東京の1Kマンションで独り暮らししながら仮面浪人していて、不安に苛まれ続けた1991年。当時、東京ー長野の遠距離恋愛で付き合っていた彼女がプレゼントしてくれた一曲が、折れかけていた私の心を支えてくれた。
そして、その曲は、彼女と渋谷で観た映画『就職戦線異状なし』の主題歌だったとも、後で知った。映画の舞台が第一志望の早稲田大学ということもあり、大学生活に憧れを抱きながら観たのを思い出す。
どんなときも どんなときも
ビルの間 窮屈そうに落ちて行く夕陽に
焦る気持ち 溶かしていこう
そしていつか 誰かを愛し その人を守れる強さを
自分の強さに 変えていけるように
その年のある休日、長野から東京に遊びに来た彼女と、新宿の高層ビルの間に落ちて行く夕陽を一緒に見た。風が強く、吹き飛ばされないよう、お互いの手を強く握りしめていた。「この人と結婚するんだろうな」と遠くで感じ始めた、20歳を迎えようとしていたあの時・・・。
第一志望の入試日の前夜、緊張と不安で眠れない自分がいた。オーディオにテープを入れ、何度も聞いてきたその歌詞に集中する。
消えたいくらい辛い気持ち 抱えていても
鏡の前 笑ってみる まだ平気みたいだよ
布団から抜け出して、ユニットバスの鏡に自分の顔を映して笑ってみる。自然と涙が溢れてきた。「よし、大丈夫。俺ならできる・・・」
確かに、大学受験は不安と焦燥の連続だ。でも、その後の人生を考えれば、それらは取るに足らない、乗り越えて当然のことと思える自分がいた。
合格発表の日。上京してくれた彼女とキャンパスまで一緒に見に行った。どんな結果であれ、それまでの自分を卒業し、新たな自分になるのを見届けてもらうために。
どんなときも どんなときも
迷い探し続ける日々が
答えになること 僕は知っているから
その8年後、その彼女と結婚して今がある。槇原敬之『どんなときも。』は、いつだって私の人生の応援歌。
誰にでも心に響く音楽や景色、映像があると思いますが、大学受験生には是非、6年前のセンター試験当日に放映されたカロリーメイトのCМを見て、これまで歩んできた道を振り返り、今週末の大学入学共通テストに臨んでもらいたい。
「受験に意味があるかどうかはわからない。ただ、一歩一歩、自分の力でつかみ取った景色は、生涯忘れられないだろう」
決意、羨望、不安、焦燥、嫉妬、孤独、挫折、克己、希望、継続、成就、達成、感動。様々な思いが交錯する中で、その景色をつかみ取るために一歩を進めていこう。そう、大学受験を通して、自分で道を切り拓く力、弱い自分を乗り越えるための強い心を養ってきたのだから。