野田首相2011年12月9日記者会見から問う「安全運転」と「不退転」の二律背反

2011-12-10 11:28:59 | Weblog

 野田首相が同時に二つ掲げている「安全運転」と「不退転」とは二律背反の矛盾した関係、相対立する関係にある。「不退転」は「屈しないこと、固く信じて変えないこと」(『大辞林』三省堂)という意味があるが、固く信じて変えないことによって屈しない「不退転」の姿勢が堅持可能となる。

 野田首相「社会保障と税の改革に不退転の決意で望みます」――

 私などは場末の安キャバレーの古びて輝きを失ったミラーボールのようにめまぐるしくるくる考え・態度を変えて、「我が辞書に信念なる言葉なし、不退転の言葉もなし」の惨状だが、そこはさすが日本の総理大臣になるだけあって、野田首相は堅忍不抜の信念に支えられた不退転の姿勢の持ち主であるらしく、「不退転の決意」誇示のオンパレードを示している。

 直接的に「不退転」という言葉を用いなくても、頻繁に使っている「先送りできない」という言葉は即時の実現に向けた固く信じて屈しない姿勢=不退転の意志を込めて用いているはずである。

 記者会見で用いた「先送り」という言葉を拾ってみた。

 野田首相「復旧・復興のための財源は、次の世代に負担を先送りすることなく、今を生きる世代全体で連帯し、負担を分かち合うことが基本です」(第178回国会野田首相所信表明演説/2011年9月13日)

 野田首相「国民の皆さまにおかれましては、これは、(第3次補正予算財源捻出の)これらの負担を次の世代に先送りをするのではなくて、今を生きる世代全体で連帯して分かち合うことを基本とするという、この私どものまとめた考え方を、是非ともご理解をいただきますようにお願いをしたいというふうに思います。」(野田首相記者会見/2010年9月30日)

 野田首相「グローバル経済の市場の力によって「国家の信用」が厳しく問われる歴史的な事態が進行しています。欧州の危機は広がりを見せており、決して対岸の火事とは言い切れません。今日生まれた子ども一人の背中には、既に700万円を超える借金があります。現役世代がこのまま減り続ければ、一人当たりの負担は増えていくばかりであり、際限のない先送りを続けられる状況にはありません」(第179回国会野田首相所信表明演説/2011年10月28日)

 野田首相「社会保障と税の一体改革、すなわち、社会保障がこれから本当に持続可能なのかどうか、若い世代も不安を持っているわけである。それを支えるための安定した財源を確保していかなければならないということで消費税が位置づけられているが、この問題は、どの内閣でも避けて通ることの出来ない、先送りの出来ない課題である」(野田首相APEC首脳会議内外記者会見/2011年11月13日夕/現地時間)

 そして昨日(2011年12月9日)の臨時国会閉会の記者会見。

 野田首相「これ(消費税増税)は私はどの内閣に於いても、もはや先送りのできない待ったなしの状況だと思っております」(野田首相記者会見/2011年12月9日)

 かくかように各政治課題を「先送りできない」と位置づけて、課題解決に「不退転」の意志を込めてきた。
 
 野田首相は「先送りする」とどうなるかについても発言している・

 野田首相「大震災後も、世界は歩みを止めていません。そして、日本への視線も日に日に厳しく変化しています。日本人の気高い精神を賞賛する声は、この国の「政治」に向けられる厳しい見方にかき消されつつあります。政治が指導力を発揮せず、物事を先送りすることを『日本化する』と表現して、揶揄する海外の論調があります。これまで積み上げてきた『国家の信用』が今、危機に瀕しています」(第178回国会野田首相所信表明演説/2011年9月13日)

 先送りすると国家崩壊を招くばかりか、世界的に「国家の信用」を失うと警鐘を鳴らしている。

 当然、国会答弁でも「先送りできない」を盛んに用いて、自らの不退転意志を機会あるごとに誇示していたはずだ。
 
 菅首相も「先送りは許されない」を盛んに言い募った。野田首相は9月2日(2011年)の就任であったとしても、政権交代等の新規スタートではなく、鳩山元内閣、菅前内閣の政策を引き継いだ政権である。

 いわば前任者の「先送りは許されない」を引き継いだ野田首相の「先送りは許されない」であって、その言葉の実行性に於いて野田首相の任期以上に加速されていなければならない。

 だが、これまでの政治的経過を見れば分かることだが、それを纏めて述べた昨日の《記者会見》からも、先送りできないとする「不退転」が成果を上げているようには見えないばかりか、成果という結果に向けた認識を欠いているとしか見えない。

 成果という結果に向けた認識の欠如は冒頭発言の開口一番、次のように発言しているところに象徴的に表れている。

 野田首相「本日をもって10月20日以来、会期51日間にわたりました臨時国会が閉会をいたしました。今次国会の最大の成果は、東日本大震災からの復興、日本経済の立て直しという、この内閣が必ずやり遂げなければならない課題に大きな一歩を踏み出せたことであります。

 具体的には、既に先日1日の記者会見でご報告をさせていただいたとおり、12兆円を超える規模の第3次補正予算と、その裏付けとなる復興財源確保法が成立をいたしました。その後、会期末までに、法人税を5年間無税とするなど、規制、税制の特例を措置する復興特区法、省庁の縦割りを排してワンストップで対応する復興庁設置法についても、与野党が実務者レベルで建設的な議論を積み上げ、最終的な成案を得ることができました。

 これらにより、被災地の復興を進めていく仕組みがきちんと揃うことができました。力強い復興の実現をスピードアップさせていきたいと考えております。また、大幅に拡充した立地補助金など、3次補正予算に盛り込んだ施策を着実に実行し、円高、空洞化対策を加速をさせていきたいと考えております。本会議や予算委員会を始め、幅広く質疑に対応いたしました」・・・・

 「東日本大震災からの復興、日本経済の立て直しという、この内閣が必ずやり遂げなければならない課題に大きな一歩を踏み出せたこと」が 「今次国会の最大の成果」だと誇っているが、その成果たるや現時点ではあくまでも「課題に大きな一歩を踏み出せた」だけのことであって、「力強い復興の実現をスピードアップさせていきたい」、「3次補正予算に盛り込んだ施策を着実に実行し、円高、空洞化対策を加速をさせていきたい」とは言っているが、これらは現時点ではその実現が未知数の今後の実行課題であって、最終成果にまでは至っていない。

 いわば「今次国会の最大の成果」とすることにさして意味はないばかりか、成果とする対象を間違えているということである。

 国会で成立させた法律のすべてが「最大の成果」であるなら、日本の経済沈下も日本という国の世界に於ける地位の低下も生じることはなかったはずだ。様々に法律を制定し、様々に制度を変えてきたが、「最大の成果」となり得なかったからこそ、矛盾や格差が噴出して、現況に至っている。

 当然、法律や制度を実効ある形で社会に生かす今後の政治作業にこそ、改めて「先送りできない」「不退転」のエネルギーを注ぐ姿勢を見せるべきだが、対象を間違えて「今次国会の最大の成果」だと誇示している時点で既に「政治は結果責任」意識を欠いている証明としかならず、最大限のエネルギーの注入が期待できないとなれば、今後の政治作業の成果までさして期待できないことになる。

 このことは「今次国会の最大の成果」だと言いながら、このことに反して成果とすることができなかった課題が存在し、「最大の成果」を打ち消す形となっているところに表れている。

 勿論、野田首相破綻に列挙しているだけで、生家の打ち消しだとは強く認識していないようだ。

 「国会議員の定数削減を含む選挙制度改革」、「復興財源を捻出する上で重要となる公務員給与削減法案と郵政改革法案」、「非正規雇用の適正化を図る労働者派遣法改正案」等を成果とならなかった例として挙げている。

 「国会議員の定数削減を含む選挙制度改革」と「復興財源を捻出する上で重要となる公務員給与削減法案と郵政改革法案」は復興財源捻出のみを目的としていたわけではなく、消費税増税が国民にのみ負担を強いるのではなく、政治の側にも負担を求めて自ら身を削り、国民から納得を得るための、いわば交換条件と位置づけていたはずで、何よりも「先送りできない」、「不退転の決意」で実現を図らなければならなかった課題であったはずである。

 記者会見で次のように発言している。

 野田首相「(社会保障と税一体改革は)なぜ今なのかを改めて説明をしたいと思います。世界最速の超高齢化社会は、実はこれからが本番であります。団塊の世代の方々が次々と65歳以上となり、制度を支える側から支えられる側になります。かつて、多くが1人の高齢者を支える胴上げだった人口構成は、今や3人で1人を支える騎馬戦型となり、いずれ1人が1人を支える肩車型へと変わってまいります。社会保障のための財政支出は、今のままでも毎年1兆円規模で自然に拡大をしてまいります。同時に、支える側である子育て世代や、若者を支援する、全世代型の社会保障の構築も切実な課題であります。加えて先ほど申し上げた欧州債務危機は、対岸の火事ではありません。日本は財政規律を守る国か、世界と市場が見ています。将来につけを回すばかりでは、国家の信用は守れません。

 こうした状況に対処していくため、何よりも政府の無駄遣いの徹底的な削減と税外収入の確保に懸命に取り組む決意であります。だからこそ、公務員給与削減法案と郵政改革法案を何としても早期に成立をさせたいと考えております。また、公務員宿舎の25%削減を断行するとともに、行政刷新会議の提言型政策仕分けをしっかりと受けとめ、そもそも論に立ち返って行政の効率化を進めていきたいと考えております。さらに、国の特別会計の見直しや、出先機関の原則廃止についても、来年の通常国会での法案提出を目指し、検討を加速をしていくつもりでございます」・・・・・

 まさに先送りできない、不退転の決意を文脈に露わに滲ませた発言となっている。

 だが、先送りを許した。不退転の決意は虚構に過ぎなかった。

 消費税増税問題にしても、私自身は条件付き賛成で、のちの機会にブログ記事にするつもりだが、財政再建は待ったなし、先送りできないとしていながら、党内の反対派を自らのリーダーシップ(=指導力)で纏めることができないでいるばかりか、賛成派と反対派が党内対立を展開している様相すら呈している。 

 今回、一川防衛相と山岡消費者担当相の参院問責決議が可決されたが、適格性に疑問符がつく人物を大臣に任命したのは自らの人事ではなく、党内融和を優先させた、自らの手から離れた人事だったことも原因の一つとなっているはずである。

 閣僚人事は野田首相が自らの政治姿勢だとした「安全運転」の成果でもあった。

 安全運転は自己保身意識に重きを置く姿勢である。自己保身にウエイトを置いた政治家は国民という他者を相手に冒険はできまい。自己保身は他者保身と相対立するからである。

 自己保身者の他者保身は自己保身と利害が一致する他者保身のみを自己保身を目的として図ることになる。

 冒険の不可能性は「不退転」を拒絶する。「先送りできない」を言葉だけのものとする。

 「安全運転」と「不退転」が二律背反することの理由がここにある。 

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