水産庁漁業取締船「おおくに」の北朝鮮漁船=違法操業の予断に基づいた違法な放水が招いた沈没の疑い

2019-10-21 04:48:16 | 政治
 (文飾は当方)

 2019年10月7日朝、能登半島沖の日本の排他的経済水域(EEZ)内「大和堆」(やまとたい)で水産庁漁業取締船「おおくに」と北朝鮮籍漁船が衝突、漁船が沈没した。マスコミ記事を纏めてみる。

10月7日午前8時50分頃、「おおくに」が「大和堆」内にいる北朝鮮漁船を発見、約200メートルの距離まで接近し、並走しながら音声による警告を開始
同   午前9時4分頃、放水開始。直後に漁船が取締船に接近
同   午前9時7分頃、漁船の左舷と取締船の右舷が衝突
同   午前9時27分頃、漁船は沈没

 水産庁漁業取締船「おおくに」は北朝鮮漁船の違法操業を確認したために音声による警告を開始し、無視されたために放水を開始したのだろうか。それとも違法操業しているものとの予断に基づいて、警告と放水を行ったのだろうか。

 なぜこういうことを言うのかというと、日本の排他的経済水域は天然資源(漁業資源、鉱物資源等)の探査、開発、保存及び管理等の特定事項に限定して日本の法令の適用は許されているが、特定事項以外の行動については日本の法令適用は不可能で、外国船の航行は自由となっているからである。

 《国際海事条約における外国船舶に対する管轄権枠組の変遷に関する研究》(国土交通省国土交通政策研究所/2007年7月)

 〈[排他的経済水域]

排他的経済水域(Exclusive Economic Zone(EEZ))とは、領海に接続する水域であって、国連海洋法条約に特別の規定のあるものをいい(国連海洋法条約55条)、基線から200海里まで設定することが認められている(同57条)。

領域主権が及ぶと解されてきた領海とは異なり、排他的経済水域において認められる沿岸国の管轄権の行使は、「機能的な主権・管轄権」とされ、国連海洋法条約における個別規定によって規律される。沿岸国は、天然資源の開発等にかかる主権的権利及び海洋環境の保護及び生物資源の保存・利用等一定の事項に関する管轄権のみを有するが、これら条約に規定された沿岸国の権利を除いては、航行中の船舶に対する管轄権については、公海と同様に扱われる。

 〈航行中の船舶に対する管轄権については、公海と同様に扱われる。〉――つまり違法操業、その他の特定事項に関わる違反行為をしていない限り、航行の自由は保障される。北朝鮮籍漁船の違法操業を確認しない限り、取締はできないはずである。

 立憲民主党長浜博行は安倍晋三の所信表明演説に対する2019年10月8日の代表質問でこの件に関して問い質している。

 長浜博行「また昨日、水産庁は会見で、漁業取締船『おおくに』が大和堆において北朝鮮の漁船と衝突したと説明しています。最近の大和堆周辺水域における漁業取締方針と、今回の衝突事案に関する事実関係の詳細について、政府に伺います」

 安倍晋三「大和堆経済水域に於ける漁業取締方針等の今回の報告事案に関する事実関係についてお尋ねがありました。日本海大和堆周辺の我が国排他的経済水域に於ける北朝鮮魚船等による操業は違法であるのみならず、我が国漁業者の安全操業の妨げにもなっており、極めて問題であると考えております。

 このため我が国漁業者が安全に操業できる状況を確保することを第一に水産庁漁業取締船及び海上保安庁巡視船を重点的に配備し、放水等の厳しい対応によって我が国排他的経済水域から退去させております。

 今回の報告事案については10月7日午前9時7分頃、日本海大和堆の我が国排他的経済水域内に於いて水産庁取締船と北朝鮮籍と見られる船舶が接触し、漁船が沈没しましたが、水産庁取締船が救助に当たり、漁船の乗組員によれば、全員が救助されたとの返答を受けました。

 救助された乗組員については北朝鮮籍と見られる他の漁船に移乗しており、今回沈没した漁船による違法操業等が確認されていないこと等から身柄の拘束といった強制措置は行わず、水産庁取締船が厳重に警告の上、我が国排他的経済水域から退去させております。

 また北朝鮮側に対し、北京の大使館ルートを通じて抗議を行っております。政府としては引き続き、我が国排他的経済水域内の外国漁船による違法操業の防止のため、毅然として対応してまいります」

 「日本海大和堆周辺の我が国排他的経済水域に於ける北朝鮮魚船等による操業は違法である」と言っていることは、操業していなければ、EEZ内での航行は違法ではないとの意味となる。

 「救助された乗組員については北朝鮮籍と見られる他の漁船に移乗しており、今回沈没した漁船による違法操業等が確認されていないこと等から身柄の拘束といった強制措置は行わず、水産庁取締船が厳重に警告の上、我が国排他的経済水域から退去させております」

 船が沈没してしまっていたために違法操業の物的証拠を押さえることができなかった、漁船の乗組員も物的証拠を押さえられる心配がないことから一様に違法操業を否定、結果、違法操業の確認が取れなかったから、「身柄の拘束といった強制措置は行わず、水産庁取締船が厳重に警告の上、我が国排他的経済水域から退去」させたということなのだろうか。

 安倍晋三の「救助された乗組員については北朝鮮籍と見られる他の漁船に移乗しており」の答弁は乗組員が他の北朝鮮漁船に移乗してしまっていたから、違法操業していたのかどうか問い質すことができなかったとの言い草に聞こえる。

 だが、救助に当たったのは水産庁取締船の職員であり、北朝鮮漁船員から、「これで全員」との返答を受けている以上、違法操業の有無を問い質す時間ぐらいはあったはずである。他の漁船への移乗は関係しない。移乗前の救助した段階で違法操業を問い質したのか、問い質したが、全員が否定したのか、その点を抜かしたまま、「違法操業等は確認されなかった」としている。

 しかも他の北朝鮮漁船が近くにいながら、それらの漁船に対する違法操業の有無を確認する立入検査も行わなかった。もしこのことが水産庁漁業取締船「おおくに」側が北朝鮮漁船に対して早々に立ち退きを願う目的の回避行動だったとしたら、放水・衝突・沈没の経緯は「おおくに」側に何らかの過失があった疑いが出てくる。

 立入検査が可能なことは海上保安庁の2019年1月16日のPDF記事、「平成30年の海上犯罪取締りの状況」が証明している。

 〈北海道紋別沖我が国EEZにおけるトーゴ共和国籍船舶による立入検査忌避事件(紋別海上保安部)

 平成30年8月、北海道紋別沖の我が国EEZにおいて、しよう戒中の巡視船が、漂泊中のトーゴ共和国籍船舶(202トン、ロシア人等14名乗組)を発見、立入検査を行うために接近したところ、同船が逃走したため、巡視船により追跡・停船させ、ロシア人船長を排他的経済水域における漁業等に関する主権的権利の行使等に関する法律違反(立入検査忌避)疑いで現行犯逮捕しました。〉

 日本側に何ら過失がなく、と言うことは、違法操業を確認した上での水産庁漁業取締船「おおくに」の放水に対して北朝鮮漁船の方から衝突してきたなら、その場にいた他の漁船に対しても違法操業有無の確認を目的に立入検査は可能なはずである。

 安倍晋三の答弁は今回の事案での放水については直接触れていないが、マスコミ報道と併せると、違法操業の確認前に放水を行ったことになり、この点が日本側の過失に当たる可能性が出てくる。音声による警告は「ここは日本の排他的経済水域に当たる。ここでの漁業の操業は違法であって、禁止されている」程度は許されるはずだ。

 北朝鮮当局は10月12日になって沈没船に対する賠償と再発防止を要求してきたが、違法操業であったか、なかったか、最早確認しようがないことを逆手に取り、違法操業の確認前に放水を行ったことを日本側の過失と看做したそれらの要求だとしたら、北朝鮮側のその要求に正当性を与えることになる。

 2019年10月11日の衆議院予算委員会、午前最後の質疑で国民民主党の岡本充功(みつのり)が北朝鮮漁船沈没案件について質問していて、より詳しい経緯を知ることができる。最初に岡本充功の配布資料から水産庁漁業取締船「おおくに」が救助に当たった際の画像を載せておく。画像文字は当方が挿入。

                   

 岡本充功「水産庁の取締船の話にいきたいと思います。皆さんのお手元に、これまた写真を用意してます。パネルで今回北朝鮮の漁船と思われる船、これが沈没した船を映しています。

 これはそもそも漁船なのか。60人も乗っていたという話です。この上の写真であります。全長が30メートル。30メートルで、集魚灯がある部分が、これで(パネルの船の写真)見ると、十数メートルですよ。真ん中のところ。ここで60人もの人がですね、釣りができるか。釣りをやるんだそうです。

 十数メートルのところで、両側で例えば20メートルだとしても、1人の幅、30センチか40センチですよ。そんなところで釣りをするというのはどう考えても、現実的ではないと思うんですが、この船を漁船だと判断したのは、後ろに漁網がある。

 これだって、盛り上がっているように見えますけど、この網の下に何があるか分かりません。そういう意味でこれが漁船だと判断した根拠は何ですか」

 農水相江藤拓「北朝鮮籍の漁船という認識でこれに対して放水を致しました。これは漁船であるかの判断は難しいというご指摘でありますが、我々は漁船であるという認識のもとに対処したものであります。

 そして目の前で急旋回をしましたので、ぶつかって、沈没しましたので、人命第一ということで救命胴衣、それから救命手を出して、助け出したということであります」

 岡本充功「60人乗ってですね、作業する場所ないですよ、これね、本当に漁船だと判断した理由は何なのかと聞いたわけですよ。これ、他の目的で来たんじゃないんですか。だってイカも干していないし、集魚灯は少ないし、そもそもそんなに人が沢山いる、目的はよく分からない。これを漁船だと判断する根拠は何なのかと聞いているんです」

 江藤拓「委員の仰るようにですね、日本のイカ釣り漁船に比べれば、極めて脆弱な装備だと私も思います。しかし日本の基準とですね、外国の船は当然違って然るべきだと思います。イカ釣り漁船に人が乗っていても、操業中に全員が船舷に並ぶわけでは、日本もありません。船倉の中で作業する人間もいたりですね、操舵員がいたりですね、機関員がいたりですね、色んな人間がいますので、操業中にぜーんいん(全員)がですね、甲板に上がって、操業するということは日本ではありません。

 しかも集魚灯がついている。いうことはですね、我々はやはりこれはイカ釣り漁船であると、いう認識で対処したことは間違いなかったと思っています」

 岡本充功「この問題は結局ですね、この乗組員から聞いていないということですよ。『あなた達、何で来たんですか』ということをやっぱり聞くべきですよ。

 そしてどうしてぶつかったのかを私はきちっと解明するべきだと思います。急旋回したとまだ聞いてもいないことを答えられましたけど、急旋回したなら、それは一体(録画を)見せてくださいよ。これ、偶発的な事故なのか、意図的にぶっつかったのか、これでははっきりしないじゃないですか。(録画を)出すべきなんですよ。これ偶発的なんですか、意図的にぶっつかってきたんですか。どっちなんですか」

 江藤拓「偶発的だったのか、意図的であったのか、それは相手様のことがありますので、我々には判断できません。そしてですね、どうして聞かなかったのかとの話でありますが、海上におった船員に対してですね、我々は色々と聞きました。例えば60名ということでありましたけども、最初は20名ということでありましたね。60名だったわけですが、『これで全員ですか。全員の命を救うことができましたか』という問いには答えました。

 それ以外の問いもしましたが、一切の、その他の問いに対しては全く答えをしてくれないということでありました」

 岡本充功「それはね、正確じゃない、それはもう北朝鮮の船に乗ってから聞いてるんです。『これで全員ですか』

 それは北朝鮮の船に乗ってから聞いている話であって、この北朝鮮の漁民と思われる方から私は聞くチャンスはまだほかにもあったと思います。ちょっと聞きます。このイカ釣り漁船は借りた船だと聞いています。もっと言えば、取締官は1人だと聞いています。

 これ、なぜ放水したのですか。取締官でない人が放水できるんですか。漁船だと考えたのになぜ放水したのか。放水の理由を聞きたいと思います」

 江藤拓「先ずですね、相手の船に移乗してからではなくて、救命艇の上で聞き取りを致しております。それからですね、漁業者とか漁民の思いがあります。この大和堆(やまとたい)というですね、素晴らしい漁場に度々外国の船が入ってきて、漁場を荒らして、そして我々はですね、漁労中、いわゆる網を降ろしたとかですね、そういう作業をしていなくてもですね、いわゆるですね、漁業等付随行為許可を得ずにですね、探索をして、例えば魚群探知機を使って探索をして、そういうときにはですね、最後に付随する探索がありますから、我々は放水するということになっている」

 岡本充功「これ、じゃあ、ちょっと違った角度で聞きましょうか。これ、ぶつかったのは9時7分。沈没したのは9時25分だと海上保安庁は報告しています。これ沈没したのは9時25分なんです。

 これ、沈没したんだから、通報したんですよね。ぶっつかったから、通報したんじゃないですよね。沈没船になったから、通報したんじゃないですか。通報した理由、通報した内容、何だったんですか」

 江藤拓「ご質問に十分に答えられるかと思いますが、一応、私の答え得る範囲でお答え致します。9時7分に接触、14分に『おおくに』から水産庁に連絡、そして海上保安庁にも通報。そして24分に沈没、そしてその6分後の9時30分に私の方に報告があり、そしてそのあとですね、(?)関係を通じて、関係各省、勿論、総理の方にもですね、連絡を入れたというところです」

 岡本充功「海上保安庁、9時25分に通報受けてますね」

 国交相赤羽一嘉「9時25分、えー、9時7分頃、北朝鮮籍と見られる漁船と衝突したということと漁船が沈没したということを連絡を受けました」

 岡本充功「これ、沈没したから通報したんです。24分に沈没して、25分に通報しているんです。ぶつかったのは9時7分ですよ。つまり沈没したから、通報したんです。如何ですか、赤羽大臣。

 じゃ、聞きたい。このエリアで一体どれだけの船が日頃衝突してるんですか。通報するに至らない衝突はほかにもあるんじゃないですか。今回、衝突だけだったら、通報しなかったんじゃないですか。沈没したから、24分に沈没したから、25分に通報したんじゃないですか。

 そういう意味で通報に至らない衝突はどのくらいあるのかということを予め聞いていますから、そのことについてお答え頂きたい」
 
 江藤拓「海上保安庁じゃないでしょうか。海難事故ということなら、海上保安庁が管轄だと承知しております」

 岡本充功「農林水産省水産庁が持つ船が接触をして、海上保安庁に連絡して、海上保安庁が初めて介助するんです。つまり、連絡もせずにしょっちゅうぶっつかっているのかということについて水産庁に聞いたんです。それについての答弁を求めています」

 江藤拓「えー、誠実にご答弁したいと思いますが、通告はございませんでしたので、今はお答えできません」

 岡本充功「何遍もその話はしておりますよ。もっと言ったら、『通告したいから、私の部屋に来てくれ』と言ったら、『これ以上のことは何にも言えないから、通告は結構です』と答えたのは水産庁じゃないですか。ひどい話ですよ。これはハッキリ言っておきましょう。『私の部屋に来てくれ』と何遍も言ったけど、『これ以上のことは何も言えない。だから、通告は結構です』と言ったのは水産庁でしょう。

 ほかの省庁はみんな来ましたよ。名前も私は聞きましたよ。『あなたは誰ですか』

 流石にテレビの前で役人の名前を言うのは忍びないから、言わないけれど、この指示を出したのは、大臣、あなたじゃないですか。それを通告はないなどと言うことですか。
 
 では、次のことを大臣に聞きます。相当程度ぶっつかっている。

 では(パネルの)下の写真でいきます。下の写真、これは水産庁の救難艇が出ています。手前の、横でありますが、まだ水に入っていて、浮き輪ですか、何かに掴まっている方がいる。この向こうが救命艇があります。完全に水から上がっている北朝鮮の漁民と見られる人がいます。この船の上に日本の施政権は及びますか」
 
 外相茂木敏充「国際法上ですが、EEZを持っている沿岸国は、この排他的経済水域、EEZに於きまして生物資源を含み、天然資源の開発、探査、保存及び管理等のための主権的権利、主権的権利を有しております」

 岡本充功「そんなことは聞いていない。私が聞いているのはこの船の上について、この船は救難艇です。この上は、当然、日本の船が出している救難艇です。これ、北朝鮮の船が出している船なら、北朝鮮です。これ、日本の船が出している救難艇です。この上は、当然、日本の主権が及びますよね」

 江藤拓「日本の国有財産であるという部分に於いてですね、仰るとおりだと思います」

 岡本充功「そのとおりなんです。これは散々確認したんです。これは日本の行政権、施政権及ぶんです。その上にいるこの漁民と思われる方になぜ聞かないのか、なぜ尋ねないのか、どうして来たのか、誰が船長なのか、どうしてぶっつかったのか。

 さっき聞きましたように偶発的なのか、意図があったのか、これすら聞かない。今さら聞けないですよ。

 じゃあ、ちょっと聞きます、外務大臣。これ、抗議されたということでありますけども、一体誰に、どういうルートで、北京の外交ルート、報道では出ていますけども、具体的に誰に、どういう抗議をしたのか、(EEZに)入ってきたことを抗議したのか、ぶっつかったことを抗議したのか、それとも何を抗議したのか。そしてさらに言えば、相手は何を言ったのか」

 茂木敏充「先ずですね、外交上の決まった遣り取りにつきましては、当然、控えさせて頂きますが、今回の衝突事案発生後、我が国のEEZ内に於きます北朝鮮籍と見られる漁船の行為を踏まえまして北朝鮮に対して速やかに北京の大使館を通じて厳重に抗議を行ったところであります」

 岡本充功「私が聞いたのは抗議とは何ですか。ぶっつかったことですか。日本のEEZの中で魚群レーダーで探知していたこと、それとも何を抗議したのですか。抗議の内容ぐらい言えるでしょう。そして誰に言ったのか。そして相手方はどういう対処したのか。それぐらい言えるでしょ」

 茂木敏充「あの、冒頭申し上げましたようにですね、外交ルートでは話をしておりますけども、それにつきましては答弁を慎重にさせて頂きますが、大和堆周辺海域に進入してきます外国漁船等の数が大変多い中で北朝鮮籍と見られる漁船に対して退去勧告を行いましたところ、当該船舶が急旋回したことから漁業取締船と接触し、沈没したとの事実関係を踏まえて行ったものです」

 岡本充功「それは何を抗議したのか、さっぱり分からない。悪いですけど、こういう姿勢を取っているから、ナメられるんだと思いますよ。一体、誰にどう何を抗議をして、どういう反応だと、相手に必ず伝わっているという確証はあるんですか。

 伝わっていない可能性はないんですか。誰かを帰しておいて、その人が伝えていなければ、伝わっていないかもしれませんよ。必ず北朝鮮に伝わっているという確証はあるんですか」

 茂木敏充「北京ルートを通じて確実に厳重な抗議を行っております」

 岡本充功「テレビを通じているみなさん、分かると思いますよ。北京ルートを使って、抗議を行った。ルートはもしかしたら、誰か第三者がいるかもしれない。その人が北朝鮮に言わなければ、伝わらないんです。本当に北朝鮮側に伝わったかどうかすら、答えられない。

 じゃあ、北朝鮮側に確実に伝わったと言えるんですか」

 茂木敏充「北京の大使館ルートを通じましてですね、伝わるような形で厳重に抗議を行っております」

 岡本充功「これ以上、なりませんけどね。伝わるような形でって言ってね、伝わったかどうかもはっきりしないじゃないですか。総理にちょって聞きます。この事案についてはいつ総理の耳に入り、総理から具体的にどういう指示を出されたのですか」

 安倍晋三「本事案については発生直後から随時、状況報告を受けたところであります。本事案は海上保安庁及び水産庁が尋問・救助・救出すると共にそれぞれの任務に基づき現場に於いて適切な調査活動等を行ったものであります。

 私が個々の事案の捜査状況等について報告を受け、あるいは指示をすることはありません」

 岡本充功「総理にこの事故の概要が入ったのは何時何分ですか」

 安倍晋三「何時何分だったかということですが、通告、ございませんから。何時何分だったかということは通告ございませんが、発生直後から随時、状況報告を受けたということであります」

 岡本充功「まあ、そういうことになると、発生直後からということですから、北朝鮮の船が現場を離れる前に総理には連絡が入った、そういうことなんですね。もう、北朝鮮の船がどこかへ行っちゃって、見えなくなってから、総理に入ったわけではなくて、まさに現に救助している、その状況で総理はこの事案が発生していたことは承知をしていた。そういう理解でよろしいですか」

 安倍晋三「あの、北朝鮮の船はもう沈没しているわけですから、北朝鮮の船はありませんが、あの、船員が乗っているということですか。救助中だという報告は受けた、ところであります」

 岡本充功「いずれにしても、これを判断するためには動画が必要ですよ。委員長、動画の提出を私は求めたいと思います。水産庁、海上保安庁が持っている、この件に関する動画を当委員会に提出することを求めたいと思います」

安倍晋三「公表についてはですね、官房長官が今日11時の記者会見でお答えさせて頂いておりますが、公表する方向で検討しております」

 岡本充功「是非、全部出して頂きたいと思います。まだ、公表する方向ですから、まだ、されていない。もうされていますか」

 安倍晋三「衝突してですね、採用等の手続きがございますが、その中で今判断しているわけですが、基本的に公表するということで私自身がその方向で検討させているところでございます」

 岡本充功「是非、全部出して頂きたいと思います」

 岡本充功は「これはそもそも漁船なのか」、「ここで60人もの人がですね、釣りができるか」、「これ、他の目的で来たんじゃないんですか。だってイカも干していないし、集魚灯は少ないし」と問い質しているが、官房長官の菅義偉が2019年9月13日の閣議後記者会見で8月23日午前9時半頃、「大和堆」の西側で北朝鮮の海軍のような旗を掲げている高速艇が水産庁巡視船に対して30メートル程の距離にまで接近し、高速艇乗組員1人が小銃を構えて威嚇してきたとする事件が発生しているから、そういった類いの船だとでも思ったのだろうか。

 例えイカ釣り漁船でなかったとしても、安倍政権がイカ釣り漁船だとして、乗組員を釈放してしまい、しかも沈没付近は水深が深く、引き揚げは極めて困難だということからしてイカ釣り漁船だとした事実は変えることはないのだから、ムダな質問に時間を割いていることになる。

 また江藤拓が「海上におった船員に対してですね、我々は色々と聞きました」、「その他の問いに対しては全く答えをしてくれないということでありました」と既に答弁しているのに岡本充功はあとの方で救命艇の「上にいるこの漁民と思われる方になぜ聞かないのか、なぜ尋ねないのか、どうして来たのか、誰が船長なのか、どうしてぶっつかったのか」、衝突は「偶発的なのか、意図があったのか、これすら聞かない。今さら聞けないですよ」などと益もない質問をしている。

 江藤拓は「海上」という場所について、「相手の船に移乗してからではなくて、救命艇の上で聞き取りを致しております」と救命艇での聞き取りであったことを説明しているが、要するに聞き取りによって違法操業であったかどうかの証言を得ることができなかった。

 と言うことは、違法操業の有無の確認前に放水を行っていた事実を示すことになる。

 岡本充功の「これが漁船だと判断した根拠は何ですか」の問いに対して江藤拓が「北朝鮮籍の漁船という認識でこれに対して放水を致しました」と答弁しているが、言っていることの意味に留意せずに、「なぜ放水したのですか。取締官でない人が放水できるんですか。漁船だと考えたのになぜ放水したのか。放水の理由を聞きたいと思います」などと遠回りな質問をしている。

 江藤拓のこの答弁箇所は違法操業をしているか否かの確認をせずに北朝鮮籍の漁船だからという理由で直ちに放水した事実を物語ることになる。そのことが許されるのかどうかを端的に質問すべきだったろう。

 但しあとになって北朝鮮籍の漁船だからという理由で直ちに放水したわけではないことを答弁している。

 「いわゆる網を降ろしたとかですね、そういう作業をしていなくてもですね、いわゆるですね、漁業等付随行為許可を得ずにですね、探索をして、例えば魚群探知機を使って探索をして、そういうときにはですね、最後に付随する探索がありますから、我々は放水するということになっている」
」と言っている。

 要するに網を降ろして作業をしていたわけではないが、魚群探知機を使って魚群を探索していた。それが漁業等付随行為許可を得ない探索だったから、魚群探知機が発する音波を水産庁漁業取締船「おおくに」がキャッチして、放水に至ったということになる。岡本充功も、「日本のEEZの中で魚群レーダーで探知していた」と発言している。

 となると、江藤拓が「北朝鮮籍の漁船という認識でこれに対して放水を致しました」と最初に答弁したことと矛盾するし、安倍晋三が長浜博行の代表質問に対して「今回沈没した漁船による違法操業等が確認されていないこと等から身柄の拘束といった強制措置は行わず、水産庁取締船が厳重に警告の上、我が国排他的経済水域から退去させております」と答弁したこととも矛盾する。

この矛盾を解くには北朝鮮漁船が魚群探知機を使って魚群を探索していたことはキャッチしていたが、実際に漁獲していた現場を目撃していたわけではないし、漁獲した魚を確認したわけではないから、いわば証拠を上げることができずじまいだったから、違法操業だと断定するまでに至らず、止むを得ず無罪放免にしたという経緯を取らなければならない。

但し違法操業であるかどうかを断定する前に、と言うことは、証拠を上げる前に放水が行われていた事実は北朝鮮籍の漁船だから放水した(「北朝鮮籍の漁船という認識でこれに対して放水を致しました」)とした江藤拓が最初の答弁で示した認識と符合することになる。

このような符合は何らかの予断なくして成り立たない。魚群探知機の音波をキャッチするの待つまでもなく、北朝鮮漁船=違法操業との思い込みのもと、実際にほぼ100%、そのとおりなのだろうが、実際に違法操業を確認しないままに北朝鮮漁船と見れば、放水を行っていた予断である。

 とすれば、音声による警告にしても予断に基づいて行われ、放水にバトンタッチするための単なる形式的な手続きとなる。そして放水によってEEZ内から退散させる。北朝鮮漁船を発見すれば、違法操業だと断定する一足飛びの予断は否応もなしに恒常性を持つことになる。

 物的証拠を見つけることができない警察の取り調べで、こいつが犯人に決まっていると予断を持つと、自白を強要させてまでも犯行を認めさせたくなり、一度でも実行し、成功すると、物的証拠を見つけることができない取調べでは自白の強要が恒常化するようにである。

 こういった予断は魚群探知機の音波をキャッチすることやキャッチした音波を記録する作業を往々にして疎かにしたり、後回しにしたり、最悪省いたりしかねない。いわば最初に警告、即放水という状況を作りかねない。

 いずれにしても違法操業を確認する前に警告と放水を行った。だから、安倍晋三が答弁しているように「今回沈没した漁船による違法操業等が確認されていないこと等から身柄の拘束といった強制措置は行わ」なかったという経緯を取ることになった。

この動かしようがない事実はこれまではEEZ内という国民の目が届かない密室で恒常的に行われていたが、今回の事案で北朝鮮漁船が急旋回して「おおくに」と衝突、沈
没した結果、密室状態が破られて、違法性が顔を覗かせることになったと見ることができる。

このことは取締リの映像が公開されたとしても変わりはない。政府は10月18日夜、約13分間の「映像」水産庁HP を公開することになったが、映像は放水直前からスタートして、衝突、沈没、救助を経て、救命艇から他の北朝鮮漁船に移乗し、その漁船が走り去っていくまでの約13分間の映像であって、水産庁は編集はしてないとしているとマスコミは伝えているが、若い男の声で「退去警告に従わないため、撮影を開始する」との声が聞こえて、そして同じ若い男の声で「只今から、放水を開始する」と言ってから衝突まで約3分30秒、衝突から立ち去っていくまでが約9分20秒であって、沈没した北朝鮮漁船を発見した時点からの映像ではない。発見から放水直前の場面が見えない。

 最初にマスコミ報道の時間経緯を伝えたが、発見から放水開始までが14分。放水開始から衝突まで約3分を経て、沈没までが20分。だが、映像は放水開始から衝突まで約3分30秒。船が傾いて、傾いた側の右舷から海水が浸入したのが6分20秒後、右舷を下にしてほぼ沈没した状態になったのが約7分後、その30秒後には完全に沈没。マスコミ報道の放水→沈没の23分から、映像の放水→沈没の7分30秒を引くと、15分30秒の空白が生じる。

 江藤拓が「9時7分に接触、14分に『おおくに』から水産庁に連絡、そして海上保安庁にも通報。そして24分に沈没」と発言している接触→沈没までの17分と比較しても、映像では衝突が映像開始から約3分30秒後、ほぼ完全に沈没が映像開始から約7分20秒後、その間の経過時間は3分20秒で、江藤拓が口にした経過時間とは13分40秒の開きがある。この開きにしても、映像から消えていることになる。

 この事実にしても、水産庁側の何らかの過失を隠す必要性があった隠蔽と疑うことができる。いきなり放水したのか、最初の音声による警告はしたものの、お座なりなもので、直ちに放水に移ったのか、画像からは放水しながらの音声による警告は聞こえているが、放水前の音声による警告は画像には見えてこないし、聞こえもしない。

 以上がマスコミ報道や国会質疑から浮かんできた、北朝鮮漁船=違法操業とする「予断」が違法操業確認を省いた音声による警告と放水の恒常化ではないのかとの疑いだが、政府側はいくらでも情報隠蔽を謀ることができる。

 実際には魚群探知機を使っていたことをキャッチしていただけではなく、網を降ろして作業をしていたことを確認してから、音声を用いてEEZ内からの退去を求めたが、素直に従わなかったために放水に至った。ところが放水にも従わずに急旋回してきて衝突して沈没するという自爆行為を招いた。素直に従っていたなら、たくさんある日常的な光景の一つとして消えていくが、違法操業+衝突してくるという悪質な公務執行妨害を働いた上の沈没は日常的な光景を破って、北朝鮮漁船の悪質さのみを浮き立たせることになり、その公表が北朝鮮当局を刺激した場合、拉致解決で北朝鮮側に接近したい安倍政権にとっては不利な状況として働きかねない。そのことからの穏便な措置として行った違法操業は確認できなかったとする無罪放免という疑いもできる。

 疑いは疑いでしかないが、ときには事実の形を取ることもある。


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