舛添厚生労働相が9月1日夜、東京都内で森元首相と会談。会談場所は書いてないが、専門としている上に政治屋としても似つかわしい赤坂辺りの高級料亭といったところか。綺麗どころを侍らせ、うまい酒と上等な料理に舌鼓(したづつみ)しつつ自慢話を招いた客に聞かせるというよりは女たちに聞かせて先ずは自己評価を自分から高めていい気分になり、女たちからしたら前に聞いた話でも感嘆・感動した顔を見せなければならないのは辛いところだが、自慢話が一段落ついて会うについての話の段になると、これから大事な話をしなければならんから、ちょっと席を外してくれないかと、たいした話でもないのに自分を偉く見せるために勿体振って女たちを遠ざけ、女たちに聞かせたなら、たいした話ではないと底が割れてしまうからでもあるが、そういった場面展開の末にだろう、舛添は9月28日投票の自民党総裁選出馬について自分の考えを次のように伝えたという。
「いろいろな人からいろいろと言われるが、自分は慎重だ」
記事は書いている。〈「ポスト麻生」として知名度の高い舛添氏が有力視されていただけに、不出馬となれば総裁選の行方は混沌(こんとん)としそうだ。〉――
「ポスト麻生」としての知名度の高さは衆院選自民党敗北、民主党政権担当を受けて共同通信社が辞任する麻生太郎の「次の総裁にふさわしい人」全国緊急電話世論調査(8月31日・9月1日実施)で舛添要一厚生労働相が29・1%のトップを占めたことでも証明されている。
2位が石原伸晃幹事長代理の12・2%、石破茂農相が3位の10・5%。以下、鳩山邦夫前総務相8・5%、谷垣禎一元財務相5・6%、加藤紘一元幹事長4・8%、後藤田正純衆院議員2・7%と続いたそうだ(スポニチ)。
衆議院選大敗北で頭数を40人近く減らして衆参合わせて50人となったが(小池百合子が9月3日に退会届を出して49人?)、森政治屋が実質オーナとして実権をしっかりと握っている町村派の町村信孝の名前が本人は出馬のチャンスを窺っているようだが、挙がっていない。
いわば最大派閥であったとしても、自派閥に期待できる有力な総裁候補が見当たらない。他派閥から総裁を選出となると、人事だけで持っている政治屋森としては新総裁に自己及び自派の影響力を行使するには前以て総裁人事で主導権を握る必要がある。
麻生を「福田康夫首相の無味乾燥な話より、麻生さんのような面白い話が受けるに決まっている。我が党も麻生人気を大いに活用しないといけない。『次は麻生さんに』の気持ちは多いと思う。私も、勿論そう思っている」と強力に推し、最大派閥の頭数を利用して麻生総理・総裁選出に力を貸したように。そして今度は舛添だと、「麻生首相の口先だけが達者な話よりも舛添さんの国民人気の高い話が受けるに決まっている。我が党も舛添人気を大いに活用しないといけない。『次は桝添さんに』の気持ちは多いと思う。私も、勿論そう思っている」と言ったかどうかは分からないが、自民党最大派閥の実質的オーナーという立場を活用して人事だけで持っている政治屋体質の森がわざわざ会談という形で舛添と会ったということは、例え総裁選出馬に慎重な姿勢であることが伝えられたとしても、人事屋森にふさわしく森の方から舛添に総裁選出馬を促す話があったからだろう。あるいは会談の席で出馬を促した。次期総裁として最も人気があるが、総裁となるには不利な参議院議員である上に無派閥であるために20人の推薦人を集めるのも覚束ない舛添を担ぐに力を貸し、その恩を売り、後々にまで影響力を行使しようとする下心があって初めて人事屋・政治屋の名にふさわしい、そのことと整合性を持った行動形態ということができる。
だが、舛添は慎重姿勢を示した。その理由について次のように述べたという。
「総選挙に敗れたことに対する責任は、共同で負わなければならない」
「日刊スポーツ」記事では次のようになっている。
「安倍、福田、麻生の3内閣で厚労相を務めた。衆院選の敗北は内閣の一員として責任がある」
なかなかかっこいいことを言う。
対する「asahi.com」記事での森人事屋の反応。
「いま自民党総裁になっても総理になれる道は100%ない。来年は参院選もあり、そこも配慮しなければならない」――
この森政治屋の態度は舛添の慎重姿勢に納得する反応ではなく、出馬辞退に納得する反応となっている。出馬辞退があって初めて、「いま自民党総裁になっても総理になれる道は100%ない」の後付が整合性を得る。
後付の認識ではなく、前付けの認識であった場合、「いま自民党総裁になっても総理になれる道は100%ない。来年は参院選もあり、そこも配慮しなければならない」を舛添に対する答とするには舛添の方から総裁選に出馬したい、つきましてはご協力を願いたいがと依頼する前以ての展開が必要となる。
そのような展開に対して森の頭の中には自分自身が選びたい総裁に舛添を思い描いていなかった。そこで断念させる口実に、「あなたは総裁だけで終わる人材ではない。総理にまで是非なってもらいたい能力を持っている。だが、いま自民党総裁になっても総理になれる道は100%ない。それに来年は参院選もあるし、民主党を破ることができればいいが、衆院選の二の舞を演じでもしたら、総理の道はますます遠のく。そこも配慮しなければならない。あんたみたいに有能な政治家が総理の目がないまま総裁に就くのは日本の政治にとっては不幸なことだ。ここは総裁で終わってもいいコマを宛がっておいた方が無難じゃないか」といった記事に森の言葉として書いてあるような展開が導き出し可能となる。
だが、この展開では上記「asahi.com」記事が描く展開とは逆転現象を引き起こすばかりか、最大派閥の影のオーナーとして自己と自派閥の影響力を国民を納得させる効率のよさで維持する成算を描けないことになる。
麻生を総理・総裁に自身ばかりか派閥としても強力に推薦したのは麻生が国民の間に最も人気が高く、疑われずに影響力を行使できると考えたからだろう。逆に最も人気のない候補者を推したなら、数の力のゴリ押しと国民から疑われ、森自身が不利な立場に立たされる。
人事屋にふさわしく森の方から舛添に総裁選出馬を促す話があったとした方が自然である。
舛添は9月1日夜の森と会談後の一夜明けた2日午前の厚労省内の記者会見で自民党総裁選への不出馬を宣言している。一夜明けただけで慎重姿勢が不出馬に心決めたというのも急な展開で、森との会談で既に不出馬で話し合っていたということなら納得できるが、例え森との会談で出馬に慎重姿勢を示しただけのことであっても、舛添は自身の進退を国民に知らせる前に自民党旧体制に属する政治屋森喜朗に知らせたことになる。
もしそこで、「いいでしょう。最初から出馬する予定でいました。町村派が派として推薦人集めに協力してくれて、投票してくれるということなら、総裁に決まったも同然です」と出馬にオーケーしたなら、他派閥としても国民に最も人気のある舛添を押さえられたなら、安倍や福田、麻生と同様に雪崩を打たないことには党人事や政権与党に返り咲いたときの閣僚人事に不利に立たされることは痛いほど知っているはずだから、密室で前以て総裁決定の談合をしたことになる。
舛添から言わしたなら、腐っても鯛で49人に減らした自民党最大派閥だと言っても、それを率いて陰で糸を引く親分、他派閥もこれまで党人事や閣僚人事その他で色々と世話になって恩を受けているから、他派閥への影響力をも計算に入れると、出馬ということなら推薦人20人を確保するためには背に腹は代えられない協力を仰がねばならないことは理解できる。徒や疎かに扱うことができない存在であろう。
だが、小渕元首相が脳梗塞で倒れたあと、その意識が定かであったかどうかも不明の状況を利用して森を加えた当時の自民党有力者5人が密室で談合して森総理・総裁に選んだと疑惑が持たれている過去を有し、2001年2月のハワイ沖でのアメリカ海軍の原子力潜水艦と衝突して沈没し練習生など9人が死亡した「えひめ丸沈没事件」ではゴルフのプレイのさなかに連絡を受けたにも関わらず、国民生命の安否よりもゴルフ続行を優先した命に対する想像力を持たない総理大臣という逆説性に満ちているうえに、自身が総理総裁を務めた後、自身の派閥から小泉を後継とし、2005年の小泉の郵政選挙で自民党最大派閥にのし上がると、その数の力を利用して小泉後、安倍、福田と自派閥から、他派閥から麻生を総理・総裁に輩出、派閥の数の論理を最も体現した政治家である。
9月召集予定の特別国会での首相指名選挙で自民党が新しい総裁が決まっていない以上麻生と書くべきだ、いや選挙大敗という民意を受けた麻生太郎を首相の名前に書くのは民意に反する、白紙で臨むべきだと混乱していることに、白紙は降参の白旗の意味だと言えば済むものを舛添は次のように批判している。
「これだけ選挙で苦労したのに、最高責任者の名前を書くのは感情的にしっくりいかないというのはよくわかるが、解党的な出直しをするにはどうすればいいのかが最大の目標であり、大事の前に小事はどうでもいいことだ」(NHK)
「解党的な出直し」こそが「大事」であって、首相指名選挙で誰の名前を書こうが、「どうでもいい」「小事」に過ぎないと。
だが、「解党的な出直し」を言うなら、派閥の力を利用して人事だけで政治力を発揮し、1年を持たない安倍、福田、麻生(2008年9月24日成立)と続けて総理・総裁輩出の影のスポンサーを演じ、これからも総裁人事に力を揮(ふる)おうとしている古い体質の政治屋森喜朗のその名にふさわしい政治屋一辺倒の政治力を殺いでこそ「解党的な出直し」が言えるのであって、記者会見で総裁選不出馬を国民に伝える前に都内某所で森と会い、例え出馬に慎重な姿勢を伝えるだけのことだったとしても、話し合いを持つことは人事に関わる森の活躍を少なくとも承認することとなり、「解党的な出直し」という言葉を裏切る行為であろう。
「例え推薦人が20人集まらなくても、古い体質のあなたの力を借りるつもりはありません」と森を排除・否定してこそ、「解党的な出直し」なる言葉が単なる修辞語ではない正当性を得ることができる。
だが、そうしなかった。森は影響力を行使できる次のターゲットに狙いをつけるべく虎視眈々としているに違いない。こうして自民党は古い体質を引きずっていく。舛添は「解党的な出直し」を言いながら、そのことに目をつぶった。
舛添の不出馬は森が言っていた「いま自民党総裁になっても総理になれる道は100%ない」という総理就任に対する先行き全く不透明感が主たる理由なのだろう。舛添本人の口からそのことを言い、森がそれに呼応して同じ趣旨のことを言ったのでなければ、出馬辞退に納得する森の反応と言えなくなる。
9月2日の「asahi.com」記事――《舛添氏「総裁選出馬、自分は慎重」 惨敗の責任認識か》
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