徴用工韓国大法院判決は日本側が「日韓請求権協定」を日韓併合と戦争の悪事隠しをカラクリに成り立たせたしっぺ返し

2019-09-23 11:05:43 | 政治
  
 太平洋戦争中に日本及び韓国で徴用工として過酷な労働条件下で強制労働に従事させられたことから4人の韓国人が使用者側の現在の新日鉄住友金属(旧日本製鉄、現在名日本製鐵)を相手に損害賠償を求めた裁判で、韓国の二審に当たるソウル高等法院による控訴棄却を受けて原告が韓国の最高裁判所に当たる大法院に上告、大法院の原審差し戻しを受けてソウル高等法院が一人当たり1億ウオン(約1000万円)の賠償金の支払いを認め、これを受けて2018年10月30日に大法院が原告の訴えを正当とする判決を下して、原告の勝訴が原審通りに確定するに至った。

 大法院は原告の訴えの正当性を、原告らは被告に対して未払賃金や補償金を請求しているのではなく、日本政府の韓半島に対する不法な植民支配および侵略戦争の遂行と直結した日本企業の反人道的な不法行為を前提とする強制動員被害者の日本企業に対する慰謝料請求権の行使に置き、その請求権を認めている。

日本政府が日本が韓国との間で1965年6月22日に締結した「財産及び請求権に関する問題の解決並びに経済協力に関する日本国と大韓民国との聞の協定」(日韓請求権協定)の「第二条 財産・権利及び利益並びに請求権に関する問題の解決」、その1項で「両締約国は、両締約国及びその国民(法人を含む。)の財産、権利及び利益並びに両締約国及びその国民の間の請求権に関する問題が、1951年9月8日にサン・フランシスコ市で署名された日本国との平和条約第4条(a)に規定されたものを含めて、完全かつ最終的に解決されたこととなることを確認する」と規定している通りに「韓国人の請求権問題は協定により全て解決済み」との立場を取っていることに対して大法院判決は個人請求権に関しての解決済みは未払賃金や補償金問題であって、慰謝料の請求権は「日韓請求権協定」の外に置かれていたと見ていることになる。

 どちらに正当性があるのか、ネットで紹介されている交渉過程等のいくつかの資料を漁ってみることにした。

 外務省は「個人の請求権問題も含めて韓国人の請求権問題は協定により全て解決済み」とする日本の主張の正当性を裏付ける根拠とするためにだろう、2019年7月29日になって1965(昭和40)年6月22日に締結された日韓請求権協定の交渉過程で韓国政府が日本側に示した「対日請求要綱8項目」と請求に関わる日韓政府の「交渉議事録」の一部をマスコミに公開している。

 先ず韓国が第1次日韓会談 (1952年2月15日~1952年4月21日)に於ける請求権分科委員会(1952年2月21日)で「韓日間財産及び請求権協定要綱韓国側提案」、のちの「対日請求要綱」所謂「8項目」を提出しているが、その内容を見てみる。以下文色は当方。

 正式名「韓日間財産及び請求権協定要綱」

第1項 朝鮮銀行を通じて搬出された地金と地銀の返還を請求する。
     本項の請求は1909年から1945年までの期間中に日本が朝鮮銀行を通じて搬出していったものである。
 第2項 1945年8月9日現在の日本政府の対朝鮮総督府債務の弁償を請求する。
     本項に含まれる内容の一部は次のとおり。
1.逓信局関係
   ⒜ 郵便貯金、振替貯金、為替貯金等
   ⒝ 国際及び貯蓄債券等
⒞ 朝鮮簡易生命保険及び郵便年金関係
   ⒟ 海外為替貯金及び債券
   ⒠ 太平洋米国陸軍総司令部布告第3号によつて凍結された韓国受取金
   ⒡ その他
  2. 1945年8月9日以後日本人が韓国内銀行から引出した預金額
  3. 朝鮮から収入された国庫金中の裏付け資金のない歳出による韓国受取金関係
  4. 朝鮮総督府東京事務所の財産
  5. その他
 第3項 1945年8月9日以後韓国から振替又は送金された金員の返還を請求する。
     本項の一部は下記の事項を含む。
  1. 8月9日以後朝鮮銀行本店から在日本東京支店へ振替又は送金された金員
  2. 8月9日以後在韓金融機関を通じて日本へ送金された金員
  3. その他
第4項 1945年8月9日現在韓国に本社、本店又は主たる事務所があつた法人の在日財産の返還を請求する。
    本項の一部は下記の事項を含む。
  1. 連合軍最高司令部閉鎖期間例によって閉鎖清算された韓国内金融機関の在日支店財産
  2. SCAPIN1965号によつて閉鎖された韓国内本店保有法人の在日財産
  3. その他
 第5項 韓国法人又は韓国自然人の日本国又は日本国民に対する日本国債、公債、日本銀行券、被徴用韓人の未収金、補償金及びその他の請求権の弁済を請求する。
     本項の一部は下記の事項を含む。
  1. 日本有価証券
  2. 日本系通貨
  3. 被徴用韓国人未収金
  4. 戦争による被徴用者の被害に対する補償
  5. 韓国人の対日本政府請求恩給関係その他
  6. 韓国人の対日本人又は法人請求
  7. その他
第6項 韓国人(自然人及び法人)の日本政府又は日本人(自然人及び法人)に対する権利の行使に関する原則。
 第7項 前記諸財産又は請求権から生じた諸果実の返還を請求する。
 第8項 前記の返還及び決済は協定成立後即時開始し、遅くとも6ヵ月以内に終了すること

 第1項で返還を請求している「朝鮮銀行を通じて搬出された地金と地銀」は「1909年から1945年までの期間中に日本が朝鮮銀行を通じて搬出していったもの」としていることからすると、日本の韓国併合は1910年8月29日の「韓国併合ニ関スル条約」(日韓併合条約)締結に基づいた大日本帝国による韓国併合から1945年9月9日の朝鮮総督府による対連合国降伏までの35年間ということだが、それ以前から日本は韓国に進出していて、1905年の第2次日韓協約で日本は韓国を保護国とし、韓国の外交権を掌握し、内政に深く干渉する関係を構築、日韓併合の前年の1909年から日本は朝鮮銀行から地金と地銀を搬出していたということなら、第2次大戦中の補償だけではなく、日韓併合時の補償をも含めて請求していることになる。

 今回の韓国大法院判決に関係して日本政府が解決済みとしている「請求要項」は「第5項3」の被徴用韓国人未収金と「第5項4」の「戦争による被徴用者の被害に対する補償」ということになる。

 既に触れたように「第5項3」も「第5項4」も、両問題は大法院も日本政府同様に解決済みと見ている。

 外務省が一部マスコミに公開した「対日請求要綱8項目」関連の「交渉議事録」は1961年(昭和36)5月の交渉のものだという。

 日本側代表「個人に対して支払ってほしいということか」
 韓国側代表「国として請求して、国内での支払いは国内措置として必要な範囲でとる」

 韓国側からこのような要請を受けて、何度かの協議を重ねた上で最終的に韓国政府に日本政府が無償3億ドル・有償2億ドルの供与を行う内容の「日韓請求権協定」を締結、徴用工に対する未収金及び補償は韓国政府が無償3億ドル・有償2億ドルのうちから国内措置として行うべき問題であって、これを以って徴用工に関わる個人的な請求権の問題は全てが「完全かつ最終的に解決された」のであると、前記公開文書を用いて、日本政府の正当性をマスコミに対して訴えたということなのだろう。

 これを受けて、マスコミの殆どは「完全かつ最終的に解決された」との政府の立場を踏襲した報道となった。だが、これでは韓国大法院の「被徴用韓国人未収金」と「戦争による被徴用者の被害に対する補償」は「日韓請求権協定」によって解決している、いわば徴用に関わる補償は無償3億ドル・有償2億ドルに含まれているが、「慰謝料の請求権」に関しては「日韓請求権協定」は触れていないとする主張に対する答とはならない。

 当然、日本政府はかつての徴用工が経験した過酷な強制労働に対する慰謝料名目のカネにしても無償3億ドル・有償2億ドルの中に入っていると証明しないことには解決している・解決していないの平行線をいつまでも辿ることになる。ネットで調べてみると、「慰謝料」とは、「精神的苦痛を慰謝するための損害賠償」のことであり、「補償」とは、「損害賠償のために支払われる金銭のこと。補償金」のことだと出ていて、「被徴用韓国人未収金」にしても、「戦争による被徴用者の被害に対する補償」も後者の部類に入る問題ということになる。

 韓国側は1960年11月10日の第5次韓日会談第1次一般請求権小委員会で「対日請求要綱」8個項目それぞれの金額を提示、徴用工に関わる金額のみを見てみる。

 3.被徴用韓人未収金 約2億4千万円(推算)要求根拠確実(日本側も同調)
 4.戦争に因る人的被害補償 約132億(要再検討)

 韓国側からの「対日請求要綱8項目」を受けて、日本は在韓旧日本財産の請求権を主張、その相殺を狙ったが、韓国側はサンフランシスコ平和条約第2条(a)「日本国は、朝鮮の独立を承認して、済州島、巨文島及び欝陵島を含む朝鮮に対するすべての権利、権原及び請求権を放棄する」を楯に在韓旧日本財産の請求権の消滅したこと、日韓併合による長年の日本支配で被った経済的損失と苦痛に対する膨大な補償を請求する予定だったが、在韓旧日本財産の消滅を考慮して「対日請求要綱8項目」に絞ったのであり、この「8項目」は在韓旧日本財産の消滅に何ら影響を受けない正当な請求だと主張、双方が長いこと対立することになる。

 そのような中、1953年10月15日の第3次韓日会談第2次請求権分科委員会で韓国側が「日本の請求権の要求は多分に政治的であり、もし日本がそのような政治的な要求をするのなら、韓国としては韓国併合36年間の賠償を要求する」と発言したのに対して日本側首席代表の外務省参与久保田貫一郎が「すなわち韓国が(韓国併合時の)賠償を要求するなら日本はその間、韓人に与えた恩恵、即ち治山、治水、電気、鉄道、港湾施設に対してまで、その返還を要求する。日本は毎年2千万円以上の補助をした。日本が進出しなかったらロシア、さもなくば中国に占領され現在の北朝鮮のように、もっと悲惨だったろう」(韓国側文書97)と発言、歴史論争に発展して、日韓会談自体が4年半の間、中断することになった。「新規開示文書を参考にした日韓請求権問題の考察」 (李洋秀/2014.1.20補筆)から。 

 日本が「治山、治水、電気、鉄道、港湾施設」等の各種インフラ整備にしても、「毎年2千万円以上の補助をした」としていることについても、名目上は韓国のため、韓国民のためを装ったのだろうが、直接的に韓国や韓国民のためではなく、韓国を日本の支配下に置いた植民地経営を通して韓国から様々な利益を獲得、日本の産業規模の拡大や鉱工業生産の拡大を図り、日本を大国化すること、日本の発展を策すことが直接的な目的だったはずだ。

 しかも久保田が言っている公共事業は何も日本のカネだけで行ったわけではない。1961年3月22日の第5次韓日会談予備会談一般請求権小委員会第7次会議で次のような遣り取りが行われている。「第5次韓・日会談予備会談一般請求権小委員会会議録」 

 韓国側-その当時韓国の郵便超過金を集めて日本大蔵省に集中させた。内容は郵便貯金、郵便換金、為替、逓信関係の税入金、逓信事業の収入金等、収入と支出の差額を超過金として大蔵省に集中させたので、これを請求するのである。

 日本側-当時大蔵省では超過金を貰い受け、これを還元させようと公共事業をした。そしてこのような貯金は総督府の債務ではなく、対個人との問題だと思うが、どう思うか。

 あるいは次のように発言している。

 日本側-大蔵省に預金されれば一般部に預金され、このようなお金は還元投資として公共事業で韓国の各地方に公共事業に投資されたのだが、これに対するものはどう考えるのか。

 韓国内の公共事業費として消費されたのだから、差し引きされてもいいのではないかとの日本側の趣旨だが、日本のカネだけを原資として行った公共事業ではないことが以上の発言に現れている。

 確かに日本は韓国の植民地経営を確かなものにするために優秀な韓国人を各役所や各企業で重要なポストを与えたが、一般的な韓国人に対しては二等国民扱いをし、支配者の立場に置いた日本人の、被支配者と目した韓国人に対する差別は目に余るものがあった。

 だから、韓国人労働者を日本に送り出すために逃げ回る韓国人を追いかけ回して拉致同然に送り出したり、食糧供出の際、相手の貧しさを考えずに殴打等の暴力を用いることができた。朝鮮人固有の姓を廃止して日本式の名前を名乗らせる、皇民化政策の一環としての創氏改名は任意だとしながら、1940年8月までに改名しない者には公的機関不採用、食糧配給対象からの除外の罰則を科してまで、先祖代々の固有の姓を奪うことができた。

 最終的には日本の発展を策すことが目的の韓国に対する各種インフラ整備を「韓人に与えた恩恵」だとする日本側首席代表の外務省参与久保田発言は頭から日韓併合性善説に立っていることになる。だが、この手の日韓併合性善説は安倍晋三以下、多くの保守政治家が抱えている。

 民主党政権時代の首相菅無能が2010年(8月10日)に日韓併合100周年を記念して発表した韓国に詫びる談話は安倍晋三以外の日本国首相経験者から同意を得たと「Wikipedia」が紹介していて、その説の出典となっている「【コラム】「複合骨折」の韓日関係(1)」 (中央日報/2014年08月13日10時22分)記事が、〈2010年8月、外務省副大臣として当時の菅直人首相の韓日併合100周年謝罪談話文作成に関与した日本民主党国会議員は「事前に歴代自民党首相の了解を求めたし、安倍現首相以外は全員同意してくれた」〉との事実を明かしていることが安倍晋三の日韓併合性善説を証明することになる。  

 この日韓併合性善説は歴史認識の連続性の観点からして、日本の戦争が侵略戦争ではなく、自存自衛の戦争であり、アジア解放の戦争だったとする歴史認識(=大東亜戦争性善説)と一体をなしている。そしてこのような歴史認識は日本民族優越意識をバックグランドとしている。安倍晋三にしても然り。

  「戦後70年談話」で安倍晋三は冒頭次のように述べている。

 「終戦70年を迎えるにあたり、先の大戦への道のり、戦後の歩み、20世紀という時代を、私たちは、心静かに振り返り、その歴史の教訓の中から、未来への知恵を学ばなければならないと考えます。

 100年以上前の世界には、西洋諸国を中心とした国々の広大な植民地が、広がっていました。圧倒的な技術優位を背景に、植民地支配の波は、19世紀、アジアにも押し寄せました。その危機感が、日本にとって、近代化の原動力となったことは、間違いありません。アジアで最初に立憲政治を打ち立て、独立を守り抜きました。日露戦争は、植民地支配のもとにあった、多くのアジアやアフリカの人々を勇気づけました。

 世界を巻き込んだ第1次世界大戦を経て、民族自決の動きが広がり、それまでの植民地化にブレーキがかかりました。この戦争は、1千万人もの戦死者を出す、悲惨な戦争でありました。人々は「平和」を強く願い、国際連盟を創設し、不戦条約を生み出しました。戦争自体を違法化する、新たな国際社会の潮流が生まれました。

 当初は、日本も足並みを揃えました。しかし、世界恐慌が発生し、欧米諸国が、植民地経済を巻き込んだ、経済のブロック化を進めると、日本経済は大きな打撃を受けました。その中で日本は、孤立感を深め、外交的、経済的な行き詰まりを、力の行使によって解決しようと試みました。国内の政治システムは、その歯止めたり得なかった。こうして、日本は、世界の大勢を見失っていきました。

 満州事変、そして国際連盟からの脱退。日本は、次第に、国際社会が壮絶な犠牲の上に築こうとした『新しい国際秩序』への『挑戦者』となっていった。進むべき針路を誤り、戦争への道を進んで行きました。

 そして70年前。日本は、敗戦しました。

 以上の発言には自存自衛の戦争・アジア解放の戦争であるとする大東亜戦争性善説の歴史認識を埋め込んでいる。

 もし日韓併合性悪説に立っていたなら、自存自衛の戦争・アジア解放の戦争とする大東亜戦争性善説は導き出し不可能な歴史認識の非連続性となる。戦前ばかりか、戦後に於いても、日本国民を一等国民とした支配下に韓国民を置いて二等国民扱いし、差別と蔑視の対象とすることができたこと自体、自存自衛の戦争でも、アジア解放の戦争でもないことを証明している。実際に韓国民に対してだけではなく、日本人が同じアジア人種でありながら、他のアジア国家の国民を一段低く見ていた。

 日韓併合性善説と大東亜戦争性善説を歴史認識に於いて連続性を持たせ、一体としている以上、韓国側の「韓国併合36年間の賠償の請求」に対しても、日本の戦争によって被った被害の補償請求に対しても、自ずと拒絶反応を以って対応することになる。

 「韓国併合36年間の賠償の請求」に対する日本側の拒絶反応の代表例が久保田発言に現れているということなのだろう。但し日韓請求権協定協議に於いて議論のもつれから韓国側が「韓国併合36年間の賠償の請求」を持ち出すことはあっても、公式的には在韓旧日本財産の消滅と相殺する形で戦争で受けた補償の請求、「対日請求要綱8項目」のみに絞っていたから、拒絶反応は主として韓国側の日本の戦争によって被った被害の補償請求に対して現れることになる。

 上出「新規開示文書を参考にした日韓請求権問題の考察」が公開された「日本側文書1556」に記されている「在日韓人の処遇問題」に関わる「補償金問題に関する日韓間話合いの経緯(1959年)9月9日伊関、柳私的会談」での伊関局長の私見を取り上げている。

 「日本としては補償金を支払うが如きことはできないが、韓国帰還と直接関連する形ではなく、例えば住宅の建設の如き間接的に帰還者のresettlement(再定住)の援助になる事業に対しては韓、日、米が3分の1ずつ金をcontribute(提供)する。ただし日本は日韓会談がまとまり、国交を正常化してからでないと支払わないからそれまでは米国側で日本の分を立替え支払うという構想」

 この私見は「在日韓人の処遇問題」に関係してのことだが、「日本としては補償金を支払うが如きことはできないが」としている「如きことはできない」なる言葉は「そんなことはできるもんか」との意を含んでいて、補償金の支払い根拠に対する拒絶反応が明らかに強度に現れている。でなければ、普通に「支払うことはできない」の表現で済ますことができたはずだ。

 日韓会談は久保田発言による4年半の中断を含めて、1951年(昭和26年)10月20日から約14年間に亘って交渉が続けられたが、当初は日韓の事務方によって韓国側が少しでも補償金を多く支払わせよう、日本側が少しでも支払いを少なくしようとする駆け引きの中で被害額や被害人数の算定根拠に関して議論を戦わせていたが、次第に韓国側の日本の戦争に関わる被害の補償請求権そのものに対して拒絶反応を徐々に露わにしていく経緯を公開された「日本側文書」と「韓国側文書」をベースとした解説文書、《日韓会談と[請求権問題] 》(日韓会談文書・全面公開を求める会 事務局次長 李洋秀〈イー・ヤンス〉)を適宜引用する形で見てみる。 

 上記1960年11月10日の第5次韓日会談第1次一般請求権小委員会で提示した「対日請求要綱」8個項目のうち、最初の日本政府当局が約5億6千万円の代金を国債等で支払って搬出し韓国の地金・地銀に関しては韓国が前記代金を払い戻して返還受けなければならないとしていることを除いて記してある請求金額を合計すると、305億2千万円となる。

 この金額は交渉の過程で変化することになるが、「韓国側文書786」にある、「朴正煕国家再建御前会議議長日本訪問」の228頁に、「韓国側が請求しているのは賠償的性質のものではなく、充分に法的根拠がある請求権であると説明し、地金銀、郵便貯金、保険金、徴用者に対する未収金、戦死者に対する補償金、年金等、相当な金額の請求権を韓国は持っているのに、日本側は5,000万ドル云々と言うのだから不当だと言ったところ、池田首相は小坂外相がそう言ったようだが、それは自分自身の意図ではないというような趣旨を話した」との記述を紹介している。

 池田勇人と朴正煕との会談は1961年11月12日に行われた。当時の円相場は1ドル360円の固定相場制で、5,000万ドル✕360円=180億円は305億2千万円の提示に対して60%程度を満たすだけとなって、韓国側にとって「不当」な金額ということになる。これも日本側の駆け引きの一つだろうが、朴正煕側が「賠償的性質のものではなく、充分に法的根拠がある請求権である」との表現で、日本の戦争で受けた被害に対して単に賠償を求めているのではなく、被害に関わる補償の請求に向けた正当な権利であるとしている。

 但し補償の支払い請求は日本が起こした戦争被害に対する韓国政府及び韓国民の正当な権利とした場合、自ずと日本の戦争を悪とする答が導き出されることになる。単にこれだけの被害を受けたから、その分の賠償を要求するとされた方が、日本の戦争を悪とする答を見えづらくすることができる。例えば「対日請求要綱8項目」の第5項で徴用工の未払金の請求と同時に戦争による被徴用者の被害に対する補償を請求しているが、未払金が広範囲で発生した状況は民間がしたこととして政府としての罪を免れることができたとしても、後者に関しては日本政府制定の国民徴用令が関わっている上に韓国内の徴用に於いて日本の官憲に命じられた韓国の官憲による暴力的な拉致・誘拐紛いの強制連行で日本に渡ることになった例もあって、そういった例を混じえたそのような結果としての未払い賃金や過酷な長時間労働、満足に与えられなかった食事等々を議論された場合、日本が起こした戦争の悪事が浮き彫りにされることになり、その悪事は大東亜戦争性善説に立つ日本の多くの政治家や役人にとっては不都合な事実となり、是が非でも避けたい議論ということになる。

 「韓国側文書に見る日韓国交正常化交渉第4回(大村収容所、北朝鮮帰還事業、そして個人請求権)」(翻訳・解説/李 洋秀)に徴用工に関して次のような記述が載せられている。  

 「第6次韓日会談請求権委員会会議録」(1961、10、27―1962、3、6)

 韓国側「そしてもう一つ指摘したいのは、日本側は戦時中動員した韓国人労務者を官斡旋、徴用等に区分しているが、官斡旋であれ徴用であれ当時韓国人労務者を日本に連れて行く方法はとても残酷だったということを知ってくれるように願う」

 日本側「行き過ぎた点があったかも知れないが、韓国人労務者だといってその当時特別に差別待遇したとは思わない」

 「行き過ぎた点があったかも知れないが」、日本人労務者とほぼ平等に待遇したと頭では信じている。日本側のこ発言は韓国併合性善説と同時に大東亜戦争性善説をまぶしている。

 1923年(大正12年)9月1日の関東大震災時にその混乱に乗じて不逞朝鮮人が放火して回っている、井戸に毒を投げ込んでいるといったデマだけで一般民衆の日本人が数千人にのぼる朝鮮人と数百人にも及ぶ中国人を虐殺できたのは差別意識からごくごくつまらない者と過小評価している朝鮮人や中国人の不逞行為が飛んでもない大それた行為と映ったことへの怒りと共に、もしかしたら差別していることに対する復讐の可能性への恐れを不逞行為に見て、その恐れと相まっていたずらに掻き回すことになった虐殺という爆発的なエネルギーの放出だったはずだ。

 そしてこのような過酷な差別意識は、特に朝鮮人に対するそれは戦後も日本社会全般に亘って色濃く息づいていたのだから、韓国併合性善説や大東亜戦争性善説なくして、「韓国人労務者だといってその当時特別に差別待遇したとは思わない」といった朝鮮人差別を抹消する発言は出てこない。

 上記「韓国側文書786」で「韓国側が請求しているのは賠償的性質のものではなく、充分に法的根拠がある請求権である」と主張しているのに対して、この韓国側文書に対応する公開された日本側文書には、〈請求権という言葉がすべて黒塗りされています。〉と翻訳・解説の李洋秀氏は記している。韓国側が正当な権利であるとしている「請求権」という文字を日本側が黒塗りにして隠すこのような拒否反応は日韓間の議論の過程で日本の戦争を悪とされる事実が露出しかねないことに対する警戒感からであろう。

 かくこのように日本側は韓国側が正当な権利としている「請求権」を認めまいとしている姿勢を窺うことができる。この手の姿勢に対する答は韓国併合性善説、あるいは大東亜戦争性善説に立っている以外に答を見つけることはできない。逆に性悪説に立っていたなら、金額の決着は別問題として、韓国側の「請求権」に応える対応を取るはずだし、その言葉を黒塗りにする必要性も生じない。

 「第6次韓日会談第2次政治会談予備折衷本会議第1回会議」(1962年8月21日)に関わる「韓国側文書 736」

 杉道助日本側首席代表「請求権のみを使うのなら外相会談で言ったように7千万ドルになるが、この数字も大蔵省は1千5百万ドルにしかならないというのを、外務省がさまざまな理由をつけそういう数字を出したものだ。(中略)もし請求権と無償供与を同時に使う場合には、請求権には推定数字を入れることができないので、その金額が極めて少なくなるだろうし、3~4千万ドルにしかならないが、これは韓国側としても困難なものだと思う」

 発言者不明「日本側」「請求権で日本側が支払いを認められるのは、戦後の混乱や朝鮮動乱で関係書類を失くした等の事情を考慮して、納得が行く限度内で推定の要素を加味したとしても、やっと数千万ドルにとどまり、韓国側が期待していると伝えられる数億ドルとは、とても遠い距離にあります。(中略)日本側が到逹した結論を一言で言うと、請求権の解決とするとどうしても数千万ドルしか支払いできない。しかし請求権の解決からは離れて、韓国の独立を祝い、韓国においての民生安全と経済発展に寄与するための無償もしくは有償の経済援助という形態ならば、相当な金額を供与することについて、日本国民の納得を得ることができるだろう

 「日本側が到逹した結論を一言で言うと、請求権の解決とするとどうしても数千万ドルしか支払いできない。しかし請求権の解決からは離れて、韓国の独立を祝い、韓国においての民生安全と経済発展に寄与するための無償もしくは有償の経済援助という形態ならば、相当な金額を供与することについて、日本国民の納得を得ることができるだろう」の言葉に日本側の姿勢の全てが現れている。韓国側が正当な権利と主張している戦争補償に対する「請求権」には満足に応えることはできないが、「無償もしくは有償の経済援助」なら、韓国が満足する形で応えることができると、「請求権」への補償支払いから、経済援助の形での支払いへと巧みに誘導している。「ほ、ほ、ほたるこい、こっちのみずはあまいぞ」と呼びかけている。

 日本側はかくまでも「請求権」への補償支払い(戦後補償支払い)に対して拒絶反応を見せている。

 金鍾泌(キム・ジョンピル)韓国中央情報部長が1962年10月20日から22日まで日本を訪問、当時の大平正芳外相や池田首相と会談している。

 「大平・金鍾泌会談記録-1962年秋」(「人文研紀要」第65号抜刷2009年9月10 日発行)

 第1回目の会談は10月20日。

 「大平大臣・金鍾泌部長会談における太平大臣の発言要旨(案)」

1.一般請求権問題解決に関する日本側最終案
(1) 「金額」 無償供与2億5000万ドルとする。

(注)
(Ⅰ)先方が焦付債権4573万ドルの問題にふれてきた場合は,「これは別個の問題であるから,当然支払ってもらうものと考えている」との建前で応答する。
(Ⅱ)先方が「金額」に関連して「方式Jについて質問した場合は,「日韓双方が受諾し得る表現により解決することとし,具体的には今後の予備交渉において決定したい」と応答する。
(2) 支払方法 日本の資本財および役務の供与による。
(3) 支払期限 年2500万ドルずつ10年間均等払いとする。(年2500万ドルは,現在日本が支払っている賠償において年額最高のフィリピンと同額である。)
(注)先方が年額を増やし期間を短くしてほしいと希望した場合は,「無償供与のほか,国交正常化後には当然行なわれると考えられる各種の経済協力とともに,韓国の外貨消化能力をも考慮して検討してもらえば,年2500万ドルは決して少額に過ぎるものではないと思う。日本のみならず欧米諸国よりの援助も考慮に入れるときに特に然りである」と応答する。

 (4) 長期低利の借款(わが方よりは進んでふれざることとし,先方がとりあげた場合にのみ討議する。)

 無償供与の「金額」を大巾に増額することになるので,日本の国内与論をも考慮し,長期低利の借款は請求権問題の解決とは切り離すこととし,この際は論議しないこととしたい。しかしながら,国交正常化実現の暁には当然政府ベースの経済協力が実現するものと考えている。

 また,国交正常化前といえども,コマーシャル・ベースによる具体的事例があれば,延払いその他の面でできるだけ好意的に考慮する用意がある。

(注)先方が是非とも話し合いをしたいと強く主張する場合は, 「請求権の解決とは切り離すという建前をくずさぬ限度においてならば,今後話し合いをすることに異存はない」と応答する。(以下略)

 「一般請求権問題」に関しては「無償供与2億5000万ドル」の中にひとくくりにまとめている。日本側としては「被徴用韓国人未収金」にしても、「戦争による被徴用者の被害に対する補償」も、「無償供与2億5000万ドル」の中にひっくるめてしまおうというのだろう。ひっくるめることによって、韓国人徴用工に対する暴力的な拉致・誘拐紛いの強制連行も、低賃金労働も、過酷な長時間労働も、粗末な食事も、その他日本が戦争によって演じた残虐行為等の数々の悪事を隠すことができる。

 悪事を隠してこそ、日韓併合性善説にしても、大東亜戦争性善説にしても、保護することができる。

 金鍾泌韓国中央情報部長は1962年11月12日に再度来日、大平外相と二度目の会談を行っている。その会談の席で「無償3億ドル,長期低利借款2億ドル,民間信用供与1億ドル以上」のメモ(所謂「大平メモ」)を渡されたと言う。

 但し上記PDF記事の〈外務省アジア局「大平大臣・金鍾泌韓国中央情報部長第2回会談記録」〉には次のような記述がある。

 (2) 金額
(韓国側の提案は,真面白なものであるとは認められたが,本件に関しては未だ彼我の間に相当の懸隔があるので,日韓双方において各々総理および議長の指示を待つこととし,それまでは大臣および金部長問限りの宿題とし,双方の代表にも内容を明かさないことを約束した。)

 要するに「無償3億ドル,長期低利借款2億ドル,民間信用供与1億ドル以上」は隠したということなのだろう。但しこの金額で韓国側は日本側が素通りさせたい「請求権問題」で引き下がったわけではなかった。

 1.請求権問題

(1) 方式
韓国側の案として,「韓日間の請求権問題を解決し,かつ,韓日間の経済協力を増進するため,次の措置をとるものとする。、、、、、、、、、」との提案があり,予備交渉において討議を進めることとなった。

 「会談記録」でありながら、韓国側提案の「次の措置」を、「、、、、、、、、、」で表す辺り、「請求権問題」を如何に誤魔化し、如何に素通りさせたいか、日本側の気持が如実に現れている。

 「日韓請求権協定」が署名されたのも、この協定に関する「韓国との請求権・経済協力協定 第一議定書の実施細目に関する交換公文」が署名された日付も1965年6月22日である。この日を遡る2年5ヶ月前の1962年11月12日の「大平・金第2回会談」で日本側は既に協定の内容を決めていた。

 上記PDF記事の〈外務省アジア局「大平大臣・金鍾泌韓国中央情報部長第2回会談記録」〉の記述。

 〈冒頭,大臣より,予め準備した別添トーキング・ペーパーを提示した後,概要つぎのような討議を行った。

(2) 方式

国交正常化に関する取極等のうちに下記の趣旨の条項をおくことにより解決することを提案する。

第1項日本国は,日韓国交の正常化を祝し,両国間の友好親善を祈念し,韓国における民生安定と経済発展に寄与するため,◯億ドルに等しい円の価値を有する日本人の役務および日本国の資本財を供与することとする。

第2項両締約国は,平和条約第4条に基づく韓国または韓国国民の日本国または日本国民に対するすべての請求権が完全にかつ最終的に解決されたことを確認する。〉

 勿論、「完全にかつ最終的に解決された」とする「韓国または韓国国民の日本国または日本国民に対するすべての請求権」の中に「対日請求要綱8項目」を含む意図を有していたはずだ。1965年6月22日締結の正式の「日韓請求権協定」の正式文書には「1 両締約国は、両締約国及びその国民(法人を含む。)の財産、権利及び利益並びに両締約国及びその国民の間の請求権に関する問題が、1951年9月8日にサン・フランシスコ市で署名された日本国との平和条約第4条(a)に規定されたものを含めて、完全かつ最終的に解決されたこととなることを確認する」と触れているのみだが、確認のためか、念押しする意味でか、同日締結の「韓国との請求権・経済協力協定 第一議定書の実施細目に関する交換公文」の中で、「完全かつ最終的に解決されたこととなる両国及びその国民の財産、権利及び利益並びに両国及びその国民の間の請求権に関する問題には、日韓会談において韓国側から提出された『韓国の対日請求要綱』(いわゆる8項目)の範囲に属するすべての請求が含まれており、したがつて、同対日請求要綱に関しては、いかなる主張もなしえないこととなることが確認された」との一文を入れている。

 しかも「日韓請求権協定」の本文に入れずに、「第一議定書の実施細目に関する交換公文」に「対日請求要綱8項目」の解決を記載する。これも「請求権」の問題を限りなく背景に退かせようとする姿勢の働きがあるはずである。

 いずれにしても、韓国側は日本からの経済協力問題とは別に「請求権」への補償支払いを求める姿勢を維持し、日本側は「請求権」問題を排除し、無償・有償の経済協力を以ってして、「完全かつ最終的に解決された」とする地点に向けて駆け引きすることになった。

 「請求権及び経済協力委員会第6次会議」(1965年5月14日)

 「韓国側文書1468」

日本側西山代表 : 韓国に対するわが側の提供は、あくまでも賠償のように義務的に与えるのではなく、それよりは経済協力という基本的な思考を持っている。
韓国側金代表 : 李・椎名合意事項を見れば、請求権及び経済協力となっていて、経済協力というのもあるが、請求権的な考えが厳然と表現されている。
西山 : われわれは賠償とは違い、経済協力という面が強いという考えだ。
韓国側李圭星首席代表 : われわれも提供が賠償ではなく、特殊なものという考えだが、その表現は請求権及び経済協力という表現にならなければならない。
西山 : 協定案文を作成する時には、二つ皆含まれるようになるが、ここで今しているのは経済協力に関するものだ。
金代表 : 経済協力のみをするというのはおかしい。請求権及び経済協力に関する導入手続きを討議しているのだ.
西山 : 請求権の意味が含まれてはいるが、韓国側では請求権の対価という意向があるようだが、わが側ではそのように考えていないし、したがって基本的な思考の差があるが、これは是正調整されなければならないと思う。日本の一方的な義務に立脚して提供することになったら困る。韓国側でこのお金はわれわれが貰わなければならないものだから、勝手にすると言ったら困難だ。
金代表 : 全然義務がないというのは話にならない。最小限度、請求権解決に経済協力という考えが加味され、結局請求権及び経済協力ということになるのではないか? 国民の感情が請求権を受け入れるという考えで一貫しているので、万一請求権という表現が変わったら、これは重大な問題が起きるだろう。
西山 : それなら韓国に対する提供は、政治的な関係が深い日韓両国間の友好的な関係のための経済協力だと言うのか?
李首席 : 請求権という言葉が入らなければならない。
金代表 : 日本側の考えは理解しにくいが、賠償ではなく、しかし請求権に縁由(由来)するということは認めなければならないのではないか?
日本側柳谷補佐 : 日本側の考えは、あくまで経済協力という考えだ。
韓国側鄭淳根専門委員 : 問題の始祖が請求権から始まったのであって、韓国の事情が苦しくて助けくれということから始まったのではないではないか?
柳谷 : それは知っている。
李首席 : 結局、日本側の立場は、純粋な経済協力というのか?
西山 : そうだ。
韓国側呉在煕専門委員 : そのように言うが、元来経緯を見たら請求権問題を解決するために交渉が始まったし、請求権を解決するにおいて経済協力という言葉が出るようになった。したがって政治的な経済協力として提供するというのはあり得ない。
西山 : この問題はあまり触れないで次に移ることにして、とにかくわれわれとしては早く協定文を作り上げるのが重要ではないか?

 日本側はなおも韓国側が主張する「請求権」を排除すべく、巧みに誘導しょうとしている。

 日本側西山代表が「賠償のように義務的に与えるのではなく」と言い、「日本の一方的な義務に立脚して提供することになったら困る」と言っていることは、「請求権」という形を取った戦争補償への支払い(戦後補償)への拒絶を示しているものであって、「韓国及び韓国民が日本の戦争で受けた被害に対しての補償支払いの義務は我々にはない」と言っているも同然である。そして最後には「この問題はあまり触れないで次に移ることにして、とにかくわれわれとしては早く協定文を作り上げるのが重要ではないか?」と逃げて、時間をかけて、日本の思い通りの形に持っていこうと策している。

 このことの成功が日本の戦争がもたらした数々の悪行を「経済協力」の背後に隠すことができて、日韓併合性善説と大東亜戦争性善説の破綻を防ぐことであろう。

 だが、協定署名まで1ヶ月少し残すだけとなった。勿論、日を切られていたわけではないが、結局は韓国側は押し切られることとなり、(無償3米ドル+有償2米ドル、民間融資3億米ドル)の経済協力支援で決着をつけることとなり、韓国側からしたら、「請求権」の問題はこれらの経済援助の背後に隠されることになった。日本側からしたら、背後に消したといったところなのだろう。日韓併合と大東亜戦争を通じて韓国や韓国民に行った数々の悪行を協定文の行間に隠して、滲み出てくるのを防いだ。「日韓併合性善説」と「大東亜戦争性善説」を無事な状態に置くことができた。

 だが、徴用工大法院判決は、「まず、本件で問題となる原告らの損害賠償請求権は日本政府の韓半島に対する不法な植民支配および侵略戦争の遂行と直結した日本企業の反人道的な不法行為を前提とする強制動員被害者の日本企業に対する慰謝料請求権(以下「強制動員慰謝料請求権」 という)であるという点を明確にしておかなければならない。原告らは被告に対して未払賃金や補償金を請求しているのではなく、上記のような慰謝料を請求しているのである」、「旧日本製鉄の原告らに対する行為は、当時の日本政府の韓半島に対する不法な植民支配および侵略戦争の遂行と直結した反人道的な不法行為に該当し、かかる不法行為によって原告らが精神的苦痛を受けたことは経験則上明白である」等々の日本の戦争の悪行を記録し、後世に残すことになった。

 安倍晋三を筆頭に安倍政権の面々は「大法院判決は韓国側によってつくり出された国際法違反」だと非難、徴用工等の「個人請求権」にしても、「日韓請求権協定」で「完全にかつ最終的に解決された」としている条文どおりに戻すことを狙って、韓国政府に問題解決を求めたが、韓国政府は三権分立を楯に無視している。

 安倍晋三としては日本が対韓協定交渉で折角守り通した「日韓併合性善説」と「大東亜戦争性善説」を壊す大法院判決は安倍晋三の歴史認識を逆撫でする悪夢として決して受け入れることができないだろうから、韓国に対する輸出管理強化と韓国の「ホワイト国」からの除外の報復に出た。

 徴用工大法院判決は安倍晋三たちの「日韓併合性善説」と「大東亜戦争性善説」に対する見事なしっぺ返しである。


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