菩提樹と言えば、お釈迦さまがこの木の下で悟りを開いたいう菩提樹(bo tree)とヨーロッパの菩提樹を思い出すが、今回はヨーロッパの菩提樹、リンデンバウム(lindenbaum)だ。
1週間ぐらい前になるだろうか、日曜版の「be」で、シューベルトの「菩提樹」を取り上げていた。私たちの世代は学校で教わったせいもあり、親しんできた歌だ。特に近藤朔風の訳で親しんで来た。新聞によると、現在、日本の歌手でも、ドイツ語で歌い、朔風の訳詩で歌う歌手はほとんどいない、ということだ。言われてみれば、F・ディスカウが歌った「冬の旅」のCDは持っているが、菩提樹だけでも、日本語で歌ったCDは持っていない。
菩提樹はミュラーが書いた「冬の旅」の1篇である。傷心の若者のさすらい、「冬の旅」の詩にシューベルトが美しい曲をつけている。ミュラーは当時は人気のあった詩人であったが、今はシューベルトの歌曲「冬の旅」や「美しき水車小屋の娘}に残っているくらいだそうだ。
ウィーンとバーデンの間ぐらいにあるメートリンクからバスで地底湖に向かう途中、道沿いの看板に菩提樹の楽譜が書かれたレストランの前を通ったことがある。あとになってそこがシューベルトがよく曲想をねるために通っていた店だと知った。
菩提樹は死の木でもあるのだそうだ。ruhe、憩いとか安らぎと言った意味だが、この詩のruheは安らぎ=死を意味しているのだ、と。なるほど。
朔風はこのruheを幸と訳しているそうだ。
来よ いとし友、ここに幸あり・・・
えっ、「来よ、いとし友」なんて言葉あったっけかな?
そこで声に出して歌ってみた。歌詞はちゃんと覚えていて、メロディーと一緒にすらすらと口をついて出てくる。件の箇所に差し掛かった。「こよ~いとしと~も」あはは、子どもの頃と言え、またやっていたんだ。音一つ一つにつけられた言葉は間違っていない。しかし、呼びかけではなかった。思わず笑ってしまった。「こよいとしとも」、どう解釈していたんだろうね。文語だから詩の内容なんて分からずに歌っていたんだ。それでいままで気付かずにきたというのだ。朔風さん、ごめん。
菩提樹も、野ばらなどといっしょにドイツ語で暗記したことはある。そう、これも子どもの頃だ。ドイツ語にふってあるカタカナで覚えたものだ。だから発音も、詩の内容もわからない。ただ口先でうたっているだけ。長じて言葉が分かるようになって覚えたものは、意味も分かっている。子どもの頃、学校の唱歌として出てきたものは、ある意味では気の毒だ。もう一度読み直して覚えなおさないと悪い。
菩提樹
泉に添いて 茂る菩提樹 今日も過(よぎ)りぬ 暗き小夜中(さよなか) 面(おも)をかすめて 吹く風寒く
Der Lindenbaum Am Brunnen vor dem Tore
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