藤村官房長官の金正日「哀悼」に見せた見事なまでの薄汚い詭弁

2011-12-22 12:12:53 | Weblog

 藤村官房長官が12月19日午後の臨時記者会見であの悪名高い独裁者金正日の死に対して哀悼の意を表し、21日午後の記者会見では、哀悼の意は、一般的常識としての日本的文化の範囲内で個人的に行った哀悼表明で、政府の意向ではないと否定したといくつかのマスコミが伝えていた。

 発言内容を具体的に知りたいと思い、首相官邸HPの中の官房長官の記者会見記事にアクセスしてみた。記事は冒頭発言のみテキスト文が記載され、記者との質疑応答は動画のみのサービスとなっている。

 これを親切と取るか、不親切と取るか。

 19日午後の関係発言は冒頭発言の中で、21日午後は記者との質疑応答の中での発言となっている。 

 《官房長官記者会見「北朝鮮の金正日国防委員会委員長の死去について」》(2011年12月19日(月)午後)

 藤村官房長官「まず私(官房長官)の方から、金正日国防委員会委員長の死去についてということでお話しします。
 
 北朝鮮金正日国防委員会委員長の突然の逝去の報に接し、哀悼の意を表したいと存じます。

 今回の突然の事態が朝鮮半島の平和と安定に悪影響を与えないことを、まず期待したいと存じます。

 政府といたしましては、先ほど直ちに官邸内閣対策室を最初に設置をいたしました、とともに午後1時から安全保障会議を開催いたしました。

 野田総理からは、既に12時10分に出されておりますが、総理の指示、すなわち今後の動向について情報収集体制を強化すること、米国・韓国・中国等の関係国と緊密に情報共有をすること、及び不測の事態に備えて万全の態勢を取ることについての、改めてのご指示がございました。

 政府としては引き続き適切な対応に努めてまいりたいと存じます。

 また、今からの話、今後、関係省庁担当局長会議をこの後開きます。さらに、合同情報会議等を断続的に開催することとしております」

 次に21日午後の記者会見を関係箇所のみ動画から採録。聞き取りにくかったため、聞き取りにくい箇所は省略。
 
 共同通信記者「政府として今後弔意、哀悼の意っていうふうに、会見で長官、おっしゃっておりましたけど、政府として予定をどういう形で示されるのか、伺えますでしょうか」

 藤村官房長官「あの、今後、特にございません。特に予定はございません」

 記者「関連してなんですけど、(北朝鮮は?)民間の弔問団は受けないというふうにおっしゃってますけど、民間の弔問について、政府として、例えば、その、渡航自粛とか、渡航制限について緩和するとかのお考えはあるのでしょうか」

 藤村官房長官「具体的にまだ聞いておりませんが、具体的に今変更するとかありません」

 千葉MSN産経記者「MSN産経の千葉です。関連になってるんですが、弔意の表明という形で、長官、19日の会見で最初に弔意の表明をされましたが、例えば北朝鮮の人民に対して弔意の表明という形で、かなり慎重な判断をされたように思いますが、最初に弔意を申し上げた意味合いについて――」

 藤村官房長官「まあ、あのー、おー、これは一般的常識、日本的文化の中で、ということですが、の範囲の中で私が、まあ、哀悼の意を表したところに過ぎないと思います」

 これが個人的な意思から出た哀悼表明であって、政府を代表した哀悼の意ではないということなら、これこれの文脈で「哀悼の意を表したに過ぎません」と断言すべきで、そのように断言することによって個人的な意思判断であることの証明となるが、個人的な意思判断だと自分から言い出しておきながら、「哀悼の意を表したところに過ぎないと思います」と、自らの意思判断を推測する矛盾した言葉遣いとなっている。

 単に言葉遣いの間違いなのか、実際は政府の意思を代弁したことを誤魔化すためについ推測の形を取ってしまったのか。

 だが、内閣官房長官という職務は重要事項や各種事態に関する政府の公式見解等を発表する政府報道官(スポークスマン)としての役割を担う内閣の要としての地位を占め、内閣総理大臣に次ぐナンバー2の重要ポストにある。

 いわば発言は内閣を代表したものとなる。もしそれが個人的な意思判断であったなら、そのことの断りを入れて、明確に分けなければならないはずだ。

 北朝鮮の朝鮮中央テレビが12月19日正午の特別放送で金正日の死を伝えた。その日の午後の官房長官記者会見で、政府を代表してではなく、個人的な意思判断だとの断りを入れもせずに、「北朝鮮金正日国防委員会委員長の突然の逝去の報に接し、哀悼の意を表したいと存じます」と発言した。

 百歩譲ってこれが個人的な哀悼表明だとするにしても、認めるについては公式の記者会見の場で悪名高い独裁者の死に際した北朝鮮権力層及びその権力層と利害関係を結んだ一部国民に対して個人的に哀悼の意を表明しなければならない金正日に対する個人的な敬愛や信頼の類を説明する責任を負う。

 あるいは独裁国家北朝鮮との今後の関係を考えた個人的な哀悼の表明であることの説明が必要となる。

 当然、続いて発言している「今回の突然の事態が朝鮮半島の平和と安定に悪影響を与えないことを、まず期待したいと存じます」は国民を代表した政府の期待ではなく、藤村官房長官の個人的な期待ということになって、政府の期待は発表しないで済ませたことになる。

 この矛盾をどう説明するのだろうか。
 
 「哀悼」とは「人の死を悲しみ悼むこと。哀惜」の意味であると『大辞林』(三省堂)に出ていて、「哀惜」と同義語としている。「哀惜」とは読んで字の如く、その死を哀しみ惜しむことを言う。「惜しむ」とは死を残念だとする想いを背景とした感情の発露であろう。

 いわば生存を望みながら、そのことが叶わなかったときの想いが「哀悼」であり「哀惜」の感情となって表れる。

 死んでほしいと願っていた人間が死んで、誰が「哀悼」の念に駆られたり、「哀惜」の念に駆られたりするだろうか。

 藤村官房長官は金正日の死に際して、「哀悼」の念に駆られ、あるいは「哀惜」の念に駆られて、個人的に政府公式の記者会見を使って哀悼の意を表明した。

 なぜなのか、そのことの国民に対する説明が必要となる。

 藤村官房長官は自身の個人的な哀悼表明を「一般的常識、日本的文化」「範囲の中」の儀礼だとした。

 ということは、北朝鮮権力層及びその権力層と利害関係を結んだ一部国民がその生存を願いながら叶わなかった悪名高い独裁者金正日の死を哀しみ残念がる哀悼・哀惜の念にしても、日本の「一般的常識、日本的文化」と共通しているとして同列に置いたことになる。

 実際には哀悼・哀惜の念は日本文化に限らず、世界中の文化に共通の普遍的な人間感情であろうが、同列に置くことで藤村官房長官は自身の哀悼・哀惜念を北朝鮮の権力層と同列の哀悼・哀惜の念としたのである。

 だが、何よりも問題としなければならないことは藤村官房長官の個人的な哀悼・哀惜が「一般的常識、日本的文化」に基づいているとした場合、その非合理的判断能力である。

 もし藤村官房長官が金正日の死が北朝鮮国民の自由の実現、生活向上にとって善かれと願う、あるいは朝鮮半島の平和と安定実現に向けて善かれと願う想いに強く囚われていたなら、内閣の一員としての立場上、国家間の関係維持の点で形式的・儀礼的には表明することはあっても、個人の立場ではどのような口実を以てしても到底哀悼の意を表明する気持にはならないだろう。

 だが、「一般的常識、日本的文化」を口実として個人的な哀悼表明とした。

 これを以て見事なまでの薄汚い詭弁だと言わずして、何と言ったらいいのだろうか。詭弁でないとしたら、北朝鮮国民の自由の抑圧、恐怖政治、飢餓・餓死を考えることができない冷酷な人間にできているとしなければならない。

 クリントン米国務長官の12月19日の声明。《「北朝鮮市民を深く懸念」米国務長官が声明 弔意示さず》asahi.com/2011年12月20日15時22分)

 クリントン米国務長官「北朝鮮市民の福祉を深く懸念しており、困難な時期にある市民に思いをはせている。

 新たな指導者は(これまでの)約束を履行し、周辺国との関係を改善し、市民の権利を尊重して国を平和に導くよう期待する。

 米国は北朝鮮市民を支援する用意があり、新指導者が朝鮮半島の平和と繁栄、安全保障の維持で新たな時代の先駆けとなるよう国際社会と協力するよう呼びかける」

 記事題名にあるように、〈死去への弔意は示していない。〉――

 クリントン長官の声明が19日午前か午後か分からないが、藤村官房長官の哀悼表明と同じ19日である。

 《「総書記への哀悼は適切でない」とした米の事情》YOMIURI ONLINE/2011年12月21日21時01分)には次の一文が紹介されている。

 クリントン米国務長官「我々の思いと祈りは北朝鮮国民とともにある」

「総書記への哀悼は適切でない」とした米の事情とは、1994年の金日成()国家主席死去でクリントン大統領(当時)が哀悼声明を発表、共和党から批判を浴びたことからの学習と米国内世論配慮だとしている。

 米専門家「北朝鮮が、前回に劣る扱いを受けたと解釈する恐れがある」

 そのように「解釈」したなら、国民の自由と民主主義を認めたなら、迷惑に思うぐらい哀悼の意を表明するだろうと言い返してやればいい。国家権力者は国民の自由と民主主義と食の保証を約束することがあるべき姿だということを北朝鮮に対しても、他の独裁国家に対しても示すことができる。

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