一川防衛相の沖縄認識と野田首相の対一川人事認識

2011-12-03 08:51:54 | Weblog

 11月28日(2011年)――那覇市、田中防衛省沖縄防衛局長と本土・沖縄の報道陣との夜の非公式の懇談会。

 記者「米軍普天間飛行場代替施設建設の環境影響評価(アセスメント)評価書年内提出問題で一川保夫防衛相が『年内に提出できる準備をしている』と言っているのみで、年内提出実施の明言を避けていることはなぜか」(といった言葉遣いをしたのだろうと想像)

 田中防衛局長「犯す前にこれから犯すとは言わない」

 「犯す」とは米軍辺野古基地建設を日本政府による沖縄に対する暴力的侵害・蹂躙だと象徴的に把えた表現ではあるまい。そこまでの意図も認識もなかったろうが、沖縄側からしたら、実態的な象徴に相当すると言えないことはない。

 12月1日(2011年)――参院東日本大震災復興特別委員会。 

 佐藤正久議員「1995年の米兵による少女暴行事件をご存じですか」

 一川防衛相「正確な中身は詳細には知っておりません」

 佐藤正久議員「そんなことで、沖縄の人に寄り添って解決をできる訳がないですよ。大臣の緊張感、ガバナンスが問われている。

 普天間移転が来年の夏までに決まらなかったら固定化すると、審議官級で決まっているとの話まであるが、政治主導はどうなっているのか。

 一川防衛相「決めていないし、承知していない」

 (佐藤正久オフィシャルページ「自衛隊の除染活動の非代替性とは」から。)

 「沖縄タイムズ」の記事では、佐藤議員の「そんなことで、沖縄の人に寄り添って」云々の発言の前に田中防衛局長の不適切発言で、「沖縄の人は皆、暴行事件を思い起こした」の言葉が付け加えられている。

 沖縄の長年に亘る米軍基地過重負担は沖縄に対する暴力的侵害・蹂躙でもあり、その暴力性が凝縮且つ露骨な形で個人に振り向けられた象徴的出来事として少女暴行事件があった。

 一川防衛相は沖縄の米軍基地問題・安全保障問題に関わっている以上、沖縄の戦争と基地負担の歴史を詳細に認識しているべきだった。

 認識していて、初めて沖縄問題に関わる資格を得ることができたはずだ。

 12月2日午前(2011年)――衆院外務委員会。野田首相の一川保夫防衛相に対する監督責任ついて。

 野田首相「政治経験や知見を含め、適材として私が防衛相に選んだ。その気持ちは変わらない。緊張感を持って職務に当たってもらいたい」MSN産経

 野田首相自らが一川防衛相の政治経験と知見に太鼓判を押して防衛大臣としての適材性を保証、自らの人事能力の正当性を、相当に自信があったからなのだろう、安全運転を心がけている割にはその姿勢に反して正面きって主張した。

 12月2日夜(2011年)――田中防衛局長の不適切な発言を謝罪するために沖縄を訪れた一川防衛省が仲井真沖縄県知事と会談。

 《一川防衛相 沖縄県知事に謝罪》NHK NEWS WEB/2011年12月2日 19時31分)

 一川防衛相「心からおわび申し上げたい。私自身、大変なショックを受けたし、県民の心を傷つけた、ゆゆしき出来事であり、まったく不適切で許し難い発言だ。これまで積み上げてきた沖縄との信頼関係を損なう内容をはらんでおり、信頼を回復するのは並大抵のことではないが、県民におわび申し上げながら、引き続き自衛隊・防衛省の任務に理解を頂きたい」

 12月1日の参院東日本大震災復興特別委員会で少女暴行事件について「正確な中身は詳細には知っておりません」と答弁したことについて。

 一川防衛相国会の公式な場で詳細に説明する事案ではないという思いで、ああいう発言になってしまい、おわび申し上げなければならない。

 ただ、アメリカ軍の整理・縮小につながった痛ましい事件だということは十分承知している。私自身、負担軽減を着実に実行できるよう全力投球していきたい」

 仲井真県知事「前局長の発言は県民の尊厳・気持ちを深く傷つけるもので、怒りを覚えるような内容だ。極めて、極めて、遺憾だとしか申し上げようがない。信頼回復に全力を挙げてもらいたいが、かなり厳しいものがある。こういう雰囲気を、ぜひ野田総理大臣にも伝えてもらいたい」

 仲井真知事は余程不快感に襲われていたのだろう、「きょうのところは、これだけにしておきましょう」と言って、8分余りで会談を切り上げたという。

 仲井真県知事(会談後の記者会見)「県民に強い衝撃を与えた大きな事件だったので、そういうものへの認識はきちんと持って頂きたいとしか申し上げようがない。そうした認識を持っているかどうかはご自身の問題だ」・・・・・

 「ご自身の問題だ」とは本人の政治的資質や政治的人格の問題だという意味であろう。

 一川防衛相は田中防衛局長の発言に「私自身、大変なショックを受けた」と言っているが、沖縄が一川防衛相の発言に「大変なショック」を受けていることにまで目を向けることができないでいる。

 「県民の心を傷つけた、ゆゆしき出来事であり、まったく不適切で許し難い発言」だとは一川防衛相の少女暴行事件に関しての「正確な中身は詳細には知っておりません」の発言にそっくりお返しできる批判・憤りとなることに鈍感にも気づいていない。

 問題発言はこのことだけで終わらない。

 国会で少女暴行事件を「正確な中身は詳細には知っておりません」と答弁したことについての釈明として、「国会の公式な場で詳細に説明する事案ではないという思いで、ああいう発言になってしまい、おわび申し上げなければならない」と言っている。

 いわば少女暴行事件について「詳細」に知っていたことになる。「詳細」に知っていたが、「国会の公式な場で詳細に説明する事案ではない」ために、「正確な中身は詳細には知っておりません」という答弁になったと。

 矛盾そのものの論理としか言えない。

 事実、「国会の公式な場で詳細に説明する事案ではない」なら、佐藤議員から質問を受けた国会の場で指摘すべき「国会の公式な場で詳細に説明する事案ではない」であるはずである。

 一川防衛相が仲井真知事との会談で正直に自身の無知を告白し、謝罪していたなら、まだ救われたのではないだろうか。

 また、少女暴行事件が「アメリカ軍の整理・縮小につながった痛ましい事件だということは十分承知している」と発言している。

 確かに那覇市議会が被害者らへの謝罪と基地縮小、日米地位協定の抜本的見直しを求める抗議決議を行ってはいるが、「痛ましい事件」「アメリカ軍の整理・縮小につながった」と政府及び米軍の利害の点からのみ評価している。

 沖縄の基地負担で受けている苦痛・苛立ち・疑問に対する視点がどこにも見当たらない。 
 
 一つ一つの記憶は薄れても精神の底に沈んで溜まった澱(おり)となって残っていて、その総量は私自身も含めた本土の人間の想像を遥かに超える大量のマグマに達しているはずで、不適切な発言一つで、その澱が掻き乱され、記憶を刺激して、激しい怒りや苛立ち、疑問を覚醒させる経緯を取らせた防衛局長の発言や防衛相の態度であったはずだが、一川防衛相からは人間心理への理解を欠いている姿しか浮かんでこない。

 これが野田首相が太鼓判を押した一川防衛相の“政治経験と知見”であり、防衛大臣に任命した野田首相自身の、自ら正当性を主張した人事認識というわけである。

 野党が参院で一川防衛相に対して問責決議案を提出し、それが可決された場合、当然野田首相の任命責任は問われることになる。


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