鳩山前と取り交わした確認書では退陣時期は「第2次補正予算の早期編成のめどをつける」ところまでと、いわゆる菅仮免に“残された仕事”とされた契約を自ら破って、第2次補正を自らの手で成立させること、さらに何ら確認書に条項づけていなかった特例公債法の成立、再生エネルギー法も自分の手で成立させると、退陣時期を3法案の成立までと欲張る延命戦術に出た。
明らかに契約違反でありながら、契約の一方の当事者である鳩山前から何ら異議申し立てがないのはどうしたことなのだろうか。
自らの無能、指導力欠如を省みずにあれもこれも俺の手でやりたいとなったら、意欲だけが旺盛なこと程始末に悪いが、一事不再理を利用して内閣不信任案を封じ込めるためにもそれ相応の会期延長が当然のこと必要となる。
ところが3法案成立だけではなく、岡田幹事長は6月20日、与野党幹事長・書記局長会談で第3次補正予算案の成立も見据えて、6月22日までとしていた通常国会の会期を10月中旬まで約4カ月延長することを提案。《首相、辞任条件に再生エネルギー法成立も 計3条件に》(asahi.com/2011年6月20日21時32分)
岡田幹事長、「そのこと(辞任)と会期の大幅延長は別次元の問題」
どのような確信があってのことなのか、会期延長幅の120日間と退陣時期が連動するわけではない、120日も居座るわけではないとした。だが、岡田個人の保証であって、菅仮免本人が自らの口で保証したわけではない。
石原自民党幹事長「首相の延命に手を貸すつもりはない」
菅本人が辞任時期を明確にしたわけではない。いわば120日間の延命と見た。自分から辞めると言っておきながら、120日も居座ろうなんて、それはないよ、というわけなのだろう。
翌6月21日になって、会期幅50日案が出てきた。岡田幹事長は菅仮免の手で成立までとしていた3法案を残して、第3次補正予算案は新首相の下で議論と譲歩。一旦は民主、自民、公明3党で合意。
同6月21日夜に岡田幹事長と枝野詭弁家が「50日案」を引っさげて首相公邸に乗り込んだ(?)。だが、「50日案」は菅仮免によってあっさりと覆され、70日なら受入れると条件提示。
さらに第3次補正予算案は「新首相の下で議論」が菅仮免の意向で「新体制の下で」に変更。ほんの少しの文面に拘って訂正させたのはそこに抜け道を見い出して埋め込んだからだろう。
《「『3次補正は新体制が対応』はトリック」 西岡参院議長》(MSN産経/2011.6.22 11:55)
6月22日午前の記者会見。
西岡武夫参院議長「『新体制』というのには、トリックがある。大幅な内閣改造をやっても、それを新体制と呼ぶ。そういう、ごまかしの政治はよくない。もう、この政権はいい加減にしてもらいたい。党の執行部も、参議院を外して何を考えているのか。首相が、何月何日までに辞めますといわなければ、延長は国会として受けられない状況だ」
要するに文面にたいして違いはないように見えるが、「新首相の下で」は完全に菅仮免を排除することになる。「新体制の下で」とすることで自分が首相として居残ることに可能性を残した。
なかなかの策士であるということだけではない。指導力や政権運営に必要とされる能力発揮は期待外れに終わっていることに反して政権にしがみつこうとする執着能力は優れて粘り強いものがあり、誰憚ることなく如何なく発揮している。
菅仮免自身が会期延長70日以後も首相職に可能性を残している以上、岡田幹事長が言っていた「そのこと(辞任)と会期の大幅延長は別次元の問題」は甘すぎる認識だったことになる。
《首相の粘り勝ち 根負けした岡田氏 面罵された仙谷氏「ナントカに刃物…」》(MSN産経/2011.6.22 01:16)が、会期延長幅が迷走して終着するまでの与野党対応の内幕を伝えている。
記事冒頭は、〈最後は菅直人首相の粘り勝ちだった。〉と書いている。
リンクをつけておいたから、詳しい内容は直接記事に当って貰うとして、次ぎの件(くだり)が興味を引いた。
6月20日夜の政府・民主党首脳会合でのこと。
菅仮免(仙谷官房副長官に対して)「オレを追い落とそうとしているのか!」
記事はこの発言を以って「面罵」と形容している。
このことがあって、翌6月21日、首相執務室に岡田幹事長や輿石東参院議員会長らが入れ代わり立ち代わり足を運んだが、仙谷官房副の姿はなかったという。
仙谷官房副「ナントカに刃物だな…」
こう周囲に漏らしたという。
仙谷は一時期菅首相を退陣させて自公と大連立を組む構想を与野党の主だったところと話し合い、野田財務相を念頭に置いた後継首相選びを始動させている。
一度は見限った菅仮免に「オレを追い落とそうとしているのか!」と面罵されて、その場で有効な反論を試みることはできなかったのだろう、このことは翌日首相執務室に顔を出さず、周囲に「ナントカに刃物だな…」とこぼすしかない太刀打ちできなかった状況が証明している。
「お前さんが首相でいる限り、前へ進まないんだよ。自分では進んでいると思っているだろうが、実際は進み方が遅いんだ」ぐらいのことは言えなかったのだろうか。
だとしても、「ナントカに刃物だな…」と形容する以上、菅仮免は相当にヒステリックに怒り狂っていたことになる。
ヒステリックに怒り狂う程にも退陣を“追い落とし”と受け止めていることになる。あるいは“追い落とし”だと認識しているということになる。いわば不当な要求だと看做して抵抗を露にしている。
仙谷が一時菅仮免の退陣に動いたことが“追い落とし”と看做すキッカケとなったのかもしれないが、確認書で自身の退陣と引き替えに不信任案可決回避を取引して、代議士会で「一定のメドがついたら若い世代に責任を引き継いでもらいたい」と退陣表明し、そのことが発端となった今回の退陣騒動であり、「一定のメド」は確認書に謳った「第2次補正予算の早期編成のめどをつける」ところまでとしなければならないが、それを無視して「一定のメド」をいつにするかの条件闘争に移っているとしても、会期延長も法案提出もすべては確認書で約束し、代議士会で自身が言い出した退陣が前提となっている。
いわば今回の退陣騒動に限って言うと、自分が撒いた種が芽を出して姿を現した退陣である
このことを動かし難い事実としているのは衆参のねじれが生んだ、国会運営上一方的には無視できない野党との関係力学であろう。
これも自身が撒いた種である。
そして震災対応・原発事故対応の拙劣さ、遅滞が逆に証明することになった指導力や判断能力、指示命令の機能不全といった能力欠如も自身が撒いた種であろう。
これらの撒いた種は参議院で優位に立っている野党との関係力学という名の畑でそれぞれ芽を出した。
いわば「一定のメド」は菅仮免側の都合だけで決めていい事柄ではなく、野党は野党としての立場上、菅仮免を追い落とす意図を持っているだろうが、あくまでも野党との関係を絡めた中で決めていかなければならない退陣となっている。
例え菅仮免の近くに位置する幹部から“追い落とし”が仕掛けられたとしても、自身が撒いた様々な種がすべて関係して構成することとなっている野党との関係力学の全体であり、“追い落とし”の策動を党内、あるいは閣内から受けたとしても決して文句は言えない状況にあったはずだ。
いい例が支持率を獲得できない首相は衆議院、参議院、どちらの選挙が近づいても、これでは選挙が戦えないと追い落としに遭うことになる。
有能であったなら、撒く種は違った種類のものとなり、出す芽も違ったものとなっていたはずだ。参院選敗北もなく、当然ねじれ国会という芽も吹き出すことはなかった。当然、今回の退陣騒動もなかった。
だが、まともに判断できるだけの合理的判断能力を欠いているために自身が種を撒いて、今日の退陣騒動があることにサラサラ気づいていないから、自身を一方的に善の存在とし、相手を一方的に悪とする、“追い落とし”を不当とする意識を働かせて、「オレを追い落とそうとしているのか!」という怒り狂った発言となる。
この発言から窺うことができるもう一つの事実は、多くが既に承知していることだが、確認書を最初から守るつもりはなかったという事実であろう。確認書の違約だけでも追い落としを受けても仕方のない重大な違反事項である。そのことを少しで自覚していたなら、後ろめたさが働き、「オレを追い落とそうとしているのか!」といったきつい言葉は決して出てこなかったろう。
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