「宮崎正弘の国際情勢解題」より 令和四年(2022)4月11日 (月曜日) 弐 通巻第7296号
書評
ウクライナは脱炭素の犠牲者???
環境問題で政治工作、裏で独裁者たちの高笑いが聞こえないか
杉山大志 v 渡辺哲也『
中 露の環境問題工作にだまされるな!』(かや書房)
ウクライナ v ロシアの戦争は、国際政治に地殻変動をもたらした。
エネルギー問題でこれまで隠されてきた真実が露呈し、西側の自由、民主主義vs全体主義の戦いという短絡的な 二元論で戦争 の舞台裏の謎が解けないことが分かった。
ウクライナ戦争があらわにしたのは、エネルギーの生産と流通、配分の基本構造を激変させている世界史的な出来事 となったこと である。
つまりエネルギー安全保障であり、経済的な価格競争は付帯現象でしかない。
結論から言えば、「石炭火力をフル活用し、原子力の再稼働を進めることが日本と世界を救う」と適正な処方箋が 本書で提議さ れている。
戦争は資源相場を押し上げる。石油とガスは品薄となり、価格は高騰する。しかし太陽光など「再生可能エネル ギーには、化石 燃料を一気に代替するような実力はない」と杉山氏はまず断言して論を進める。
これからはむしろエネルギー賦課金や諸税の引き下げが起きる。なぜなら再生エネルギー導入支援は光熱費増となっ てきたから で、日本で電気料金は実質的に50%の値上げとなっていた。
──知ってました? こんなはなし。
対談相手の渡辺氏はSWIFTからのロシア排除も最大手のズベルバンクとガスプロムバンクが除外されている矛盾 を突く。全面 制裁は逆に欧州諸国にエネルギー危機をもたらし、パニックとなるからである。欧米の狡智。
渡辺氏は言う。
「ウクライナ危機の構造をみるとプーチンこそが脱炭素からの最大の受益者」だ。
ならば最大の被害者は日本であろう。なぜなら政府が補助金をつけた太陽光発電は「富の流失」を招いた。補助金 とは国民の負 担が増えたことであり、しかも電力の自由化で、かえって停電がおこり、あまつさえ電気料金は実質的に五割値上げになった。こ の実態が隠されているのだ。
地球温暖化などと面妖な理論を振りまき、およそ実現不可能な脱炭素キャンペーンは『本当に必要なのか』(渡 辺)。「急進化 した環境運動が日本やアメリカ、ヨーロッパ諸国の政治を乗っ取ることに成功した。(中略)自由諸国の弱体化であり結果的に中 国の台頭を招いている」(杉山)。
その中国は世界最大のCO2排出国であり、かつ石炭火力発電所に依存し続けるから日米欧の目標とする 「2030年に50% 削減、2050年にゼロ」に対し、中国は2060年、インドは2070年とやる気のなさを示している。
バイデン政権はポピュリズムを基軸に突拍子もない提言でカーボンゼロ、環境保護をすすめるとしながらも、民主 党内には産炭 地などの議員が露骨な反対を展開して法案成立が出来ず、予算が議会を通過していない。
つまりバイデンは支持母体でもある環境団体、地球温暖化裨益組にリップサービスに励んでいるだけ。
政策の実現とは予算獲得であって、これが西側の政治である。
さてシェールガスである。
アメリカはオバマ政権下で著しい制限を設けて開発を妨害したが、トランプがパリ協定離脱して以後、シェールの開 発が進んだ。 バイデンが復帰したとはいえ、実態は開発がすすんでいるのだ。
アメリカは中東から石油ガス輸入の必要がなくなった。じつは欧州ならびに英国でもシェール埋蔵は確認しれてお り、問題は環境 破壊に繋がるなどと難癖をつける左翼メディアと活動家の反対運動ために開発に手がつけられないのである。
これはレアアースなどにも言える。
脱炭素キャンペーンには舞台裏で仕掛け人がおり、利権構想がべたべたと絡む。嘗てシロクマが絶滅し、ツバルは 海に沈むと嘘 を言いふらしていたゴアたちの利権だったことが暴かれたが、ニューフェイスが金融界に登場した。
ESG(環境、社会、ガバナンス)とか胡散臭い投資が推奨され、GFANZ(「ネットゼロのためのグラスゴー 金融同盟」) なる新組織が発足した。
カーボンゼロ、環境保全をテーマとする金融商品を開発し、投資家に売りまくるというスキームである。
(なんとなくサブプライムローンに似ているなぁ)。
本書には環境問題、地球温暖化の嘘をウクライナに濃厚に絡んだ本質をえぐる貴重な提言がちりばめられている。