――安倍晋三が高市早苗の責任を問わないのは自らの任命責任に対して免罪したことになる――
自民党が今夏の参院選に向けて公約を謳った《自民党参院選公約2013》には原子力の再稼働について次のように公約している。
〈原子力発電所の安全性については、原子力規制委員会の専門的判断に委ねます。その上で、国が責任を持って、安全と判断された原発の再稼働については、地元自治体の理解が得られるよう最大限の努力をいたします。〉――
「原子力発電所の安全性については、原子力規制委員会の専門的判断に委ねます」は自民党・公明党も協力して民主党政権下の2012年6月15日衆議院可決、同年6月20日参議院可決、同年6月27日公布の原子力規制委員会設置法によって発足させた原子力規制委員会なのだから、当然のことである。
「原子力規制委員会設置法」の目的もこれまでの経産省が「原子力利用の推進及び規制の両方の機能を担うことにより生ずる」弊害の除去を目的に規制の機能を独立させ、原子力の安全利用確保の施策と事務を一元的に司って、「以って国民の生命、健康及び財産の保護、環境の保全並びに我が国の安全保障に資することを目的とする」と謳っている以上、安倍内閣が原子力発電所の安全性について原子力規制委員会の専門的判断に委ねないとしたら、「原子力規制委員会設置法」を設けた理由を失うし、原子力規制委員会そのもの存在理由も失う。
問題は、「国が責任を持って、安全と判断された原発の再稼働については、地元自治体の理解が得られるよう最大限の努力をいたします」と言っている「原発の再稼働」についての参議院選挙公約である。
自民党の参議院選挙公約取り纏めの責任者は、あの国家主義者高市早苗政調会長である。政調会長(政務調査会長)とは自民党に於いては政策や立法の立案をする政務調査会の長だから、当然の役目だが、高市早苗は6月18日の衆院本会議場に公約、総合政策集の原案が入った分厚いファイルを持ち込み、議事進行中も赤ペンを握りしめて添削を行っていたと、《自民公約、高市カラー前面 本会議場でも赤ペン ぎりぎりまで修正》(MSN産経/2013.6.20 21:08)が伝えている。
但し記事は公約取り纏めで「高市カラー」が色濃く出た例として、政府の成長戦略に盛り込まれた女性の就業率(25~44歳)を現状の68%から平成32年に73%とする数値目標の記載が参院選公約に盛り込まれていなかって点に置いている。
参院選公約には、「社会のあらゆる分野で2020年までに指導的地位に女性が占める割合を30%以上とする目標を、確実に達成します」は謳っているが、女性の就業率の目標達成率は記事が伝えているように書き入れてはいない。
記事は、〈高市氏は20日の公約発表記者会見で「『就業継続に向けた環境整備』という記述に盛り込んだつもりだ」と説明したが、女性の社会進出をめぐる数値目標に慎重な「高市カラー」がにじみ出たといえそうだ。〉と解説している。
だとしても、自民党参議院選挙公約取り纏めの責任者は高市早苗であることに変りはない。
高市早苗が参院選公約を赤ペンで添削を行なっていたのは 6月18日の衆院本会議場である。だが、その4日前の6月14日に高市早苗は首相官邸で安倍晋三と面会、参院選公約の最終案の了承を得ている。
《自民公約最終案を首相が了承 96条改正の意義強調》(MSN産経/2013.6.14 21:13)
〈安倍晋三首相は14日、自民党の高市早苗政調会長と官邸で面会し、自民党の参院選公約の最終案を了承した。〉云々。
ここでは憲法改正の問題は脇に置く。
高市早苗は6月14日に最終案の了承を得ながら、発表に当って、なお、赤ペンを入れていたのだろう。
それ程にも公約取り纏めに強い思い入れを持って主体的に深く関わっていた。
また、そうできるのも、安倍晋三と相互に信頼し合う近い関係にあるからだろう。そうでなければ、政策、あるいは党幹部や閣僚に用いられずに人事の点で相反する利害関係にある党内実力者等から反発や口出しを受けて、主体的に取り組む妨げとなりかねない。近い関係にあることが反発や口出しに対する防壁足り得る。
高市早苗は最終的には参院選公約を他の関与を排して強い思い入れを持って取り纏めた。
だからこそ、上記「MSN産経」記事が伝えているように政府の成長戦略に盛り込んだ女性の就業率の目標達成率を自身の主張に添って参院選公約から排除できた。
となると、高市早苗は6月17日の神戸市での講演で、「原発事故によって死亡者が出ている状況ではない。安全性を最大限確保しながら活用するしかない」と発言、原発事故による直接的な死者が出ていなければ、原発事故関連死者が出ていても無視、と言うことは、直接的な死者さえ出なければ、事故は起きても構わないと許容していることになるのだが(事故なくして出来しない原発関連死者の無視は事故そのものをその程度だと無視したことに当たる)、そのような立派な認識に立って原発の活用を主張していたということは、高市早苗の「原発事故で死亡者が出ている状況ではない」の意思が入った原発再稼働参院選公約ということになる。
勿論、市早苗は自身の発言を撤回し、陳謝している。多方面から批判され、物議を醸したからからであるが、例え発言を撤回しても、高市早苗の意思が入った参院選公約の原発再稼働であることに変りはない。
そのような参院選公約とした原発再稼働を許すことができるだろうか。何も問題にせずに済ますことができるだろうか。
安倍晋三はご立派にも高市早苗の発言を問題視しないことにした。《高市氏、発言撤回し陳謝=安倍首相「職務しっかり務めよ」》(時事ドットコム/2013/06/19-19:55)
6月19日党本部記者会見。
高市早苗「エネルギー政策に関する全ての発言を撤回する。大変悔しい、腹立たしい思いをされた方々に対して心からおわびを申し上げる」――
発言を撤回しても、そのような認識で原発問題に関わっていたことが問題であり、簡単には撤回できない認識であるはずである。
安倍晋三(外遊先から菅官房長官に電話)「今後発言に注意し、政調会長の職務はこれからもしっかり務めてほしいと高市さんに伝えて欲しい」(解説文を一部会話体に直す)
その後菅官房長官が高市早苗に電話し、安倍晋三の意思を伝える。
菅官房長官(午後の記者会見)「安倍内閣としては全閣僚が復興大臣であるとの認識の下に、政府一丸となって被災地の皆さんに思いを寄せて全力で復興に当たりたい」――
この発言には安倍内閣の閣僚と党役員を分けて扱おうとするゴマ化しがある。「全閣僚が復興大臣であるとの認識」に立っているとすることで、閣僚外の高市早苗の発言を問題外とし、沈静化しようとする意思を働かせている。
だが、高市早苗は政策づくりに深く関与しているのである。党役員も「復興大臣であるとの認識の下に」、「一丸となって被災地の皆さんに思いを寄せて全力で復興に当た」らなければならないはずだ。
だが、高市早苗は違った「思いを寄せて」いた。
尤も菅官房長官が「全閣僚が復興大臣であるとの認識の下に」云々とわざわざそう言わなければならないということは、関係閣僚以外はタテマエで終わらせているからであって、だからこそ、いつも使っている紋切り型の事勿れな常套句を繰返さなければならないことになる。
もしタテマエではなく、言葉が実体を備えていたなら、「全力で復興に当たりたい」と願望体とせずに、全閣僚政府一丸となって「全力で復興に当たっています」と進行形の形で言い切ることができたはずだ。
但し言質を取られることになり、何かの際に追及を受ける恐れ出てくる。
いずれにしても高市早苗は「原発事故で死亡者が出ている状況ではない」からと、原発関連死者を無視することで直接的な死者が出ない事故が起きることを許容して原発再稼働の参院選公約をつくった。
そのような党役員の進退を安倍晋三は何ら問わずに免罪し、免罪することで自身の任命責任をも免罪した。
いわば安倍晋三にとっては許容範囲の高市早苗の「原発事故で死亡者が出ている状況ではない」の認識であった。
と言うことは、安倍晋三にしても高市早苗と同じ認識に立つことができるということになる。
参議院予算委員会の石井一予算委員長が自民党の反対にも関わらず、職権で来週24日に集中審議を行うことを決めた。この問題について当然、野党は追及することになるだろう。安倍晋三の任命責任を問題にしてもいい高市早苗の発言であり、その発言に対する許容態度である。
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