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(死刑ではなく無期懲役となった周永康・前共産党政治局常務委員 習近平政権の限界を指摘する向きも 写真はhttp://www.voachinese.com/content/zhou-yongkang-trial-20150615/2822624.html より)
【腐敗摘発で権力基盤を固めたのか? 党内抵抗にあって不安定な立場か?】
習近平国家主席が主導する「虎もハエも叩く」という腐敗・汚職摘発(あるいは、それを利用した権力闘争)は、かつては「聖域」とも見られていた軍部に対しても行われています。
すでに、江沢民元国家主席と関係が深いとされるかつての軍の二人のトップが両者とも摘発されていますが、そうした軍幹部摘発のきっかけともなった人民解放軍総後勤部の元副部長に執行猶予付きの死刑判決が言い渡されました。
****<中国>軍元幹部の不正 過去最高の4000億円以上か****
中国国営新華社通信によると、中国軍の軍事法院(裁判所)は10日、贈収賄や公金横領、職権乱用などの罪で起訴された人民解放軍総後勤部の元副部長、谷俊山被告(58)に対し、執行猶予2年付きの死刑判決を言い渡した。
中国誌・財経によると、谷被告は200億元(約4000億円)以上の不正にかかわった疑いがあり、軍高官の汚職額としては過去最高額とみられる。
判決は、谷被告の全財産を没収、中将の階級も剥奪処分とした。2年間問題なく服役すれば無期懲役に減刑される。習近平指導部はこれまで「聖域」とされてきた軍首脳の徐才厚・前中央軍事委員会副主席(3月に病死、不起訴)と郭伯雄・前中央軍事委員会副主席(7月に党籍剥奪と刑事責任追及が決定)を相次いで摘発し、軍内の汚職摘発を進めている。
谷被告は2012年2月に解任され、捜査機関が14年1月に河南省濮陽市の自宅を捜索した際、純金の毛沢東像などトラック4台分が押収された。谷被告の摘発は軍での腐敗摘発の始まりと位置づけられている。
中国国防省は公式ホームページで判決理由について「収賄、公金横領の金額が巨大であり、贈賄による職権乱用が深刻であるため」と説明。その上で執行猶予付きとしたのは「谷被告が他人の犯罪行為を明らかにし、調査で事実と確認されるという重大な功績を考慮した」とした。
中国メディアによると、谷被告は徐、郭両氏に自身の昇進の見返りに多額の賄賂を贈ったとされており、谷被告に死刑判決が下されたことで、郭前副主席にも重い判決が出ると予想される
徐、郭の両氏とも江沢民元国家主席の後押しで軍首脳に抜てきされたとされる制服組トップ。その2人に賄賂を贈ったとされる谷被告の重罰は、軍内に多く残るといわれる江派切り崩しの足がかりになるとみられている。【8月10日 毎日】
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徐才厚・郭伯雄という軍トップや谷俊山被告らの摘発は、巨大な既得権益機構と化した軍をより機能的な近代的軍にする改革の一環であると同時に、バックに控える江沢民元主席の勢力との権力闘争でもあります。
今回判決については、“中国メディアの報道によれば、谷氏の収賄総額は200億元(4千億円)に達している。中国の裁判で、汚職金額が1億元(約20億円)を超えれば死刑判決が下されるのが相場といわれており、谷氏への猶予付き判決は「温情」の印象もある。共産党関係者は「谷氏は取り調べに対し、上司だった徐才厚、郭伯雄の2人の前軍事委員会副主席(いずれも失脚)の汚職について供述したことで当局との司法取引が成立している」との見方を示した。”【8月11日 産経】とも。
“汚職金額が1億元(約20億円)を超えれば死刑判決が下されるのが相場”とは言うものの、元最高指導部メンバーで「最大のトラ」と位置づけられていた周永康・前共産党政治局常務委員の場合、周一族の不正蓄財の金額は1000億元(2兆円)にのぼるとも言われていましたが、「約1億3千万元(約26億円)相当の金品」の収賄という“少額”のみが認定される形で、唐突に無期懲役で「幕引き」がなされています。
周永康氏のケースでは、江沢民元主席など党内の抵抗で死刑にはできなかった・・・との見方もあります。
一連の党・軍幹部に対する腐敗摘発については、これにより習近平主席が抵抗勢力を封じ込め、江沢民氏や胡錦濤氏の影響力を排除し、その権力基盤を固めつつあるとの見方と、党・軍内部には摘発に対する不満から“不穏な空気”が漂い、党長老などの抵抗によって習近平主席の思うようには進展しておらず、習主席の立場は危険なものとなっているという見方・・・相反するふたつの見方があります。
中国政治の歴史は、文化大革命での走資派失脚、林彪副主席の逃亡・墜落死、4人組の支配と失脚、天安門事件をめぐる党内対立等々、権力闘争の歴史でもありますが、中国共産党内部、中南海で繰り広げられる権力闘争の実態は外部の人間にはよくわかりません。
中国では、河北省の避暑地・北戴河で党長老も交えて毎年行われる非公式会議が、現在開催されていると言われています。非公式ながら、党の方針・方向を実質的に左右する極めて影響力が大きい会議です。
その時期に合わせたような、興味深いコラムが人民日報に掲載されたそうです。
****「長老政治」けん制=党機関紙コラムに波紋―中国****
中国共産党機関紙・人民日報は、政界を引退した長老指導者が政治に介入することをけん制したコラムを掲載した。コラムは「不在其位、不謀其政(その職になければ、政治を行うな)」を「常態」にすべきだと主張。
習近平国家主席らは河北省の避暑地・北戴河で現在、長老も交えて夏恒例の非公式会議を開催中とされ、このタイミングでの党機関紙の文章に波紋が広がっている。
10日付の「理論面」に掲載されたコラムは「長年、われわれの党の多くの指導幹部は引退以降、正しく地位の変化に向き合い、新指導部に介入・干渉せず、度量の広さと高尚な感情を体現して皆の尊敬を集めた」と指摘。
その一方で「一部の指導幹部は在職中から腹心を配置し、院政を敷く条件をつくり、引退後も元のポストの重要問題から手を引こうとしない」と苦言を呈した。
その上で「こうした現象は新たな指導者を板挟みにし、大胆かつ自由な仕事を展開できなくし、その職場では低俗な気風が盛んになるばかりか、派閥が乱立して人心が緩み、正常な仕事の展開を困難にして党組織の団結力や戦闘力を弱めてしまう」と危機感を訴えた。
反腐敗闘争を続ける習指導部は、周永康・前党中央政法委員会書記など、江沢民元国家主席の腹心らを相次ぎ摘発。共産党筋によると、追及を緩めない習主席らに江氏一派は強く反発し、双方の対立が深まっているとされる。
今回のコラム掲載の背景には、江氏らの動きをけん制する習氏の狙いがあるとの見方が強い。【8月11日 時事】
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【“消えた”習主席の右腕】
習近平主席の進める汚職摘発の今後に大きな影響をもたらす二人の人物が、今注目を集めています。
一人目は、習近平主席の「虎もハエも叩く」反腐敗運動を実質的に担ってきた王岐山・党中央規律検査委員会書記ですが、この反腐敗運動の中心人物の姿が最近見えないことが話題となっています。
****不穏な中国 “消えた”習主席の右腕 江沢民派が巻き返し工作との報道も・・・****
習近平政権下の中国が不穏な空気に包まれている。
腐敗官僚の撲滅を目指す「反腐敗運動」を主導する王岐山・党中央規律検査委員会書記が6月から公の場に姿を見せていないのだ。
王氏をめぐっては、北京五輪絡みの金銭スキャンダルや、米メディアが報じた米金融大手との癒着疑惑が浮上。
死刑を免れた周永康・前党政治局常務委員の大甘処分への批判もくすぶっているだけに、一部で「王氏の周囲で異変が起きているのでは」との憶測を呼んでいる。(中略)
王氏をめぐっては、6月に北京で行われた会議に出席した姿が報じられたが、その後の動きは明らかになっていない。
恨みを買いやすいポジションだけに、これまでも隠密行動を取る傾向にあったが、今回は少し事情が違う。背景にあるのは、反腐敗運動の停滞と王氏の身にふりかかったスキャンダルだ。
「注目を集めていた周永康氏の判決が期待外れに終わった。それ以降、反腐敗運動においては目立った成果を挙げられていない。加えて王氏自身にも複数のスキャンダルが噴出した。それだけに『失脚したか、権力闘争に敗れた可能性がある』との見方が出ている」(「太子党」関係者)
王氏は、2008年の北京五輪の開発プロジェクトに関する汚職への関与が疑われているほか、米紙ウォールストリート・ジャーナルなどが報じた米金融大手JPモルガン・チェースとの癒着疑惑が浮上している。
この影響で、5月に予定されていた訪米を取りやめたともいわれる。習政権の「キーマン」に何が起きているのか。
中国事情に詳しい評論家の宮崎正弘氏は、「反腐敗運動の先頭に立ってきた王氏は周囲からかなりの敵意を向けられている。2年前に宿泊先のホテルが放火されるなど、これまで暗殺未遂が9件あったといわれている。そのため常に神出鬼没で、しばらく動静がないからといって大騒ぎすることはない」と指摘しながらも、こう続ける。
「反腐敗運動が行き詰まっているとはいえ、習氏が自分の右腕である王氏を見限ることは考えにくい。ただ、香港では、反腐敗運動の最大ターゲットといわれる江沢民元国家主席が勢力を盛り返しているとの報道が絶えない。江氏が、胡錦濤前国家主席率いる『団派(中国共産主義青年団)』と組んで習政権に反撃を仕掛けるとの見方もある。政情が極めて不安定なのは間違いない」
現・元最高幹部らが一堂に会し、重要人事や政策について話し合う非公式会合「北戴河会議」が開幕したとの情報もあるが、この場に王氏が姿を見せるかが焦点になりそうだ。【8月7日 夕刊フジ】
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習近平主席もかつて、国家主席就任前の2012年9月に雲隠れし話題になったことがあります。
このときは、厳しい権力闘争があったとも言われています。
王岐山氏はこれまでも雲隠れすることがあり、暗殺を避けるためとも、極秘捜査のためとも言われていました。
今回の場合は・・・どうでしょうか?
万一、右腕の王岐山氏失脚ということになると、習近平主席の権力にも黄信号がともります。
【アメリカから「習王」を脅す令計画氏実弟】
注目される二人目は、胡錦濤前国家主席の最側近で昨年12月に失脚した大物政治家、令計画氏の実弟で、アメリカに亡命している令完成氏。
“共産党政権を揺るがす国家機密約2700点を持ち出し、粛清を進める習近平政権に対し揺さぶりをかけているとも報道。米中央情報局(CIA)元職員のスノーデン容疑者による機密暴露の「中国版」に発展しかねない情勢だ。”【8月11日 夕刊フジ】
****<中国>令計画氏弟、米渡航 機密持ち出しで引き渡し要求?****
胡錦濤前国家主席の側近でありながら失脚した令計画・前共産党中央統一戦線工作部長(58)の弟で元国営新華社通信記者の令完成氏(57)が米国に亡命した疑いが濃厚になった。
中国指導部を揺るがす機密を持ち出したともいわれており、9月の習近平国家主席の訪米を前に米中間の関係の新たな懸案に発展する可能性がある。
米紙ニューヨーク・タイムズ(電子版)は3日、複数の米当局者の話として、中国が米国に対して完成氏の引き渡しを求めていると伝えた。兄計画氏は党中央弁公庁主任という指導部の機密情報が集まるポストを担当した重要人物。「中国にとり、これまでで最も打撃の大きい亡命の一つ」になる可能性があると同紙は報じている。
令家は5人兄妹で、事故死した長男から「方針」「政策」「路線」「計画」「完成」と共産党の文献によくみられる言葉の名前で知られる高官一族だ。
だが、7月に計画氏の党籍剥奪と逮捕が決まったのと前後して次々と一族の汚職などが追及されている。中国メディアによると、完成氏にも関連会社が上場前株式を不正取得した疑いがかけられ、米国に逃れたという。
米カリフォルニア州に約250万ドル(約3億円)で購入したと報じられた豪邸の写真も流れている。
中国公安省は昨年から「キツネ狩り」と称して海外逃亡幹部の摘発キャンペーンを展開中。今年4月には党中央規律検査委員会が逃亡幹部100人の写真や実名、身分証明書番号などをウェブサイト上で一斉公開した。
しかし、米中間では身柄引き渡し条約が結ばれておらず、中国は米国に対して幹部の容疑を個別に示し、引き渡しを求めている。
中国は容疑者の身柄引き渡しを含む司法協力を米国と進めたい考えだ。ワシントンで6月に行われた米中戦略・経済対話では、中国で来年開かれる主要20カ国・地域(G20)首脳会議で、習指導部が取り組む腐敗防止に向けた国際協力を進める方針も確認された。
しかし、米国側は現段階では完成氏の引き渡しに応じない姿勢を示しているとされ、中国側は習主席訪米の際の首脳合意に司法協力を盛り込み、完成氏の引き渡しにつなげたい考えとみられている。【8月10日 毎日】
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“令完成氏は、中国指導者の海外での不正蓄財に関する機密資料など計2700点を計画氏から託されたとの情報がある。完成氏は一族に重い判決を下せば、これらの情報を公開すると中国当局を脅しているという。”【8月11日 夕刊フジ】
「中国版スノーデン」でもある令完成氏の引き渡しを巡る米中間の綱引きもありますが、アメリカが引き渡しに応じない限り、習近平政権は令完成氏の“脅迫”で、新たな動きがとれない状況にもあるとも指摘されています。
****江沢民派軍閥の復活****
七月下旬、習近平は北戴河会議を前に三つの動きをとった。ひとつは反腐敗運動で摘発した「新四人組」の最後の一人、令計画・元党中央弁公庁主任の処分だ。党中央紀律検査委員会が党籍剝奪処分を決定し、身柄を検察に引き渡して裁判が始まった。(中略)
令計画の処分は習近平にとってリスクの高い判断だった。
令計画の罪状の中に習近平政権に反対する政治陰謀を意味するとされる「政治規則違反」と、党中央政治局の保管する機密文書持ち出しを意味する「機密窃取」があることからも明らかなように、令計画は習近平と王岐山・党中央紀律検査委書記に関する機密文書を弟の実業家、令完成に渡したという。
令完成は移住先の米国から「習王」を脅してきた。王岐山は北戴河会議前に令完成を帰国させようとしたが拒否された。
この裏のいきさつを踏まえると、令計画の処分は、反腐敗運動の矛を収めるための布石とみるべきだろう。
習近平が令計画を断罪して党内体制を固めたかのような報道は正しくない。令完成が米国にいるかぎり、江沢民派はもう習近平、王岐山を恐れる理由がないのだ。(後略)【選択 8月号】
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17日で89歳になる江沢民元主席ですが、死ぬまで権力を手放さないようです。
「令完成氏の機密資料は習近平政権にとって大きな爆弾のようなものだ。対応を誤れば大きな不祥事になりかねない」(中国共産党関係者)【8月9日 産経】
“消えた”王岐山氏にしても、“中国版スノーデン氏”の令完成氏にしても、興味は尽きない話ではありますが、真相はよくわかりません。