安倍晋三の教育無償化:幼児対象は保育の受け皿整備優先 高等教育無償化は全面的給付型奨学金で片付く

2017-12-12 12:13:29 | 政治

 12月10日(2017年)放送のNHK「日曜討論」が安倍晋三の新経済政策を取り上げた「“新政策パッケージ” 経済再生の道筋は」を見たが、気づいたことがあって、大変に参考になった。

 出演者は内閣府特命担当大臣(経済財政政策)茂木敏充、大和総研のチーフエコノミスト熊谷亮丸(くまがい・みつまる)、BNPパリバ証券経済調査本部長・チーフエコノミスト河野龍太郎、教育経済学者・ 慶応義塾大学総合政策学部准教授中室牧子。

 司会島田敏男と牛田茉友(まゆ)

 先ず「人づくり革命」の礎とする「幼児教育・保育の無償化」について上記ページは次のように解説している。(文意は変えず、簡潔な文章に直す)

幼児教育・保育無償化の対象
▼0歳から2歳までは住民税が非課税の世帯
▼3歳から5歳までは所得にかかわらず一律

無償化の施設
認可保育所や認定こども園、幼稚園。
ただ、幼稚園については、保育料が高額な私立幼稚園もあることから、支援額に上限を設ける
認可外の保育施設などについては、無償化の範囲を来年の夏までに結論を出す

待機児童の解消
2020年度末までに、32万人分の保育の受け皿を整備するほか、保育士の処遇改善にも取り組む。

 発言の主なところを拾ってみる。

 茂木敏充「日本が直面する最大の課題、少子化対策、人口減少の状況下でも一人ひとりが活躍できる社会をつくっていく。教育の無償化で20代、30代に対して教育の負担を減らしていく。人材が少しでもその人材の付加価値が上がっていくと、生産性が上がっていくような側面性――人づくり革命、生産性革命、少子化対応していく上での車の両輪となる。

 少子化対策、20代、30代の若い女性が理想の子供の数を持たない理由が一番、子育てや教育にカネがかかり過ぎる。この子育て世代の負担を減らすことが第一目的。

 小さいときから子どもの潜在能力を引き出して、将来活躍できる筋をつくる。様々な研究で根気強さや意欲、社会性など、非認知能力が幼児教育の段階で身についてくる。

 大人になってからの活躍のためにも大きな能力を与える。人生100年時代だからこそ、幼児教育の重要性ある。

 日本の成長力との関係、かつてイギリスのトニー・ブレアが『7歳の子どもの読書力で20年後のイギリスの成長力・国力が決まる』。そんなことを言っていた。日本も少子化が進むことで、幼児教育の段階から投資をする。生産性も上がっていくと考えている」

 河野龍太郎「日本の社会保障制度は日本の実情にそぐわなくなっている。変更すべきだ。3つの点、方向性としては賛成だが、付け焼き刃の感がある。費用対効果が検証されていない。

 目玉は3歳から5歳まで一律無償化と言うと、低所得者向けはかなり措置がされている。誰が一番メリットを受けるのか。カネのある方、我が国の財政に所得者の高い方をサポートするゆとりがあるのか。

 待機児童対策を優先させるべきではないか」

 茂木敏充「9割が幼稚園・保育園に通っている。これを全世帯対象に無償化する。全体を見ると、低所得者に厚い政策となっている。少子化対策の中で保育の受け皿を整備するのが重要。

 これらは思い切って前倒しする。来年度から始め、無償化の方は財源が必要で、消費税を使うから、再来年度行う。2019年から一部スタート。20年にフルスペックで行う」

 熊谷亮丸「全面的に賛成ではないが、大筋では賛成。幼児教育とか保育とか、重点的に投資するのは非常に効率いい投資。二つの側面があって、このことによって個人・子どもにプラスの影響が出てくる。人格というのは幼児期につくられる。社会的に見たとき、貧困格差がなくなったり、犯罪率が落ちる。あるいは投票率が上がる。プラスの効果が出てくる。

 諸外国で見て、1ドル教育とか幼児期の投資を行うと、将来的にはそれが7倍となって返ってくる。そういう研究結果がある。もしくはOECDの10カ国で見ると、教育投資をやると、75年後にその国のGDP36%出るというような結果がある。

 内訳で待機児童の解消に使うか、保育の質に使うか色んな議論があるが、大筋に於いて正しい政策だと思う」

 中室牧子「2つの点で高く評価ができる。全世代型の社会保障ということで、より若年の人に積極的に投資ができる。これは間違いなく必要なこと。教育段階別に見ると、就学前の投資は将来的に見たとき、子どもたちの収入だとか能力を高める効果があることを示している研究が少なくある。

 他の教育段階に比べると、就学前に投資をしていくのは悪くないアイデア。注意点は就学前に投資をするということが幼稚園や保育園の無償化であるべきなのかと言うことに関しては非常に慎重に考えなければならない。

 アメリカの研究が明らかにしていることは貧困世帯の子どもたちに質の高い就学前教育を行うと、その子どもたちの収入や健康状態、幸福感が高まる言うことが示されているのであって、無償化とは全く別の議論。

 今の無償化は応能負担となっている家庭にとってみれば、所得の高い人への所得移転になるということがあるので、財政状況の厳しい中で、それを喫緊の課題とすべきかどうかは議論があるかと思う」

 茂木敏充が幼児教育無償化にいいこと尽くめを言うのは当然だが、茂木敏充にしても熊谷亮丸にしても、幼児教育無償化が人格形成や非認知能力形成と必ずしも結びつくとは限らないことを無視していいこと尽くめの中に入れている。

 例えば茂木敏充は潜在能力を引き出すだ、「根気強さや意欲、社会性など、非認知能力が幼児教育の段階で身についてくる」だと言い、熊谷亮丸は人格形成の利点や、貧困格差解消の効能、犯罪率低下、GDPへの貢献まで言い立てている。

 一方、河野龍太郎は「低所得者向けはかなり措置がされている」結果、無償化で高所得者がメリットを受ける点を批判し、中室牧子は子どもたちの将来的な収入や健康状態、幸福感形成に寄与する質の高い就学前教育と無償化とは別の議論であって、幼児教育費が応能負担となっている家庭からみると、所得の高い人への所得移転になると批判している。

 河野龍太郎が言っている「低所得者向け措置」と中室牧子が言っている「幼児教育費の応能負担」について見てみる。茂木敏充が「9割が幼稚園・保育園に通っている」と言っているが、何年の9月16日なのか分からないが、「WG厚生労働省提出資料」と記されている「保育園と幼稚園の年齢別利用者数及び割合」のPDF記事によると、該当年齢人口に対する年齢別の保育園・幼稚園の通園者数と未通園者数は次のようになっている。    

 保育園の数値は平成26年4月1日現在)の認可保育園の数。幼稚園の数値は平成26年5月1日現在とある(未就園児は推計)。

 0歳児 保育園11.9万人(12%)               未就園児92.3万人(88%)
 1歳児 保育園33.3万人(32%)               未就園児70.8万人(68%)
 2歳児 保育園40.5万人(38%)               未就園児66.1万人(62%)
 3歳児 保育園46.8万人(45%) 幼稚園44.2万人(42%) 未就園児13.4万人(13%)
 4歳児 保育園47.2万人(45%) 幼稚園54.1万人(52%) 未就園児 3.1万人( 3%)
 5歳児 保育園46.8万人(44%) 幼稚園57.6万人(54%) 未就園児 2.9万人( 2%)
 
 2017年の待機児童数は2万6081人だそうだから、4歳から5歳までの未就園児の殆どを待機児童が占めていると見て間違いないと思う。0際、1歳は家庭で見るケースが多く、3歳となるとそれが減少しているということなのだろうか。

 上記数字からは3歳児から5歳児まで97~98%の幼児が幼稚園・保育園に通っていることになる。保育園料は生活保護世帯や1人親世帯のうち市町村民税非課税世帯の場合は、第1子から無料の応能負担となっている。

 となると、安倍晋三の幼児教育無償化の対象となっている〈0歳から2歳までは住民税が非課税の世帯〉は元々第1子から無料だから、無料が対象の世帯に対して改めて無料にしますと謳っていることになる。

 また、〈3歳から5歳までは所得にかかわらず一律〉は河野龍太郎が指摘しているように「誰が一番メリットを受けるのか。カネのある方、我が国の財政に所得者の高い方をサポートするゆとりがあるのか」、あるいは中室牧子の指摘のように「所得の高い人への所得移転」となって、一見誰もがいいこと尽くめの平等のように見えるが、結果的に不平等を生み出す投資ということになる。

 更に3歳児から5歳児まで97~98%の幼児が保育施設に通っているということになると、茂木敏充が言っている無償化が非認知能力形成に貢献するといった類いのメリットを新たに生み出すが如き言説とはさして関連がないことになる。

 わざわざ国の借金の返済を先延ばしにして生活余裕者にまで無償化する必要があるだろうか。熊谷亮丸が言っているように「大筋に於いて正しい政策」と見做すことは難しい。

 中室牧子が質の高い教育の提供と教育無償化とは違う議論だと言ったことに対しての茂木敏充の発言。

 茂木敏充「中村さんが言うように質の問題も必要。保育士さんの処遇改善。我々は4年間で大体10%、額にして月にして3万2千円。今年からキャリアを積んだ保育士には月額最大4万円まで処遇を改善する。

 今回更に人事院勧告の部分で1.1%、さらにそれらに上積みして1%。そういう場所で働く人材の質を高める処遇を改善することによって保育士を増やし、保育で働く人材が集まるような環境を作っていく」

 処遇改善で質の高い人材を集め、質の高い保育の提供を期待するためには余程の高給を出して求人数に対して遥かに上回る求職者数が集まるような状況をつくり出して、その中から優秀な能力を持った保育士を厳選するといった方法を採用しなければ、不可能だろう。
 
 単なる処遇改善を以ってして保育の質の問題に変えるのは中室牧子が言っていることとは違って、見当外れに近い。

 安部政権は待機児童の解消を2020年度末までに32万人分の保育の受け皿を整備すると打ち出していて、河野龍太郎は待機児童対策優先を言っていたが、現在、どのくらい保育施設が不足しているのかネットで調べたところ、「保育の受け皿拡大の状況」なるPDF記事を見つけた。    

 最初に挙げたPDF記事と同様に記事提供者がどこか記載がない。記載年月日も記されていない。こういったことがよくあるが、このような点に役所の情報伝達の不足を見る。

 アドレスから探すと、「厚労省雇用均等・児童家庭局保育課」に突き当たった。

 上記記事に、〈平成29年4月時点の待機児童数は、26,081人。〉と記載されている。

 平成29年4月時点の保育施設への申込者数は2,650,100万人で保育の受け皿量は企業主導型保育事業を含めて2,836,281と、差し引きすると18万6181人分の保育の受け皿が上回っている。だが、待機児童が2万6081人も存在している。

 待機児童とは親が入所申請をしているにも関わらず入所できない状態にある児童を言うのだから、要は親が望む場所にリーズナブルな費用で預けることができる保育施設の定員が満員状態か、あるいはそのような保育施設が存在しないことによって主として生じている待機児童という状況ということであろう。

 保育園料が生活保護世帯や1人親世帯のうち市町村民税非課税世帯の場合は、第1子から無料と負担軽減がなされている以上、それ以外の低所得者の負担軽減策として入園料を下げた(下げた分の費用を国が地方に補償する)保育の受け皿の整備を進めることが優先的課題であって、何も無償化を3歳から5歳にまで広げて一律に無償化する必要はどこにもないはずだ。

 いいこと尽くめ、気前のいい政策に見えて、矛盾が隠されている。この矛盾を隠していいこと尽くめ、気前の良さだけを選挙で訴えていたのだから、選挙に勝つための大盤振舞いに見えてくる。しかも国のカネを使うことになる大盤振舞いであるから始末に悪い。

 次に高校無償化は既に行われている高等教育無償化の議論を見てみる。「日曜討論」記事には次のような解説が乗っている。

高等教育無償化・住民税非課税世帯を対象
▼国立大学の場合は授業料を免除
▼私立大学の場合は、国立大学の授業料に一定額を加えた金額を上限に支援を図る
▼財源 消費税率を10%に引き上げた際の増収分などを充てる

 茂木敏充「日本は所得が低い程、進学率が低い。全世帯平均で52%だが、住民税非課税世帯は進学率20%。学歴によって生涯賃金に大きな差が出るという指摘がある。格差の固定化を防ぐ観点が一つの理由。

 少子化は幼児教育の負担だけではなく、高等教育の負担も含めて重いと言うことだから、少子化対策という側面もある。人材投資、非認知能力を小さい頃に養うのと同時に大学になってもより高い人材をつくっていくという観点もある」

 ここでも茂木敏充は無償化と質の高い人材の育成を結びつけている。

 熊谷亮丸「大事なことは意欲や能力のある人が誰でも高等教育を受けられる。家庭の経済的な事情によってこれが妨げられることがないような仕組みをつくるという意味で、今回の施策は一定の評価ができる。

 実際過去10年間のOECD諸国で経済成長の中身を見ると、半分以上の部分が高等教育を受けた人の、この労働所得に関連している。日本で見ても、大学を出た人と高校を出た人で言うと、障害の所得が7千万円ぐらい違ってしまう。最終学歴が中学卒の人、高校卒の人は大体5割の人が非正規労働者になる。

 ある意味貧困の連鎖になっている。これを防ぐ意味でこの制作は重要な手が打たれている」

 河野龍太郎「生産性を高めるためには人的資本を高める必要があるということで高等教育を充実させるということには賛成。ただ、大学の質を高めるということも大事であるし、一つ注意しなければならないのは熊谷さんが今おっしゃった高等教育のメリットと言うのはその授業を受けた個人に帰着する。

 そのため対象を慎重に絞り込む必要がある。住民税非課税世帯は国立大学無料というのはやや大盤振舞いが過ぎる。成績だけでは判断しないと言っているが、高校在学時に努力をして成績も優秀で強い意欲もあるけれども、家庭の事情で大学に行けない、そういった方を絞り込んでサポートしないと政府のおカネで勉強しない大学生ばかり作ってしまうことになりかねない。

 だから選択と集中が必要である」

 中室牧子「学術観点から言うと、家庭の所得の状態だったり、経済状態によって学力や意欲に格差があって、今の議論の前提としてこれが高校生や大学生のときに生じるということになっていたと思うが、最近の社会学や経済学の研究によると、家庭の経済格差による学力や意欲の格差というのはひょっとすると小学校低学年や就学前に始まっているのではないかと言うことを示した研究がある。

 高校生や大学生のときに既に大きな格差がついてしまっている状態なので、意欲はあるんだけれども経済状態によって進学できない人がどれくらいのボリュームでいるのか問うことが非常に大切で、もしこういった税金を投入するような政策によって家庭の経済格差による進学の格差を解消していくのであれば、高等教育の無償化というのが最も効果的な政策かどうかということについては慎重に考えなければならない」

 ここまでが高等教育無償化の効果についての議論で、以下、財源の問題、その他に移る。

 住民税非課税世帯の国立大学無償化によって低所得世帯の高卒者が誰でも大学生となって高等教育を受けられる条件化という面からのみ見ると、素晴らしい政策に見える。

 だが、その全てが意欲・能力・学力を備えているわけではない。備えていない場合、河野龍太郎が言うように「政府のおカネで勉強しない大学生ばかり作ってしまうことになりかねない」

 当然、住民税非課税世帯の大学生が無償化の恩恵を受けて大学進学率を高める役割を担って社会的な学歴格差を小さくしたとしても、いわば中室牧子が言うように「家庭の経済格差による進学の格差を解消」したとしても、意欲・能力・学力を備えないことには、これらの後天的資質の格差が将来的経済格差に延長されることになって、格差とその悪循環解消の手立てとなるわけではない。

 いわば高等教育の無償化が意欲・能力・学力形成の保証となるわけではない。ゆえに中室牧子の指摘通りに「高等教育の無償化というのが最も効果的な政策かどうかということについては慎重に考えなければならない」と言うことになる。

 つまり意欲・能力・学力を備えていない非課税世帯の大学生に対する一律無償化という恩恵は国の大切なカネをドブに捨てるムダな部分がかなり出てくることを意味する。

 このようなムダの解消は非課税世帯の中で大学進学を申し出た高校生に対して意欲・能力・学力を試す試験を課して、それに合格した高校生に対してのみ大学での教育費を無償化する、河野龍太郎が言っている「選択と集中」を行うことによって可能となる。

 高等教育無償化の方法も、そういった大学生に限った全面的な給付型奨学金制度を設ければ片付くことで、何も大騒ぎすることはない。

 にも関わらず、大騒ぎし、過剰なまでにいいこと尽くめの宣伝をしている。どう見ても、国のカネがムダ遣いになることを犠牲にして選挙勝利の代償を獲得する無償化の提案にしか見えない。


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