人の全人代代表に向かって3回深くお辞儀をした。会場の拍手は12秒間続いた。【3月5日 毎日】
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保守、民族主義路線への不満
改革を実現できなかった“無念さ”は、現状への“不満”でもあります。
今回の温家宝首相の活動報告は、習近平総書記の進める“政治運動”や、党内の管理強化に対する批判とも指摘されています。
また、習近平総書記の対日政策に関する強硬姿勢にも、温家宝首相には強い不満があるようです。

****全人代、温首相報告 「遺言」で習路線批判 真っ向対立 改革回帰訴え****
5日に開幕した全国人民代表大会(全人代=国会)で、温家宝首相が読み上げた政府活動報告の行間からは、習近平共産党総書記が推進する保守、民族主義路線への不満がにじみ出ていた。
党内最大の「改革派」といわれる温首相は、政治の表舞台における最後の発言機会を使って、改革路線への回帰を強く訴え、習指導部を牽制(けんせい)した。

党内で深刻化している腐敗問題について、温首相は「権力が過度に集中し、制約を受けていない状況に対し制度面から是正を行うべきだ」と訴えた。「制度改革」を何よりも重視する温首相は、習氏が主導する政治運動のような反腐敗、反浪費キャンペーンを暗に批判したものとみられる。

温首相はまた、「民主的な監督、法律に基づく監督、世論による監督を堅持し、権力のオープンな運用を実現する」と強調した。この主張は、党員に対するモラル教育や党による管理、監督の強化を打ち出す習総書記の方針と真っ向から対立したものといえる。

さらに、最近5年の中国外交について「主要国との関係を積極的に推進し、周辺諸国との互恵協力関係を強化した」と総括した。沖縄県・尖閣諸島をめぐる日本との最近の対立には触れなかった。昨年秋以降、習氏が主導した対日強硬外交を完全に無視することで、不快感を表明したととらえられている。共産党筋によれば、温首相は1月末のある会合で「数十年間推進してきた善隣友好外交が一瞬にして台無しになった」と習氏の外交路線を批判したという。

習氏が党総書記に就任した昨年11月以降、太子党(高級幹部子弟)関係者による不動産投資が活発化し、主要都市部の不動産価格が高騰、胡錦濤政権が力を入れてきた不動産価格抑制策が破綻したことにも大きな不満をもっているという。この日の報告でも「投機的な住宅需要を断固抑制しなければならない」と力を込めた。

政府活動報告は、温氏周辺の官僚らで構成する専門チームが執筆。最後となる今年の報告をめぐって温首相は何度もチームのメンバーと面会し、細かい指示を出していたという。共産党筋は「今年の報告は温首相の政治的遺言のようなものだ」と語った。(後略)【3月6日 産経】
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期待を置き去りにされた民衆の失望
最初にも触れたように温家宝首相の評価は様々ですが、改革の必要性を重視した温首相が政治の表舞台から身を引くことに関しては、残念な感があります。
下記記事は、温家宝首相への人々の期待、首相の良識、しかし変わらぬ現実、置き去りにされた民衆・・・を示すものです。

****全人代2013)温体制、民心なき10年「官と官はかばい合い、官と商が結託する****
有人宇宙飛行や高速鉄道などで突破口を開き、北京五輪や上海万博を成功させた――。5日、全国人民代表大会(全人代)で首相として最後の政府活動報告を行った温家宝(ウェンチアパオ)首相は胸をはった。しかしその陰で、期待を置き去りにされた民衆の失望は深い。

 ■陳情したら拘留
真夜中の山道に、三十数人の農民がひざまずいた。昨年9月8日午前2時すぎのことだ。温首相の車列が迫っていた。
中国雲南省北部の彝良(いりょう)県。その前日にマグニチュード5・7の地震が襲い、80人以上が犠牲になった。農民たちは軍が拠点にする大型テントの設置にかり出され、川沿いの村まで戻る途中だった。
「北京から指導者が視察に来るらしい」。誰かが聞きつけ、陳情を試みようという話になった。自分たちの農地が、地元政府に安く買いたたかれたことに、怒りがたまっていた。

農民の胡衣靱さん(65)が当時を振り返る。二十数台の車列の何台目かが止まり、小柄な初老の男性が出てきた。温首相だ。「平民総理」と慕われていた。みなの表情が明るくなった。
「何事ですか。立ち上がってください」。温首相が語りかけると、農民の中で標準中国語が上手な女性の梁永蘭さん(29)が前に出た。農地が工場建設のため安く強制収用され、抗議した83歳の老人を含む17人が拘束された、と訴えた。
「あなたたちの行動は法にかなっている」。温首相は1枚の紙を取り出し、梁さんに名前と村の地名を書かせて、言った。「責任者に調査させ、必ず満足出来る答えを出す」

だが、11月19日夜。梁さんが自宅でテレビを見ている時だった。十数人の私服警官が押し入ってきた。令状も何もない。連行され、7日間の拘留を告げられた。陳情したうちの4人の農民にかけられた容疑は、以下のようなものだ。
「温首相の車列の通行を妨げたことは、深刻な政治的影響をもたらし、社会に悪質な影響を与えた」
「温首相と話したのは、3~5分程度だった」。梁さんは車列以外に通行する車はなかったとも主張したが、聞き入れられない。

梁さんは9カ月前を思い出した。土地収用に抗議したら4人の警官に殴られ、5日間拘留された。「納得できなくても、受け入れるしかない」。恐怖心から書類にサインし、拘留された。
1千元(約1万5千円)の保釈金を払い、翌日夜に釈放されて知ったことだが、実際に拘留されたのは自分1人だった。見せしめだったのかもしれない。

 ■生活プラン示さず
農地は奪われたままだ。かつては、なだらかな丘にある約0・5ヘクタールの畑にサトウキビやサンショウ、野菜を栽培し、年約8万元(約120万円)の安定した収入があった。しかし、工場建設予定地となり、地元政府が支払った補償は約17万元(約255万円)だ。

農民は職も失った。「収入がないので、出稼ぎへ行くしかない」と梁さん。長距離トラック運転手の夫とも別居になる。夫も月に2~3日しか家に戻れないので、夫の母親に預ける8歳と6歳の子供は事実上、中国の出稼ぎ農村で問題になっている両親不在の「留守児童」になってしまう。

「生存権の問題だ。農民から土地を取り上げ、その後の生活プランも示されない」。胡さんは唇を震わせる。共産党が管理する地元メディアも農民の立場では報じない。胡さんは力なく言う。「官と官がかばいあい、官と商が結託する。中国はそういう社会だ」

彝良県政府は朝日新聞の取材に、「土地の価格は場所による」と語る。しかし、土地収用後に農民がどう生きていったら良いのかは語らない。
政府の横暴、法治の欠如、失業、留守児童、報道の自由のなさ、一党独裁の弊害――。雲南省の山村で起きたこの一件は、中国がかかえる矛盾をさらけ出した。これらは、中国のどこにでも存在し、温首相が在任した10年間、民衆が解決を望んだ問題だった。

温首相は昨年の全人代会見では、「政治体制改革が成功しなければ、経済体制改革は徹底できない。これまでの成果も失われ、文革の悲劇が繰り返される恐れがある」とまで言った。
しかし、既得権益層に阻まれたのか、政治体制改革はおろか、法に基づいた公正な社会の実現すらおぼつかなかった。
温首相が今年の全人代で引退することを知り、梁さんは肩を落とした。「私たちの一件はどうなるんでしょう」【3月6日 朝日】
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ベネズエラのチャベス大統領死去  アメリカの思惑 キューバの懸念

2013-03-06 21:57:14 | ラテンアメリカ

(昨年7月31日ボゴタで ベネズエラ・チャベス大統領 ブラジル・ルセフ大統領 ウルグアイ・ムヒカ大統領 アルゼンチン・フェルナンデス大統領 チャベス大統領は良くも悪くも、大きな存在感のある政治家でした。 “flickr”より By Diario El Universo  http://www.flickr.com/photos/eluniversocom/8531632687/in/photostream/

ウゴ・チャベス大統領死去
周知のように、南米ベネズエラのチャベス大統領が亡くなりました。

チャベス大統領は昨年6月にがんが発覚。以後、キューバで手術や治療を続けてきました。
キューバから帰国して昨年10月に4選を果たしたものの、12月にはキューバで再度の腫瘍摘出手術を受け、そのままキューバで治療を続行。大統領就任式も無期限延期となっていました。

そのチャベス大統領が2月18日に突然ベネズエラに帰国。首都カラカスの軍病院で、化学療法などによる治療を受けているとされていましたが、公に姿を見せることはなく、その安否・容態が取り沙汰されていました。

恐らくキューバからの突然の帰国は、もはや我が身の長くないことを覚悟して、せめて祖国で最期の日を迎えたいとの思いからのものだったのでしょう。

*****ベネズエラのチャベス大統領が死去*****
ベネズエラのウゴ・チャベス大統領が5日、死去した。58歳だった。同国のニコラス・マドゥロ副大統領が発表した。
マドゥロ副大統領は国営テレビで「われわれは最も厳しく、最も悲劇的なニュースを得た。ウゴ・チャベス大統領が本日午後4時25分(日本時間6日午前5時55分)、死去した」と述べた。

大統領の死去を受けて同国の政治情勢の先行きが不透明になった中、マドゥロ副大統領は国営テレビで「国民に寄り添って国民を守り、平穏を保証するため」に、軍と警察の特別動員を始めたことを明らかにした。
チャベス氏は昨年12月にキューバで2011年6月以降4度目となるがんの手術を受けた後、ベネズエラ国内で化学療法を続けるため2月18日に帰国していた。

チャベス氏は昨年10月の大統領選で野党統一候補のエンリケ・カプリレス氏を破って4選を果たしていたが、今年1月10日に予定されていた就任式は無期限に延期されていた。
ベネズエラ憲法は大統領の死去から30日以内に大統領選を実施すると定めている。ベネズエラ国民は14年ぶりに候補者名簿にチャベス氏の名前がない大統領選を迎えることになる。【3月6日 AFP】
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極端な反米的言動で話題となることが多かったチャベス大統領の評価については、“バラマキ”とも批判される施策や強権的政治手法もあって、立場により見方がわかれます。

****反米強硬派、権力に固執=国民意見分裂招いたチャベス氏****
「ベネズエラ再興の時が来た」と華々しく大統領選に初勝利し、群衆を熱狂させた昔の雄姿とは裏腹に、晩年は権力にしがみつこうとする姿勢が目立った。貧困層からの支持は最後まで圧倒的だったが、「終身独裁」へなりふり構わず政敵をつぶそうとする政治手法に、拒否感を持つ国民も少なくなかった。【3月6日 時事】 
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今後30日以内に大統領選挙 チャベス流政治の継承は?】
後任を選ぶ大統領選挙については、チャベス氏から後継者に指名されているマドゥロ副大統領と、昨年10月の選挙でチャベスに善戦したカプリレス・ミランダ州知事の対決になるものと見られています。

チャベス氏は12月にキューバへ向かう前に、この日が来ることを予期していたかのように、テレビ演説でマドゥロ副大統領を自身の後継者に指名していました。
“ただ大統領は、まるで遺言にも見える今回のテレビ演説で、マドゥロ氏が自身の後継者になることに期待感を示し、次期大統領選でマドゥロ氏に投票するよう国民に促した。大統領は「マドゥロを大統領に選んでもらいたい。心からお願いする」と国民に語りかけた。”【12年12月 12月9日 AFP】

一方、カプリレス氏は昨年10月の選挙で野党統一候補としてチャベス氏と争い、石油収入を原資とした施策で貧困層に根強い人気を誇るチャベス氏に敗れはしたものの、チャベス流の“バラマキ”や強権的政治手法を批判して44.9%の支持を集め、高失業率や物価高に苦しむ中産階級の不満の受け皿となっています。

****チャベス大統領死去 後継、反米と親米対決****
チャベス大統領の死去に伴い、ベネズエラではマドゥロ副大統領が当面、職務を臨時代行する。その死去が周辺国に与える影響は大きい。今後30日以内に手続きが行われる大統領選では、後継に指名されたマドゥロ氏と、前回大統領選で敗北した野党統一候補、カプリレス・ミランダ州知事の対決になるとみられる。

マドゥロ氏が当選した場合、豊富な石油資源を背景にキューバやニカラグア、ボリビア、エクアドルといった反米の中南米諸国を束ね、チャベス氏同様、米国に激しく敵対するとみられる。
ただ、2006年9月の国連総会演説で、ブッシュ前米大統領を「悪魔」と呼ぶなど、独特の反米パフォーマンスで知られたチャベス氏ほどのカリスマ性はマドゥロ氏にはない。反米同盟の勢いは衰えるとの見方が強い。

一方、カプリレス氏は対米関係改善を目指す。カプリレス氏が当選した場合、中南米諸国の反米勢力は「空中分解」を余儀なくされ、地域情勢が劇的に変わるのは確実だ。(ニューヨーク 黒沢潤)
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アメリカ:中南米での巻き返しを狙う
当然ながら、アメリカはこの機にチャベス政治が終焉し、中南米情勢が変化することを期待しています。

****米国:ベネズエラ大統領選の行方注視 チャベス氏死去で****
オバマ米政権は、反米左派諸国の「盟主」だったベネズエラのチャベス大統領の死去を受けて行われる大統領選の行方を注視している。現体制に不満を抱いてきた野党勢力が勝利すれば、両国関係の改善が進み、中南米で低下の一途だった米国の指導力を回復するきっかけになると考えているからだ。

チャベス氏の容体悪化が伝えられた5日、米国務省のベントレル報道部長は記者会見で、今後30日以内に行われるベネズエラ大統領選について「自由で公平である必要がある」と述べた。米政府は「自由で公正な選挙」で野党候補が勝利すれば、ベネズエラを軸とする中南米の反米左派諸国の結束にくさびを打ち込めると考えているとみられる。

ベネズエラの政策転換を待ち望む米国の心理は、歴史的には「裏庭」視してきた中南米全域における影響力低下の裏返しだ。
米国は94年、米南部マイアミにキューバを除く米州34カ国の首脳を集めて米州首脳会議の枠組みを創設し、米主導の中南米秩序の形成を目指した。だが、キューバの出席に米国だけが反対し続けた結果、昨年4月にコロンビアで開催された第6回会議は、チャベス氏、エクアドルのコレア大統領、ニカラグアのオルテガ大統領ら米州ボリバル同盟(中南米8カ国)の首脳が相次いで欠席。空洞化が浮き彫りになった。

米州ボリバル同盟は、チャベス氏とキューバのフィデル・カストロ国家評議会議長(当時)らが04年に設立した反米左派の国家同盟で、米中心の秩序形成に公然と反旗を翻している。
米国内では保守派を中心に、チャベス氏の死去を機にボリバル同盟を弱体化させるべきだとの意見が根強い。だが、中南米33カ国は11年12月、中南米カリブ海諸国共同体(CELAC)を「米国抜き」で発足させるなど独自の地域統合を進めており、事態が米国のもくろみ通りに進む保証はない。【3月6日 毎日】
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世界の警察官よりは自国の経済優先の姿勢とも見られるアメリカ・オバマ政権にとっては、中南米との関係再構築は非常に大きな意味を持ちます。

****中南米で巻き返す米国****
経済関係強化の軸は「TPP」

・・・・ベネズエラが大統領交代に動く中、ワシントンも主敵の退場を機に「中南米政策のリセット」を図っている。
「一期目のオバマ政権は、中南米で大きくつまずいた。ベネズエラやキューバと、中途半端に対話しようとして失敗し、ブラジルには何度も煮え湯を飲まされた。政治でも経済でも、大きなチャンスを失った」と、在ワシントン政治記者が言う。

二期目はその誤りを繰り返さないよう、オバマ政権は経済優先で臨む。その軸が、環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)である。
TPPは日本では、「事実上、日米の自由貿易協定」と解釈されることが多いが、米国から見ると、カナダとメキシコの三国で構成する北米自由貿易協定(NAFTA)に、チリとペルーの南米二カ国を加える性格を持つ。もし実現すれば「中南米地域の政治経済学を大きく変える可能性があり、南米の盟主ブラジルに対抗する、新たな軸ができる」(米外交問題評議会のシャノン・オニール研究員)こともあり、オバマ政権としては、日本の参加を待たずに早急に決着させたい課題だ。

関係強化を急ぐ背景には、中南米経済の躍進がある。米議会調査局の調べでは、一九九八年から二〇〇九年までの間に、米国と中南米との貿易額は八二%も増加し、対アジア貿易の増加率(七二%)や対欧州連合(EU)貿易の増加率(五一%)をしのいだ。近年はさらにその傾向が加速し、一一年の対中南米貿易は前年比で二〇%も増えた。

ところが、増加の大半は南隣のメキシコとの貿易に負っている。今やメキシコは米国の対中南米貿易の六割を占めているのに、ブラジルなど南米各国との貿易はそれほど伸びていない。ブラジルは中国が最大の貿易パートナーで、米国の出遅れが目立っていた。「経済再建」を目指すオバマ政権にとって、絶好のチャンスを見逃している格好だ。オバマ大統領自身は一期目からすでに、「米国は中南米諸国のパートナーであり続けなければならない」(チリ訪問時での演説)と強調していた。(後略)【選択 2月号】
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キューバ、ニカラグアにとっては死活問題
ベネズエラの今後がアメリカ以上に重要な意味をもつのが、これまでチャベス政権から巨額の支援を受けていたキューバやニカラグアでしょう。

****チャベス大統領死去:反米左派諸国に大きな不確実性****
・・・・マドゥロ氏はチャベス路線継承が確実視されている。野党候補が勝利した場合、中南米カリブ地域の反米左派政権に対する石油などの援助は、大幅に刈り込まれる見通しだ。そうなれば、キューバやニカラグアは深刻な経済危機に直面する。

05〜11年、チャベス政権は世界40カ国以上に820億ドル(約7兆6600億円)に及ぶ経済支援を行った。キューバは285億ドル、ニカラグアは97億ドルと突出している。
ベネズエラの支援が途絶えれば、90年代前半にソ連が崩壊して石油輸入が途絶え、経済が大幅に縮小して餓死者も出た状況に後戻りしかねない。

キューバ政府は数年前から首都ハバナ沖の海底油田開発を積極化しているが、試掘の結果は思わしくない。
中米ニカラグアのオルテガ政権は、ベネズエラの支援を原資に貧困層対策を拡充し公共料金を低く抑えて、支持層を固めてきた。ベネズエラの支援途絶は政権の危機に直結することになる。【3月6日 毎日】
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アメリカの思惑、キューバなどの懸念も次期大統領選挙結果次第ですが、“ロイター通信によると、最近の世論調査では、「チャベスの後継者」としてマドゥロ氏有利の結果が出た。石油収入還元政策で生活が改善した貧困層の親チャベス感情の反映だ。”【同上】とのことです。
日本らな“弔い選挙”といったところでしょうが、南米ベネズエラではどうでしょうか?

なお、こんな話も。
****チャベス氏死去「米の陰謀」?=「怪しい病気」とイラン大統領****
ベネズエラのチャベス大統領死去を受け、同盟国イランの盟友アハマディネジャド大統領は6日、ベネズエラのマドゥロ副大統領に哀悼の書簡を送り「怪しい病気で殉教した」との見方を示した。

チャベス大統領は2011年、南米指導者にがんが次々見つかったことを踏まえ「(米国が)がんを誘発する技術を開発しても、おかしくはない」と陰謀説を唱えた。マドゥロ副大統領もチャベス氏の死の直前、「敵」の陰謀に言及。アハマディネジャド大統領もこれに同調した格好だ。【3月6日 時事】
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シリア  「対話への意欲」? 周辺国への波及 イスラム原理主義武装組織「ヌスラ戦線」の存在

2013-03-05 22:43:58 | 中東情勢

(2月21日 首都ダマスカス アサド政権与党バース党の事務所付近で起きた反体制派によるとされる自動車爆弾テロ こうしたテロについて、反体制派は政権による自作自演と主張しています。“flickr” By cassandra.brooks90 http://www.flickr.com/photos/93445641@N04/8495862372/
 
【「対話を望むすべての者と対話する用意がある。たとえ武器を手にしていてもだ」】
内戦が続くシリアのムアレム外相は2月25日、ロシアのラブロフ外相との会談で、「改革は虐殺ではなく対話によってのみ達成される。我々は対話を望む全ての勢力と話し合う用意がある。たとえ(相手が)武器を手にしていてもだ」と表明。また、内外の反体制派との対話を行うため首相を長とする政府委員会を創設したとも語っています。【2月25日 毎日より】

武装した状態の反体制派と話し合いを行う用意があることを表明した点では、これまでより踏み込んだ発言ですが、反体制派やアメリカの公式的な反応は芳しくないようです。

****シリア外相、反体制派との対話の「用意ある****
2年に及ぶ衝突を終わらせるための「次のステップ」を話し合う国際会合に向けた外交交渉が活発化する中、アサド政権のワリード・ムアレム外相は25日、シリア政府に武装反体制派と話し合いを行う用意があると表明した。

モスクワで行われた会談でムアレム外相は、「対話を望むすべての者と対話する用意がある。これには武装している者も含まれる」とセルゲイ・ラブロフ露外相に述べた。シリアの閣僚がこのような提案を行うのは初めて。

ロシア政府は反体制とシリア政府に対し、紛争終結に向けた直接交渉を行うよう再度呼び掛け、軍事的な勝利を目指すことはシリアの破壊につながる危険性があると忠告した。ロシアは、シリア政府と関係を維持している数少ない大国の1つだ。

またジョン・ケリー米国務長官は、ムアレム外相の対話の呼び掛けに対し「スカッド(ミサイル)がアレッポの罪なき人々に降り注ぐ中で、対話の用意があるという彼ら(シリア政府)の発言を真剣に受け止めることは、極めて困難なことであると思える」と訪問先のロンドンで語った。

反体制派の自由シリア軍(FSA)のセリム・イドリス参謀長も、「殺りくが中止される、または都市部からの軍隊の撤退があるまで、アサド大統領やその徒党らと交渉の席に着くことはない」と、中東の衛星テレビ、アルアラビーヤで語った。

一方で、同盟9か国を歴訪中のケリー国務長官は25日、ローマで28日に開かれる「シリアの友人たち」へのボイコットを表明していたシリア反体制派の説得を行い、反体制派の会合参加を取り付けた。【2月26日 AFP】
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反体制派の方は、武器供与をためらう欧米諸国による支援を不十分として、国際支援会議をボイコットすることを表明していましたが、上記記事にあるように結局参加はしたようです。
また、独自の暫定政府づくりを進め、今月初めにも首相選出を行うことを表明していましたが、これについても延期しています。

****シリア暫定政府の首相選出を延期 反体制派「国民連合****
シリア反体制派の代表組織「シリア国民連合」は2月28日、今月2日にトルコ・イスタンブールで予定していたシリア暫定政府の首相選出を延期した。新たな日程は決まっていない。
シリア反体制派の複数の関係者が朝日新聞に語った。
欧州、中東を歴訪中のケリー米国務長官が国民連合のハティブ議長に電話で延期を求めたという。ケリー氏は「暫定政府は、政権と反体制派双方で構成すべきだ」との考えを示したという。(カイロ) 【3月2日 朝日】
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アサド政権の後ろ盾ロシアとアメリカは、電話首脳会談で“暴力の即時停止と政治的移行の必要性で一致した”とのことです。まあ、必要性を否定する者は多くないでしょうが、問題はその具体的プロセスです。
オバマ・プーチン両者の間でどのようなやり取りがなされたのかはわかりません。

****シリア:「暴力即時停止が必要」米露首脳、電話協議で一致****
オバマ米大統領は1日、ロシアのプーチン大統領と内戦状態のシリア情勢などを電話で協議し、暴力の即時停止と政治的移行の必要性で一致した。米ホワイトハウスとロシア大統領府が同日、発表した。電話協議は米側の要請で行われた。

シリア情勢を巡っては、ケリー米国務長官とロシアのラブロフ外相が2月26日、訪問先のベルリンで会談し、アサド政権と反体制勢力の対話実現に向けて協力することで合意した。ホワイトハウスによると、両首脳は電話協議で外相会談の成果を確認し、両外相が引き続きシリア情勢に関与することで一致した。
シリア情勢では、米側がアサド政権の早期退陣を求めているのに対し、ロシア側はアサド政権の事実上の後ろ盾になっている。(後略)【3月2日 毎日】
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こうした、アサド政権側、反体制派、アメリカ、ロシアの一連の動きの結果、“暴力の即時停止と政治的移行”への道筋が少しでも具体化してきたのか・・・という肝心の点は、定かではありません。

レバノン・スンニ派の武装化 イラク・サドル師派の参戦
シリア情勢の混迷は、隣国イラク・レバノンにも波及します。
キリスト教とイスラム教、ユダヤ教の計18の宗教・宗派が入り組み、親シリア・反シリアが国内勢力の最大の対抗軸となっているレバノンでは、アサド政権を支援するシーア派「ヒズボラ」のシリアへの関与などは以前から報じられていますが、これに対抗する形でスンニ派勢力の動きも活発化しているようです。

****レバノン:スンニ派住民に武装の動き シリア内戦が波及*****
レバノンの有力なスンニ派聖職者アハマド・アシール師が、南部サイダで毎日新聞のインタビューに応じ、シーア派武装組織ヒズボラに対抗するため、スンニ派住民らに武装組織設立の動きがあることを明らかにした。

アシール師は「ヒズボラのシリア内戦への介入が、シリアの一般市民に同情的な若者たちを刺激している」と指摘。アシール師の発言は、シリア内戦の波及が懸念されるレバノンが一触即発の状態にあることをうかがわせた。
レバノンでは、内戦状態のシリアのアサド政権支持者が多いシーア派と、反体制派に同情的なスンニ派の緊張が高まり、衝突も散発している。(後略)【3月2日 毎日】
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一方、激動の中東情勢にあって、相対的に安定感すら感じられるイラクですが、シーア派である「サドル師派」のシリア反体制派攻撃、逆にシリア反体制派によるイラク領内での攻撃などが報じられています。

****サドル師派参戦」と非難=イラク国内で報復も―シリア反体制派****
内戦が続くシリアの主要な反体制武装組織「自由シリア軍」幹部のアンマル・アルワーウィ大佐は4日までに、時事通信の電話インタビューに応じ、イラクのイスラム教シーア派反米強硬指導者ムクタダ・サドル師の影響下に置かれた部隊が、戦車や戦闘機を動員して自由シリア軍に対する攻撃に加わっていると非難し、「イラク国内での軍事的な報復攻撃も辞さない」と警告した。

大佐によると、自由シリア軍は2日、アサド政権側部隊から北東部の対イラク国境にあるヤアルビア国境検問所を奪取した。自由シリア軍が前進した際、イラクの部隊が戦車や戦闘機を使って自由シリア軍側を攻撃し、7人が死亡したという。【3月4日 時事】
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****シリア兵ら40人超殺害=イラク西部で待ち伏せ攻撃****
イラクからの報道によると、同国西部アンバル州アカシャトで4日、武装勢力がシリア人の車列を襲撃し、シリア兵やシリア政府職員計40人とイラクの警備要員数人を殺害した。【3月5日 時事】
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この攻撃でイラク軍兵士9人も殺害されたようです。殺害されたシリア政府職員らは反体制派の攻撃から逃れてイラク領内に入り、イラク軍によって国境の別の地点に移送される途中だったとのことです。

ラッカを攻略した反体制派の主力は、アルカイダ系のヌスラ戦線などイスラム原理主義武装組織
シリア国内の戦闘状況については、反体制派が北部主要都市ラッカをほぼ制圧したと報じられています。
反体制派による主要都市制圧は初めてのことになります。

****シリア:反体制派、主要都市を制圧か 北部ラッカも****
在英のシリア反体制派組織「シリア人権観測所」によると、シリア反体制派は4日までに北部ラッカをほぼ制圧した。反体制派武装組織「自由シリア軍」幹部も毎日新聞の電話取材に「一部で政府軍が抵抗を続けているが、ほぼ制圧した」と話した。事実なら、11年3月に武力衝突が始まって以来初めて、反体制派が主要都市を制圧したことになる。(中略)

ロイター通信によると、ラッカを攻略した反体制派の主力は、国際テロ組織アルカイダ系のヌスラ戦線などイスラム原理主義武装組織との情報もある。(後略)【3月5日 毎日】
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問題は上記ラッカ制圧でも見られるように、国際テロ組織アルカイダ系のヌスラ戦線などイスラム原理主義武装組織が反体制派内で戦闘力の面で大きな存在となっていることです。
欧米諸国が反体制派への武器供与を躊躇しているのも、こうした勢力へ武器が渡ることを危惧していることが大きな理由です。

アサド政権のムアレム外相はラブロフ露外相との会談で、反体制武装勢力「ヌスラ戦線」がロシア南部チェチェン共和国を含む28カ国の武装勢力をシリアでの戦闘に参加させていると批判し、「テロとの戦いは継続する」と語っています。

****アルカイダ系勢力活発化 シリア 自爆攻撃を多用、大量処刑も ****
内戦状態のシリアで、アサド政権に対して、自爆攻撃や大量処刑など、イスラム過激派に特有の手法が目立ってきた。こうした現状に、反体制派「自由シリア軍(FSA)」幹部は本紙の取材に、国際テロ組織アルカイダ系勢力などが活動していると証言した。隣国イラクで大規模なテロを繰り返している勢力などが流入した疑いがあり、懸念の声が上がっている。

八日夜、首都ダマスカス近郊ハラスタにある政府軍の基地で二回の自爆攻撃があり、多数の死者が出たもようだ。AFP通信などが伝えた。
「ヌスラ戦線」を名乗るイスラム過激派が声明を出し「イスラム教徒を弾圧、殺害した者たちへの復讐(ふくしゅう)だ」と主張。九トンの爆発物を積んだ車と爆発物を仕掛けた救急車を使ったと説明した。
三日にも、北部アレッポで四十八人が死亡した自爆攻撃や車爆弾テロについて、ヌスラ戦線が実行を認めている。ヌスラ戦線は、シリア危機の以前は確認されなかった組織で謎が多い。自爆攻撃などはシリア反体制派が使わない手法だ。

反体制派「自由シリア軍(FSA)」幹部のアブドルカリーム大佐は電話取材に「ヌスラ戦線はアルカイダ系組織だ」と断言。「裁判もせず処刑するなど、彼らのやり方は革命のイメージを損ねる。この手のグループとは協力していない」と困惑する。国外から流入した過激派は、他の勢力を含めて数百人規模とみる。

アサド政権の中枢を占めるのはイスラム教シーア派の一派とされるアラウィ派。シーア派を敵視するアルカイダ系組織のヌスラ戦線が、拠点を築く目的で、内戦状態に陥ったシリアに入り込んできた可能性がある。
イスラム過激派に詳しいカイロ在住ジャーナリストのムハンマド・サラ氏は「戦闘員の主力はイラクからで、イエメンなどアラブ各地から加わっているとみられる」と指摘。政権崩壊後、混乱するシリアが、アルカイダなどの巣窟となり、第二のイラク化する恐れを警告している。【12年10月10日 東京】
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「この手のグループとは協力していない」とは言いつつも、戦闘においては依然大きな力を発揮しているようです。
このままシリア内戦が続けば、仮にアサド政権が崩壊したとしても、それに代わる反体制派内部で軍事的勝利の原動力ともなったイスラム原理主義武装勢力が大きな力を持つことにもなります。
新たな政治体制づくりにおいて、イスラム原理主義武装勢力がその要求を通そうとすれば、新たな混乱の火種ともなります。彼らが力を持てば、アサド政権支持勢力への報復も懸念されます。

欧米諸国はイラク、アフガニスタン、そしてソマリアやマリ北部でイスラム原理主義武装勢力の排除にやっきになっていますが、シリアでは反体制派を支援する形で、イスラム原理主義武装勢力拡大の後押しをすることにもなっています。

もともとシリアの混乱は、民主化運動と言うよりは、政権を支えるアラウィ派と多数派スンニ派の宗派間争いの側面が色濃くありました。戦いの結果、スンニ派のより過激・先鋭な勢力が実権を持つことになれば、それぐらいなら人権抑圧の問題は多々あったアサド政権の方が宗教的には世俗的であり、より欧米の価値観に近いとも言えます。

イスラム原理主義武装勢力のこれ以上の拡大を抑えるためには、軍事的解決ではなく、政治的解決に持ち込むしかないように思われますが、ここまでもつれた糸をほぐすのは困難です。

****シリア内戦で和平協議仲介の用意」、国連事務総長と特別代表****
国連の潘基文(パン・キムン)事務総長とシリア問題をめぐる国連とアラブ連盟のラクダール・ブラヒミ合同特別代表は2日、シリア政府と反体制派の和平協議で仲介役を務める用意があるとする共同声明を発表した。
国連によると、シリア国内の両勢力が「対話への意欲」を示したため、潘事務総長とブラヒミ特別代表がスイスのモンペルランで協議したという。(後略)【3月3日 AFP】
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藁にもすがる思いで、国連の仲介に期待したいところです。
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ケニア大統領選挙  前回同様の混乱の懸念も

2013-03-04 22:20:22 | アフリカ

(夫人とともに投票する有力候補の一人、ケニヤッタ副首相 “flickr”より By SAMRACK PRESTIGE SERVICES http://www.flickr.com/photos/77565063@N02/8526845815/

日本や欧米の価値観からすれば、国家の指導者や国民の代表を選ぶ選挙は民主主義の根幹をなすものであり、欧米以外の多くの国でもそうした価値観に沿って選挙が行われるようになっています。
しかし、選挙の実施によって民主主義が各地に根付いているかと言えば、むしろ選挙が対立勢力間の暴力的争いの契機となることもしばしば見られるところです。

東アフリカの地域大国ケニアは、欧米的民主主義を取り入れた国と見られていましたが、07年の大統領選挙の際には結果を巡って部族間の争いとなり、1200名もの死者を出す混乱となりました。
今日4日、新たな大統領を選出する選挙が投票されていますが、前回同様の混乱も懸念される不穏な情勢です。
開票前の現段階で、すでに死者が出る騒ぎとなっているようです。

*****ケニア大統領選、投票開始=警官襲撃で12人死亡****
アフリカ東部ケニアで4日、大統領や議会議員、知事などを選出する投票が始まった。前回2007年の大統領選後には当選結果をめぐり約1200人が死亡する暴動が起きており、当局は警戒を強めている。

AFP通信によると、インド洋に面する主要都市モンバサでは4日早朝、若者グループ約200人が警官を襲うなどの事件が発生。警官6人と若者6人の計12人が死亡した。当局者はモンバサ地域の分離・独立を求めるグループの犯行とみているという。

大統領選には8人が立候補しているが、有力なのはオディンガ首相(68)と初代大統領ケニヤッタ氏(故人)の息子ウフル・ケニヤッタ副首相(51)の2人。開票結果は11日までに公表される。過半数を得る候補がいなければ、4月に決選投票となる。【3月4日 時事】 
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警察は10万人規模のかつてない厳戒態勢をとっているようですが、混乱の本番はこれからです。
07年大統領選挙でキバキ大統領と激しく大統領の座を争い、混乱の一方の当事者となった現首相と、キバキ大統領と同部族の副首相が同程度の支持率で接戦となっており、おそらくこの2名による決選投票(4月)になるものと見られていますが、決選投票は07年選挙の混乱の再現となる恐れがあります。

****ケニア:4日大統領選 首相と副首相で決選投票か****
東アフリカのケニアで4日、任期満了に伴う大統領選が実施される。オディンガ首相(68)とケニヤッタ副首相(51)が激しいトップ争いをしており、1回の投票では決まらず、来月の決選投票に持ち込まれる可能性が高まっている。

同じく大接戦だった前回(07年)は、開票結果を巡り大規模な暴動が発生、上位候補の出身民族同士の衝突にも波及し、1000人以上の死者を出す事態となった。その後、国民間の和解を進めてきたが、対立再燃への懸念は完全には払拭(ふっしょく)されていない。

8人が立候補し、投票終了後48時間以内に結果が判明する見通し。1位候補が有効投票数の過半数に届かない場合などは、上位2候補による決選投票が4月に実施される。多くの世論調査で、オディンガ、ケニヤッタ両氏とも40%台の支持と、僅差になっている。

07年選挙では、再選を狙うキバキ氏(現大統領)と対立候補のオディンガ氏の事実上の一騎打ち。当初はオディンガ氏の大差リードが伝えられたが、最終的にキバキ氏の逆転勝利が発表されたため、オディンガ氏の出身民族ルオ人と、キバキ氏の出身民族キクユ人が衝突。各地に報復の連鎖が広がり、多数の犠牲者が出たほか、60万人以上が国内避難民となった。アナン前国連事務総長らの調停で、キバキ大統領−オディンガ首相の連立政権が発足していた。

ケニヤッタ氏は、キバキ大統領と同じキクユ人。国際刑事裁判所(ICC)から前回大統領選後の暴動に関して間接的な加害責任を問われ、訴追されている。ケニヤッタ氏は容疑を否定している。【3月2日 】
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07年大統領選挙時の混乱については、08年1月10日ブログ「ケニア 大統領選挙の混乱で暴動」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20080110)でも取り上げたところです。
このときは、多数の犠牲者を出す混乱の後、アナン前国連事務総長らの調停によって、新たに首相ポストを新設して、オディンガ氏がこの首相ポストにつくことでキバキ大統領との間で権限分担が図られました。
また、二つの副首相ポストも新設され両勢力で分け合い、閣僚ポストは大幅に増設され、議会での与野党の議席数に応じて配分される形で一応の決着をみました。

このような対立勢力の権限分担で争いを治める方式は、その後ジンバブエなど、選挙によって混乱状態に陥った場合にケニア方式としてとられています。

また、今回の大統領選挙では部族間対立に加えて、別の新たな混乱要素もあります。
ケニアは、無政府状態でイスラム過激派組織「アルシャバーブ」が国土の広範囲を実効支配していた隣国ソマリアに軍事介入していますが、「アルシャバーブ」はケニアのソマリアへの軍事介入に反発して選挙を妨害することを表明しており、テロの脅威も広がっています。
(朝のTVニュースでは、すでにテロが発生したことを報じていたようにも思うのですが、部分的にしか観ていないので定かではありません。)

「アルシャバーブ」のテロはともかく、選挙結果を巡って不正が行われたり、敗北を受け入れなかったりといったことで出身部族間の争いに発展する前回のような混乱だけはなんとしても避けたいところです。
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経済活動の成果としての報酬の在り方に関する、欧州とアメリカの考え方の差異

2013-03-03 22:57:57 | 欧州情勢

(2011年10月の「ウォール街占拠運動」 2011年9月17日に始まった格差社会への抗議デモは、就職難に苦しむ若者らの共感を呼び、インターネットによる呼び掛けで全米や世界各地に拡大。しかし、主張がまとまらなかったことや、拠点の公園などからデモ支持者が排除されたことで、年末までに沈静化しました。
“flickr”より By The Whistling Monkey http://www.flickr.com/photos/whistlingmonkey/6227536380/)

EU:金融機関ボーナス・企業経営者報酬の制約
政治・経済・社会の基本的理念において、おおよそのところは一致している“欧米”ですが、欧州とアメリカでは違いもあります。
経済活動の自由を・個人の責任を重視するアメリカに対し、社会的福祉が重視される欧州では、経済活動についても公平さの観点からの一定の制約が受け入れやすいようです。

左派・オランド政権のフランスでは、富裕層に対する高税率適用で、俳優ドパルデュー氏がロシア国籍を取得するといった騒動もありましたが、今EUでは銀行員のボーナスに上限を設ける動きがあります。
高額の報酬を狙ったリスクの高い投資、それによる市場の混乱を防止する観点からの措置ですが、公的資金の注入などで便益を受けている金融機関の職員が多額の報酬を得るのは受け入れがたいという感覚もあるようです。

****EU、銀行ボーナスに上限設定へ****
欧州連合(EU)は銀行員のボーナスに上限を設ける方向に動き出した。無謀な運用を抑制し、金融危機の発生やそれに伴う多額の公的資金注入を避けるのが狙いだ。
この措置は、年間給与の額を超えるボーナスを禁止するというもので、早ければ2014年1月に施行される。株主の過半数の承認が得られれば基本給の2倍まで支給可能となる。

ボーナス規制は、金融危機などへの備えとして銀行に資本増強を求める政策の一環として組み込まれている。
欧州委員会のバルニエ委員(域内市場・サービス担当)は記者会見で、「短期的なリスクの高い投資を止めさせることが上限を設けた目的だ」と上限設定の狙いを説明した。

だが欧州の金融の中心地であるロンドンを擁する英国は規制に反対の姿勢を見せる。
すでに金融機関は、ボーナス制度の見直しを余儀なくされている。分割払いや後払いといった手段を導入したり、基本給を上げて人材確保に努める例もある。
金融機関の側からは、ボーナスの額を決めるのは市場であるべきだとの声も聞かれる。才能あふれる人材に多額の報酬を払っているのは映画やプロスポーツの世界も同様だとの主張もある。

だが、ボーナスの金額は実際に減少してきているようだ。英調査機関の推計によると、ロンドンの金融中心地シティで支払われるボーナスの総額は08年の116億ポンド(約1兆6300億円)から16億ポンド(約2200億円)へと急減したという。【3月1日 CNN】
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EU内部でも、国際金融センター・シティを抱えるイギリスは反発していますが、かねてよりイギリスは、国家主権を制約するEU主導の規制・改革には抵抗を示しており、脱EU議論が高まっていますが、こうした国家経済の根幹であるシティの活動を制約するEUの動きもイギリス国内の反EU感情を高めることが考えられます。
一方、オランダでは更に厳しい、ボーナスを給与の20%に制限することも検討されているようです。

****ボーナス規制:オランダはEUの10倍厳しい-財務相が推進 ****
バンカーのボーナスを固定給の2倍以下に制限する欧州連合(EU)規制案は、オランダ政府にとってはまだ手ぬるい。業界に対する批判が高まっている同国では、さらに厳しい制限が計画されている。
オランダは2010年に既に、銀行幹部のボーナスを年間給与の100%までに制限した。政府はさらに、業界全体を対象にボーナスを給与の20%に制限することを計画している。銀行SNSレアールを先月国有化したことで、報酬抑制を求める声が強まった。

この取り組みを主導するのはユーロ圏財務相会合(ユーログループ)議長に1月就任したダイセルブルーム財務相だ。同相は先月に議会で、「銀行業界の報酬は依然として比較可能な他の業界に比べて高い。現在われわれが置かれている状況と、この業界を支えるために2008年以来に費やされた公的資金の額を考えれば、理解不可能なことだ」と語っていた。【3月1日  bloomberg.co.jp】
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また、スイスでは企業経営者の報酬制限が議論になっています。
****CEOの高額報酬めぐるスイスの国民投票、大半が制限支持か *****
企業幹部の報酬をめぐり3日に実施されるスイスの国民投票で、報酬決定について株主に強い権限を与える提案が承認される可能性が高まっている。一方、反対派からは大企業にとってスイスの魅力が低下するとの声が上がっている。

上場企業の経営幹部の報酬について拘束力のある株主投票を毎年行い、新最高経営責任者(CEO)就任や退任の際の多額の報酬支払いを阻止する提案をめぐる国民投票で、有権者の3分の2近くがこの提案を支持する意向を示している。規則に違反した幹部には罰金や禁固刑が科される可能性がある。
世論調査研究所ジー・エフ・エス・ベルンが2月20日に実施した調査によると、有権者の64%がこの提案を支持し、反対は27%だった。

金融危機のさなかに税金が銀行や企業の支援に投じられたことを受け、欧州各国の政府は幹部報酬の制限を検討している。国民投票で提案が認められれば、スイスは、株主が幹部報酬の決定について最も強い権限を持つ国の一つとなる。
スイス企業のCEOには医薬品メーカー、ノバルティスのジョー・ジメネス氏や食品メーカー、ネスレのポール・バルケ氏らがいる。【3月1日  bloomberg.co.jp】
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アメリカ:富裕層増税に対する抵抗
経済活動の自由を・個人の責任を重視するアメリカでは、財政問題を巡ってオバマ大統領・与党民主党と野党共和党のチキンレースが続き、歳出強制削減も結局発動される形になっています。
議論が収束しない背景には、個人の自由と責任を重視し、自由な経済競争の成功者である高額所得への重い課税、困難な立場にある弱者への福祉的な政府支出を嫌う共和党の立場があります。

****米、歳出強制削減を発動 「痛み現実に」深まる危機*****
オバマ米政権は1日、財政赤字削減のための歳出強制削減を発動した。オバマ大統領は回避を議会指導部に要請したが、野党共和党が拒み協議が決裂した。国防費を中心に教育など幅広い分野での政府経費のカットで、安全保障や国民生活への影響が懸念されている。

大統領はホワイトハウスで記者会見し、「国民の痛みが現実になる」と述べ、歳出強制削減がもたらす影響に強い懸念を表明。富裕層や大企業に恩恵をもたらす税制優遇措置の廃止に共和党が応じず、「発動を選んだ」と強く非難した。

強制削減される歳出の規模は10年間で1兆2千億ドル(約110兆円)。2013会計年度(12年10月~13年9月)の削減額は850億ドルとなる。

5割を国防予算が占め、米軍の即応能力に支障が出る恐れがあるほか、住宅補助の見直しや教職員の削減なども懸念され、米議会予算局は実質成長率を0・6ポイント押し下げると予測。100万人以上が失業するとの調査機関の試算もある。

「教職員4万人が解雇される恐れがある」「100以上の管制塔閉鎖もあり得る」-。オバマ政権の高官は連日警告を発していたが、実際に政府職員が一時解雇されるのは4月以降。政府機関も当面の資金は手当てされる。影響が顕在化するには数週間はかかるとみられ、共和党は「政権側の主張は誇大」と批判していた。

さらに与野党は27日に期限を迎える13会計年度の暫定予算延長もにらみ、歳出強制削減の代替策を模索する。
こうした動きを織り込み、1日の金融市場への影響は限定的で、米格付け会社スタンダード・アンド・プアーズ(S&P)も「歳出強制削減は一時的で、歳入増も盛り込んだ長期的な包括策に置き換えられると確信する」との見方を示した。

このため歳出強制削減をめぐる与野党協議も緊迫感に欠け、全米が緊張に包まれた「財政の崖」問題と比べて「絶対に発動を回避しなければとの気迫が大統領や議会から伝わってこなかった」(米銀エコノミスト)と指摘されている。

しかし、増税を訴える与党民主党と無駄な政府支出の削減にこだわる共和党の溝は深く、短期間で抜本的な財政改革で合意するのは至難の業だ。連邦債務上限引き上げ問題など相次ぐ「期限」を控え、危機はむしろ深まったとの声も聞こえてくる。【3月3日 産経】
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自由な競争とその結果を是とする社会における“格差”の拡大への批判としては、アメリカでも2011年9月に「ウォール街を占拠せよ」運動が展開されましたが、大きな成果はなかったように思われます。

アメリカは低福祉国か?】
日本は社会保障制度の面からは、アメリカより欧州に近いように思われますが、昨今の規制緩和・自由競争促進の動きを受けてアメリカ的な格差社会の様相も見せています。
財政問題もあって、最近は生活保護が議論のターゲットとなっています。

生活保護水準がどうあるべきか・・・という議論には今回は入りませんが、一般的に公的扶養水準が低いとされるアメリカも、現物給付などトータルとしてとらえると、日本に比べてもかなり手厚い保護が行われているという指摘もあることことだけ紹介しておきます。

****日本の生活保護を海外と比較することは妥当か? 格差社会アメリカ・ボストン市で見た貧困層の実態****
日本の生活保護基準が「高すぎる」とされる時、比較の対象とされるのはOECD諸国の公的扶助水準である。なかでもアメリカは、日本では、公的扶助水準が低い国として知られている。
今回は、アメリカ・ボストン市で見た、困窮者の生活とその周辺の断片のいくつかを紹介する。そこには、日本とは異なる公的扶助・支援の諸相がある。
各国ごとに異なる公的扶助は、単純に比較できるものであろうか?

日本の生活保護基準は「米国並みに下げる」べきか?
日本の生活保護基準は、金額を国際的に比較した時には、決して世界的に低い水準にはない。日本よりも高い国を探す方が大変なほどである。このことを根拠に、「日本の生活保護基準は高すぎるから、引き下げて先進諸国並みにすべき」 という意見が数多く見られる。この時、金額以外の要因が考慮されることは少ない。

また、日本の捕捉率(注)は、決して高くない。このこともまた、「一人あたりの生活保護水準を引き下げれば、必要な人が全員、生活保護を利用できるようになる」という主張の根拠とされる。
たとえば日本の捕捉率が20%であるとすれば、生活保護費の総額を変えずに貧困状態にある国民全員に扶助を行うためには、生活保護費を現在の20%まで引き下げればよい計算になる。
このとき、引き下げてよい根拠としてしばしば引用されるのは、アメリカの制度である。(中略)
 
(注)公的扶助を利用している人数を、貧困状態にある人数で除したもの。日本では、20%前後と推定されることが多い。

公的扶助の国際比較は困難 単純に「低福祉」とはいえないアメリカ
たとえば、「アメリカの公的扶助では現金給付はなく現物給付が主である」と言われる。確かに、アメリカの制度を見てみると、一般には「フードスタンプ」と呼ばれる「SNAP(補助的栄養支援プログラム)」をはじめとして、購入可能な品目を限定したICカード・食事そのものの無料提供・家賃補助・医療保険など、現物支給と考えても支障なさそうな扶助メニューが目に付く。(中略)

一方で、アメリカの捕捉率は高く、約60%と言われている。現金給付である「TANF(貧困家庭一次扶助)」では、金額は1家族あたり年間8000米ドル程度と低く抑えられている。
また、5年間の有期制であり、就労訓練・ボランティアが義務付けられている。これらの事柄をもとに、 「日本においては生活保護基準を切り下げて有期制にすることが、公的扶助の捕捉率向上へとつながり、さらに当事者の就労自立へのモチベーションとなる」 という主張がされる場面も多い。

個々の社会保障制度の意味を性急に判断できるほど、筆者はアメリカの貧困事情や貧困政策に詳しくない。英語力も、踏み込んだ取材を英語圏で不自由なく行えるレベルに達しているわけではない。しかし日常的に、「アメリカでは」という主張は要警戒である、と感じている。現地の風土、現地の文化、現地の社会の生態系と切り離して、1つの制度の1つの側面だけを「……では」と取り上げることには、多くの場合、意味はまったくない。

たとえば2011年、アメリカの公的扶助のうち食事・住宅・医療に関する上記の5つのメニューに必要であった費用の合計は、5077.8億米ドルであった。「1米ドル=95円」とすれば、48兆円である。人口を考慮しても、日本の生活保護費の約3倍程度の規模ではありそうだ。ここから「日本の生活保護制度は、そもそも予算不足すぎる」という結論を導くことも可能である。

なお、これらの制度はアメリカ全土に適用される最低限度のものである。実際にはこれらに加え、州や各自治体が独自に提供している制度もある。制度により所得制限などの条件が異なり、したがって利用人数が異なるため、日本の生活保護制度のように1人あたりの金額を単純に算出することはできないが、少なくとも金額だけを見る限り、日本に比べ、かなり充実している感じを受ける。(後略)【2月22日 DIAMOND online】
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アメリカでは、公的な福祉制度以外にも、ボランティア団体や宗教団体による福祉活動なども幅広く行われており、福祉制度の在り方を議論する場合、そうした面も考慮する必要があるように思われます。

アメリカにはアメリカの事情があるように、日本にも日本特有の事情があります。
日本でも格差社会の拡大が言われるようになってはいますが、例えば企業経営者・幹部の報酬について、もともとアメリカのような高額が支払われるような社会風土がない(あるいは、これまではなかった)という側面もあります。

ほぼ単一の民族・文化で構成される日本社会は均質化を指向する傾向が強いとも見られます。
それは、社会を安定させる有力なスタビライザーでもありますが、今後も続くのかという議論は、また別にあるでしょう。
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アフガニスタン  対米強硬姿勢をアピールするカルザイ大統領 治安維持の前面に出るアフガニスタン治安部隊

2013-03-02 23:36:00 | アフガン・パキスタン

(冬の寒さが厳しいアフガニスタン・カブール 難民支援団体による薪の配布 “flickr” By Danish Refugee Council http://www.flickr.com/photos/danishrefugeecouncil/8517364269/in/photostream/)

カルザイ大統領:対米強硬姿勢を出し、国民の支持を維持する狙い
14年末に外国部隊が撤退することになっているアフガニスタンに関しては、2月22日ブログ「アフガニスタン 米軍、今後1年間で約半分に縮小 15年以降の国際部隊については方針決定遅れる」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20130222)で、オバマ米大統領が一般教書演説で、約6万6000人の駐留米軍を今年末までに3万4000人削減することを表明したこと、その一方で、米軍兵士の刑事訴追免責を巡る問題などもあって、15年以降のアフガニスタン国軍の教育・訓練を担当する国際部隊の編成作業が遅滞していることを取り上げました。

14年末、15年以降を見据えた動きが活発化するなかで、アフガニスタン・カルザイ大統領の側は、アメリカなど外国勢力へ厳しい姿勢を見せています。

前回ブログでも取り上げたように、民間人が犠牲となる誤爆が多発していることを理由に、カルザイ大統領は2月16日、タリバンの掃討作戦に従事するアフガン治安部隊に対し、後方支援として国際治安支援部隊(ISAF)に空爆を要請することを禁じる考えを表明しています。

カルザイ大統領は更に、24日、米軍特殊部隊傘下の民兵による「人権侵害」を理由に、中部地域からの米軍特殊部隊の退去を決定しています。

****アフガン大統領:中部から米特殊部隊を退去 2週間以内に****
アフガニスタンのカルザイ大統領は24日、イスラム原理主義の武装勢力「タリバン」との戦闘が続く中部マイダンワルダック州に駐留する米軍特殊部隊を2週間以内に退去させることを決めた。

ファイジ大統領報道官によると、米特殊部隊が武装勢力掃討作戦を実施した後に多数の住民が行方不明になるなどの「人権侵害」が相次いでいるため。米軍側が退去に応じなければ、カルザイ政権と米国との関係が再び悪化する恐れがある。

ファイジ報道官によると、行方不明になった住民のうち学生1人は頭部を切断された遺体で見つかった。米特殊部隊の傘下で動いているアフガン人民兵が住民の誘拐や拷問を繰り返している疑いが強い。
アフガン政府は、米軍側に殺害などに関わった疑いのある民兵の身柄引き渡しを要求したが、応じないため米特殊部隊の「追放」を決めたという。アフガン駐留の北大西洋条約機構(NATO)軍は「駐留米軍は指摘を重く受け止め、調査する」と発表した。

カルザイ大統領は今月17日、アフガン国軍に対し、駐留米軍に空爆支援を要請するのを禁じる措置を決めたばかり。14年には駐留外国軍からの治安権限移譲が完了し、カルザイ大統領も任期満了で退任する予定だが、これを前にカルザイ氏は対米強硬姿勢を出し、国民の支持を維持する狙いとみられる。【2月25日 毎日】
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カルザイ大統領の主張に対し、アメリカ側は困惑の様子です。

****カルザイ大統領の米軍部隊退去要求は「唐突」、米当局者****
2013年02月26日 11:36 発信地:ワシントンD.C./米国
ハミド・カルザイ・アフガニスタン大統領による、同国ワルダク州からの米特殊部隊の退去要求について、米当局者は25日、この要求が軍司令部にとって「唐突」なものだったことを明らかにした。

ワルダク州は首都カブールの南西に位置し、旧支配勢力タリバンの活動の温床にもなっている重要州だ。カルザイ大統領の対応について米当局者らは、その真意を測りかねるとした。

カルザイ大統領は24日発表の声明で、米軍の特殊部隊と行動していたアフガニスタン人らがワルダク州で拷問や殺人を行い、地元住民の反発を招いているため、2週間以内に同部隊を撤退させるよう要求していた。

米国防総省は、北大西洋条約機構(NATO)が主導する国際治安支援部隊(ISAF)の隊員とアフガニスタン当局からなる特別委員会が、カルザイ大統領が主張する事案について調査を行っていると発表。
国防総省のジョージ・リトル報道官は、米軍の特殊部隊がワルダク州から撤退するかとの記者からの質問に対し、「議論の結論を推測するには時期尚早」とだけコメントした。【2月26日 AFP】
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アフガニスタンでは2014年4月に次期大統領選挙が実施される予定で、カルザイ大統領自身は3選禁止の憲法規定により出馬しませんが、大統領の一連の対米強硬姿勢は、国民の間で根強い反米感情を利用する形で、次期政権に向けた自身の影響力保持を狙っているとも見られています。

アメリカ:治安維持をよりアフガン軍に任せることで、リスクや負担軽減
一方、パネッタ米国防長官は、15年以降の国際部隊規模を大幅に縮小すること、及び、アフガニスタン軍の規模を18年まで維持するを考えを示しています。

****アフガニスタン:国際部隊を大幅縮小へ…NATO会議****
パネッタ米国防長官は22日に閉幕した北大西洋条約機構(NATO)の国防相会議で、NATO軍が14年に撤退した後、アフガニスタンに展開する国際部隊の規模を従来の見通しに比べ大幅に縮小する素案を示した。一方で国際部隊の撤退に併せて拡大しているアフガン軍の規模を18年まで維持する意向も示した。
国際部隊の役割を大幅に縮小、アフガン軍を治安維持の前面に押し出す方向性が打ち出された。

パネッタ長官は、大統領の決定が下されていない素案として、国際部隊全体の規模を見通しの半分程度の8000〜1万2000人にする案を示した。カブールだけでなく、地方の拠点都市にも展開する。従来の見通しでは2万人規模で、半分を米国が担う案が有力だった。

同時に長官は、現在35万2000人規模まで拡大しているアフガン軍を18年まで維持する案を示した。従来の見通しでは、17年ごろをめどに23万人規模に縮小する案が有力視されていた。長官はアフガン軍の規模の維持は、米国など外国軍の駐留を「柔軟に縮小できる投資になる」と説明した。

治安維持をよりアフガン軍に任せることで、米国など外国軍の駐留リスクや政治的負担を減らす狙いがある。
拡大したアフガン軍の維持には従来の見通しより年約20億ドル(約1870億円)以上の追加費用がかかる。米国をはじめ各国は財政難で、費用分担が深刻な議論になりそうだ。【2月23日 毎日】
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国際部隊の規模については、アメリカ国内においても、財政難から駐留規模を抑えたいオバマ大統領サイドと、治安の混乱を憂慮し規模を大きくしたい軍部の意見対立があるとも報じられています。
アメリカ国務省と駐留米軍の足並みの乱れについては、下記のような報道もあります。

****アフガンで亀裂露呈 米軍と国務省が真っ向衝突****
2014末のアフガニスタン撤退完了まで治安に責任を持つ駐留米軍と、15年以降を見据えアフガン政府に対する影響力確保を図る米国務省の間に亀裂が現れるようになってきた。

駐留米軍は1月、アフガンの大手航空会社カムエアが隣国タジキスタンに麻薬を運んでいる証拠を握り「ブラックリスト企業指定」を行った。しかし、国務省の圧力を受けて2月には撤回に追い込まれたために米軍の怒りが収まらない。

カムエアは、カルザイ大統領が外遊時にも利用する航空会社だが、ブラックリスト指定の影響は大きい。各国航空当局がカムエア機の忌避に動き、激怒したアフガン政府が国務省にねじ込んだという。

米・アフガン両国は1月にホワイトハウスで行われたオバマ・カルザイ首脳会談で、米軍撤退加速化で合意したばかり。
「間の悪さというものを分かっていない」と国務省の米軍批判がマスコミにリークされ、軍は外堀を埋められた。
「犯罪を見逃して健全な二国間関係が築けるのか」という米軍の正論は、撤退と負担軽減を急ぎたいオバマ政権の思惑にかき消された。【選択 3月号】
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タリバン:攻撃対象を治安維持を引き継ぐアフガニスタンの軍や警察にシフト
“撤退と負担軽減を急ぎたいオバマ政権の思惑”ということで、アフガニスタン軍が前面に押し出す構えですが、タリバン側も攻撃の対象を治安維持の主体となるアフガニスタン治安部隊にシフトさせてきているとのことです。

****タリバンが警察検問所を襲撃、16人殺害 アフガニスタン****
アフガニスタン東部ガズニ州で27日未明、アフガン地方警察(ALP)の検問所が旧支配勢力タリバンの襲撃を受け、少なくとも16人が死亡した。さらに同日朝には首都カブールでも軍のバスがタリバンにより爆破され、負傷者が出ている。
同国ではこのところ、北大西洋条約機構(NATO)軍ではなく、自国の治安当局を標的とした襲撃が増加している。

ガズニ州で起きた襲撃の詳細ははっきりしていない。アフガン地方警察は犠牲者の内訳を、警察官10人と同州アンダル地区で反タリバン運動に参加した「地元村民5、6人」としている。「毒物を盛られた後、銃で撃たれた」との初期情報もあるが、真偽のほどは捜査班の最終報告を待つ必要があるとした。
一方、州職員2人が匿名を条件に語ったところによると、殺害されたのは警察官16人。タリバンによって毒を盛られた後に銃撃され、武器を奪われたという。

また首都カブールの警察当局によると、同市では27日早朝、軍用バスが自爆攻撃を受け、国防省の職員6人と一般市民4人が負傷した。

西側諸国の当局者らは、攻撃の対象が来年撤退する予定のNATO軍から、その後の治安維持を引き継ぐアフガニスタンの軍や警察にシフトしているとみている。【2月28日 AFP】
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“現地からの報道によると、襲撃を受けた検問所では地元住民を招いて宴会が開かれていた。警察官になりすまして潜入したタリバンのメンバーが、宴会に出された食事に睡眠薬とみられる薬物を入れ、参加者が眠ったところを見計らって仲間の武装集団を招き入れたという。”【2月28日 毎日】とも報じられています。

アフガニスタン治安部隊に関しては、かねてよりタリバン内通者が多く含まれているとの指摘もあります。
治安部隊内部に潜入して駐留外国兵やアフガニスタン兵らを殺害する、いわゆる「インサイダー攻撃」の激化に耐えて、治安維持の主体となりうるのか・・・どうでしょうか?

また、14年の次期大統領選挙を巡って政権の一体性に綻びがでれば、各地・各民族の軍閥が争ったかつての内戦のような事態も懸念されます。そしてアメリカには、そうした混乱の収拾に乗り出す意思も資金もありません。
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南アフリカ社会の“暗部” 「暴力の歴史を歩んできた・・・・」

2013-03-01 22:20:14 | アフリカ

(難民キャンプの女性 アフリカ最大の経済大国である南アフリカには、経済破綻した隣国ジンバブエを始めソマリア、エチオピアなど多くの国々から多数の難民が流入していますが、暴力の矛先はこうした難民にも向けられています。“flickr”より By UNHCR http://www.flickr.com/photos/unhcr/3949427849/

男子の62%が強制的に性関係を持つことは合理的なことだと考えている
南アフリカの英雄的な義足ランナー、「ブレードランナー」ことオスカー・ピストリウス容疑者(26)が恋人を射殺した事件が話題になりましたが、“寝るときは強盗が入ったときに備えて拳銃やマシンガン、クリケットや野球のバットを手元に置いている”という容疑者の日常は、新興国として期待されている南アフリカ社会の強盗・殺人などの犯罪が増加している“暗部”をも明らかにしています。

ここ数日に報じられた南アフリカ社会の“暗部”関する記事をいくつか。
南アフリカでは4分間に1人の女性が強姦被害に遭っていると中国メディアが報じています。
武装勢力が横行するコンゴなどのアフリカ諸国でもレイプは日常化していますが、「新興国」南アフリカでも事情はあまり変わらないようです。

****4分間に1人の割合で発生 南アフリカ、強姦被害が深刻に****
南アフリカの司法長官は最近、同国で女性に対する暴力や強姦の件数が「警戒線」に達していると述べた。英BBCの報道によると、南アで毎年報告される強姦事件は約6万件で、専門家らは「警察が把握していない事件も加えれば少なくとも60万件に上る」と指摘。
南ア医学研究委員会によれば、同国では4分間に1人の女性が強姦被害に遭っている計算となる。中国・人民日報が伝えた。

女性への暴力が南ア社会に大きな損失をもたらしている。南ア医学研究会によると、16%の女性が強姦によってエイズウイルスに感染しているほか、予想外の妊娠、性病感染も多い。3分の1以上の強姦被害者がストレスによる障害を抱え、女性がうつ病にかかる割合と自殺、薬物乱用などのリスクが高まっている。

南ア医学研究会性別・健康研究センターの主任は、「こうした暴力文化の背景には南ア社会の男権主義があり、貧困と不平等も南ア社会で女性への暴力が多発する大きな要因だ。また飲酒や薬物乱用、銃の所持、政府の対応不足なども暴力を助長している」と指摘した。
こうした暴力は南アの青少年に悪影響をもたらす。南ア医学研究会では、11歳以上の男子の62%が強制的に性関係を持つことは合理的なことだと考えているとみている。【2月27日 livedoor News】
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昨年4月には、“知的障害のある17歳の少女を7人の少年らが集団レイプし、暴行の様子を携帯電話で動画撮影した事件が発覚した。映像は地域の子供らの間に広がっていた。17秒に1件の割合でレイプ事件が発生しているとされる性暴力「大国」南アフリカでも、少年らの非道ぶりは大きなショックを与えている。”【2012年04月30日 毎日】という事件もありました。

【「通常は食用としない」動物の肉も複数の製品から発見
一方、欧州で話題になっている食肉偽装問題が南アフリカでも報じられています。
食肉偽装は日本でも問題になったことがあり、別に特定国の問題でもありませんが、「通常は食用としない」動物の肉が混入しているとのことで、野生動物が多いアフリカだけに「何の肉が混入しているのだろうか?ロバや水牛だけだろうか?」と不安にはなります。偽装自体は何の肉でも同じですが、変わった動物の肉の場合、そうした動物を宿主とするウイルスの感染といった保健衛生上の問題も出てきます。

****南アフリカでは牛肉からロバの肉、横行する食肉の偽装表示****
欧州で牛肉加工製品の馬肉混入問題が持ち上がるなか、南アフリカではロバの肉が多くの肉製品に混入していたことが、南アのステレンボッシュ大学の調査で明らかになった。

欧州での馬肉混入問題をうけて、ステレンボッシュ大が南アフリカの製品についてもDNAによる食肉検査を実施したところ、検査対象となった肉製品の3分の2以上で、記載とは異なる肉が検出されたという。

国内の店舗や食肉店などから集めた139製品中、偽装表示されていた製品は68%に上った。多くは牛肉と称して豚肉や鶏肉が用いられたものだったが、ロバ肉や山羊や水牛など「通常は食用としない」動物の肉も複数の製品から発見されたという。

研究を主導した同大のルー・ホフマン教授(動物科学)は大学のウェブサイトで、南アフリカでは加工肉製品での偽装表示が常態化していると指摘し、こうした行為は「食品表示法に違反するだけでなく、経済、宗教、倫理、健康への影響の点からも問題だ」と警鐘を鳴らした。

調査では、ひき肉、ハンバーガー用のミートパテ、ソーセージなどで、植物の一部が混ざっていたものもあったという。【2月28日 AFP】
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高まる警察に対する怒りの声
強盗・殺人などの犯罪が増加している社会にあって市民を守るべき警察にも大きな問題があります。

****警察車に引きずられた男性が死亡、殺人事件で捜査開始 南ア****
南アフリカ警察は28日、警察のワゴン車で市街を引きずられる様子が動画に収められていたモザンビーク人男性が死亡したことを受け、殺人事件として捜査を開始した。国内では警察に対する怒りの声が高まっている。

現場に居合わせた人が撮影した動画には、ヨハネスブルクの東に位置するデフェイトンで26日、タクシー運転手のミド・マシアさん(27)が6人ほどの警察官ともみ合いになり、その後手錠で警察のワゴン車の後方につながれ、近くの警察署に向かって引きずられて行く様子が収められている。

マシアさんは車で引きずられまいと、脚をばたつかせ必死に抵抗しながら、デフェイトン警察署まで連行された。捜査官によると、それから2時間25分後に死亡が確認されたという。検視の結果、死因は内出血を伴う頭部損傷と判明した。

目撃者などによると、事件の発端は、マシアさんが受けた違法駐車の取り締まりだった。警察官が運転免許証を没収しようとしたところ、口論に発展した。警察当局は、マシアさんが警官の1人から銃を奪おうとした可能性を示唆したが、目撃者の1人はこれを否定した。

事件の様子を収めた動画はインターネット上で広がり、国内中に衝撃を与えた。南ア警察は、2012年8月に鉱山の労働争議で警察官の発砲により労働者34人が死亡した事件や、義足ランナー、オスカー・ピストリウス被告の殺人事件の対応でも強い批判を受けており、今回の事件でさらに汚名を重ねる形となった。【3月1日 AFP】
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南アフリカ警察では汚職も蔓延しており、警察長官が2代連続で汚職容疑で失脚しています。
****南アフリカ:警察長官を解任 汚職容疑で2代連続失脚****
南アフリカのズマ大統領は12日、ベキ・セレ警察長官を解任したと発表した。セレ氏は、契約業者との不透明な関係などを指摘され、停職中だった。大統領はセレ氏の職務継続を不適当と結論づけた調査委などの報告を受け、決断した。南アは警察長官が2代連続で「汚職」の容疑で失脚する異常事態となった。

地元紙が、警察庁舎の賃貸契約を巡って、セレ氏が競争入札を行わないまま不当に契約業者の選定に関与した疑いを報じて発覚。昨年10月から停職処分となり、調査が行われていた。

セレ氏は09年に警察長官に就任。セレ氏の前任で、国際刑事警察機構(インターポール)総裁も務めたジャッキー・セレビ前長官は08年、麻薬密売業者から金品を受け取る代わりに捜査情報などを流した収賄の容疑が浮上。ムベキ大統領(当時)に更迭された後、収賄罪で懲役15年の実刑判決を受け、服役中だ。
また、セレ氏とは別の警察幹部も、殺人などの容疑がかけられて現在停職中となっており、警察の威信は地に落ちた状態だ。【2012年06月13日 毎日】
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不満を聞いてもらうには暴力という手段しかないと感じている
南アフリカ社会に存在する安易に暴力に頼る風潮については、だいぶ昔のものですが、下記記事が印象に残っています。
警察への不信感もあって、住民の間で「アパルトヘイトの負の遺産」でもある“ネックレス”と呼ばれる残忍な私刑が復活しているというものです。

****アパルトヘイトの負の遺産、私刑「ネックレス」が復活 南ア****
南アフリカ・ポートエリザベスのニュー・ブライトンタウンシップで、ここでは日常茶飯事と言ってもいい事件が起きた。2人組の男が年配女性の家に押し入り、テレビを奪った上、女性を守ろうとした間借り人を刺し殺したのだ。
翌朝、近所の人々は2人組の居場所を突き止めた。2人を引きずり出してそれぞれの首にタイヤをかけ、タイヤにガソリンを注いで火を付けた。

「2人は随分前からこの一帯で悪事を働いてきた。われわれは彼らにおびえていたんだ」と、一部始終を目撃したある住民は説明した。「すべてが映画のワンシーンのようにあっという間に行われた。2人が炎に包まれる間、みんなはありとあらゆる罵声を浴びせていたよ」

「ネックレス」と呼ばれるこの私刑は、アパルトヘイト(人種隔離政策)の負の遺産の中でも最も身の毛のよだつものだ。少数白人政権との戦闘が激化した1980年代、タウンシップ(非白人居住区)では裏切り者に対してこの私刑が行われた。常習犯が「人民裁判」にかけられ、ネックレスの刑を執行されることもあった。

その「ネックレス」が、ここポートエリザベスでも、自警のための新たな手段として復活しつつある。タウンシップではもともと、警察力が遠く及ばないことへの強いいらだちがある。地元警察の広報、ドゥミレ・グワブ氏は「わずか2週間で未遂も含めて約6件のネックレス事件がありました」と話した。
警察の統計によれば、南ア全体で見ても、1日平均46件の殺人件数のうち5%が自警目的のものだ。

■背景に暴力の歴史と警察不信
先のニュー・ブライトンにおけるネックレス事件では、2人が本当に有罪なのか、刑の執行が正しかったのかに関し、疑問を差し挟む者は無きに等しかった。刑を目撃していた男性はAFP記者に、「2人組の片方は刺し殺された間借り人の服を着ていた」と話した。
「彼らの悪事を警察に通報したが、次の日にはまた悪事を働いたんだ。われわれは、どうにもならない未解決事件に嫌気がさしたんだよ。こうした状況が続けば、また(ネックレスを)やるよ。問題を永遠に取り除けるからね」

警察広報のグワブ氏は、ネックレス事件では住民同士が結託するため、過去のネックレス事件で逮捕者が出た事例は無いと話す。「われわれはこれまで、住民たちとの会合で、法の裁きを独自に下すことはできないと説明してきたのですが。(被害に遭った)住民たちは怒っていて聞き入れてくれないし、警察そのものを信用していないんです」

警察統計によると、凶悪事件の約80%は貧しい地域で起こっている。犯罪者が個人的に知っている相手に危害を加える場合が多く、このことが「集団的暴力」の増加に一役買ったと、シンクタンク「Centre for the Study of Violence and Reconciliation(暴力と和解のための研究センター)」のノムフンド・モガピ氏は言う。

「この国が暴力の歴史を歩んできたこともあり、人々は政治家、役人、警察に自分たちの不満を聞いてもらうには暴力という手段しかないと感じているのです。(ネックレスは)政府庁舎に放火する、警察車両に投石する、道路をバリケードでふさぐなど、アパルトヘイト時代に用いられた暴力と同じパターンに属すると言えます」【2011年8月5日  AFP】
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“暴力の歴史を歩んできた”のは南アフリカだけでなく、内戦・紛争が頻発する国、テロ活動が横行する国などアフリカには多く存在します。そして、それらの国々ではやはり安易に暴力に訴える風潮が社会に残っているように見えます。

アフリカの国々はこれからの成長を期待されており、実際に大きな変容をとげている側面もあり、こうしたネガティブなイメージだけでアフリカを見ることは誤りです。
そうは言うものの、やはり異質なものを感じることも少なくありません。
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