「msn産経」記事によると、麻生首相が12月1日(08年)夕方、日本経団連の御手洗冨士夫会長、日本商工会議所の岡村正会頭ら財界首脳を官邸に呼んで、「雇用の安定と賃上げに努力してほしい」と平成21年春闘での賃上げと、非正規労働者を始めとする雇用安定化を要請したのに対して、御手洗会長は「雇用の安定には努力する」と応じたと言う。
そう請合った御手洗会長の舌の根が多分100年ぶりの大旱魃並みにカラカラに乾いてしまっていたのだろう、3日後の12月4日、自身が会長を務めるキャノンの子会社大分キヤノンが受入れている請負会社従業員1100人を削減することが明らかになった。
12月5日の「金融・経済・年金・医療」をテーマに集中審議を行った衆院予算委員会でも菅直人民主党代表代行が御手洗会長の「努力」表明に反する子会社の人員整理を麻生首相に問い質している。
麻生首相の答弁――意味もないのに誰々と会ったと面会した者の名前を何人か上げたあと、「その席で、少なくとも企業で決まった内定の取消しっていうのは、如何なものかと。少なくとも、賃上げとは言わんが、少なくとも、雇用安定っちうものに関しては、是非やっていただきたい、等々のお願いをさせていただいたのは確かです。
しかし、現実問題として、その段階で、エーと、昨日でしたか、本日でしたか、大分に関してのお話が、御手洗会長からあったかというのは、その場ではありませんでした」
シラーッとして答え、シラーッとした顔のまま席に着いた。自分のお願いが無効果だったこと、御手洗会長の「努力」表明が「努力」表明となっていなかったことなど何とも思わなかったから、事実の表面的な描写のみで終わらせて席につくことができたのだろう。
麻生太郎は会社経営の経歴を折に触れ誇っているが、会社経営の論理(企業論理)から言えば、「雇用安定」をお願いすること自体が欺瞞行為でしかない。必要なくなったなら、情け容赦なく切るのが経営論理だからだ。
勘繰るなら、麻生太郎はキャノン子会社の人員整理が「雇用安定」をお願いした自分の立場を失って更なる支持率低下を恐れ、裏で手を回した結果、8日の午後3時30分からの御手洗会長の弁明の記者会見となったのではないだろうか。会見の模様は8日夕方7時のNHK「ニュースセブン」が伝えていた。
御手洗会長「雇用を・・・・、減少を、食い止める、努力を、すると、今はこれは経営者として、してですね、当然のことな、あー、わけです。苦渋の、としてぇー、えー、雇用調整と、いうものが行われている。何としても、1日も早くですね、雇用を、オー、景気を浮揚させること、景気回復することによってですね、そのぉー、失われつつある雇用を引き戻すことを、オー、着実にやっていかなきゃならない・・・・」
政治家そっくりの物言いである。大分工場が来年1月にかけて1100人の非正規労働者を削減する問題に関しては。――
「我が社のことにつきましてはですね、ええ、かなり誤解があったようです。しかし、まあ、一企業についての、オー、会見の場ではありませんので、そのことにつきましてですね、ええー、我が社の広報が来ておりますので、広報に後から、アー、十分ざる(ママ)説明を、ですね、聞いて欲しいと思います」
録画を何度戻して聞き直しても、「十分ざる」と言っている。きっと無意識の正直な気持が出てしまったのではないだろうか。
広報部はカメラの前に現れたのかどうか、現れたが、NHKの方でその画面を流さなかったのか、質問されるのを嫌って、ただ単に発表の形にとどめたのか、不明であるが、アナウンサーが次のように伝えていた。
「キヤノンの広報部門は、大分県の子会社がデジタルカメラの生産を減らすことを決めたが、生産を委託した請負会社8社が人員を削減したもので、キヤノン自体が削減したものではないと説明しました。」(NHKインターネット記事を参考)
キャノン子会社は減産の決定はしたが、人員削減は請負会社が行ったもので、キャノン子会社には関係しないとしている。自分たちが削減したわけではないと。
とすると、直接雇用の期間工以外の派遣切りも請負切りもトヨタやホンダ、キャノンといった大企業には責任はなく、すべて人材派遣会社や請負会社の責任と言うことになる。
だが、派遣・請負、期間工、パートといった形式での採用は本来的には雇用調整弁の役目を担わせた雇用制度であり、人員削減に向けた雇用調整に関しては人材派遣会社にとっては必要事項はなく、逆に不必要事項であり、採用側企業に必要事項である以上(不必要事項としたら、雇用調整の本来的な性格を失う)、人員削減に関係なしとすることはできまい。なしとするのは欺瞞以外の何ものでもない。
どう関係しているかキャノン大分子会社に関して具体的に説明するなら、デジタルカメラ減産の決定は請負会社の製造請負量の減量の決定でもあって、当然請負額の減額を伴うものとなり、その通知があったからこそ、請負会社は請負として入っている自社の従業員を請負額減額に見合う人員に調整すべく、削減を行ったということで(そうしなければ、減額分の人件費を請負会社が赤字としてかぶることになる)、それは減産を出発点として採用側の企業も人材派遣会社も予定していた一連の流れとしてある結末であろう。
いわば大分子会社の減産は請負会社の減産でもあるのだから、子会社が仕向け、関与することとなった「人員削減」なのである。
大体が「苦渋の選択」などと意味づけるのは必要なくなったなら情け容赦なく切るという企業自身が抱えている論理に反する、それを誤魔化す詭弁に過ぎない。「苦渋の選択」などではなく、不況となった場合の「予定の選択」とするのが正直な態度であろう。御手洗会長はまさしく「十分ざる説明」によって、説明の不正直を見せてしまったのである。
菅直人も上記衆議院予算委員会の集中審議で派遣や請負に関して一部間違った認識を示していた。不況による雇用調整上の人員削減に関して、
「かつては派遣がこれ程製造業に広がる前は、やはり景気が悪いときがありました。どういうふうにしたか。いいこと、悪いことじゃありませんが、少なくとも派遣が少なくないとき、50代を超えたような方にですね、退職金を1・5倍にしますから、あるいは2倍にしますから、少し早めに退職に応じていただきませんかといったような、ま、つまりはプラスをある部分では提供するから、早めに退職をいただいて、それによって人員縮小するといったことは、各所によってよくやられました。・・・・・」
よく言うよ、と言いたい。かつての期間工・パートにそのような丁寧な扱いはするものか。私がバブル末期に勤めた日立製作所清水工場の期間工は基本的には6ヵ月契約更新であったが、半年でやめられては困るからか、あるいは継続の手間を省くためか、1年契約にできないかうるさく求められたが、私は6ヵ月以後の自由は確保しておきたいために常に半年契約で契約を更新した。それがバブルが弾けた途端、1年契約を求めたのがウソのようにすべての期間工・パートが1ヵ月契約となり、1ヵ月契約の変更を待たないまま、半年とか1年契約が切れた者から解雇されていった。必要な者だけ、1ヵ月契約が更新され、そのうちそれだけでは追いつかなくなって、同じ工場内の子会社や清水工場の正社員に早期退職者を募るようになった。
菅直人が言う「退職金を1・5倍しますから、あるいは2倍にしますから、少し早めに退職に応じていただきませんか」といった待遇はそういった正社員に限った待遇であって、早期退職に応じた場合は退職後の6ヵ月の給与保証、退職金割り増し、プラス現金で200万円の提供が行われた。期間工である私の場合は4年勤めて4万円だったと記憶しているが、1年1万円程度のスズメの涙ほどの退職金を有難くいただいた程度であった。それ以外退職後の給与保証も何もなかった。年齢が50であろうと60であろうと関係なしにである。
期間工が契約切れを待って次々と整理されていく状況にあっても、新聞やテレビで知識人・文化人が「日本の雇用は終身雇用・年功序列の家族的な制度だ」といったことを訳知り顔に解説していた。終身雇用・年功序列を装ったのは正社員に限定した雇用であって、それを可能にしていたのは期間工やパートが担った雇用調整であり、一段低く差別された給与、僅かばかりのボーナス、殆どないに等しい退職金等の低賃金制度であった。
といっても、それを承知で自ら選択した期間工の身分だから、誰に文句を言うつもりもないが、御手洗や元がつくが麻生といった経営者の詭弁と同様、奇麗事を言うだけになる間違った認識だけは勘弁してもらいたい。
≪雇用の調整は苦渋の選択”≫( NHK 「ニュースセブン」 08年12月8日 18時15分)
日本経団連の御手洗会長は、8日の記者会見で、多くの企業が派遣社員など非正規雇用の削減に踏み切っていることについて、「世界的に景気が急激に落ち込んでいるため、苦渋の選択として雇用調整を行っていると思う」としたうえで、景気を回復させることが雇用対策になるという考えを強調しました。
この中で、御手洗会長は、非正規雇用を削減する動きが産業界に広がっていることについて、「世界的な景気の急激な落ち込みによって各社が減産に追い込まれ、苦渋の選択として雇用調整を行っていると思う」と述べました。
そして、御手洗会長は「何とか新しい雇用を創出し、雇用の減少を食い止める努力をするのは、経営者としても当然のことだ」としたうえで、「何としても、一日も早く景気を浮揚させることだ。まず、景気を回復させることで、失われつつある雇用を取り戻すということをやらなければならない。実現までに時間的なずれが生じるので、失業への給付を強化することが重要だ」と述べ、景気を回復させることが雇用の確保につながるという考えを示しました。
ところで、日本経団連の御手洗会長は、みずからが会長を務めるキヤノンの大分県の子会社が、非正規雇用を削減したと報じられていることについて、「わが社のことについては、かなり誤解があったようだが、一企業の会見の場ではないので、広報から十分な説明をさせる」と述べるにとどめました。
これについて、キヤノンの広報部門は、大分県の子会社がデジタルカメラの生産を減らすことを決めたが、生産を委託した請負会社8社が人員を削減したもので、キヤノン自体が削減したものではないと説明しました。
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- Unknown (Unknown)
- 2008-12-10 03:25:31
- こいつは嫌いだけど、マスコミばりの印象操作は寒いから止めてくれ。
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