孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

北朝鮮・韓国  高まる緊張 対立がエスカレートする危険も 宣伝放送中止要請期限は明日夕方

2015-08-21 22:29:36 | 東アジア

(21日、第3野戦軍司令部を訪れた朴大統領 「北のいかなる挑発にも徹底して断固対応せよ」と指示 【8月21日 聯合ニュース】)

北朝鮮は「準戦時状態」を宣言 韓国も「北の挑発に断固対応」指示
北朝鮮・韓国の間の緊張が異様に高まっています。
事の発端は、今月10日、軍事境界線非武装地帯の韓国側で北朝鮮が敷設したと思われる地雷によって韓国軍兵士2名が重傷を負った事件でした。

****国軍2人、地雷で足切断 北朝鮮に謝罪求める****
韓国軍は10日、韓国と北朝鮮を分ける軍事境界線の両側にある非武装地帯(DMZ)の韓国側で、北朝鮮軍が埋めたことが確実視される地雷で韓国軍下士官2人が負傷したと発表した。韓国軍は北朝鮮による挑発だとし、謝罪と責任者の処罰を求める声明を出した。

韓国軍によると、今月4日午前7時35〜40分ごろ、韓国京畿道坡州市のDMZで20代の下士官2人が地雷を踏み、足を切断するなどの大けがを負った。残骸を分析した結果、北朝鮮軍の地雷と一致。鉄材の残骸がさびたり、腐食したりした点がないことなどから、最近敷設されたとみられるという。

こうしたことから、韓国軍は、北朝鮮軍が非武装地帯に不法に侵入し、地雷を埋めた「明白な挑発」と判断。朝鮮戦争の休戦協定と南北不可侵合意に違反していると非難している。【8月10日 朝日】
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北朝鮮側は当然のごとく否定しています。

”朝鮮中央通信によると、北朝鮮の国防委員会政策局は14日、北朝鮮の地雷で韓国軍兵士2人が負傷した事件に関する談話を発表し、「(韓国軍は)回収したわが軍の地雷を埋め、謀略劇を捏造(ねつぞう)した」と自国の関与を否定した。”【8月14日 時事】

韓国側は対抗措置として11日、軍事境界線近くで大音量のスピーカーを使って北朝鮮の体制を非難する宣伝放送を11年ぶりに再開しました。
この放送は二十数キロ先まで届くとか。

北朝鮮軍は15日、韓国軍が軍事境界線付近で再開した放送による心理戦について、中止しなければ「軍事行動」を開始すると警告しました。

実際、20日北朝鮮軍による2回にわたる砲撃があり、韓国軍もこれに応射しました。

****北朝鮮が韓国側に砲撃、韓国軍も約20発応射 全軍に最高警戒態勢発令****
韓国国防省は20日、午後3時50分ごろ、北朝鮮がロケット砲とみられる砲弾1発を韓国側に発射した航跡を韓国軍の感知装置がとらえたと発表した。

ソウル北方の京畿道・漣川(ヨンチョン)付近に向け、発射されたとみられる。韓国軍も発射地点とみられる北朝鮮内の地域に向け、155ミリ砲弾約20発を応射した。

聯合ニュースなどによると、人的被害は確認されていない。韓国は漣川付近の住民に退避命令を出した。また、大統領府高官や安全保障に関わる閣僚による国家安全保障会議(NSC)を招集。全軍に最高レベルの警戒態勢を発令した。(後略)【8月20日 産経】
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砲撃の応酬の詳細ついては、下記のようにも報じられています。

****自走砲29発を応射 北朝鮮砲撃で=韓国国防次官****
韓国国防部の白承周(ペク・スンジュ)次官は21日、国会で開かれた与党セヌリ党の幹部会議に出席し、北朝鮮の砲撃を受け、南北軍事境界線の北朝鮮側500メートルの地点にK55A1(155ミリ)自走砲29発を応射したと明らかにした。同党の院内報道官が伝えた。

韓国軍の応射が北朝鮮の砲撃から1時間後に行われたことについては、「北の最初の砲撃は1発で、レーダーが誤る場合があるため確認中だった」と説明。「3発の砲声があって砲煙が上がり、対応した」と述べた。

北朝鮮が砲撃を行った地点に応射しなかったことに関しては「わが軍に被害がない地域に砲弾が落ちたため」と説明したという。

一方、最大野党・新政治民主連合への報告では、「弾丸の軌跡から、(対北朝鮮宣伝放送を行っている)拡声器を狙ったものではなく、警告射撃とみられる」と述べた。【8月21日 聯合ニュース】
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北朝鮮軍は20日夕、韓国国防省に通知文を送り、48時間以内に北朝鮮に対する宣伝放送の中止と拡声器の撤去に応じなければ「軍事的行動を開始する」と警告しています。

更に、北朝鮮メディアは、金正恩(キム・ジョンウン)第1書記(軍最高司令官)が朝鮮労働党中央軍事委員会非常拡大会議を緊急招集し、前線地域に「準戦時状態」を宣言したと報じています。

中国の北京で記者会見した北朝鮮のチ・ジェリョン大使も、日本時間の21日午後5時半から「準戦時状態」に入ったことを確認しています。
北朝鮮の「準戦時状態」宣言は、1993年の米韓両国による大規模合同軍事演習による南北緊張時以来です。

また、火力兵器部隊を前線に移動させているとも報じられています。

****北朝鮮軍 最前線に火力兵器部隊を移動か****
北朝鮮の砲撃に韓国軍が応戦し南北で緊張が高まる中、「準戦時状態」を宣言した北朝鮮が火力兵器部隊を前線に移動させ配備しているもようだ。

韓国軍関係者は21日、「北が後方にあった火力を前線に移動配備する動きが確認された」と明らかにした。
240ミリロケット弾と170ミリ自走砲をはじめとする北朝鮮軍の火力兵器が、軍事境界線付近の最前線に集中的に配備されている。

北朝鮮軍が後方にあった火力兵器を前線に移し最前線部隊の戦力をより一層強化していることを意味する。(後略)【8月21日 聯合ニュース】
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韓国側も朴槿恵(パク・クネ)大統領が21日午後に軍司令部を訪問し、「北のいかなる挑発にも徹底して断固対応せよ」と指示するなど、応戦の構えです。

****朴大統領が軍司令部訪問「北の挑発に断固対応せよ****
北朝鮮軍が20日に最前線地域で韓国に向けて砲撃を行ったことを受け、韓国の朴槿恵(パク・クネ)大統領は21日午後、ソウル近郊・京畿道竜仁市の第3野戦軍司令部を訪問し、「北のいかなる挑発にも徹底して断固対応せよ」と指示した。青瓦台(大統領府)が伝えた。

同司令部は、北朝鮮が砲撃を行った西部戦線で韓国軍の戦闘・防衛の指揮を執る機関。

朴大統領は司令官らから北朝鮮の砲撃に対する韓国軍の対応や北朝鮮軍の動向などについて報告を受け、「北の新たな挑発に即刻対応できるよう、一分の隙もなく対応態勢を維持せよ」と指示。「わが兵士と国民の安全に危害を加える北のいかなる挑発も決して容認できない」と強調した。

また、20日に北朝鮮の砲撃を受け、韓国軍が現場の指揮官の判断で応射したことを評価。北朝鮮のさらなる挑発があった場合も、「先措置、後報告」(先に措置を取った後、報告する)との原則を守らなければならないと強調した。【8月21日 聯合ニュース】
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不測の事態でエスカレートする危険も
日本のすぐ隣、朝鮮半島で一触即発の危機が高まっていることは重大な事態であることは間違いないのですが、2010年の延坪島砲撃事件など、北朝鮮による挑発行動や常軌を逸した行動には、ある意味慣れっこになっていることもあって、正直なところ「またか・・・」という感もあります。

逆に言えば、北朝鮮側としてはそのように侮られないために、より強い姿勢を見せなければ・・・という力も働きます。

****北朝鮮、ノドン発射の動き=準戦時状態で緊張高める****
聯合ニュースによると、韓国政府関係者は21日、北朝鮮が中距離弾道ミサイル「ノドン」や短距離ミサイル「スカッド」の発射に向けた動きを見せていることを明らかにした。

北朝鮮軍は、韓国軍が22日夕までに宣伝放送の中止と拡声器の撤去に応じなければ軍事行動に出ると警告。「軍事行動の準備を完了した」(朝鮮中央通信)とされ、米韓両軍は警戒を強めている。

米韓両軍は、西部の平安北道でノドン、東部の元山でスカッドを搭載した発射車両が展開されている動きをつかんだという。政府関係者は「(北朝鮮は)軍事的緊張を高めるため、発射時期を計算するだろう」との見方を示した。

白承周国防次官は21日の国会答弁で、宣伝放送について、「北朝鮮がわれわれの政治・軍事的要求を聞き入れない限り続ける」と表明。北朝鮮が今後、拡声器への直接攻撃を仕掛ける可能性が高いと予測した。

一方、北朝鮮の池在竜駐中国大使は21日夕、北京の大使館で記者会見し、前線地域に準戦時状態が宣布され、部隊が「完全武装した戦時状態」に移行したと説明。

「非武装地帯に地雷を埋めたこともなく、先に砲撃したこともない」と韓国側の主張に反論した上で、要求に応じない場合「超強硬な対応は避けられない」と警告した。【8月21日 時事】 
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国内的に弱腰と見られる姿勢をとれないことは韓国側も同様です。韓国軍は全軍に最高レベルの警戒態勢を発令し、対応作戦に突入しています。

こうしたチキンレースの結果、思わぬ不測の事態を招く危険は常にあります。

また、北朝鮮で最近顕著な幹部処刑などの「恐怖政治」と、そうした異様な状況下での「忠誠競争」の結果、事態がエスカレートする危険もあります。

****北朝鮮砲撃】恐怖政治と忠誠競争で台頭する軍強行派、実態流す韓国宣伝放送に過敏反応**** 
約5年ぶりに北朝鮮が韓国に砲撃を加えた。人的・物的被害は出ていないもようだが、韓国では北朝鮮の軍事挑発に関するニュース一色で、北朝鮮の脅威を改めて国民に想起させる事態となっている。

北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)体制では、朝鮮労働党高官らの処刑が続くなど“恐怖政治”が進行、幹部の“忠誠競争”とあいまって強硬派が台頭していた。

非武装地帯(DMZ)の韓国側で4日、北朝鮮が埋設したとされる地雷が爆発し韓国軍の2人が重傷を負った際、北朝鮮の軍事行動で韓国軍に人的被害が出たのは2010年11月の延坪島(ヨンピョンド)砲撃以来と報じられた。

同年3月の北朝鮮による韓国海軍哨戒艦撃沈事件や、延坪島砲撃を主導したとされるのが、工作機関「偵察総局」の金英哲(ヨンチョル)総局長だ。

金総局長は今年、朝鮮人民軍の大将から上将に降格されたことが判明したが、聯合ニュースによると、7月下旬、大将に復帰していたことが確認されたという。復帰後の最初の挑発が「地雷埋設」だったと韓国側はみている。

今回の「砲撃」という強硬対応措置についても、金総局長の影響を指摘する韓国メディアもある。

12年に発足した金正恩体制下では、このように側近・幹部がしばしば降格し、しばらくしてから復帰するケースが多い。

金正恩第1書記の最側近とされる黄炳瑞(ファン・ビョンソ)・朝鮮人民軍総政治局長と崔竜海(チェ・リョンヘ)党書記も役職や序列が頻繁に入れ替わり、注目された。(1)強力なナンバー2を作らない(2)忠誠を競わせる−ための人事とされる。

韓国では今月に入り、北朝鮮の崔英建(ヨンゴン)副首相が5月に銃殺処刑されていたと報じられた。山林緑化政策に関連し、金第1書記に不満を示したことが処刑理由という。党組織指導部の金グンソプ副部長も昨年9月に公開処刑されたとみられている。

金正恩体制下では、おじの張成沢(チャン・ソンテク)氏をはじめ、80人以上が処刑されたといわれており、恐怖政治が広がっているのが実情だ。

北朝鮮当局が恐怖政治による統制でしか人心の掌握を図れないからこそ、金正恩体制の実態などを拡声器を通じて大音量で流す韓国の政治宣伝放送に、極めて敏感に反応するといえる。【8月20日 産経】
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北朝鮮側の今回のような強硬姿勢は、北朝鮮内部の引き締めを図る狙いがあるとも指摘されています。
対外危機で国内求心力が高まるのは、支持率が低迷する韓国・朴大統領にとっても好都合です。
ただ、「先措置、後報告」のもとで事態が常にコントロール可能な状態に留め置かれる保証はありません。

北朝鮮側が宣伝放送の中止と拡声器の撤去の期限としている“48時間”は明日22日の夕方です。
韓国側も引かないでしょう。

おそらく、期限切れでまた何か北朝鮮側が仕掛けると思われます。
不測の事態に陥らないことを願いますが、なんとも厄介な隣人です。

追記
中国はどう対応するつもりなのか・・・と思っていましたが、北朝鮮を抑える方向ではあるようです。
また、北朝鮮自身も事態拡大を望んでいないとも。

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・・・・北朝鮮としては、これ以上の事態の緊張は避けたい考えとみられる。

9月3日には中国が国家の威信をかけた戦勝70周年記念行事を予定しており、中国は朝鮮半島が緊張する事態を望んでいない。

北朝鮮が挑発行為をエスカレートさせれば、中国側も北朝鮮の動きを制御する可能性がある。
北朝鮮指導部に近い関係者によると、中国は既に、北朝鮮との関係改善に乗り出しており、緊張状態はこの動きにブレーキをかける恐れがあるためだ。

北朝鮮側も、国内体制は安定しており、経済危機からの脱却も順調に進んでいるとみられる。朝鮮労働党創立70周年(10月10日)で盛大に軍事パレードを実施するためにも、事態収拾を急ぐ事情もあるようだ。(後略)【8月21日 毎日】
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ただ、先述のように、事態が常にコントロール可能な状態に留め置かれる保証はありません。
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エジプト  弾圧で過激化するムスリム同胞団 民主主義とイスラム主義の共存は?

2015-08-20 23:15:27 | 北アフリカ

(体を張った激しい行動で知られるサッカーサポーターを基盤にムスリム同胞団の青年組織として設立された組織の若者 “flickr”より By Belal Darder https://www.flickr.com/photos/126920889@N07/19307893981/in/photolist-uxQQpj-uxQdmC-uQGeV4-vMrvUv-vTgHDT-uH6wKr-vqb1cP-wYkyTR-veeQNK-vg4iPx-wm9m5t-uXf7Xf-vwU8d6-vqLTaf-7hskNM-twLL4m-uiSHv5-u3ptEh-wGyquU-uDNai4-w89N5E-wnLtre-vuQpiX-vxaZsw-utnUAy-xiWotz-wHkrMW-vJohZT-vNDXch-vsqARJ-u9jtrE-w92p4b

シシ政権の強権的政治でも改善しない治安
エジプトでは、穏健なイスラム原理主義組織ムスリム同胞団が主導するモルシ政権が2013年7月に軍部による事実上のクーデターで倒れたのち、軍の力を背景にしたシシ政権がムスリム同胞団への徹底した弾圧など強権的ともいえる手法で治安の安定をはかっていますが、イスラム過激派「イスラム国(IS)」やムスリム同胞団メンバーによる警察や軍などを狙った攻撃、更には外国人を標的にしたテロはどが相次いでいます。

今月6日には、シシ政権が威信をかけて進めてきた国際海運の要衝スエズ運河の拡張工事が完了し、北東部イスマイリアで記念式典が開かれましたが、その直前5日はシシ政権に挑戦するがごとく、IS傘下の組織によるクロアチア人エンジニアの拉致が公表されました。

****イスラム国】エジプト・カイロで外国人誘拐、殺害脅迫 初めての発生に衝撃走る 企業撤退の動き加速する恐れも****
エジプト東部シナイ半島を拠点とするイスラム教スンニ派過激組織「イスラム国」の傘下「シナイ州」は5日、ネット上にビデオ声明を発表し、同国の首都カイロ郊外で先月22日にクロアチア人の男性エンジニア(30)を誘拐したことを認めた。

ビデオには男性自身が登場し、「48時間以内にエジプトで収監されているすべての女性イスラム教徒を釈放しなければ、私は殺害される」との声明を読み上げた。

カイロ周辺でイスラム国系武装組織による外国人誘拐が確認されたのは初めて。中東の地域大国である同国には数百人の邦人を含む多数の民間外国人が生活しているが、イスラム国系の活動が活発化していることが鮮明となったことで、企業撤退の動きなどが加速する可能性がある。(中略)

エジプトでは6日、シーシー政権が国家の威信をかけて推進するスエズ運河拡張工事の記念式典が予定されている。映像はこれに合わせ、政府への挑戦として公開された可能性が高い。

エジプトで収監されている女性受刑者には、2013年の政変で排除されたイスラム原理主義組織ムスリム同胞団のメンバーが多数含まれていることから、今回の要求には、政府の威信を傷つけるとともに、政府と対立する同胞団メンバーに秋波を送る狙いがあるとみられる。

エジプトではこのところ、シナイ半島北部を中心に「シナイ州」によるテロや軍への襲撃事件が続発。同胞団系によるととみられるテロも相次いでおり、治安の悪化が進んでいる。【8月6日 産経ニュース】
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ISは12日、拉致したクロアチア人男性を斬首したと発表し、男性の遺体とされる写真を公開しています。

今日20日には、首都カイロの警察の建物前で自動車爆弾が爆発して警察官6人が負傷する爆弾テロが起き、ISが犯行声明を出しています。

****エジプト首都の自動車爆弾爆発、ISが犯行声明****
エジプトの首都カイロ北部シュブラ―地区の警察施設で20日未明に発生した自動車爆弾の爆発について、イスラム過激派組織「イスラム国(IS)」が犯行声明を出した。この爆発で警察官6人を含む29人が負傷した。

ISと関わりがあるとされるツイッターアカウントから「ISの戦闘員がカイロ中心部の警察施設を自動車爆弾で攻撃することに成功した」とする声明が投稿された。

標的にされた警察の建物には、国家安全保障の脅威に対する捜査部局が入っていた。【8月20日 AFP】
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【「シシに恨みを抱く人々を抑え込むことは、不可能に近い」】
エジプトの治安問題については、ISもさることながら、これまで非暴力を掲げてきたムスリム同胞団の動向が大きな影響を持ちます。

前出記事に“(IS側に)政府と対立する同胞団メンバーに秋波を送る狙いがある”ともあるように、シシ政権による徹底した弾圧によってムスリム同胞団が過激化し、ISへ参加するメンバーも増え、テロが今後更に増加することも懸念されています。

“エジプトでは13年7月、大規模な反政府デモを受けて軍が政治介入し、同胞団所属の大統領ムハンマド・モルシーを解任した。翌月にはこれに抗議する座り込みが強制排除され、1日で600人以上が死亡。以降、同胞団員やその家族ら数千人が拘束された。拷問なども頻繁に行われているとされる。団員らの恨みは深い。”【7月23日 産経】

モルシ前大統領をはじめとする同胞団メンバーの大量死刑という「政治裁判」も進められています。

****エジプト政府の弾圧でムスリム同胞団が過激化****
非暴力主義を貫く旧世代が求心力を失い,若手メンバーがISISに移る恐れも

エジプトで「アラブの春」が起きて4年以上。反政府組織だったムスリム同胞団のムハンマド・モルシは民主化後、選挙で大統領の座に就いた。

だが13年の軍による事実上のクーデターで排除され、今は死刑判決を受けた身だ。
岐路に立つ同胞団は今後、どのような道を進むのか。

シシ大統領率いるエジプトでは、人権団体ヒューマン・ライツ・ウォッチのショー・ストークが「記憶するなかで最悪の人権侵害」と呼ぶ状況が続いている。

特に同胞団への弾圧はひどく、モルシ失脚以来、多くのメンバーが逮捕や国外追放になった。トルコなどに逃げおおせたのはごく少数の幹部だけだ。
 
昨年、同胞団の最高指導者モハメド・バデイや、モルシ支持者682人が死刑を言い渡された裁判はわずか8分で結審。そんな「政治裁判」で、モルシも今年6月に死刑を言い渡された。

だが同胞団の支持者は、挑戦的な姿勢を続ける。シシ政権下で収監され、今はトルコ在住の同胞団の元活動家ムスタファ・エル・ネムルは人々の反撃を予想する。「シシに恨みを抱く人々を抑え込むことは、不可能に近い」

同胞団は数十年にわたり、非合法組織として政府に抑圧されてきた。それゆえ結束は固い。
「入団には厳しい手続きがある」と、ブルッキングズ研究所のシャディ・ハミドは言う。入団希望者は5~8年かけて教義をたたき込まれ、徐々に正式なメンバーとして認められる。

ワシントン中近東政策研究所のエリック・トラガーによれば、同胞団は「厳格な方法で個人をイスラム化させ、それを家族や社会、国家、ひいては世界に広げようとしている」。

同胞団が人々を引き付ける理由の1つが、政治的イスラムと社会福祉事業の融合だ。彼らは70年代に公に暴力を否定し、教育活動やスポーツ施設の運営などで大衆の支持を得てきた。

この方式をセネガルからロシアまで多くの国で実践。ハミドの推計ではエジプトには現在50万人ほどのメンバーかおり、多くは毎月収入の約15%を寄付する。

暴力否定派と暴力容認派
シシ政権の弾圧は同胞団を壊滅させることはないが、組織を根本的に変えるだろう。内部では長年、非暴力を貫くグループと、状況によっては暴力を容認するグループが対立している。

多くの幹部が逮捕や国外追放でいなくなった結果、世代交代が起きたとハミドは指摘する。
「エジプトにいる若いメンバーが主導せざるを得なくなった」

新指導部の中には、「防衛的暴力」を主張する者もいる。シシ政権を動揺させる目的で、インフラ攻撃や治安部隊への報復を行うのだ。「古株には非暴力が染み付いているが、若手にはそうした意識がない」とハミド。

指導部は求心力を失っている、と指摘する同胞団の元メンバーもいる。幻滅したメンバーが過激なテロ組織ISIS(自称イスラム国、別名ISIL)などに移る危険もある。

ハミドによれば、これまでは管理体制や忠誠心が歯止めになっていた。

近隣諸国は動向を注視している。同胞団は中東では数少ない非暴力を掲げる政治勢力で、組織力も高い。サウジアラビアなど主要国の仇敵でもある。

イランとの覇権争いに忙しいサウジが態度を軟化させる可能性はあるが、同胞団がサウジの君主制を脅かす存在であることに変わりはない。

ハミドが言うように「同胞団は宗教的な反対勢力で、民主的な選挙を支持する。サウジはそのどちらも嫌いだ」。【8月25日号 Newsweek日本版】
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弾圧による組織変容が“団員の暴発を招く危険性”をはらんでいるとの指摘もあります。

****同胞団はいま(上)】我慢いつまで・・・過激化する若手団員 エジプトの「時限爆弾」恨み鬱積****
数人単位「細胞組織
・・・・「同胞団はクラスター型(少人数による自己完結型グループの集合体)の組織に生まれ変わるべきだ。現に、その方向に進んでいると思う」。
クーデター後、同胞団に同情的なトルコへ逃れた団員、ハーリド・マスリー(22)は、こう確信している。

同胞団はこれまで、ムルシド(最高指導者)を頂点とする強固なピラミッド型組織を特徴としてきた。大規模デモがムバラク政権崩壊につながった11年の政変や、その後の議会・大統領選での勝利は、強い組織的動員力があったためだ。

しかしマスリーは、数人単位の「細胞組織」が、上層部の指示によってではなく、自律的に行動することで「当局の取り締まりを逃れながら、闘争を続けられる」と主張する。

一方で、クラスター型への変容は、組織の統制がきかなくなり、団員の暴発を招く危険性をはらむ。
中堅団員のアンマール・ファイド(31)は「(若手を中心に)いつまで我慢すればいいのか、と問う声が強まっている」と言う。

さらにアッヤーシュは、若手団員の間で、政権側だけでなく、その統治を受け入れている人々を「背教者」と呼ぶ風潮が徐々に広がっていると指摘する。

敵を一方的に不信仰者と断罪し、殺害さえ正当化するイスラム国などの過激思想にも通じる考え方で、「これまでの同胞団にはみられなかった言説」だ。

「報復は当然の権利」
クーデター後に勢力が弱まった同胞団は現在、「平和的な大衆革命運動」との組織方針を掲げる。

しかし、トルコで事実上の亡命生活を送る幹部、ガマール・ヘシュマト(58)は「平和的手段」にはインフラの破壊工作などが含まれるとした上で、「団員が(同胞団を弾圧する)政権に報復し身を守るのは当然の権利だ」と説明し、政府や軍、警察などへの暴力を否定しなかった。

モルシー政権崩壊から2年となるのを前にした6月29日、首都カイロでは自動車爆弾を使ったテロで検事総長が死亡し、同胞団系とみられるグループが犯行声明を出した。
ほかにも各地で同胞団の関与が強く疑われる襲撃事件が相次いでおり、市民への被害も少なくない。

ヘシュマトは6月、こう警告していた。「今の同胞団は時限爆弾のようなもの。追い詰められれば爆発するしかない」【7月23日 産経】
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目指す統治体制は?「現代のカリフ制の形も議論する必要がある」】
混乱と弾圧のなかで、ムスリム同胞団の目指す統治体制がどういうものなのか・・・そうした根源的な問いかけもなされています。

****同胞団はいま モルシー政権崩壊2年】(下)「カリフ制」再考の動き 掲げる理想、曖昧なまま****

同胞団を創始したハサン・バンナーは1940年代、個人から家庭、社会、政府、国家へと「イスラム化」を進め、世界での指導的地位を確立するとする段階的発展論を唱え、社会・政治活動を展開した。

究極的には同胞団主導でのカリフ(預言者ムハンマドの後継者)制復活を目指しているといわれるが、明確にはされず、ムバラク政権下では「イスラムこそが解決だ」とのスローガンと福祉活動で貧困層へ浸透を図った。

「野望」のあいまいさは、政権に不満を持つ層の受け皿ともなった。

そして、最高幹部のムハンマド・モルシーが当選した2012年の大統領選後、同胞団は性急に権力掌握を進めた。同年12月には大統領が司法を超越した絶対権力を持つとまで宣言し、軍などの旧政権関係者や他の政治勢力を敵に回し、13年6月の大規模な反政府デモとその後のクーデターへとつながった。

帰国すれば逮捕の可能性が高いバイユーミは「同胞団のやり方は現代に合わなかった」と嘆く。

組織内に矛盾はらむ
目指す統治体制を明確にできていないことも失敗の一因ではないか。(エジプト人法学者の)タリーマにもこんな意識がある。
 
事実、クーデター前の同胞団は、表向きは民主主義を標榜(ひょうぼう)しながら、「エジプト大統領は国民のイマーム(導師)であるべきだ」と、イスラム優位の政教一致論を語る最高幹部もいた。

そうした矛盾を解消するためにも「現代のカリフ制の形も議論する必要がある」とタリーマは言う。

カリフ制の再考といった思想面の動きは、スンニ派過激組織「イスラム国」が現実に政教一致のカリフ制国家を名乗り、勢力を拡大していることとも無縁ではない。

団員の中に、イスラム国にひかれたり、同胞団に幻滅したりする者が現れる中、これまで棚上げしてきた問題を直視せざるを得なくなっているのだ。
 
創設以来、各地のイスラム運動に大きな影響を与えてきた同胞団は、自らの理想の実現に向けてどう変容するのか。また、その変化は同胞団が主張する「平和的革命運動」に沿ったものなのか。答えはまだ見えてこない。【7月25日 産経】
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民主主義とイスラム主義を共存させることができるのか・・・・エジプト、ムスリム同胞団だけの問題ではなく、既存政治への不満・批判から「イスラムこそが解決だ」とのイスラム主義が台頭する世界の多くのイスラム国家で問われている課題です。
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タイ・バンコク爆弾テロ  反政府派締め付け強化、軍事政権長期化、経済混迷の恐れも

2015-08-19 22:56:26 | 東南アジア

(20人が死亡した17日夜の「エラワン廟」前 【8月18日 Hazard lab】)

連続爆弾テロ? 組織的犯行? 外国人の犯行?】
タイ・バンコクでは17日夜、商業施設が集まるバンコク中心部の「ラーチャプラソン交差点」の一角にあるヒンドゥー教の神を祭る「エラワン廟」前で起きた爆弾テロで20人が死亡、更に18日午後、現場から西南に約4キロ離れたチャオプラヤ川に架かるタクシン橋近く、川船観光の発着地点となる船着き場付近でも爆発がありました。

17日夜の1回目の爆発では、殺傷力を高める工夫が施されたパイプ爆弾が使用されたと報じられています。

18日の2回目の爆発については、水中での爆発で噴水のように水しぶきが上がっていますが、1回目のような負傷者は出ていません。

タイ国家警察のソムヨット長官は、18日の爆発について、17日と同じように外国人観光客が集まる場所が狙われたほか、使用された爆弾の種類や特徴などが似ていることから、両事件は「同じグループが関与した疑いがある」としながらも、「模倣犯」による犯行だった可能性もあるとも述べ、あらゆる可能性を排除せずに捜査を進めていると語っています。【8月19日 毎日・AFPより】

1回目の爆発では、観光スポットという場所柄、日本人1名含む外国人が多く被害を受けています。
特に、香港住民2人を含む中国人旅行者4人が死亡したほか、中国人旅行者20人以上が負傷したとのことで、中国人の死傷者が多くなっていますが、中国人を狙ったという訳ではなく、タイを訪れる観光客の4人に1人を中国人が占める現状を反映した数字でしょう。

タイ警察は1回目の爆発の際に防犯カメラに映っていた「黄シャツ男」に逮捕状を請求していますが、単独犯ではなく、組織的犯行と考えています。外国人かタイ人かについては定かではありません。

****タイ警察、「黄シャツ男」逮捕状請求へ=組織的犯行の可能性―バンコク爆弾テロ****
タイの首都バンコク中心部で死者20人を出した17日の爆弾テロで、警察当局は19日、防犯カメラに映っていた不審な黄色いシャツ姿の男の似顔絵を公開するとともに、殺人罪などで逮捕状を請求する方針を明らかにした。単独犯ではなく組織的犯行の可能性が高いとみて調べを進めている。

警察が公開した防犯カメラの映像などによると、男は爆発現場となったエラワン廟(びょう)にバックパックを置いたまま姿を消し、その直後に爆発が起きた。

ソムヨット国家警察長官は報道陣に「1人で実行できることではない」と指摘。「男を手助けした可能性のある容疑者が他にいないか防犯カメラを改めて検証する必要がある」と述べた。容疑者逮捕につながる情報の提供者に100万バーツ(約350万円)の懸賞金を贈ることも明らかにした。

男は容貌や歩き方の特徴などから「外国人の可能性が高い」(情報機関筋)との見方がある一方、外国人に偽装したタイ人の疑いもあると警察はみている。【8月19日 時事】
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これまでのテロとは異なる様相も
タイでの爆弾・テロという話になると、当然ながら最初に思い浮かぶのはタクシン派と反タクシン派の間で続く抗争です。

実際、プラユット暫定首相は18日、事件前の13日にフェイスブックにテロを予告するような投稿をしていた男がいたことを明かし、「男は東北部を拠点とする反政府グループの一員だ」と発言しています。

タイ東北部はタクシン派の地盤として知られており、タクシン派の犯行を示唆したともとれる(あるいは、注目をタクシン派へ向ける)発言です。

タクシン派潰しに躍起となっている軍事政権ですが、随分早い段階での発言で、タクシン派敵視の思い込みがあるのかも・・・とも感じられました。(タクシン派にとっては、犯人とされる男性のシャツが赤色でなくて幸いでした。)

タイが抱えるもうひとつ抗争は、いわゆる“タイ深南部”と言われる、マレーシア国境に近い南部3県を中心にしたイスラム教徒と治安当局・仏教徒の争いです。

イスラム教徒の多い南部では、2004年以降、分離独立を求めるイスラム武装勢力のテロが続発しており、爆弾テロも起きています。昨年7月時点の爆弾テロのとき、“これまで6100人以上が死亡したとされている”【2014年7月28日 読売】と報じられていたように、多大な犠牲者を出す凄惨なテロが続いています。

しかし、今回の爆弾テロは、従来のタクシン派・反タクシン派抗争やタイ深南部でのテロとはやや様相が異なるようにも見えます。

タクシン派や南部過激派も、当局の報復を招く今回のような過激なテロ行為を起こすメリットがないことを主張しています。

一方で、中国から逃れたウイグル族を強制送還したタイ軍政の対応に反発するイスラム過激派による犯行説も浮上しています。

タイ軍政は先月、中国新疆ウイグル自治区から逃れてきたイスラム教徒のウイグル族約100人を中国に強制送還し、トルコではイスタンブールのタイ領事館が襲撃を受ける混乱も生じています。

「国内情報機関からは、ウイグル族を強制送還したタイ政府に暴力で報復しようとする動きがあるとの報告もあった」(警察関係者)【8月18日 毎日】とも。

「黄シャツ男」が外国人のようにも見えることからも、国外イスラム過激派の関与の可能性もあります。

****タイ爆破テロ、臆測呼ぶ 軍政への不満?イスラム過激派関与****
タイの首都バンコクで起きた爆破テロは18日、防犯カメラに映った不審人物が急浮上した。だが、犯行の背景については、不明な点が多い。国内にさまざまな対立軸を抱えるタイで、臆測が乱れ飛んでいる

今回の爆弾の威力や使用の手口は、これまでのタイでの事件と異なっている。
バンコクにも手投げ弾などが使われて死傷者が出た事件がある。だが、大半は深夜などに人の少ない場所で起きたり、殺傷力が低い爆発物が使われたりした。

今回、人出の多い午後7時に、外国人客も多く訪れる観光スポットを狙ったのは「明らかに多数の殺害を狙ったものだ」(ソムヨット国家警察庁長官)。

タイでは、タクシン元首相派と反タクシン派の対立が激化し、昨年5月、事態の収拾を名目に当時、陸軍司令官だったプラユット暫定首相らが軍事クーデターを決行。その後、暫定政権(軍政)が戒厳令に準じる治安規制をしいていた。

誰がテロを仕掛けたか。いくつかの臆測が流れるが、現段階ではいずれも決め手を欠く。

暫定政権のサンスーン報道官は「現在の体制で政治的利益を失って不満を持つ者の仕業だ」と語った。クーデターで崩壊したインラック前政権を支持するタクシン派が、現政権に反発しているのは事実だからだ。

だが、派内には「いま抵抗しても益はない。選挙で復活するのが我々の方針」(前政権下の副首相、ポンテープ氏)との声がある。

イスラム過激派の犯行を疑う声もある。
タイではイスラム教徒が多数派の最南部3県で分離独立運動が続き、路上爆弾などで仏教徒が標的にされてきた。ただ、南部の過激派、パッタニ統一解放機構(PULO)の指導者、マハトラ氏は「首都を狙えば陸軍に攻撃の口実を与える。国際テロ組織との連携も避けている」と言う。

イスラム教徒を巡っては今年、ミャンマーの少数民族ロヒンギャの不当な拘束や、中国・新疆ウイグル自治区から逃れてきたウイグル人約100人の強制送還で軍政は国際的な批判にさらされた。とくにウイグル問題ではトルコでタイ領事館が襲撃されるなど、イスラム世界の反発を招いた。

ウドムデート陸軍司令官は、最南部の分離独立運動が背後にある可能性は否定する一方、「外国勢力」の関与は「動機についてはあらゆる可能性を排除しない」と話すにとどめた。

近く発表される陸軍司令官人事をめぐる軍内の摩擦が火種だったとの見方もある。国軍の最高実力者である新陸軍司令官は、プラユット氏の実弟と、別の実力者が推す陸軍司令官補が競い合っているとされる。(後略)【8月19日 朝日】
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現段階では、あらゆる可能性が考えられる・・・としかまだ言えません。

威信を傷つけられた軍政の取締り強化、観光業ダメージで経済失速の懸念
今回事件は、「タクシン派つぶし」を狙った民政移管手続きを進める、政治的には微妙な時期に起きたものであり、その影響が懸念されます。

もしタクシン派の関与、あるいは治安当局がその線で捜査を行うという話になると、政治抗争が再燃・過激化する恐れがあります。

****政治的に微妙な時期=バンコク爆弾事件―タイ****
タイは昨年5月のクーデター以降、比較的平穏な治安情勢が保たれてきた。しかし、首都バンコクで17日に起きた大規模な爆弾事件は、政治的に微妙な時期に差し掛かる中で発生した。

新憲法制定のため軍事政権は憲法起草委員会を設置した。委員会は新憲法案を国家改革評議会(NRC)に近く提出する。これを受け9月上旬にNRCでは採決が行われる予定。採決で新憲法案が承認されれば、来年1月にも新憲法案の是非を問う国民投票が実施される見通しとなっている。

こうした動きに対し、タクシン元首相は動画投稿サイトに先週、ビデオ映像を投稿。その中で新憲法案を「最悪」と厳しく批判した。同案を否決するよう呼び掛けている。憲法案をめぐりタクシン派と反タクシン派の対立が再燃する可能性が高まっていた。

今回の爆弾事件について軍政のプラウィット副首相兼国防相は地元テレビに対し「動機が観光と経済の破壊にあるのは明白だ」と述べた。政情の不安定化を狙った犯行との見方を示している。【8月17日 時事】 
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タクシン派関与は別にしても、治安安定を看板にしてきた軍事政権はその威信も傷つけられたことで、反政府的言動への締め付けを強化することが想定されます。
軍事政権にとっては、2006年軍事クーデターの失敗の記憶もあります。

また、タイ経済を牽引する観光へのダメージも大きなものがあり、経済全体の失速も懸念されます。

結果的に治安維持を名目とした軍政長期化の動き、経済の混迷、それへの反発激化・・・・といった事態も考えられます。

****タイ迷走に拍車 バンコク爆弾テロ、軍政の治安維持失敗****
タイの首都バンコクを襲った爆弾テロが、昨年5月のクーデター後に国家の全権を担う軍事政権を揺さぶっている。「治安維持が最優先」と統治の正当性を主張してきたにもかかわらず、150人近くが死傷する卑劣な犯行を防げなかったことは、軍政の大きな失点だ。

低迷するタイ経済のつっかい棒だった観光産業は冷水を浴びせられ、景気の二番底の恐れが現実味を帯びる。社会の不安と不透明感が強まれば、今後の民政復帰の行方にも影響を及ぼし、タイ政治の迷走に拍車がかかりかねない。(中略)
タクシン元首相派政権を倒した昨年5月のクーデターは、タクシン派と反対派が一触即発の状況に陥る中で、軍が流血の事態を防いで国民和解を実現するという理由で決行した。

今年4月に戒厳令を解いた後も、プラユット氏は暫定憲法に規定された非常時大権を発動し、令状なしでの容疑者逮捕など治安維持のための強権を振るってきた。

その中で起きた今回のテロは、軍政が声高に訴えてきた治安維持に失敗したことを意味する。

軍には苦い教訓がある。2006年の前回クーデター後に政権を率いたスラユット暫定首相も、プラユット氏と同じ陸軍司令官の経験者だった。

ところが同年12月31日、新年のカウントダウンでにぎわうバンコク中心部8カ所で連続爆発事件が起き、40人以上が死傷した。事実上の軍政にもかかわらず治安維持すら遂行できないと国民の信頼を失い、軍が掲げた改革は中途半端に終わった。

同じ過ちを避けようと、プラユット氏はテロで衝撃を受けた国民に寄り添う姿勢を示し、容疑者逮捕に全力を挙げる構えを強調している。

それ以上に政権にとって痛手なのは、治安安定と並ぶ求心力のもう一つの柱である、経済への影響だ。中国の景気減速やインラック前政権の過度の景気刺激策の反動で、輸出と消費が不振にあえぐなかで、タイ経済を支えているのは国内総生産(GDP)の1割弱を占める観光産業の好調だ。(中略)

タイのGDP伸び率は12年の6.5%から13年は2.9%、14年は0.7%へと減速してきた。政府が17日改定した今年の通期予測は2.7~3.2%と底打ちを見込むものの、観光分野が失速すれば、再度の下方修正が避けられなくなる。

保守勢力の一部の間では、かねて軍政の長期化を求める声がある。治安への懸念が高まり、経済の回復も見通せなくなると「民政復帰のための選挙よりも国内の安定と改革を優先すべきだ」との声が強まる可能性もあり、国内対立の火に油を注ぐ恐れも出てくる。【8月19日 日経】
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タクシン派の動きも注目されます。

****治安売り物」のタイ軍政に打撃 反体制派締め付け強化 民政移管遠のく恐れも****
・・・・テロの実行犯や首謀者が何者かは判明していないが、注目されるのが、軍部の圧力で沈黙してきたタクシン元首相派の動向だ。タクシン派は、軍政が来月初旬にも新憲法草案を承認するのをにらみ、反軍政の言動を活発化させている。

新憲法草案が承認されれば、来年1月に草案の是非を問う国民投票、9月にも民政移管に向けた総選挙が行われる。草案には上院議員の一部任命制や軍部関与を継続する委員会の設置、非議員の首相任命可能条項などが含まれており、「タクシン派つぶし」が狙いとの見方が強い。

インラック前首相は17日に声明を出し、草案を「民主的でない」と批判。公正なルールなしで平和は成り立たないとした上で、「経済と市民生活が喫緊の課題だ」として早期の民政移管を訴えた。

軍政は、インラック政権下で築かれた利権構造にも切り込んでおり、軍政とタクシン派の対立を背景に、反軍政勢力の一部が、国内外の反発を覚悟で首都での無差別テロに踏み切った可能性は排除できない。

こうした中、プラユット首相は18日、内閣改造の名簿を国王に提出したことを明らかにした。経済閣僚を交代させ、景気低迷に対する国民の不満を和らげる狙いとみられる。

今回のテロを受けて治安維持の名目で軍政が長期化し、経済運営の混迷が深まる懸念もある。事実上の海外逃亡をしながら復権を狙うタクシン氏の次の行動にも関心が集まっている。【8月18日 産経】
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ミャンマー  立候補締切直前の「党内クーデター」 スー・チー氏は解任されたシュエ・マン氏と連携模索

2015-08-18 22:22:09 | ミャンマー

(写真は【8月12日 新華ニュース】  政変劇の一方で、ミャンマーでの洪水による被災者数は約100万人に達し、そのうち34万人近くが子どもであるとみられています。被害が大きかった地域のうち、チン州とラカイン州は、ミャンマーの中で最も貧しい地域です。チン州は住民の70%が、ラカイン州では50%が、1日2米ドル以下の貧しい暮らしをしています。 【8月12日 unicefより】)

テイン・セイン大統領派が巻き返し シュエ・マン党首を解任
ミャンマーでは民政移管後の初めての総選挙が11月に行われる予定で、立候補の受け付けが14日締め切られました。

周知のように、その締切直前の12日夜、大統領派が主導する形で与党「連邦団結発展党(USDP)」本部が警察により包囲され、下院議長でもある与党党首(形式的には党議長代行ですが、実質的には党首的な立場にあります。本文では以下、“党首”という肩書を使用します。)が自宅軟禁下におかれ、党首から解任されるいう、与党の“党内クーデター”とも言える権力闘争が噴出しています。

****<ミャンマー>治安部隊が与党本部に 抗争シュエマン派駆逐*****
ミャンマーの首都ネピドーで12日夜から13日朝にかけ、数百人規模の治安部隊が与党「連邦団結発展党(USDP)」本部を封鎖し、党議長代行で党内の実権を握るシュエマン下院議長を一時、事実上の自宅軟禁下に置いた。

USDPはその後声明を発表し、シュエマン氏が指導部から外れたことを明らかにした。11月の総選挙に向けてテインセイン大統領派とシュエマン派の主導権争いが激しくなっており、追い込まれたテインセイン派が「党内クーデター」(地元記者)でシュエマン氏排除を狙った形だ。

総選挙では、アウンサンスーチー氏率いる最大野党「国民民主連盟(NLD)」に対し、USDPは劣勢とみられる。

次期大統領への野心を公言するシュエマン氏は、国軍優位を規定した憲法の改正を主張するスーチー氏と連携する動きもみせ、国軍のミンアウンフライン最高司令官と歩調を合わせるテインセイン大統領と対立を深めていた。

今回の政変で、国軍が出動したとの情報が流れたが、大統領府は13日、「党からの要請があれば地元警察が駆け付ける」と説明。テインセイン大統領と国軍が連携した政敵排除の「党内クーデター」との見方を否定した。

USDPの議長はテインセイン大統領だが、憲法上、党務を兼務できないため、シュエマン氏が議長の代行を務めてきた。ただ、党の実権を掌握したシュエマン氏は、多くのメディアに「議長」と報じられていた。

イエトゥ大統領報道官は13日、英BBCに「シュエマン氏は党職を外れた」と発言。「今は逮捕者はいないが、法と秩序に反すれば法的手段を取る」と述べ、シュエマン派に対し今回の政変を受け入れなければ「強権発動」も辞さないと警告した形だ。

USDPは政変後に声明を発表。テインセイン大統領が議長であることを確認した上で、シュエマン氏については「下院議長として重大な責務がある」とし、フルタイムで国会運営に当たるべきだと求めた。

シュエマン氏は党指導部の名簿から外れたが、党籍は残っており、総選挙に党公認で立候補することもできるとした。

最大都市ヤンゴンにいるシュエマン氏の息子トーナインマン氏は毎日新聞の取材に「今はコメントできない。父は自宅にいる」と語り、自宅軟禁ではなく「治安要員の通常の警護下にある」と強調した。シュエマン一家は旧軍政期に蓄財し国内でさまざまなビジネスを手がけている。

USDPは12日、総選挙に向けた党候補者リストを公表し、テインセイン大統領が党の候補者に含まれていないことを明らかにしていた。党報道官は「大統領のため選挙区を用意したが、自ら出馬を辞退した」と語った。

地元紙によると、大統領側近の2人の大統領府相も希望する選挙区からの出馬が認められず離党。無所属で出馬することになっていたが、今回の党声明では党指導部に2人の名前が入っており、復権した。

2011年に民政移管した際の最高指導者タンシュエ氏は、軍政序列3位だったシュエマン氏ではなく、4位のテインセイン氏を大統領に「指名」。シュエマン氏は当時から大統領になる野心を持っていたとされる。

総選挙の立候補届け出期限は14日。ジャーナリストのシードアウンミン氏は「(今回の政変は)ぎりぎりのタイミングだった」と指摘した。【8月13日 毎日】
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以前からの両者の確執
テイン・セイン大統領とシュエ・マン下院議長の確執、次期大統領を巡る争いは以前から報じられていました。

最近では、7月中旬、“テイン・セイン大統領がシュエ・マン党首に書簡を送り、健康上の理由で総選挙に出馬しない意向を伝えた”との情報がメディアに流れましたが、大統領府高官が「大統領は、選挙に出馬することも大統領として2期目を目指すことも公には否定していない」と情報を否定する混乱もありました。

前大統領政治顧問で新党を設立した大統領側近は、「誤報騒ぎは党内抗争の表れで、大統領の政治的暗殺を意図したものだ」とも言及していました。

なお、この新党「国民発展党」は党内抗争で与党USDPが分裂した場合、テイン・セイン大統領派が駆け込む「受け皿」になるとうわさされていました。【7月15日 毎日より】

一方、この大統領不出馬情報が流れた際、シュエ・マン党首サイドについては、“ロイター通信によると、シュエ・マン氏は、書簡を受けた13日午後、NLD党首のアウン・サン・スー・チー氏(70)と2人で会談した。憲法で大統領就任を禁じられているスー・チー氏に自身の意欲を伝え、躍進が予想されるNLD側の大統領候補などについて確認した可能性がある。”【7月14日 産経】と、最大野党党首スー・チー氏との連携も報じられていました。

スー・チー氏は当初テイン・セイン大統領との二人三脚で民主化を推進するようにも見えましたが、憲法改正問題がなかなか進展しない中で、大統領との溝が深まっていたとも見られています。

“スーチー氏は政界入り以降、憲法改正問題などを巡りテインセイン大統領と次第に溝を深め、シュエマン氏と関係を強めてきた。NLDが選挙に勝った場合、親族が外国籍で大統領資格を欠くスーチー氏に代わり、シュエマン氏を大統領候補に担ぎ、スーチー氏は下院議長や外相に座るのでは、との観測も流れている。”【7月13日 毎日】

大統領不出馬云々は“誤報騒動”とのことでしたが、USDPが8月12日に発表した国会上下院と地方議会の候補者リストには、実際にテイン・セイン大統領やニャントゥン副大統領、側近のソーテイン大統領府相らは含まれておらず、党内を仕切るシュエ・マン党首側が大統領派を押し切ったようにも思えました。

その直後の“党内クーデター”でした。

軍部のシュエ・マン氏への不満
最大野党党首スー・チー氏との憲法改正問題を含めた接近や、候補者選定における軍部への処遇を巡って、軍部のシュエ・マン党首への不満が強まっていたとの指摘もあります。

****ミャンマー民主化に懸念 与党党首解任、軍が後押しか****
 ■スー・チー氏との連携、不満も
ミャンマーで、大統領選の有力候補と目されていたシュエ・マン下院議長が軍系与党、連邦団結発展党(USDP)の党首を解任され、失脚した。

ミャンマーは軍政から民政移管を果たしたとはいえ、軍が強い政治力を維持している。軍関係者集団内の「クーデター」は、民主化進展の信頼性を揺るがしかねない。

13日のシュエ・マン氏の党首解任と党中央執行委員会からの除名は、今年11月の上下両院総選挙の立候補者名簿の提出締め切り前日というタイミングで行われた。

その後、行われる予定の大統領選(両院議員の投票による間接選挙)では、シュエ・マン氏と再選を目指すテイン・セイン大統領の戦いとなるとみられていたため、背景に両者の対立があったことは明白だ。

ロイター通信によれば、政府はシュエ・マン氏が影響力を持つ新聞と週刊誌を発行停止処分にし、締め付けを強化している。同氏は14日、フェイスブックに投稿し「最後まで国民のために働く」と強調した。

大統領派や軍幹部は、シュエ・マン氏が国民の間で人気のあるアウン・サン・スー・チー氏率いる最大野党、国民民主連盟(NLD)と連携し、スー・チー氏が要求する「軍に有利な現行憲法の改正」に前向きな姿勢を示していたことに不満を募らせていた。

USDPは、2011年の民政移管時の軍事政権の受け皿政党で、軍とは一蓮托生(いちれんたくしょう)の存在だ。党内には軍政を厳しく批判して長期にわたり自宅軟禁下に置かれたスー・チー氏への反感が根強い。

かつて軍政序列3位だったシュエ・マン氏と序列4位から大統領の座に上り詰めたテイン・セイン氏との間には積年の反目もあったとみられる。

また、シュエ・マン党首下のUSDPは、軍部が求めていた元軍人の立候補を一部しか認めず、軍を率いるミン・アウン・フライン司令官との関係も悪化していたとされ、軍が解任を後押ししたとみられている。

解任劇に軍・警察部隊が動員されたことについて、米英政府は懸念を表明し、民主化の進展で市民からの信頼を守るよう要求した。

今回の総選挙は、2010年の前回総選挙をボイコットしたNLDが参加するため、1990年以来初の本格的な選挙戦となる。しかし、インドのシンクタンク、オブザーバー研究財団のミヒル・ボンスレ研究員は「解任劇は、自由で公正な選挙への道を後退させるものだ」と指摘した。【8月15日 産経ニュース】
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テイン・セイン大統領とシュエ・マン氏の間には、“2011年の民政移管にあたり、シュエ・マン氏とテイン・セイン氏は大統領就任をめぐり対立。当時のタン・シュエ軍司令官の裁定により、軍での序列はシュエ・マン氏より低かったが温厚で軍への忠誠も強いテイン・セイン氏が、大統領に選ばれた経緯がある”【8月13日 産経】という個人的なしこりもあります。

ミャンマー民主化を牽引してきたテイン・セイン大統領は“穏健・慎重”なイメージがありましたが、追い詰められて・・・ということでしょうか、あるいは軍部との連携で・・・ということでしょうか、政変劇の内実はわかりません。

スー・チー氏「誰が真の友人かはっきりし、盟友の結束が一層強まることになるだろう」】
とにもかくにも、立候補は締め切られ、11月の総選挙はテイン・セイン大統領が政変で実権を掌握した政権与党とスー・チー党首率いる野党・国民民主連盟(NLD)の事実上の一騎打ちで争われる形になっています。

****6000人以上が立候補=2党の一騎打ちに―ミャンマー総選挙****
ミャンマーの連邦選挙管理委員会は17日、11月8日投票の総選挙に6000人以上から立候補の届け出があったことを明らかにした。

選挙は、テイン・セイン大統領の政権与党・連邦団結発展党(USDP)とアウン・サン・スー・チー党首率いる野党・国民民主連盟(NLD)の事実上の一騎打ちとなる。

総選挙は上下両院選と地方選が行われ、地元メディアなどによると、USDPとNLDはそれぞれ1000人以上を擁立し、上下両院のほぼ全ての選挙区に候補者を立てた。

上下両院計664議席のうち25%に当たる166議席は国軍が指名する軍人議員に割り当てられているため、選挙では残る498議席が争われる。【8月17日 時事】 
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政変後もスー・チー氏とシュエ・マン氏の連携模索は続いているようです。シュエ・マン氏にとっては、スー・チー氏との関係が唯一の頼みの綱とも言える状況です。

****ミャンマー与党前党首、スー・チー氏と会談 ****
ミャンマー政権与党の連邦団結発展党(USDP)は17日、首都ネピドーで緊急会議を開いた。13日に解任を発表したシュエ・マン前党首の処遇を話し合ったと見られる。

一方、シュエ・マン氏は同日、最大野党、国民民主連盟(NLD)のアウン・サン・スー・チー党首と会談。11月の総選挙に向けた協力の可能性を議論したもようだ。

ネピドーでは18日、国会が再開する。下院議長を務めるシュエ・マン氏が、国会に出席するかが注目される。USDPはシュエ・マン氏の党首解任を「同氏の重責を軽減するため」としているが、18日の国会で下院議長職も解任されるとの見方がある。

シュエ・マン氏は改憲問題などで共同歩調をとってきたスー・チー氏との連携で、生き残りを図りたい考えだ。【8月18日 日経】
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****与党党首解任は「非民主的」=スー・チー氏が批判、連携示唆―ミャンマー****
ミャンマー最大野党・国民民主連盟(NLD)のアウン・サン・スー・チー党首は18日、与党・連邦団結発展党(USDP)のシュエ・マン党首(下院議長)がテイン・セイン大統領と対立し解任されたことについて、「民主的ではない」と批判した。首都ネピドーで報道陣に語った。

今回の解任劇で盟友を失ったのではないかとの問いに対し、スー・チー氏は「誰が真の友人かはっきりし、盟友の結束が一層強まることになるだろう」と答え、シュエ・マン氏との連携の可能性を示唆した。【8月18日 時事】
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ただ、シュエ・マン氏の下院議長解任や、場合によっては逮捕も・・・ということで、政治情勢は流動的です。

****ミャンマー:シュエマン氏の下院議長解職めぐり情勢流動化****
ミャンマー情勢を巡り、与党「連邦団結発展党(USDP)」内の抗争でテインセイン大統領(党議長)に党議長代行を解任されたシュエマン下院議長が18日、再開された国会に出席した。

だが、次期大統領を狙っていたシュエマン氏に対し、政権による「排除」の動きが進んでおり、下院議長の立場も危うい。

シュエマン氏と連携する野党「国民民主連盟(NLD)」のアウンサンスーチー議長は同日、引き続き連携する意向を表明。11月の総選挙に向け、政治情勢が一層流動化する可能性がある。

シュエマン氏は首都ネピドーの党本部が治安部隊に封鎖された12日、党議長代行を解任された。党は「国会の職務に専念すべきだ」と理由を公表した。

だが、イエトゥ大統領報道官は取材に「国軍の権限を弱める憲法改正案を(6月の国会採決で)支持し、対抗政党の指導者(スーチー氏)と手を結んだからだ」と語った。

一時「自宅軟禁」下に置かれたシュエマン氏は14日、国会の執務室に入り、自身のフェイスブックで「私は命のある限り国民のために仕事を続ける」と談話を流した。

だが、テインセイン政権は、事実上の「党内クーデター」以降、シュエマン氏寄りの党の新聞や雑誌を発行停止に。親族が経営するラジオ局も放送停止に追い込まれた。

また、中央選管はシュエマン氏に対し、「住民による国会議員のリコール(解職)を可能にする法案を速やかに採決せよ」と求めた。

先の国会でも議論された法案では、自身の選挙区の有権者1%が解職要求に署名し、中央選管が妥当と判断すれば議員は解職される。先の憲法改正案を巡り、シュエマン氏に対してこの趣旨の請願が出ており、「民主的な手続き」を踏まえたシュエマン氏排除のシナリオの一つだ。

一方、国会では18日、「洪水被害に対応する必要がある」と休会を求める提案が出た。事実上、下院議長の役割を取り除く試みとみられる。ジャーナリストのシードアウンミン氏は「シュエマン氏の下院議長解職は避けられない」と予測。「シュエマン大統領」の可能性も消滅した形だ。(中略)

シードアウンミン氏は、シュエマン氏とその支持者がUSDPを離党し、新たなグループを結成してスーチー氏と手を携える可能性を指摘した。ただ、シュエマン氏がなお「大統領」職に固執していると政権が判断すれば、逮捕もあり得るとみる。

USDP内ではテインセイン大統領とシュエマン氏の対立が深まっていた。シュエマン氏は当初、法改正などにより党内で「テインセイン外し」を画策。これをスーチー氏も支持し、大統領派は追い込まれていた。国軍のミンアウンフライン最高司令官と歩調を合わせる大統領は「党内クーデター」で起死回生を果たした形となった。【8月18日 毎日】
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選挙戦は、以前からスー・チー氏の国民的人気に支えられる野党NLD有利が予測されています。
今回の与党内の政変で、野党NLDの“地滑り的勝利”もあり得るのではないでしょうか。

そうなると、テイン・セイン大統領=軍部とスー・チー氏=シュエ・マン氏の抗争は、第2幕を迎えることになります。

仮にスー・チー氏=シュエ・マン氏側が主導権を握ったとしても、ともに“野心的”な両者の関係が維持されるかは疑問にも思えますが、まずは総選挙がどういう結果になるかを見てからの話です。
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ブラジル  汚職・経済低迷・・・今年3回目の大規模抗議デモ 治安問題のひとつに“警官による殺害”

2015-08-17 22:47:18 | ラテンアメリカ

(ルセフ大統領は、弾劾要求が出されている状況に「決して辞めることは考えない。クーデターを煽る雰囲気があるが、それが実現する環境ではない」と。 写真は【8月13日 ロイター】 ずいぶん怖い表情なのは、たまたまでしょう。)

支持率は8%
ブラジルの国営石油会社ペトロブラス(ブラジル石油公社)を舞台とした汚職事件とルセフ大統領の関与については、3月5日ブログ“ブラジル 政権を揺るがす国営石油会社を巡る汚職事件 社会に蔓延する「犯罪者」リンチ”(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20150305)で、
また、ブラジル経済の悪化、治安の悪さ、更に、ルラ前大統領の汚職疑惑などについては、7月18日ブログ“ブラジル リオ五輪を控えた「新興国」 際立つ治安の悪さ 現職、前大統領を巻こむ汚職事件”(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20150718)で取り上げました。

汚職問題も、経済停滞も、治安悪化も改善していません。

****ブラジルで大規模デモ 大統領の弾劾要求 五輪への影響は*****
南米ブラジルで16日、与党政治家らの汚職や長引く経済低迷に抗議して、ルセフ大統領の弾劾を求める全国デモが行われた。

現地メディアによると、デモは全国約200都市で約88万人が参加した。最大都市サンパウロだけで約13万5千人、1年後に五輪を控えたリオデジャネイロでも10万人規模の参加者がいたとみられる。

汚職をめぐっては、前大統領でルセフ氏の後ろ盾となっているルラ氏も捜査対象となっており、政権運営に影響を与える可能性も指摘されている。

最近の世論調査では、ルセフ氏の支持率は8%にまで低下し、不支持率は71%に上昇。66%が弾劾手続き開始を支持している。【8月17日 産経】
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4月に続き今年3回目の大規模デモで、TVニュースではこれまでのデモより参加者は減ったとも報じていました。
ただ、依然として国民の不満がおさまっていないことを示しており、弾劾手続きがどうなるかにかかわらず、“支持率は8%”というのは末期的な数字です。

3月5日ブログで取り上げたように、国営石油会社を巡る汚職事件は長年に渡り組織的に行われており、ブラジル政治の構造的な問題です。

ルセフ大統領自身が直接の利益を得たというものではありませんが、責任者であった時期の事件であり、汚職が行われていることを彼女が知っていたのではないか・・・と疑われています。

国民的人気が高いルラ前大統領も別の汚職疑惑の渦中にあるという状況では、ルセフ大統領も苦しいところです。
国民の支持を失った現在、財政・経済施策でも有効な手を打てない状況です。

****物価高騰に悲鳴 米利上げでさらに悪化懸念****
「食料の値段が驚くほど上がっている。生活がとても苦しくなった」。サンパウロで暮らすミリアン・ダシルバさん(39)は、物価の高騰に悲鳴を上げる。

2年ほど前には、250レアル(約9800円)で家族4人の1カ月分の食料が買えたが、今では500レアル(約2万円)が必要になった。肉や卵が値上がりし、以前は干し肉を使っていた豆料理に最近はベーコンを代用している。

ホテルの深夜勤務で得られる収入は月約1300レアル(約5万1千円)。物価の上昇ほどに給与は上がらない。「水も電気も値上がりしている。食べていくだけでやっとだ」と嘆く。

ブラジル経済は、最大貿易相手国である中国経済の減速や資源価格の下落で低迷している。今年は2009年以降で初のマイナス成長になる見通しだ。

長引く賃上げ圧力やレアル安の影響で、インフレ率は今年8%を超えた。インフレを抑えるため、中央銀行は昨秋以来、6回の利上げに踏みきった。政策金利は14%近くになり、景気の重しとなっている。

原油安などで、ブラジルの民間投資の1割を生み出す国営石油会社ペトロブラスが、急速に投資を抑えたことも大きく響く。

財政健全化を目指すルセフ政権も、同社が絡む有力政治家らの大規模な汚職の発覚で支持率は急落し、緊縮策で国民の納得を取りつけられない。(後略)【7月26日 朝日】
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警官による報復大量殺人?】
治安問題については、7月18日ブログで“1日に平均116人が銃によって死亡”という状況を取り上げましたが、対応にあたる警官側にも相当の問題があるようです。

来年オリンピックが開催されるリオデジャネイロでは、過去5年間に記録された殺人のうち、少なくとも16%にあたる1519件が職務中の警察官の手によるものとの報告がなされています。

****ブラジル・リオ警察、5年間に1500人を殺害 アムネスティ報告****
国際人権団体アムネスティ・インターナショナルは3日、来年五輪が開催されるブラジルのリオデジャネイロで、同州の軍警察によって過去5年間に1500人以上が殺害されていると発表した。

アムネスティによる「あなたが殺した私の息子:リオデジャネイロの軍警察による殺人」と題された批判的な報告書によれば「同市で過去5年間に記録された殺人のうち、少なくとも16%にあたる1519件が職務中の警察官の手によるものだ」という。

報告書は警察が「ファベーラ」と呼ばれる都市部のスラム街で「最初に撃つ、尋問は後」という方針をほとんどとがめられることなく実行しているのではないかと指摘している。

狭く入り組んだファベーラで軍事級の武器から放たれた流れ弾に当たった人が亡くなった場合から、事件の容疑者が射殺された場合までさまざまだが、後者についてはアムネスティが「裁判なしの処刑」だと非難している。

ファベーラの多くでは重武装したドラッグの密売グループと軍警察が、非戦闘員の安全を顧みることなく衝突しており、今回の報告はそうした激しい暴力の葛藤を反映している。

毎年、年間5万人が殺害されるブラジルでは、警察の手荒な職務遂行や、犯人だと疑われた人間に対して街頭で突発的に起こる民間人によるリンチ殺人にさえ、かなりの暗黙の支持がある。

しかし、アムネスティが今回焦点を当てようとしたのは、州当局が自らの責任は逃れながら多くの人間を殺している点だ。

一方、リオデジャネイロ州の治安部隊は、リオデジャネイロ五輪までちょうど1年というタイミングでのこの発表について、憤慨しながら否定している。

軍警察を管轄する州治安当局のペドロ・ダンタス広報担当はAFPのメール取材に対し、アムネスティの主張は「偏見に満ちている」と非難した。

同氏は、集中的な警備活動によってリオは以前よりも平穏になっており、2008~14年の取り締まりによる死者数も85%減と大きく減っていると答え、「リオの犯罪率が減少しているときにこうした報告を発表するのは無謀で不当だ」と述べた。【8月4日 AFP】
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重武装したドラッグの密売グループとの衝突で・・・・という話であれば、やむを得ない側面もあるのかも・・・ということにもなりますが(それにしても、5年間で1500人は多すぎますが)、どうもそれだけにとどまらない警察の体質の問題もあるようです。

****サンパウロ郊外で複数の銃撃事件、19人死亡 ブラジル****
ブラジル最大の都市サンパウロの郊外で13日夜、複数の銃撃事件が発生し、19人が死亡、7人が負傷した。被害者の中には、バーに座っていたところを襲撃された人もいた。

銃撃があったのはサンパウロ郊外のオザスコ、バルエリ、イタぺビで、全て約2時間半のうちに発生した。
サンパウロ州治安当局のアレクサンドル・デ・モライス局長によると、被害者の数は今のところ初期段階のもの。

現地メディアは、同市郊外で意図的な大量殺人が行われたと報じ、一部の警官による犯行の可能性もあるという。

同国のテレビ局、グロボは、顔をマスクをかぶった集団がバーに押し入り、客に手を上げろと命令した後に銃撃する様子を捉えた防犯カメラの映像を放映した。

また、有力紙フォリャ・ジ・サンパウロが報じた目撃者の証言によると、犯行グループは人々を呼び止めて犯罪歴を尋ねた後に射殺したという。

治安当局の報道官は、この一連の殺人事件について、「異常」と述べた。
オザスコのホルヘ・ラパス市長は、映像から、今回の殺人事件が先に発生した警官の殺害事件に対する報復との説を裏付けると語り、「今後数日間、状況が悪化しないよう対策を取る」と述べた。

また、先週7日に今回の事件の現場近くで強盗事件が発生し、軍関係者と治安警備隊員が殺害されていることから、デ・モライス局長は、警察による報復の可能性も捨てきれないと語った。

捜査当局は麻薬取引が原因の可能性も視野に調べているという。【8月15日 AFP】
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警官の殺害事件に対する報復として、一部の警官が意図的な大量殺人を行う・・・治安の悪い中南米ではそういうこともあるのでしょうか。

真相はもちろんわかりませんが、一部メディアではなく、市長や州治安当局の局長がその可能性に言及していますので、そういうことが起こりうる状況にあるのは間違いないようです。

対照的なノルウェー、ブラジルに似たアメリカ
警官の姿勢については、対照的な記事も。

****ノルウェー警察が10年間一人も射殺していない理由****
ノルウェーの警察官はほとんど銃を使ったことがないと、政府統計は示す。実際、警官が誰かを射殺したのは2006年、ほぼ10年前のことだ。

銃を使わない最たる証拠が、2011年に起きたノルウェー連続乱射テロ事件。オスロとウトヤで77人が犠牲になった。警察は容疑者に向けて発砲したが、一発だけ。2014年には、警官は計42回銃を抜いたが、撃ったのは2回だけだ。いずれの事件でも、死者はおろか負傷者も出ていない。

アメリカでは今年だけで600人が警官に射殺されていることを思えば、これは驚くべきことだ。もちろんアメリカの警官がノルウェーの警官よりはるかに大きな危険にさらされているのも事実だが。

ノルウェーでは、警察の活動の主体は銃ではない。だから発砲する頻度は極めて低い。イギリスと同じように、ノルウェー警察はパトロールの際武装せず、よほどの事情があるときだけ銃を携行する。
 
アメリカの専門家は過去に、アメリカの警察の戦術を変更し、力ではなくもっと対面交渉に重きを置けば、少なくとも短期的には撃つのを減らすことができる、と勧告したことがある。

だがもっと複雑な問題もある。アメリカでは相対的に警察官が信用されていないことだ。

社会学者のオッドソンはテックインサイダーの取材に応え、ノルウェーでは人々の警官に対する信頼度が高いことが、銃による衝突が少ない原因の一つだろうと語った。

「信頼は、社会を治める非公式な手段として極めて強力なメカニズムだ。人口が少なく、民族的にも同一性が高いノルウェーのような国では、信頼を築くのも比較的た易い。人々の大半が外見的に似た特徴をもち、似たような信仰をもっていることもあり、人々の連帯意識も強い」【8月3日 Newsweek】
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正確な数字は把握していませんが、警官の銃使用がほとんどないという点では、日本もノルウェーと似たような状況にあり、射殺となると大きなニュースになります。

ノルウェーでは銃の所持は厳しく規制されていますが、シカやトナカイなどの狩猟が盛んで、こうした目的で合法的に所持している人は比較的多いとのことです。

それでも警官による射殺がない背景として、民族的にも同一性が高く、信頼を築くのも比較的容易だという社会的要因が指摘されていますが、そのあたりも日本も同様でしょう。

もっとも、やはり普段は警官が銃を携帯しない隣国スェーデンでも、社会情勢は変化しているようです。
最近スェーデンの作家(ヘニング・マンケル)による警察小説を読んでいますが、24年ほど昔の作品で、警官である主人公が“昔はこんな凶悪犯罪は田舎町では起きなかったのに・・・自分はもう社会の変化についていけない”と嘆く場面がしきりに登場します。

その社会変化の一つの要因として、難民・移民の増加と、それを敵視する排外主義の台頭で、社会の緊張が高まっていることがあげられています。

一方、ブラジルと似たような問題を抱えているのがアメリカです。

****黒人への警官発砲相次ぐ 米テキサスでも大学生射殺****
米ミズーリ州ファーガソンで黒人少年が白人警官に射殺された事件から1年を迎えた米国で、警官による黒人男性への対応が改めて問題になっている。

ファーガソンの抗議活動は11日未明も続いたほか、テキサス州では、丸腰の黒人青年が警官に射殺される事件が起きた。

AP通信などによると、ファーガソンでは、1年前に射殺されたマイケル・ブラウンさん(当時18)の友人で、抗議活動に参加していた黒人のタイロン・ハリスさん(18)が、混乱の中で警官に撃たれて重体となった。

地元警察は、ハリスさんが警察車両に向けて何度も発砲したと発表。だが、父親はハリスさんの銃所持を否定している。抗議活動を受けて、ファーガソンのあるセントルイス郡は10日、非常事態を宣言した。

一方、テキサス州アーリントンでは7日、武器を持たない黒人の男子大学生(19)が、強盗事件との通報で自動車展示場に駆け付けた白人警官(49)に射殺される事件が起きていた。大学生は首や腹部を撃たれていたという。

経緯は不明のままだが、発砲した警官は3月に警察学校を卒業し、16週間の現場訓練の期間中だったという。

地元当局は、警官の対応に問題がなかったかを含めて調べるため、連邦捜査局(FBI)に捜査協力を要請した。現地では追悼集会が開かれた。【8月12日 朝日】
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アメリカの場合、ブラジルほどの無茶はないでしょうが、人種問題が絡んでいるだけに厄介です。
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リビア  二つの政府が並立、ISとの攻防・・・続く混乱状態

2015-08-16 22:39:56 | 北アフリカ

(カダフィ独裁政権崩壊を喜ぶ人々 しかし、今までのところは、カダフィ政権崩壊は“パンドラの箱”を開け、混乱をリビア国内に、また、武器流出に伴いアフリカ各国にも広めているようにも見えます。また、ISなどイスラム過激派の台頭、難民の欧州への密航という事態も引き起こしています。 写真はhttp://www.dailymail.co.uk/news/article-2036885/Libya-New-leader-Mustafa-Abdel-Jalil-says-Sharia-law-used-Gaddafi-regime.html より。)

IS:デルナからは撤退したものの、シルトでは住民虐殺
リビアでは、独裁者として君臨したカダフィ大佐が2011年の政変で失脚・殺害されたのち、暫定議会と制憲議会の二つの政府が並立し混乱している他、ISやアルカイダ系など複数の武装勢力が豊かな石油利益を狙って戦闘を続けています。

世俗主義勢力の暫定議会は国際的には正当性が認められているものの、首都トリポリを追われ、北東部トブルクを拠点としているため、「トブルク政府」とも称されています。

トブルク政府は、カダフィ側近だった軍将校を軍司令官とし、カダフィ政権の旧軍部も取り込んでいます。

一方、首都トリポリを拠点とする制憲議会(「トリポリ政府」)はイスラム主義勢力に支えられています。

「トリポリ政府」と「トブルク政府」の抗争という“権力の空白”に乗じて、IS等のイスラム過激派が勢力を拡大していますが、珍しく東部デルナ(トブルクの西、百数十km)では7月に撤退を余儀なくされています。

****地元民兵組織が蜂起、住民の支持得てIS撃退 リビア****
中東の各地で勢力を拡大してきた過激派組織「イスラム国」(IS)が先月、リビアで拠点としていた東部デルナから撤退した。

朝日新聞の電話取材に応じた住民らによると、地元出身者による民兵組織が蜂起したという。ただその後もデルナではISによるテロが起きており、不安定な情勢が続いている。

デルナの人口は約10万人。以前は穏健なイスラム系民兵組織が統治していた。電話取材に応じた「アブエサム」と名乗る俳優の男性(44)によると、ISがデルナで活動を活発化し始めたのは昨年夏ごろ。

アフガニスタンやイラクで戦った経験のあるリビア人のほか、サウジアラビア、エジプト、イエメンなどの出身者がいた。戦闘員は2千〜3千人に増えていった。指導者はエジプト人とイエメン人だった。

エジプト中部メニア在住でリビア情勢に詳しいタハ・キラニさん(58)によると、デルナにはもともと信仰心の強いイスラム教徒が多かった。

「ISはデルナを拠点にリビアでの勢力拡大を図れると考えた」と指摘する。当初はカリフ(預言者ムハンマドの後継者)制復活を標榜(ひょうぼう)するISを歓迎した住民もいたという。

しかしISは、窃盗容疑者の手を切り落としたり、同性愛者の男性を公開処刑したりして住民に恐怖を植え付けた。アブエサムさんはISを批判するテレビ番組に出演したため、「その邪悪な行いをやめないとお前の首を切り落とす」とフェイスブックに脅迫メッセージが届いた。【8月12日 朝日】
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ISをデルナから追い出した“地元出身者による民兵組織”というのは、「ムジャーヒディーン・シューラー評議会」と称するイスラム主義勢力で、西の「トリポリ政府」に近い勢力のようです。
中心人物は、かつてアルカイダ系組織で活動していた者とか。

一方、「トブルク政府」の軍はデルナを外から包囲して、ISもその他イスラム主義勢力もすべてリビア東部から掃討しようとしていたようです。
ISを駆逐したのち、「評議会」と「トブルク政府」軍がどういう状態になっているのかは知りません。

ISは撤退を認め、「戦争には勝つときも負ける時もある。我々は最後に勝利する」と主張しています。

****IS、リビア拠点からの撤退認める 「負ける時もある****
過激派組織「イスラム国」(IS)は11日に投稿した動画で、リビアで組織の拠点としていた東部デルナからの撤退を事実上認めた。そのうえで、「困難の時期を克服して我々は勝利する」と、報復を誓っている。

ISは昨年11月からデルナを実効支配していた。最近、別のイスラム系武装勢力との戦闘で劣勢に陥っていたとされる。投稿された動画は約10分間。「戦争には勝つときも負ける時もある。我々は最後に勝利する」としている。

リビアでは東西に二つの政府が存在する状態。さらに多数の武装勢力が乱立して内戦状態にある。ISは中部シルテも支配下に置いている。デルナからの撤退に伴い、IS戦闘員や支援者がエジプトに入り込んでいると指摘されている。【7月13日 朝日】
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ただ、リビアからISが撤退した訳ではなく、上記記事にもある中部シルトでは凄惨な状況も報じられています。

****IS、リビア・シルトで12人を「斬首」 住民22人も虐殺 報道****
国営リビア通信は15日、イスラム過激派組織「イスラム国(IS)」がリビア北部の沿岸都市シルトで、12人を斬首して十字架に吊るしたと伝えた。

シルトは2011年の政変で失脚し殺害された独裁者ムアマル・カダフィ大佐の故郷で、支配権をめぐってISと地元武装組織との戦闘が11日から激化している。

LANAによると、斬首されたのはシルト東部の「地区3」でISと戦っていた地元武装組織の戦闘員で、戦闘中に殺害されたという。また、ISは他にも、対IS戦に参加し負傷して病院に収容されていた地元住民22人を処刑し、病院に放火したという。

匿名でAFPの取材に応じたシルト議会の関係者は、15日も戦闘が「絶え間なく」続いていると語り、「特に地区3では戦闘が激しく、死傷者が続出している」と述べた。

リビアのチバニ・アブハムード駐仏大使は14日、シルトの戦闘で同日までに150~200人が死亡したとして、「虐殺が行われている。国際社会の介入を求める」と警告していた。【8月16日 AFP】
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トブルク政府はISに対する空爆を欧米・アラブ諸国に求めています。
実際、“14日朝国籍不明機がシルトのIS拠点を空爆した”とのことです。

エジプトとUAEは2014年8月にも首都トリポリのイスラム主義民兵を空爆しています。
今年2月にも、エジプト人キリスト教徒21人がリビアでISに殺害されたことを受けて、エジプト軍がリビア国内にあるISの拠点を空爆しています。

今回もその線ではないでしょうか。
エジプトやUAEは、イスラム過激派の勢力拡大、自国波及を警戒しています。

****リビア情勢(シルトに対する空爆****
・・・・リビア政府は、リビアに対する武器禁輸のためにISに対抗することができないとして、国際社会、アラブ社会の支援と禁輸の解除を要請していましたが、14日午後夕改めて宣言を発して、国際社会及びアラブ諸国の支援を要請したが、特にアラブ諸国に対しては、IS目標に対する限定的空爆、特にシルトに対するそれを要請し、リビア政府(トブルク政府)が調整連絡する用意があると表明しました。

・他方、14日朝国籍不明機がシルトのIS拠点を空爆した由。
地元住民によると、国籍不明機2機が、シルトの政府庁舎コンパウンド、治安機関本部、弾薬貯蔵庫として使われていた海岸ホテルを空爆し、爆発音が数時間続き、救急車が往来した由
死傷者数等は不明。

トブルク政府もトリポリ政府も何の声明も出していないが、多くの住民が、爆撃が極めて正確であったことから、欧米諸国の空爆と考えている由

(確か、かなり以前にエジプト機とUAE機が、ベンガジだったかを空爆したとの噂があり、今回もリビア政府がアラブ諸国に空爆を要請していることから見ても、エジプト等の空爆だった可能性が強いのではないかと思われる。それにしても、空爆が正確であったから欧米の空軍であろうとの見方は・・・おそらく正しい見方であろうが・・・アラブ人の自分たちの軍事能力に対する見方を反映しているようで、興味深い)【8月16日 「中東の窓」 野口雅昭氏】
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【“無能で、腐敗している”政府
対ISだけでなく、政権内部も揺らいでいるようです。
下記はトブルク政府に関する記事。

****リビア首相、生放送中に辞意表明****
リビア暫定議会(政府)のアブドラ・シンニ首相が11日夜、テレビのインタビュー番組に生出演中、辞意を表明した。

番組内で首相は、国際的に認められた暫定政府が管轄する地域の電力不足や治安悪化などに対して基本的な対策が不足しているとして、政府を非難する市民からの厳しい質問攻めに直面した。

同首相は「私の辞職が解決策になるのなら、私はここでそれを宣言する」と述べ、「辞表は16日に議会に提出する」と付け加えた。(後略)【8月12日 AFP】
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トリポリ政府支持のカタール系のaljazeera netは“トブルク政府は、実行的な支配力をまったく有せずに無能で、腐敗している・・・最近のサニー首相ン辞任表明も、議会で彼が関連した腐敗に関して、追及されるのを避けるためであった”【8月15日 「中東の窓」 野口雅昭氏】と批判しているそうです。

最近のaljazeera はカタール政府の御用メディアと化していると言われていることに留意する必要はありますが、トブルク政府が有効な統治を実現できず、腐敗が蔓延していることはおそらく事実でしょう。
もっとも、もう一方のトリポリ政府がどういう状態かは知りませんが。おそらく大差ないのでは。

リビアの混乱に、シリア・イラクで手いっぱいの欧米は“そこまで手が回らない”という状況ですが、この混乱を受けてリビアから欧州を目指す難民の密航船が多数出航し、多大な犠牲者を出し、押し寄せる難民・不法移民が欧州社会に強いインパクトを与えているのも事実です。
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キューバ  米国務長官、70年ぶりの訪問  関係改善で、やがては国民が変化を求める・・・

2015-08-15 22:08:40 | ラテンアメリカ

(バスで持ち運ばれるUSBメモリーによる「人力インターネット」【8月9日 Gigazine】)

【「お互いを敵として見るのではなく、隣人として協力し合っていくことを世界に示す時が来た」】
アメリカとキューバは7月20日、キューバ革命後の断交から54年ぶりに正式に国交を回復しました。
そして、ケリー米国務長官が8月14日、現職の国務長官としては70年ぶりにキューバを訪問。
ハバナのアメリカ大使館に星条旗が掲げられました。

“ケリー氏は式典で「お互いを敵として見るのではなく、隣人として協力し合っていくことを世界に示す時が来た」と演説。国交断絶から10人の米大統領をへて国交が回復した意義を強調した。同時に民主化に向けた期待も語った。”【8月15日 朝日】

****ハバナ市民が歓迎****
ハバナのアメリカ大使館の周辺には、アメリカの国旗が掲揚されるのを一目見ようと、朝から数百人の市民や観光客が集まりました。アメリカ国歌が演奏される中、星条旗がゆっくりと掲げられると、人々の間から大きな拍手と歓声があがりました。

ハバナに住む男性の1人は、「長く対立してきたアメリカとキューバの双方の国民が待ち望んできた時がやってきました。強い絆で結ばれるようになってほしい」と話していたほか、女性の1人は「この歴史的な瞬間に立ち会いたくて、大使館にやってきました」と話していました。

また、フロリダからやってきたというキューバ系アメリカ人の若い女性は、「アメリカ人とキューバ人が一緒になれるなんて胸がいっぱいです」と高揚した様子で話していました。【8月15日 NHK】
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ケリー国務長官の訪問前日、13日はカストロ前国家評議会議長の誕生日で、反米路線を貫いてきたキューバの盟友でもあるボリビア、ベネズエラの大統領も駆けつけて誕生日を祝ったとのことですが、キューバ政府の関心は翌日14日のケリー国務長官訪問に向いていたようです。

****反米同盟」首脳、ハバナに集結=カストロ前議長誕生日に祝意―キューバ****
南米ボリビアの国営通信社は13日、同日89歳を迎えたキューバのフィデル・カストロ前国家評議会議長の誕生日を祝うため、ボリビアのモラレス、ベネズエラのマドゥロ両大統領がハバナを訪問したと報じた。

米国務長官として70年ぶりにケリー氏が14日にキューバを訪問するのに先立ち、米国に批判的な両大統領が「反米の象徴」となってきたカストロ前議長に敬意を表明し、結束強化に努めた形だ。ボリビア国営通信はカストロ前議長が両大統領と面会する写真も公開した。

一方で、キューバのメディアは、ボリビア国営通信電を引用して両大統領のハバナ訪問を伝えるにとどまり、ケリー氏の歴史的訪問を控え、微妙な温度差を見せた。【8月14日 時事】 
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なお、カストロ前国家評議会議長は13日、国内紙への寄稿でアメリカの対キューバ制裁を批判し、「数千万ドル(数十億円)」規模の賠償を米国に求めるとの持論を繰り返したそうです。国家レベルの賠償請求としては、金額の桁が少なすぎるような気もしますが・・・。

正常化するまでにはなお多くの曲折も
話をこれからのアメリカ・キューバ関係にもどすと、キューバはアメリカに制裁解除とグアンタナモ米海軍基地の返還を求めていますが、アメリカ議会では、野党・共和党を中心にキューバの人権問題は改善されていないなどとして、経済制裁の解除に反対する議員も多くいます。

また、オバマ大統領が閉鎖を公約しているグアンタナモ米海軍基地問題(1903年以降アメリカが租借し、テロ関係者を収容)も進展が困難な情勢で、両国の関係が完全に正常化するまでには時間を要すると思われます。

****施設閉鎖へ「最終段階」 グアンタナモ基地で米****
米ホワイトハウスのアーネスト報道官は22日の記者会見で、キューバ東部グアンタナモの米海軍基地にあるテロ容疑者収容施設に関し、閉鎖に向けた計画立案の「最終段階」にあると明らかにした。

アーネスト氏は、同基地の収容施設閉鎖はオバマ大統領の「優先課題だ」と強調。現在116人となっている収容人数を減らすため、さまざまな努力をする必要があると述べた。

22日付の米紙ニューヨーク・タイムズは、ライス大統領補佐官(国家安全保障問題担当)がカーター国防長官と先週会い、30日以内に収容者を施設外に移送するための判断を求めたが、カーター氏は明確な回答を避けたと伝えた。

収容者の虐待などで悪名高い同施設の閉鎖は、オバマ氏の就任当初からの公約だ。だが、米上下両院で多数を握る共和党は、他国に収容者を移送すれば結果的に収容者が自由の身となり、米国の脅威になり得るとして反発している。【7月23日 産経ニュース】
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アメリカはキューバに人権状況の改善と民主化の推進を要求していますが、当然ながら、キューバからすれば“内政に口を出すな”ということになります。

****<米国務長官>キューバに民主化要求****
ケリー米国務長官は14日、キューバの首都ハバナでロドリゲス外相と会談し、54年ぶりに国交を回復した両国が懸案を協議する委員会を設置することで合意した。会談後の共同記者会見で両外相が発表した。

ケリー氏はこれに先立ち参列した米大使館の再開式典での演説で、キューバに人権状況の改善と民主化の推進を要求。ロドリゲス氏は会見で「キューバの民主主義に満足している」と反論したが、改善の余地も認め、対話を継続すると述べた。

ケリー氏は会見で、新委員会について9月の前半にも定期協議を開始すると説明。具体的議題としては人権や環境問題、麻薬対策、海洋安全、キューバ革命で国有化された米国企業などの資産の補償問題を列挙。今後の行程について近く明確化したい考えを示した。

ロドリゲス氏は、米国がキューバに実施している禁輸措置の早期解除を改めて要請。議会が必要な措置を取るまでの間、オバマ米大統領が行政権限で可能な規制緩和措置を取るよう求めた。ケリー氏も禁輸解除の議会への働きかけを続けると発言した。

キューバにあるグアンタナモ米海軍基地の返還問題に関して、ケリー氏は「現在は協議対象になっていないが、将来は分からない」と含みを持たせた。ロドリゲス氏は「違法占拠だ」として改めて返還を求めた。

国有化資産の補償問題ではロドリゲス氏が「法的な枠組みがあり、米国以外の資産はすでに補償されている」として今後の交渉で決着を図る意向を示した。

ケリー氏は会見後、米国が支援するキューバ反体制派活動家と米臨時代理大使公邸で面会の予定。大使館での式典には反体制派は招待されず、キューバ政府に配慮した形だ。【8月15日 毎日】
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54年ぶりに星条旗が掲げられたハバナのアメリカ大使館再開式典で、「キューバの人々にとって、真の民主化が最良だと確信している」と演説したケリー長官ですが、キューバのロドリゲス外相はアメリカの民主化要求については会談で「平等と内政不干渉の原則をもとに関係正常化を進める方針をケリー長官に繰り返し伝えた」と語っています。

米国との関係改善で経済や社会が変わっていけば、「自然と国民が変化を求める可能性は十分ある」】
キューバ政府としては、すぐに政治体制を大きく変える意向はないのでしょうが、こういう形でアメリカとの関係が復活すると、おのずと社会・経済的に大きな影響が出て、ひいては政治的にも変革が迫られることにもなります。
アメリカの狙いは、そこにあると思われます。

****キューバ、変革の船出 米と国交回復 経済、苦境脱出へ期待****
半世紀以上敵対した米国とキューバが国交を回復させた。キューバは、社会主義体制は維持しつつも、海外からの投資を呼び込んで苦しい経済状況から抜け出すため、変革の一歩を踏み出した。
一方米国は、人や情報が行き交うことで、一層の改革を求める社会の声が高まると期待する。

(7月)20日、ハバナの米大使館が入る建物前には、国交回復を喜ぶ市民の姿があった。「ようこそUSA」と書かれた横断幕を持っていたラサロ・シルバさん(41)は、「米国との関係をよくして、体制を変えてほしい」。一方で、「教育と医療が無料なのは、守ってほしい」とも話した。

ラウル・カストロ国家評議会議長は、米国との国交回復後も、「社会主義体制は変えない」と明言する。だが、キューバに駐在する外交筋の一人は、米国との関係改善で経済や社会が変わっていけば、「自然と国民が変化を求める可能性は十分ある」と指摘する。

現在84歳のラウル議長は2018年には引退する見込みで、革命世代は政権の中枢から姿を消す。キューバの政府系シンクタンク「キューバ経済研究所」のオマル・エベルレニ研究員によると、政府は、共産党候補の中から直接投票で議長を選出することや議員数の大幅削減など、選挙制度改革も検討中という。

経済面でも、市場経済の仕組みを取り入れた改革を進めている。

フィデル・カストロ前議長が目指したのは平等主義だった。
だが、平均月収が日本円で2400円程度で、働いても働かなくても給料が変わらないために、生産性が落ちた弊害もあった。

経済改革のためには、外国からの投資が不可欠と現政権は判断。これが米国との国交回復に動いた大きな要因だった。

効果は早くも表れている。両国が昨年、国交回復を目指すと表明して以来、日本やフランス、ドイツの閣僚らが企業関係者を率いて次々に訪問。今年上半期の経済成長率は、海外からの投資や観光客の増加で4・7%と、前年の成長率1・3%を大幅に上回っている。

キューバは米国との関係を改善させることで、経済だけでなく政治的にも諸外国との関係改善を目指す。

米オバマ政権も、関係を築くことで内部からの変革を促すのが狙いだ。「両国の外交官は、(国内を)自由に移動し、市民と自由に話が出来ると確信している」。ケリー国務長官は20日、キューバのロドリゲス外相との共同会見でこう語った。

人や情報が行き来し、両国の商いも活発になることで、キューバ市民の意識が変わる。それが、政府への圧力となり、国の変革につながる――。これが米国の描く理想のシナリオだ。

20日午前、再開したワシントンのキューバ大使館前では、亡命キューバ人らが国交回復を喜んだ。マリアシ・カサノーバさん(63)は「この日を待っていた」と喜ぶ一方で、「まだ市民は抑圧されている。カストロ体制、共産党はいらない」とも語った。【7月22日 朝日】
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外国企業の進出にはまだ障害も多々ありますが、流れは止まらないでしょう。

****各国から経済協力申し出****
米国との国交回復を受けて、キューバではいま、大きな変化が起きている。

今年に入り、外国からの観光客が急増。ハバナでは、1950~60年代のカラフルな米国製クラシックカーで市内をめぐる欧米人観光客の姿が目立つ。無線でインターネットが使える有料の拠点も登場し、スマートフォンを持つキューバ人の若者がネットを楽しむようになった。

キューバは近年、部分的な市場開放を進めてきた。昨年12月の米国との国交正常化交渉の発表から流れは本格的になりつつある。

米国からは、4月にニューヨーク州のクオモ知事が企業経営者らを率いて訪問。ニューヨーク・タイムズ紙によると、観光客増加を見込んで、航空会社やクレジットカード会社の幹部らが同行した。また将来の食料輸出をにらみ、米国各州の農業当局者も相次いで訪問団を派遣。米議会に対しても「禁輸措置の解除を」と声を上げている。

5月には、オランド仏大統領が企業団を率いて、仏首脳としてキューバを初訪問した。ドイツ外相や中国の副首相らも相次いで訪問。

日本の岸田文雄外相も5月に訪れ、無償資金協力を本格的に始める方針を伝えるなど、各国から経済協力の申し出が相次ぐ。

キューバ政府は、年20億~25億ドルの海外からの投資が必要と見積もっている。ただ、実際の投資につなげるための壁はまだ厚い。

外国企業が進出した場合、キューバ人を直接雇えず政府の「人材派遣」会社を経由しなければならない。非常に関税が高いため、新車は小型車でも1千万円前後する。このため、事務所開設など初期投資がかかり過ぎる。商取引でも様々な国の許可が必要で、「ビジネスの障壁になっている」(貿易関係者)との声が絶えない。【8月15日 朝日】
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ネット情報を求める人々
社会変革をリードするのはインターネットなどの情報革新でしょう。

****米と関係改善のキューバ、“Wi-Fi”解禁でネットブーム****
先月、54年ぶりにアメリカとの国交を回復したキューバでは14日、アメリカ大使館再開の記念行事が開かれますが、かつての敵国との関係改善に乗り出したキューバの街角では、ある変化が起きています。

「ハバナ市内の一角に多くの若者たちが座り込んでいる場所があります。皆、手にしているのはスマートフォン。キューバは今まさにインターネットフィーバーです」(記者)

キューバでは、先月から公共の場35か所で有料の無線通信=Wi-Fiのサービスが開始されました。家庭でのインターネット普及率はわずか3.4%しかないため、朝早くから多くの人たちが電波状態のいい場所を求めて道端に集まっています。

 (Q.何見ているの?)
「フェイスブック」
「ネットができるのはここだけなんだ。家にないから」(インターネット利用者)

利用料金は1時間およそ2ドル。平均月収が20~30ドルのキューバでは大変高価ですが、長らくネットにアクセスできなかった国民にとっては大きな前進です。しかし・・・・

「こちらキューバで有名な反政府活動家のウエブサイトなんですが、国民が読めるスペイン語でのページは開くことができません」(記者)

反政府世論を警戒し、一部のサイトに制限をかけるキューバ政府。インターネットが体制を揺るがす動きへとつながるのかどうか。半世紀以上変わらなかったキューバにも、大きな変化が訪れようとしています。【8月14日 TBS Newsi】
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ネット利用が高額なキューバでは、最新のコンテンツやファイルをUSBメモリーにコピーし、そのUSBメモリーがバスや自動車で希望者の元へ運ばれる“人力インターネット”が広がっているそうです。

****バスで持ち運ばれるUSBメモリーによる「人力インターネット」が普及するキューバのネット実情****
物資不足が続くキューバでは、政府が提供するインターネットセンターの1時間あたりの料金はなんと一般的なキューバ人の給料1週間分に匹敵します。

インターネットを求めて9000台を超えるPCを使ってプライベートネットワークが構築されるなど、政府のシステム外で対策がとられたこともありますが、さらに非公式の商用コンテンツを流通させる経路としてUSBメモリーによる「人力インターネット」が発展しています。

インターネット設備もなく、公式なネット料金は破格という、ほとんどの人がオフラインを余儀なくされているキューバでは、流行のドラマやハリウッドの新作映画などをオンラインで気軽に楽しむことはできません。

そんなキューバの現状を打開する対策として「El Packete」と呼ばれる“人力インターネット”が普及を始めているとのこと。

El Packeteとは最新のコンテンツやファイルがコピーされたUSBメモリーのことで、人々のポケットの中に入ってバスや自動車で運ばれており、希望者の元へと渡っていきます。

ある意味ではEl Packeteは「非常に低速で大容量のインターネット接続」と同じで、パケットが読み込まれていくようにデータが人の手から人の手へと配信されていきます。

コンテンツをアップロードしている人は誰なのか不明とのことですが、El Packeteは受け取りまでの時間を遅くするほどに低価格になるシステムで、全体で毎月500万ドル(約6億2000万円)ものお金が支払われているとのこと。

政府の監視が厳しいキューバにおいて、El Packeteのような非公式のシステムが拡大している理由については、政府は最新の映画やドラマといったコンテンツが「反政府主義者の温床にはならないと捉えているため」と考えられています。

また、USBメモリーが大量に出回ることでサプライ・チェーンの雇用機会が増加していることもあり、“暗黙の了解”として人力インターネットが拡大しているとみられています。

なお、El Packeteのモデルはキューバのネット事情から生まれたロボット工学的な解決策の1つとされていますが、ほとんどのキューバ人がインターネットにアクセスできない、という現状や特定の人だけがインターネットを獲得できる格差は解消されません。

また、キューバのインターネット不足を描いたドキュメンタリー映画「OFFLINE」が制作されるなど、キューバ国民のウェブへの参加が切望されています。【8月9日 Gigazine】
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一旦動きだした情報を求める人々の欲求は、政府の力で押しとどめるのは非常に困難です。
その内容も“反政府主義者の温床にはならない”ものにはとどまりません。
やがて、ネットを通じた情報伝達が社会を大きく変えることにもなるのではないでしょうか。
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アフガニスタン  最高指導者オマル師の死亡公表で揺れるタリバン 分裂の可能性も

2015-08-14 22:50:55 | アフガン・パキスタン

(8月1日 オマル師の死亡を報じる新聞が売られる首都カブールの街角 https://www.youtube.com/watch?v=RpfB0caGjOU )

パキスタンで死亡・・・パキスタンは否定
アフガニスタンについては、7月29日ブログ「アフガニスタン 中国で2回目の和平協議の予定 タリバン指導部に路線対立も」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20150729)で取り上げ、“ただ、なにぶんオマル師が生きているのか死んでいるのか明らかではありません。これだけ長く本人が表にあらわれないところを見ると・・・・とも思われます。”と書いたのですが、ブログをアップした直後に新着ニュースを確認すると、アフガニスタン政府がオマル師死亡を始めて公式に確認したとのニュースが流れていました。

****<タリバン最高指導者>オマル師の死亡確認・・・・アフガン政府*****
アフガニスタンの大統領府は29日夜(日本時間30日未明)、アフガンの旧支配勢力タリバンの最高指導者、ムハンマド・オマル師が2013年4月にパキスタンで死亡したと確認したと発表した。

アフガン政府が公式にオマル師の死亡を発表したのは初めて。タリバン側の公式発表は出ていない。AP通信によると、米ホワイトハウスのシュルツ副報道官は同日、オマル師の死亡を伝えた報道について「信用できる」と述べた。

オマル師は01年のアフガン戦争でタリバン政権が崩壊してから消息が分かっておらず、これまでもたびたび死亡説が流れていた。タリバンはそのたびに否定し、7月半ばにもオマル師名義の声明を発表するなど「健在ぶり」をアピールしていた。

アフガンの大統領府や情報機関・国家保安局の報道官によると、オマル師は約2年4カ月前、病気のためパキスタン南部の最大都市カラチの病院に入院し、後に死亡したという。死因については「不明」としており、情報源についても明らかにしていない。

一方、パキスタンのメディアは発表に先立ち、タリバン政権の元閣僚の話として、オマル師が結核で死亡し、アフガン領内に埋葬されたことや、オマル師の息子が遺体を確認したなどと報じていた。(後略)【7月30日 毎日】
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タリバン側もオマル師死亡を公表し、アフガニスタン政府とタリバンとの和平協議は延期されました。

****タリバーン、最高幹部死亡発表 アフガン和平協議延期****
アフガニスタンの反政府勢力タリバーンは30日、最高指導者オマール幹部の死亡を発表した。隣国パキスタンのテレビは同日、後継トップを選出したと報じた。

事態の急転で、31日に予定されたアフガン政府とタリバーンとの和平協議は延期された。タリバーン新指導部の求心力を疑問視する声もあり、アフガン情勢は大きな岐路を迎えた。

オマール幹部をめぐっては、アフガン政府が29日、2013年4月の死亡を確認したと発表していた。タリバーン側は指導部と本人の家族の連名の声明で、死亡時期には触れず、「病死するまで14年間、国外へ出ていない」とし、「パキスタンの病院で死亡した」とする政府側の見解と食い違っている。(後略)【7月31日 朝日】
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オマル師の死因や死亡場所などについては、不透明です。

****オマル師死亡、死因めぐり「多くの疑問」パキスタン紙****
アフガニスタン政府が死亡を確認したイスラム原理主義勢力タリバンの最高指導者オマル師について、アフガンの情報機関、国家治安局のシェディキ報道官は、英BBC放送に対し、「自然死したのか、あるいは別の理由かということには多くの疑問がある」と述べた。(中略)

パキスタンの一部メディアは最近、オマル師が2年前に組織内部で攻撃に遭い殺害されたとの反タリバン武装勢力の声明を伝えていたが、内容の真偽は不明。(後略)【7月30日 産経】
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もし、アフガニスタン政府の言うようにオマル師がパキスタンの病院で死亡したのであれば、“本来は”大問題です。
アメリカなどが多大な犠牲者を出しながら今も戦っている組織の指導者が、アメリカとも同盟関係にあるパキスタンで治療を受けていたという話ですから。

アルカイダの最高指導者ビン・ラディン容疑者もパキスタンの首都近郊の「軍城下町」で生活に潜伏していました。

“本来であれば”両者とも、どうしてパキスタンにいたのか・・・アメリカは重大な関心を持って追及すべきところですが、そういう話はあまり聞きません。

パキスタンの協力をつなぎとめておくためには事を荒立てない方がいい・・・との判断でしょうし、オマル師がパキスタン領内に潜伏しているというのは皆がうすうす感じていたところでもありますから。

更に言えば、パキスタン(特に、国軍、その中枢組織である情報組織ISI)がアメリカと戦うタリバンを支援してきたことも周知のところです。アメリカとパキスタンの関係は微妙です。そのあたりは敢えて突っ込まないのが外交上の常識でしょうか。

パキスタン側は、オマル師がパキスタンで死亡したことを否定しています。

****オマル師のパキスタンでの死亡を否定 パキスタン国防相****
アフガニスタン政府がイスラム原理主義勢力タリバンの最高指導者オマル師の死亡場所がパキスタンだったと発表していることについて、パキスタンのアシフ国防相は7日、同国議会で「パキスタンでは死亡も埋葬もない」と否定した。

オマル師の家族も、同師が病気のためアフガンで死んだとの声明を出しており、情報は錯綜(さくそう)している。【8月7日 産経】
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オマル師の死亡についても、以前から皆がうすうす感じていたところですが、確証がないので曖昧にされていた問題です。

オマル師の死亡公表で和平交渉は吹き飛んだ形ですが、アフガニスタン問題の長年の大きな“もやもや”が一掃されたことで、話がはっきりしたとも言えるでしょう。

アフガニスタン政府は、和平交渉を吹き飛ばしてしまうオマル師の死亡をなぜこの時期に公表したのか?

和平交渉がうまく進まないことが明らかになったから・・・とか、アフガニスタン側は、タリバンとの和平協議を仲介するパキスタンの役回りを懸念し、影響力を排除しようとしている、タリバン側に動揺が広がる新たな状況をきっかけに、アフガン政府は交渉の主導権を握りたい考えだ・・・・とか、いろいろ言われてはいますが、よくわかりません。

深まるタリバン内部の対立 分裂含みの状況
当然ながら、オマル師死亡公表でタリバンは大揺れです。
和平交渉推進の穏健派とみられるナンバー2のマンスール師が跡目を継ぎましたが、反対する武闘派も多く、分裂含みの様相です。

マンスール師はオマル師死亡公表前に、オマル師の名を使って和平交渉の正当性を訴える声明を出しており、また、マンスール師率いる新指導部は7月30日、「イスラム教の教義に基づいた統治が行われるなどの条件が満たされれば、和平に応じる用意がある」との内容の声明を発表、引き続き和平プロセスに参加する姿勢を明らかにしています。

ただ、こうした和平交渉推進姿勢が強硬派・武闘派の反発を招いており、8月1日に公表されたマンスール師肉声のメッセージでは「対話や和平に向けた協議などという敵のプロパガンダには耳を傾けるな。この国にイスラムに基づく統治を実現するまで聖戦は続く」と述べ、強硬な姿勢を示すことで組織固めを図っています。

****<アフガニスタン>後継マンスール師 タリバン結束呼びかけ****
アフガニスタンの旧支配勢力タリバンが組織の引き締めに躍起になっている。

死亡した最高指導者オマル師の後継に選出された穏健派、マンスール師を強硬派幹部も支持しているとアピールするが、実際には、選出に反発する政治部門幹部が辞任を表明するなど分裂が加速している。内部対立が深まれば、アフガン政府との和平協議が難航し、国内情勢はいっそう不安定となる可能性がある。

「団結すれば、敵は我々を打ち負かすことなどできない。イスラム法を実現するまでジハード(聖戦)は続く」。マンスール師は1日、音声メッセージを公開し、タリバンの結束を呼びかけた。

これに先立ち、タリバンはマンスール師との対立が伝えられた強硬派、ザキール師名義の声明を出し、「マンスール師と対立しているとの主張は根拠がない」と強調。2日には傘下の武装勢力ハッカーニ・ネットワークの創始者、ジャラルディン指導者名義の声明で「マンスール師の選出には正統性があり、彼に従うことを求める」と呼びかけた。新指導者を支持する声明を相次いで出すことで、組織の引き締めを図る狙いがあるとみられる。

だが、内部の亀裂は深そうだ。マンスール師は7月29日夜の会議で後継者に選出されたが、地元メディアなどによると、一部の強硬派は会議を欠席した。

「オマル師はマンスール師に殺害された」と主張するグループや、アフガンで影響力を増す過激派組織「イスラム国」(IS)に合流した一派もあるという。

英BBC放送などによると、和平協議を担うとされたタリバンの政治事務所(カタール)のトップ、タイブ・アガ幹部もマンスール師の選出を批判し、辞任を表明した。

パキスタンの軍事アナリスト、ハッサン・アスカリ・リズビ氏は「今後数週間でマンスール師の指導力が確立しなければ、混乱が深まり、和平協議は行き詰まるだろう」と指摘している。【8月5日 毎日】
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実際、新指導部になってから、タリバンによるテロが頻発しています。強硬姿勢を示すことで、組織内強硬派の支持を繋ぎ止めたい思惑と思われます。

首都カブールで7日夜、警察学校への自爆攻撃と北大西洋条約機構(NATO)軍基地への攻撃が相次いで発生し、少なくとも35人が死亡。
北部クンドゥーズ州で8日、旧支配勢力タリバンによる自爆攻撃があり、少なくとも29人が死亡。
首都カブールの国際空港付近で10日、自爆テロがあり、地元当局者によると、5人が死亡、16人が負傷。

また、クンドゥーズ州では、タリバンが大規模な攻勢を開始、州都クンドゥーズ市を掌握しつつあるなど、治安が悪化しています。

“専門家らは攻撃について、マンスール師が最高指導者となったことなどによるタリバンの内部分裂から注目をそらし、同師の最高指導者としてのイメージ向上を図るための作戦と指摘している。”【8月8日 AFP】
そのために殺されるテロ犠牲者、その遺族はたまったものではありませんが。

和平交渉へ向けて圧力をかけるパキスタン
そもそもアフガニスタン政府が死亡を公表できたのは、パキスタンからの情報提供によるものだとも言われています。そのパキスタンは、従来のイスラム過激派TTPとの共存姿勢から、対決姿勢に方向転換しています。

***和平、タリバーン岐路 パキスタンから圧力 アフガン協議****
アフガニスタンで13年間、ゲリラ戦を続けてきた反政府勢力タリバーンが揺れている。

最高指導者オマール幹部の死亡が発覚し、後継をめぐる権力闘争が表面化。アフガン政府との和平協議の進展は、隣国パキスタンがどこまでタリバーンに対する圧力を強めるかにかかっている。

タリバーンは1日、前日にオマール幹部の後継に選ばれたアクタル・マンスール元航空相が幹部らに向けて行った演説の録音を公表した。「組織の分裂は敵を喜ばせるだけだ。イスラム法支配のため、ジハード(聖戦)を続けよう」と団結を訴えていた。

マンスール幹部の就任について、カリスマ的指導者だったオマール幹部の長男を推す勢力が反発し、選出をやり直すよう強く求めている。前線で戦う地方司令官の間では、7月7日に始まったアフガン政府との和平協議を容認したマンスール幹部への失望も広がっている。

タリバーンを取り巻く情勢が一変するきっかけとなったのは昨年12月、パキスタンの北西部ペシャワルの学校を、パキスタンの過激派でタリバーンと盟友関係にある「パキスタン・タリバーン運動(TTP)」が襲い、生徒ら150人近くを殺害したテロだった。

2001年にアフガンでタリバーン政権が崩壊した後、タリバーンが一定の勢力を温存できたのは、パキスタンが後ろ盾となって幹部らの潜伏を容認してきたからだ。

一方、国境地帯でタリバーンと共存するTTPはパキスタンでテロを繰り返した。

ペシャワルの学校でのテロの翌日、パキスタンのシャリフ首相は「良いタリバーンも悪いタリバーンもない。テロリストは壊滅させる」と宣言。軍部トップのラヒル・シャリフ陸軍参謀長は急きょ、アフガン入りし、ガニ大統領と対テロ協力で合意した。

タリバーンの事情に詳しい駐パキスタンの外交筋は「(パキスタンは)和平協議のテーブルに着くか、パキスタンから出て行くかのいずれかを選べと迫っている」と指摘する。その表れか、アフガンで負傷し、パキスタンで入院中のタリバーン兵を強制退院させたと報じられている。

 ■新指導部、厳しい選択
タリバーンは長年、アフガン政府を「外国の傀儡(かいらい)」と決めつけ、直接協議には応じない姿勢だった。

パキスタンが和平協議に応じるよう圧力を強めるなか、イランと接触するなど「パキスタン離れ」の動きも見せたが、最終的に抗しきれなかったとみられている。

タリバーンが隠し続けたオマール幹部の死亡をアフガン政府が発表することができたのは「パキスタン側が情報提供した」(アフガン政府高官)からだ。

パキスタンの路線転換を主導したシャリフ陸軍参謀長は1日、米国務省高官と陸軍総司令部で会談。アフガン和平を後押しすることで一致した。

タリバーンの有力者の一部は和平拒否を条件にマンスール支持に回ったとされる。新指導部は和平協議を突っぱね、パキスタンとの対立を選ぶのかどうか、厳しい選択を迫られる。【8月3日 朝日】
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内部に強硬派を抱えながら、後ろ盾パキスタンからは和平交渉を迫られる・・・マンスール新指導部も難しい立場です。

内部対立につけこむIS アルカイダはタリバン新指導部と対ISで共闘
タリバンの内部分裂懸念に乗じているのが、イスラム過激派の新興ブランド「イスラム国(IS)」です。
もしタリバンが組織分裂すれば強硬派・武闘派はISにつくと見られています。

****イスラム国】アフガンで「長老」10人を爆殺する映像 タリバンが非難声明****
アフガニスタンでイスラム原理主義勢力タリバンの協力者か構成員とみられる男性10人が、イスラム教スンニ派過激組織「イスラム国」の集団に爆殺される様子を収録した「処刑」映像が12日までに、インターネット上に公開された。タリバンは犯行を非難する声明を発表した。

映像は、男性らが山野の地中に埋められた爆弾の上に目隠しをされて座らされ、遠隔操作で爆弾が爆発する様子を収録している。男性らは7月9日に起きたイスラム国とタリバン、アフガン政府の戦闘で捕獲された者とされ、「政府軍やタリバンを助け、イスラム国への密偵行為をはたらいた」と説明されている。

パキスタンと国境を接する東部ナンガルハル州の指導者、ハジ・アジム氏は産経新聞の電話取材に、「殺害されたのは、この州の長老たちだ。解放交渉をしようとしたが、イスラム国の連中は聞く耳を持たなかった」と述べた。

タリバンは声明で「イスラムやイスラム教徒をかたった、ひと握りの無責任で無知な者たちによるこうした犯罪や残虐な行為は、我慢できない」とし、地元指導者に犯人を処罰するよう命じた。ただ、タリバンも各地で爆弾テロなどで多数の市民を殺傷している。

イスラム国は、アフガンやパキスタン、イランの一部を含む地域を「ホラサン州」として領土にすると宣言し、タリバンとの間で交戦がしばしば起きている。【8月12日 産経】
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一方、新興ISとの激しい競争にさらされている伝統ブランド・アルカイダはタリバンと共闘してISに対抗する姿勢です。

****アルカイダ指導者 タリバンに忠誠誓う****
国際テロ組織アルカイダの指導者、ザワヒリ容疑者はアフガニスタンの反政府武装勢力タリバンに忠誠を誓うとする音声メッセージを発表し、自身の健在ぶりをアピールし、過激派組織IS=イスラミックステートに対抗するねらいがあるとみられます。

アルカイダは長年、タリバンの最高指導者オマル師に忠誠を誓い、アメリカの同時多発テロを首謀したビンラディン容疑者はタリバンによってアフガニスタンにかくまわれていました。

しかし、先月、オマル師の死が公表されてからアルカイダは態度を明らかにせず、対応が注目されていました。

こうしたなか、アルカイダのザワヒリ容疑者は音声メッセージをインターネット上に公表し、「すべてのイスラムの国々で、イスラムの教えに基づいた統治を実現する」と述べ、今後も欧米への攻撃を続けると強調しました。

そのうえで、ザワヒリ容疑者は「オマル師に忠誠を誓ったオサマ・ビンラディンの道を引き継ぐ」と述べ、タリバンの新指導部と行動を共にする考えを明らかにしました。

ザワヒリ容疑者としては音声メッセージによって組織の求心力を高め、中東や北アフリカで勢いを増すISに対抗するねらいがある一方、タリバンの新指導部にとってもアルカイダの支持を取り付けることで、みずからの正統性を高める効果があるとみられます。【8月14日 NHK】
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タリバン新指導部が組織を固めて、かつ、和平交渉路線に復帰できるのか・・・現段階では不透明です。
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シリア  イラン、トルコ、ロシア、サウジアラビアなど関係国に動きも 地域限定48時間停戦も

2015-08-13 22:18:29 | 中東情勢

(首都ダマスカス近郊のザバダニを包囲・攻撃するシリア政府軍 【7月19日 SANA】http://sana.sy/en/?p=48787

政府軍・ヒズボラとイスラム原理主義勢力の停戦 イランとトルコが仲介
アサド政権の政府軍、イスラム国(IS)、アルカイダ系ヌスラ戦線、その他イスラム主義勢力、欧米が支援する穏健派・自由シリア軍、クルド人勢力、イランと協調する隣国レバノンのヒズボラ・・・・等の各武装勢力、及び、イラン、サウジアラビア、トルコ、アメリカ、ロシアなど関係国の思惑がもつれあって混乱・内戦が続くシリアでは、8月9日ブログ“シリア 全土支配をあきらめたアサド政権 「国家分断」も現実味を増す”(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20150809)でも取り上げたように、内戦を固定化する「国家分断」の可能性も高まっています。

そうしたシリアで、一部地域ではありますが、48時間停戦発効が報じられています。

****シリア・アサド派と反体制派、48時間停戦発効****
英BBC放送によると、内戦が続くシリアの一部地域で12日、アサド政権派と反体制派の間で48時間の一時停戦が発効した。

アサド政権側を支援するロシア、反体制派を支援するサウジアラビアの双方が今月に入ってから事態打開のための協議を活発化させており、本格的な停戦につながる可能性もある。

停戦が成立したのは、政権支援でレバノンから兵力を送り込んでいるイスラム教シーア派組織ヒズボラと、イスラム主義系の反体制派組織アフラール・シャームで、首都ダマスカス西方のザバダニと北西部の2地域が対象となっている。【8月13日 読売】
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48時間の停戦が合意されたのは、首都ダマスカス近郊で政府軍とヒズボラが包囲しているザバダニと、イドリブ近郊で反政府勢力「アフラーム・シャーム」に包囲されている二つの町です。

「アフラーム・シャーム」は反政府勢力の主力組織ですが、アルカイダとの関係も指摘されるイスラム原理主義勢力でもあり、昨年11月5日から6日にかけて米軍主導の有志連合がその拠点を空爆した組織です。

“これらの停戦は、トルコ及びイランが仲介した”【8月13日 「中東の窓」 野口雅昭氏】とのことで、トルコ政府も仲介を認めているそうです。

当然ながらヒズボラはイランの支援を受けていますが、イスラム原理主義勢力「アフラーム・シャーム」はトルコの影響下にあるということでしょうか。

ロシアとサウジアラビアの協議 溝はあるのものの・・・
この地域限定の「48時間停戦」が、停戦対象地域や関係組織について今後拡大する可能性を示すものなのか・・・現段階ではわかりません。

ただ、このところアサド政権を支援するロシアと、反政府勢力を支援するサウジアラビアの間で協議が行われているのも事実です。

****ロシア、サウジとの「大連合」構想難航 米国主導の中東政策にくさび アサド政権対応で両国に大きな溝****
ロシアのラブロフ外相は11日、モスクワを訪れたサウジアラビアのジュベイル外相と会談し、シリアやイラクで伸長するイスラム教スンニ派過激組織「イスラム国」の問題を協議した。

プーチン露政権は、米国が主導する対イスラム国の戦闘に、自らが支援するシリアのアサド政権やイラク政府軍を加えた「大連合」の形成を模索。

ただ、アサド政権への対応をめぐるロシアとサウジの溝は埋まらず、プーチン政権の思惑は簡単には実現しそうにない。

サウジは、ヨルダンやカタール、トルコなどと並び、米国主導のイスラム国空爆に加わっている。

ラブロフ外相は会談後の記者会見で、有志国による空爆ではイスラム国を打倒できないとの考えを強調。シリアやイラクの政府軍、クルド人勢力を含む形で「地上の行動をより連携させること」が必要だと述べた。

ロシアは、シリア内戦でイスラム教シーア派系を基盤とするアサド政権を支持し、イラクでもシーア派に傾斜するアバディ政権に武器を供与している。

スンニ派の盟主を自任するサウジがアサド政権などと手を組めば、イスラム国との戦闘がより効率的にできる−というのがロシアの主張だ。

プーチン政権は2013年9月、シリアの化学兵器を国際管理下に置くようアサド政権の同意を取り付け、米欧による空爆を回避した。

ウクライナ危機で国際的孤立を深めるロシアには、同様の「仲介外交」をまとめて、形勢を変える狙いがある。

プーチン大統領は6月以降、アサド政権とサウジ王家にそれぞれ「大連合」構想を伝え、両者が直接接触を始めたとの報道もある。

だが、ロシアの動きの根底にあるのは、「今や国土の2割しか支配していないアサド政権の庇護(ひご)」(露識者)にほかならない。

サウジのジュベイル外相は11日、「アサド(大統領)は解決策でなく問題の一部だ。シリアの未来にアサドの場所はない」と切り捨てた。

ロシアはシリアのクルド人勢力を取り込むことも主張しているが、これについてはトルコが反発することは確実だ。【8月12日 産経】
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対ISでアサド政権・反政府勢力の「大連合」を・・・というのは、かねてよりのロシアの主張です。

シリア国家は存続させるとしながらも「平和的か内戦を通じてかを問わず、アサド大統領の退陣は不可欠だ」とするサウジアラビアと、「アサド大統領の役割を決定できるのはシリア国民だけである」としてアサド大統領を実質支援するロシアの間には溝があります。

ただ、立場が違うから合意が得られないというのであれば、外交交渉は不要です。どれだけ国民が犠牲になろうと戦いあるのみです。

立場は違ってもなんらかの利害が共通すれば、なんらかの妥協・合意がなされる・・・というのが外交ですから、ロシア・サウジアラビアの動きから何か生まれることもあるのかも。
ロシアは、反政府勢力やクルド人勢力との話し合いも行うようです。

イランも和平新提案
イランも動いています。

****<シリア内戦>イラン外相が新提案 アサド大統領と協議****
イランのザリフ外相は12日、シリアの首都ダマスカスを訪問し、アサド大統領とシリア内戦への対応を協議した。

イランはロシアと並ぶアサド政権の主要支援国。詳細は不明だが、イラン側は和平協議について新提案を行った模様だ。

ザリフ氏はシリア訪問に先立ち、アサド政権側に加勢しているレバノンのイスラム教シーア派武装組織「ヒズボラ」の指導者ナスララ師ともベイルートで会談し、和平推進に意欲を示した。

ただ、ダマスカス中心部ではザリフ氏の訪問直前、反体制派が郊外の拠点から発射したとみられる砲弾が直撃し、国営通信によると、民間人5人が死亡、55人が負傷した。

政府軍も反体制派拠点を空爆し、反体制派によると、少なくとも31人が死亡した。反体制派のイランへの不信感は強く、イラン主導の和平協議が奏功する見通しは立っていない。

国営通信によると、ザリフ氏は「シリア国民の民意が政治解決の指針となる」と強調。さらに「シリアの領土の一体性を保つことが必要だ」との認識を示し、シリア領内に事実上の反体制派支配地域となる「安全地帯」を設ける計画を提唱するトルコをけん制した。

一方、アサド大統領は7月にイラン核協議が包括合意に至ったことを「歴史的な偉業だ」とたたえた。

アサド政権は今春以降、反体制派や過激派組織「イスラム国」(IS)に対し劣勢が続く。内戦の長期化で、軍事、経済両面でイランへの依存を深めているとされる。【8月13日 毎日】
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軍事的に劣勢に追い込まれているアサド政権ですから、その支援国であるロシアやイランが和平に動けば、アサド政権としても拒めない・・・ということもあるのでは。

反政府勢力にとって、本格的停戦・和平に向けた最大の障害はアサド大統領の存在です。
ただ、最初からアサド退陣が絶対条件ということでは話が進みませんので、ロシアやイランの模索するように、とりあえずアサド大統領を残した形で和平の枠組みをスタートさせた後、選挙等のしかるべき手段で後任を選ぶという方法は現実的にも思えます。

まあ、そのあたりは戦局次第でもあり、更に政権側が追い込まれれば早期のアサド退陣もあるでしょうし、逆に政権側が持ちこたえれば、退陣をなかなか認めない・・・ということにもなるのでしょう。
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難民・不法移民増加 ギリシャ「わが国の能力を超えている」 欧州各国にも広がる波紋

2015-08-12 23:08:04 | 難民・移民

(7月15日に開催された10代の若者たちとの公開座談会で、国外退去を迫られている苦境を流暢なドイツ語で訴えるパレスチナの少女に、メルケル独首相は同情を示しつつも、戦争や貧困から逃れ、より良い暮らしをドイツに求める人々全員を引き受けることはできないとして「政治とは時としてつらいものなのです」と。

その後、少女の涙に気づいた首相は「あなたはよくやったと思う」との言葉をかけ慰めました。

しかし、会の進行役は「よくやったかどうかではなく、非常に困難な状況にあるということが問題なのではないか」と指摘、メルケル首相は「それはわかっている。だからこそ彼女を慰めてあげたいのだ」と強い口調で言い返すやりとりが放映されました。

首相は冷淡ではないか・・・との視聴者の反応に、ドイツ政府当局は17日、少女は今後もドイツ滞在を許可されるとの見方を示しました。写真は【7月17日 AFP】)

増加するギリシャルート 「恥ずべき環境」に放置
北アフリカや中東から、安全で豊かな暮らしを求めて命懸けで欧州を目指す難民・不法移民の犠牲者は増え続け、地中海は“巨大な墓場”と化しています。

****地中海の難民死者、2000人超****
国際移住機関(IOM)は4日、欧州を目指して地中海を船で渡ろうとして死亡した難民や移民希望者の数が年初からこれまでに2000人を超えたと発表した。前年同期の犠牲者数は約1600人だった。

犠牲者の大半がリビアからイタリアに向かうルートで命を落としている。IOMは「密航業者が航海に耐えられない船を使っていることで、悲劇が起きる可能性が高まっている」と指摘した。

一方、救助された人の数は18万8000人に上っている。夏の間にさらに多くの難民らが地中海の渡航を試みるとみられている。【8月4日 時事】 
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かつては、リビアからイタリアのランペドゥーザ島などを目指すコースが主でしたが、最近はトルコからギリシャのコス島などに渡るルートが増加しています。

****地中海渡る難民が過去最多=22万人超、さらに増加へ―国連****
国連難民高等弁務官事務所の報道官は6日、中東やアフリカから地中海を渡って欧州に到着した難民や移民希望者が年初から7月末までに22万4000人に達し、過去最多だった昨年の総数21万9000人を上回ったことを明らかにした。

ギリシャに12万4000人、イタリアには9万8000人が押し寄せた。報道官は「8月も多くの渡航が予想されており、総数は大幅に増加するだろう」と語った。死者はこれまでに2000人を超えている。【8月7日 時事】
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難民らの流入はこれまで、リビアなどから地中海を渡って対岸のイタリアに向かうケースが最も多かった。だが、欧州連合(EU)による警戒強化などを受け、陸路でトルコまで行き、そこから海を渡る距離の短いギリシャへの経路の比重が高まったとみられ、今年は6月末時点でギリシャが上回った。【8月8日 産経】
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イタリアのランペドゥーザ島がチュニジアから113km離れているのに対し、ギリシャのコス島はトルコからわずか5kmしか離れていません。泳ぎの得意な人なら泳いで渡れるかも。

犠牲者も、約1930人がイタリアに向かう途中で死亡したのに対して、ギリシャへの密航途上で死亡したのは約60人にとどまっています。

TVニュース映像を観ても、イタリアを目指す難民船が悲惨な状態で、まさに“命懸け”の感があるのに比べ、ギリシャの島に渡ってくる人々は簡単なゴムボートみたいなものを使っており、到着時もピースサインを掲げるなどにこやかな表情で、非常に簡単に渡ってきたようにも見えます。(実際のところはよくわかりませんが)

難民・不法移民が押し寄せるギリシャは周知のように極めて厳しい財政事情で、とても難民保護などを行う経済的余裕はありません。

難民・不法移民の方も、ギリシャが目的地ではなく、玄関口ギリシャで登録して、ほかの欧州各国に移動することを希望しているようです。

従って、ギリシャ当局も密航者を防ぐ意思は全くないようで、島に到着した密航者は警察に拘束されるようなこともなく、自発的に警察に出向き登録手続きを行い、通行証みたいなものを入手できるのを待つようです。

しかし、爆発的に増加する難民・不法移民に事務処理が追いつかず、保護もない状態で待たされて苛立つ人々と警察の間で衝突も起きています。

7月31日ブログ「英仏海峡に押し寄せる不法移民 ドイツでは国内割当制で軋轢も 財政難のギリシャでは・・・」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20150731)でも取り上げたように、島の住民はIOM(国際移住機関)担当者が驚くほどの寛容な姿勢を示し、助け合いの手を差し伸べているとの報道(8月4日号 Newsweek日本版)もあります。

しかし、ギリシャ政府に難民保護のための財政余力意思もないなかで、国連が7日、移民らが「恥ずべき環境」に放置されているとして、EUに現状の改善を呼びかけるような劣悪な状況にもなっているようです。

ギリシャ政府は「わが国の能力を超えている」と、EUへの支援を求めています。

****財政危機ギリシャに難民殺到、皮肉な現象に首相が悲鳴 「わが国の能力超えている****
・・・レスボス島などを視察したUNHCR(国連難民高等弁務官事務所)担当者は7日、現地では衛生面や物資などを含む受け入れ態勢が整っておらず、多くが「屋根がない状況で寝ている」と指摘。「完全な混乱状態にある」としてギリシャ側に対策を強く求めた。

ギリシャのチプラス首相も7日、緊急に対策を協議し、難民らの本土への移送手続きを進めるなど改善を図ると表明。ただ、同国は財政危機下にあり、「わが国の能力を超えている」としてEUに支援も訴えた。

このままでは難民らがEU域内を移動し、英国に向かう不法移民らで混乱する仏北部カレーのようになりかねない。UNHCR担当者は「新たなカレーを生まないことが最優先」と語り、「欧州諸国はギリシャを支援すべきだ」と強調した。【8月8日 産経】
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****<ギリシャ>増え続ける密航者に悲鳴 警官隊と衝突も****
財政危機のギリシャが、中東・南アジアからトルコ経由などで流入する難民・移民への対応に苦慮している。

ギリシャのコス島では11日、収容されている密航者のうち数百人が登録手続きを巡って警官隊と衝突する事件が起きた。地元市長は「人手が足りず、流血の事態になりかねない」として、中央政府に混乱収拾のための支援を要請した。

コス島はエーゲ海南東部に浮かぶ東西約40キロ、南北約8キロの観光を主産業とする島。

現地からの報道によると、警察当局が数百人の密航者を身元確認と登録のためにスポーツ競技場に移送した際に衝突が起きた。

AP通信によると、密航者は「書類をくれ」と叫び、手続きの迅速化を求めて抗議したという。警官隊は消火器や警棒を使って鎮圧した。

地元市長によると、ギリシャ本土よりもトルコに近いコス島には1日当たり数百人の密航者が到着、人口約3万人の島にとどまっている密航者は7000人以上に上っているという。

市長はギリシャのテレビで、警官などの人員不足のため「地元だけでは対応できない」と述べ、密航者を他の場所に移送し、特殊部隊を派遣するよう中央政府に要請した。

コス島では最近、警官がナイフを振りかざし、パキスタン人の密航者を殴る事件が起きたばかり。警官は10日に停職処分になった。

国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)はギリシャの島で密航者が置かれている劣悪な状況に懸念を表明、ギリシャ政府に待遇の改善を求めている。

地中海に面するギリシャはイタリアと並び、政情不安が続く中東などから欧州を目指す難民・移民にとっての「玄関口」になっている。UNHCRによると、ギリシャには今年、シリアやイラク、アフガニスタンなどから約12万4000人が密航したという。

財政危機に苦しむギリシャにとって密航者の殺到は大きな負担になっている。チプラス首相は7日、「(密航者の流入は)新たな人道危機を引き起こしている」「国が処理できる範囲を超えている」と指摘した。ギリシャ政府は欧州諸国に負担の分担を求めている。【8月12日 毎日】
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ハンガリー 越境防止フェンス建設
難民・不法移民たちの多くは、ギリシャからバルカン半島を北上するルートをたどります。

EUは7月20日の法相・内相理事会で、イタリアとギリシャに集中する難民のうち、今後2年間で最大4万人をEU各国が分担して受け入れる計画を協議しましたが、受け入れ数を巡って合意できず、結論を先送りしています。

EUとしての合意が得られないなかで、難民がバルカン半島北上ルートで押し寄せるハンガリーは、難民流入に厳しい対応をとっています。

****難民申請を却下、ハンガリー方針 「安全な第三国」経由なら****
中東などから難民申請希望者が殺到するハンガリーの政府が、非紛争地の第三国を経て入国した申請者の認定を拒否できるよう法改正に乗り出した。

国際条約が各国に課す難民保護の義務に反するうえ、受け入れの負担を隣国や紛争地の周辺国に押しつけることになり、国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)が強い懸念を表明している。

改正の対象は難民申請の審査に関する法律や出入国関連法で、審査の迅速化が目的。難民申請者が紛争地出身であっても入国前にあらかじめ指定された「安全な第三国」を通過したことが判明すれば、申請を却下し、その第三国に送還する手続きをとれるとする。

中東、アフリカ方面から欧州を目指す難民申請希望者らの多くは地中海を密航船で越え、イタリアに入国するが、ここ3年間でバルカン半島の陸路を通ってハンガリーを目指す人も急増。今年1~6月に約6万1千人が同国で難民申請した。ほとんどがトルコ、ギリシャから隣国セルビアを経由して入国した。

法改正されれば、ハンガリー政府はセルビアを「安全な第三国」に指定すると見られ、殺到する難民申請の多くを短期間で却下することが可能になる。

ハンガリーはセルビアとの国境沿いに高さ4メートルのフェンスの建設も計画しており、数週間以内に着工する予定。今回の改正案も、与党が過半数を占める議会で週明けにも可決される見通しだ。

UNHCRのモンセラットゥ・フェイシャス中欧代表は3日、ハンガリー議会の全議員あてに異例の公開書簡を発表。

「改正案は、爆撃や銃撃を逃れた人々が公正な難民審査を受ける権利を損ない、結果的に国際的な保護制度を否定するものだ」と批判した。「人道的な基準にあわず、国際条約がハンガリーに課す(難民保護の)義務に反する」と強い調子で訴えた。【7月6日 朝日】
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ハンガリーが越境防止フェンス建設(今月末までに完成する予定)などで今後ますます厳しい対応をとると見られる状況で、「駆け込み」的な不法越境も増えています。

****<難民>中欧へ「駆け込み」・・・・越境防止フェンス設置控え****
豊かな西欧の国々で難民申請することを望み、中東やアフリカから押し寄せる人々の波が、オーストリアやハンガリーなど中欧の国々を揺さぶっている。

地中海を密航船で渡るルートに加え、ギリシャなどからバルカン半島を陸路で北上するルートの利用が最近急増しているためだ。ハンガリー政府が今月末を目指し、セルビア国境(175キロ)で越境防止フェンス(高さ4メートル)の建設を急ぐ中、「駆け込み」と見られる強引な不法越境の摘発も相次いでいる。

 ◇中東・アフリカから押し寄せる人々
AP通信などによると、オーストリアの警察当局は8日、中部ザンクトペルテン近郊の道路で、アフガニスタン人やイラク人など86人が小型トラックに「すし詰め状態」で乗っているのを発見、保護した。不法入国させた疑いで逃走した運転手の行方を追っている。

欧州は今夏、記録的な猛暑に見舞われており、オーストリアの首都ウィーンの8日の最高気温は36度に達した。難民たちは「トラックに12時間も乗り続けていた。それまでは炎天下、ずっと歩き続けていた」と説明。

子ども16人や妊娠8カ月の女性も含まれ、赤十字関係者から治療を受けている。最終目的地については一様に口を閉ざしているという。

オーストリア警察は7月24日にも、小型トラックのわずか約7平方メートルの荷台に、シリア人ら42人が詰め込まれているのを発見。ルーマニア人の男性運転手(37)を逮捕した。

難民たちがまず目指すのはハンガリー。欧州内を国境審査なしに移動できる「シェンゲン協定」のメンバー国の中で、地理的に「玄関口」とも言える場所に位置するからだ。

今年に入ってから7月までにハンガリーで難民申請した人は約9万3000人で、2012年の40倍以上に達した。ほとんどはその後、オーストリアやドイツなど、経済的により豊かな国を目指している模様だ。

ハンガリーのフェンス建設に連動し、オーストリア政府もハンガリーから到着する国際列車の監視など出入国管理の強化を急いでいる。

しかし、ハンガリーはルーマニアやクロアチアとも国境を接しており、当面は不法越境を手引きするブローカーらと関係当局とのイタチごっこが続きそうだ。【8月10日 毎日】
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ドイツ 難民増加に国民の不満も
難民たちが最終的目指す国のひとつがドイツ。
経済も比較的好調で、難民受け入れに積極的に取り組んでいる実績もあります。

ただ、そのドイツでも急増する難民に対する国民の不満も高まっており、難民施設への放火や襲撃も発生していることは、7月31日ブログでも取り上げたところです。


****難民 世界と私たち)難民、「憧れの独」でも受難 受け入れ施設に放火・襲撃****
戦禍や貧困を逃れ、欧州に渡る難民の「憧れの地」が経済大国ドイツだ。ユダヤ人迫害の反省もあり、政府は受け入れに前向きだ。だが、仕事を奪われるのではないかといった心配から、難民施設への放火や襲撃が最近、相次いでいる。(中略)

独公共放送が7月末に発表した最新世論調査では、難民の受け入れを「少なくするべきだ」は38%で、今年1月時点より17ポイント増。「これまで通り」が34%、「もっと多くすべきだ」は23%にとどまった。

 ■欧州で申請最多
背景には、シリアなどからの難民申請者の急増がある。昨年は約20万人で欧州内で最多。今年は45万人になる見通しだ。政府は歴代、受け入れに積極的で、紛争地出身なら難民として認められる確率が他国より圧倒的に高い。堅調な経済も難民を引きつけてきたが、国民の不満がくすぶり始めている。

旧東独の田舎町トレーグリッツ。4月4日未明、町はずれの集合住宅に何者かが放火した。認定審査を待つ難民60人を一時的に受け入れる予定の施設だった。(中略)

 ■「職が奪われる」
反対デモに参加した男性住民(44)は、放火や暴力は支持しないというが、「移民に職を奪われて困っているうえに厄介者の難民まで押しつけられては」と話す。それでも、郡当局は計画を進め、6月中旬に町内の別の集合住宅にアフガニスタンなどからの3家族を住まわせた。最終的に約40人が身を寄せるという。

政府当局によると、難民施設への放火や襲撃は、13年の69件が14年は203件に増え、今年は6月までで約200件を記録。施設周辺に監視カメラをつけたり、警備を強化したりしているが、7月にも南部と東部で放火や銃撃が続いた。

旧西独との経済格差が残る旧東独では、外国人が職を奪うと警戒したり、手厚く処遇され過ぎていると不満を抱いたりする人が多い。旧共産圏で外国人慣れしていないことも、偏見に拍車をかけているという。

難民施設を狙う新興極右の存在も、独検察当局の捜査で明らかになった。極右組織に詳しいNGO「EXIT」(ベルリン)のベルント・ワグナー代表(60)は「奇抜なスローガンや理論を掲げ、インターネットなどを通じて一定の支持を拡大している。カルト集団に近い」と指摘する。【8月12日 朝日】
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求められるEU内の合意形成
個人的には、“国境・民族を盾にして、現在手にしている利益を守ろうとするのは現実論として理解はできますが、ただ「ここはお前らの国ではない!出ていけ!」では、これまで大切にしてきた価値観を踏みにじり、異質な世界に踏み込んでいくような不安を感じます。”【前回7月31日ブログより】

具体策は難しいところですが、英仏海峡トンネルの混乱、ハンガリーなどの厳しい対応の一方で、玄関口ギリシャでは殆どノーチェックと、ちぐはぐな対応になっていように見えます。

少なくとも、EUとしての統一的な対応に向けて合意を急ぐべきでしょう。
そのためには、あるべき姿と実現のための費用・施策・努力に関しての各国国民の理解が必要になります。「政治とは時としてつらいものなのです」で終わらせないために。
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