「asahi.com」や「毎日jp」、「YOMIURI ONLINE」、「msn産経」等を参考に今回起きた8病院による妊婦受入れ拒否が招いた治療遅れによる死亡事故のあらましを振返ってみると――
江東区の出産間近の36歳の妊婦が4日夕自宅で下痢や嘔吐、頭痛を訴え、救急車でかかりつけの同区内の産婦人科医院・五の橋産婦人科に運ばれた。かかりつけ医は脳内出血の疑いがあると診断し、午後7時ごろ、リスクの高い妊婦に対応する「総合周産期母子医療センター」に登録22病院の一つに指定されている墨東病院に治療受け入れを依頼。墨東病院は昨年末に産科の常勤医1人、今年6月に研修医1人が退職し、医師が計6人となっていたため、「24時間体制で産科医を2人以上確保するのが望ましい」とする「センター」設置基準に反して7月から土日と祝日のセンターの当直医を本来の2人から1人に減らし、そのことを理由に救急搬送の受入れ不可能を通知。
墨東病院はその後「総合周産期母子医療センター」に拠点病院として登録の都内の22病院をネットワークで結ぶ専用端末で受入れ可能病院を検索、受入れ可能を示す「○」表示の出ている日赤医療センター(渋谷区)、東京慈恵医大病院(港区)、慶応大病院(新宿区)を五の橋産婦人科に連絡。
五の橋産婦人科が直接連絡を取るが、いずれの病院も検索システムが受入れ可能の「○」を表示していながら、「別の救急患者の対応に追われていたうえ、母体胎児集中治療室が満床だった」(日赤)、「新生児集中治療室が満床だった」(慈恵医大)、「2人の産科医が出産対応に追われ、満床だった」(順天堂大病院)などと受入れを拒否。
「総合周産期母子医療センター」として登録されてはいないがネットワークに参加しているという東大病院も受入れを拒否し、最終的に受入れ拒否病院は8病院にのぼったという。
五の橋産婦人科が、多分藁にも縋る思いでだったろう、墨東病院に再度受入れを要請、許可を受けて搬送したが、墨東病院に搬送されるま1時間20分かかり墨東病院に到着時には妊婦は既に意識不明に陥っていて、胎児を無事出産したものの、母親は脳内出血の手術を受けたが死亡。
対して東京都の石原晋太郎知事は昨23日、都庁で報道陣に対し「医者は一生懸命やっている。みんな命懸けでやっているんだから、そういう事情も配慮して、すべてを否定するみたいな報道をしてもらいたくない」、「墨東病院を弁護するつもりじゃないが、臨月の女性が脳出血を同時に起こしたという大変な事態で、めったにないケースが起こった」(「日刊スポーツ」)といったことを述べたと言う。
確かに日本の医者は怠け者ばかりの日本の政治家・官僚と違って「一生懸命やっている」だろう。日本の政治家・官僚と違って「みんな命懸けでやっている」と言えるかもしれない。
「臨月の女性が脳出血を同時に起こしたという大変な事態で、めったにないケース」なら、そういった「めったにないケース」に滞りなく対応できるよう、そういったことのために危機管理体制として現在準備してある「総合周産期母子医療センター」が「センター」として満足に機能するよう常に点検・整備しておくべきことが危機管理というものではないだろうか。
点検・整備を怠った大型トラックに荷物を満載して高速道路を走らせ、整備不良からくる大事故を起こして人を死なせてしまうのと同じ危機管理不全が医療現場で起きたのである。
「めったにないケース」だと言う前に人一人を死なせた事実は残るのだから、危機管理体制が満足に機能したかどうかを検証すべきだろうが、そんな頭は石原慎太郎にはないようだ。
治療体制まで含めた準備してある危機管理体制が準備どおりに滞りなく機能して初めて“危機”に対して手を尽くせたと言えるのであって、それでも生命(いのち)が救うことができなかったとき、不可抗力だと言える。
しかし現実には準備してある危機管理体制が準備どおりには機能しなかった。先ず最初に受入れを求められた都立墨東病院は「総合周産期母子医療センター」の拠点病院に自らを位置づけて置きながら、当直医師を2人配置しておくべき設置基準に反して退職による産科医不足を原因に1人しか置かず、そのことを理由に緊急患者受入れを拒否する危機管理不全を放置していた。
勿論、墨東病院は産科の常勤医1人が昨年末に退職してから約10ヶ月間、研修医1人が今年6月に退職してから約4ヶ月間、新たな医師獲得・補充に手をこまねいていたわけではないだろう。最大限の努力を払っていたに違いない。産科医不足は全国的に長期に亘る状況としてあるもので補充は容易ではないことが原因となっていた7月からの土日・祝日のセンター当直医1人減であろう。
だが、医師不足によって「総合周産期母子医療センター」としての組織の体裁をなさなくなった以上、万が一の危機に対応できない場合に備えて人員補充が済むまで、いわば土日・祝日のセンター当直医2人勤務が可能となるまで、「総合周産期母子医療センター」の看板を外し、そのことをすべての都民及び他のすべての病院に徹底周知すべきが自らの拠点病院としての立場と患者生命に対する危機管理というものであったが、そういった危機管理を行うだけの意識に欠けていた。
第二に「総合周産期母子医療センター」同士をネットワークでつなぐ妊婦の受入れ状況検索システムは1日2回以上の更新を義務付けているのみで、1日2回のみでも許されるリアルタイムの更新とはなっていない非実際的運用が医療現場では受入れ不可能でありながら、検索システム上は受入れ可能の表示となっているといったズレを生じせしめる患者受入れに即応できない危機管理不全にあった。
災害を想定した危機管理に於ける“危機”とは、それを放置しておくと最悪生命が脅かされる状況を言うはずである。
そこから起こり得る様々な危機の状況を予測し、その危機によって生じかねない生命の危険を最小限に防ぐべく備える、あるいは発生してしまった危機に対して人的・物的・精神的被害を最小限にとどめる組織的対応として“危機管理”の思想が構築され、それらを組織的に制度化したものが危機管理体制であろう。
「総合周産期母子医療センター」もそのような危機管理体制の一つであるはずである。満足に機能しないでは何のための危機管理体制か意味を失う。
病院・医師は患者の命を預かる。預かる以上、その生命が脅かされることのない万全の危機管理体制を国や地方自治体といった行政と一体となって構築しなければならない責任を負う。
その責任を果たせないとき、危機管理を怠ったこととなり、危機管理不全状態に陥る。
産科医不足、小児科医不足等自体がそのことによって患者の生命が脅かされる危険を孕むゆえに“危機”そのものを意味する。そうであるのに国・地方共に産婦人科医師不足だけではなく、小児科医師不足等を全国に亘って長い期間放置してきた。特に国――自公政権の医療に於ける危機管理体制の構築がなっていなかったということだろう。機能的な運営を必要条件とするだけではなく、危機管理に必要な人員・スタッフが十分に補充可能な状態になければ、危機管理体制は単なるハコモノで終わる。
国は医師不足を国民生命に対する重大な“危機”だと把えていないのではないか。把えるだけの創造力を欠いていたのではないのか。一向に医師不足が解決を見ない問題として横たっている上に医療上の危機管理体制が満足に機能しないのだから、そう思われても仕方があるまい。
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都立病院の医師の給料は安いし、激務だし、トップの石原知事は現場を知らないしで、現場は青息吐息、過労死間近だそうです。
今回の騒動で、虎の子の研修医が心労で辞めてしまわないか心配です。下手に断った後でたとえ状況が変わっても引受けるものではないのですねぇ。
そうそう、経団連は医療を自由経済にしたくて仕方がないそうですよ。キャノンの会長が公言してて居るそうな。
医者は医者としての仕事をすれば良く体制の構築は行政の役割です。因みに転院先へ電話を掛けるのも医者がやります。事務でも出来ますがね。
都立病院には大きな役割は無理でしょう。事務員、ナースが全く働きませんからね。公立病院を徹底的に集約して高コスト体質を改めない限りこの様な状態は改善されないでしょう。今の医療問題は高コストの公務員問題ともいえそうです。