イギリス北アイルランド・ベルファストでG8サミット=主要国首脳会議が日本時間6月18日(2013年)未明開幕、日本時間19日午前閉幕、2日間に亘って開催され、安倍晋三が閉幕後内外記者会見を開き、アベノミクスがさも成功が約束されているかのように例の如くに怪気炎を上げた。
アベノミクスは未だ発展途上で、いや、スタートについて走り出したばかりといったところで、1着か2着か、ビリッケツか、先の長いゴールでの着順が今のところどのような保証も受けているわけではない。
当然、成功は約束されているわけではない。成功するかもしれないし、失敗で終わるかもしれない。だが、さも成功するかのように怪気炎を上げるにはそう思わせるマジックが必要になる。
そのマジックを解き明かしたいと思う。
記者会見発言は首相官邸HP――《安倍首相内外記者会見》に依った。
安倍晋三「私自身から、経済政策について直接説明する機会を得ました。G8首脳からは、強い期待と高い評価が寄せられました。サミットにおいて、我が国の経済政策がこれ程注目されたことは、近年なかったことと思います」
結果がすべてであるのは断るまでもない。成功か失敗かは結果が決める。結果が未知の状態にあるとき、成功か失敗か、いずれの目が出るのか、結果に対する緊張感はないのだろうか。自身の努力とは無関係な外部的要因によって為替が円高に触れたり長期金利が上昇したりして、経済成長の阻害要因となって立ちはだかることもある。
失敗という結末はなく、頭から成功の結末しかないと信じているとしたら、自身の政策に対する自信過剰、その実施に当たっての自身のリーダーシップに対する自信過剰は単純・単細胞に過ぎる。
リーダーシップの自信過剰は外交発言でも見せている。
安倍晋三「外交政策について、私は北朝鮮に関する議論をリードいたしました。北朝鮮による核の保有は認められず、北朝鮮は安保理決議を完全に実施すべきであると強く訴えました。さらに、拉致問題の解決の必要性を訴えました。これに対し、G8各首脳から力強い支持が示され、これがG8のコミュニケにも反映されました」
相変わらずバカだね、こいつはと思った。北朝鮮の核問題、ミサイル問題、拉致問題をG8で議論する場合、G8は問題解決のいわば舞台外であって、問題解決の舞台そのものとはならない。その場に北朝鮮が加わっていないからだ。
当然、安倍晋三がいくら「北朝鮮に関する議論をリード」しようが、その議論がいくら「G8各首脳から力強い支持」を得ようが、また「G8のコミュニケに反映」されようが、北朝鮮に対する解決の力を持つわけではない。このことは核問題解決が膠着状態に陥っていることが証明している。
にも関わらず、「私は北朝鮮に関する議論をリードいたしました」などと言う。犬の遠吠え程度の役にしか立たない自画自賛に過ぎない。
リーダーシップに対する自画自賛は2010年6月のカナダ・トロントG8で菅無能も披露に及んでいる。G8開催の3カ月前の2010年3月26日に北朝鮮が韓国哨戒艇を魚雷攻撃、46人もの乗組員の生命を奪った。この韓国哨戒艦沈没事件に対する北朝鮮非難声明をG8首脳宣言に盛り込んだ。
菅無能「わたしがリードスピーチを行い、非難すべきは非難するよう申し上げ、宣言に盛り込まれた。
国連安全保障理事会にも非常に大きな影響がある」(閉幕後の記者会見))
要するに自身のリーダーシップで北朝鮮非難声明をG8首脳宣言に盛り込んだことは国連安全保障理事会にも影響を与えると自信を見せている。
但し菅無能は北朝鮮を外交カードとしている中国の存在が安保理の決定に大きな影響を与えることには気づいていなかった。気づいていたなら、北朝鮮批判を首脳宣言にいくら盛り込もうとも、「国連安全保障理事会にも非常に大きな影響がある」とは発言できなかったろう。
「大きな影響がある」のは中国の存在自体であるからだ。
菅の無能は6月26日の閉幕前の夕食会で中国のG8への参加を呼びかけていながら、閉幕後の記者会見で安保理での中国の影響まで認識することができなかったところに象徴的且つ決定的に現れている。
菅無能「中国に一層責任感を高めてもらうため、時には中国をG8に呼ぶことを考えてもいいのではないか」
尤もこの提案は中国にあっさりと肘鉄砲を食らっている。
中国外務省馬朝旭報道局長「G8の文書は知っているが、中国はG8でなくG20のメンバーだ」
菅無能は夕食会で中国G8参加を提案していながら、閉幕後の記者会見で安保理の北朝鮮非難が中国の影響を受けるとは考えもいなかった。
G8翌月の7月国連安全保障理事会で当然のことながら哨戒艇沈没事件は取り上げられた。韓国と日本が法的拘束力を持った安保理決議を狙ったが、中国の反対で法的拘束力の持たないワンランク下の「議長声明」で決着づけることしかできなかった。
菅無能がG8で、「国連安全保障理事会にも非常に大きな影響がある」と自信たっぷりに言ったことの見事な成果である。
安倍晋三が今回のG8で、「私は北朝鮮に関する議論をリードいたしました」と自信たっぷりに言っていることにしても、北朝鮮が在籍していない場所での議論のリードが問題ではなく、在籍している場所での議論のリードを創り出すことこそが肝心な点なのだから、言っていることの意義は菅無能の上記発言といい勝負といったところだろう。
記者会見に戻る。
安倍晋三「最後に、G8においても、各国との二国間会談においても、私自身も驚くほど、日本の、私の経済政策、三本の矢への強い関心が示され、各国がいかに日本の再生に強い期待を抱いているか、印象づけられました。日本は、再び世界の中心に躍り出ようとしている、そう実感したサミットでありました。それだけに、今後三本の矢を成功させ、日本をデフレから脱却をさせ、強い経済を取り戻して、世界経済の成長に貢献をしなければならない、その責任を痛感いたしました。私からは以上であります」――
結果を見ないうちの自信過剰は揺らぎもしない。「日本は、再び世界の中心に躍り出ようとしている、そう実感したサミットでありました」・・・・・
米連邦準備理事会(FRB)による量的緩和縮少の観測だけでショックを受けて日本の株価が大きく下がり、為替が円安に振れるのである。当然、世界の中心に踊り出るなどということは至難の業だということを認識していなければならない。しかも結果を見ないうちから、「日本は、再び世界の中心に躍り出ようとしている、そう実感したサミット」などとは簡単には言うことはできないのはずだが、簡単に言うところが、その認識能力の程度からしてハッタリとしか聞くことができない。
アベノミクスがさも成功するかのように思わせる巧妙なる言葉のマジックで成り立たせていると疑わせる点は質疑応答の最初の質問とそれに対する安倍晋三の回答に見ることができる。
原NHK記者「今のお話の中でのアベノミクスについて強い各国から期待が示されたとのことでしたけれども、各国の理解が得られたというふうにお考えでしょうか。
また、最近の為替や株価の動向を踏まえて、野党側からはアベノミクスに対する懸念も示されています。株価や為替が不安定な動向を続けていることについて、国民に今後どのように安心感を与えようとお考えでしょうか。
そして、成長戦略や骨太の方針を巡っては、歳出の削減に向けた具対策が示されていないという指摘もあります。社会保障費の見直しも含めて、今後社会保障費の歳出の削減をどのように進めていくお考えなのか、具体的にお話しください」
安倍晋三がアベノミクスのこれまでの成果について説明している箇所のみを取り上げる。
安倍晋三「GDPの成長率は、昨年の7月、8月、9月は、マイナスの3.6%だった。しかし、それが今年に入って1月、2月、3月は、プラスの4.1%、マイナスからプラスに、ネガからポジに、私たちが進めている政策によって変わったんですね。そして4月の数値を見てみると、消費においても生産においても数値は改善しています。
また、有効求人倍率は0.89、リーマンショック以来の水準、いわば、リーマンショック以前に戻ったといってもいいと思います。成長率、生産、消費、雇用の全て改善しています。今回のサミットにおいても、こうした実体経済が改善しているということを前提に、強い期待と評価を頂いたと思っています」――
GDP成長率が昨年7月、8月、9月マイナスの3.6%から今年1月、2月、3月プラスの4.1%へと変わった。この4月で消費も生産も数値の改善を見せている。有効求人倍率はリーマンショック以来の水準である0.89に改善。生産、消費、雇用の全てで改善を見て取ることができる。実体経済は着実に上向いている。
確かにこうも改善した数字を見せられると、実際アベノミクスの効果と思わせる力はある。
このことを裏付ける記事がある。《大企業景気判断 2期連続改善》(NHK NEWS WEB/2013年6月11日 12時12分)
財務省と内閣府による3カ月に1度の資本金1000万円以上の企業およそ1万6000社対象の調査だそうだ。この中には中小企業も入る。
今年4月から6月にかけて景気が「上昇している」と答えた企業マイナス「下降している」と答えた企業=
大企業5.9ポイント(3カ月前比+4.9ポイント)――2期連続の改善。
中小企業-11.3(3カ月前比+6.7ポイント)
中小企業は3カ月前と比べて+6.7ポイント大幅な改善ながら、さらに先行きプラスに転じることが見込まれるにしても、依然として-11.3ポイントである。
このことは株価の上昇と円安の恩恵が大企業と富裕層に偏重していることの反映でもあることを物語っているはずだ。
と言うことは、安倍晋三が言っているGDP成長率や有効求人倍率の改善にしても、生産、消費、雇用の改善にしても、大企業に偏重した改善だと言うことができる。
このことを証明する二つの記事がある。《個人金融資産 3.6%増加》(NHK NEWS WEB/2013年6月19日 9時37分)
日銀発表の「資金循環統計」によると、預金や株式など個人が保有する金融資産の残高が株価上昇を受けて今年3月末時点で1571兆円と1年前より3.6%増加したと伝えている。
一方、生活保護受給者は過去最多を更新している。《生活保護受給者 過去最多更新》(NHK NEWS WEB/2013年6月12日 12時13分)
今年3月時点で216万1053人。
この数字はこれまでで最多の前月よりも5835人増えて、11カ月連続での過去最多更新だそうだ。
生活保護受給者が増えるということは、自力生活から生活保護生活への落ちこぼれが続いていることを示しているはずだから、下層へ行く程株高と円安の恩恵に無縁であることの証明でしかない。
だが、安倍晋三はアベノミクス効果が今のところ大企業偏重の恩恵であることを隠し、すべてがうまくいっているかのようにアベノミクスを宣伝している。言葉のマジックそのものである。
この大企業偏重の恩恵にしても、為替レートや株価、さらには長期金利の動き一つでどう転ぶかも分からない。
もう一つ、アベノミクスが主として大企業偏重の部分的恩恵であるなら、大企業自体の日本国内に於ける広がりを把握しながらその発言を聞かないことには安倍晋三のマジックに誤魔化されっ放しとなる。
以下の統計は《経済産業省「工業統計表」(2006年)に依る。
全国の企業数は421万社。
大企業は約1・2万社(0・3%)
中小企業は約419・8万社(99.7%)
全従業者数4013万人
大企業は約1229万人(31%)
中小企業は約2784万人(69%)
中小企業の定義は以下のとおりとなっている。
製造業:資本金3億円以下又は従業者数300人以下
卸売業:資本金1億円以下又は従業者数100人以下
小売業:資本金5千万円以下又は従業者数50人以下
サービス業:資本金5千万円以下又は従業者数100人以下
中小企業と言えども、かなりの規模だが、先に記した財務省と内閣府の3カ月に1度の景気が「上昇している」と答えた企業マイナス「下降している」と答えた企業調査では中小企業は3カ月前と比較して6.7ポイント上がっているものの、依然として-11.3であることを考えると、大企業がプラスを維持している分、株高と円安がたった0・3%しか占めていない大企業により集中していることが分かる。
当然、製造業・その他で従業員20人以下、商業・サービス業で従業員5人以下の、421万社の全企業数に対して366・3万社の87%を占め、従業員数にして、全従業者数約4013万人に対して23%の約929万人の小規模企業の場合、アベノミクスの恩恵はさらに微量化しているはずだ。
だからこそ、生活保護受給者が過去最多を更新することになる。
勿論、アベノミクスは成功の階段を一気に駆け上がるかもしれない。だとしても、結果を見ないうちから、さも成功が約束されているかのようにアベノミクスを宣伝できるのは、あるいはアベノミクスの恩恵が既に幅広くもたらされているかのように言葉を駆使できるのは自身が用いている巧妙な言葉のマジックを自分でも信じ込んでいるからなのは言うまでもないだろう。
問題は聞く者をしてそのマジックが効果を示すことである。
言葉のマジックで巧妙にゴマ化す遣り方、さらには安倍晋三という政治家が元々持っているお粗末な認識性からすると、約束されている成功も、その約束を失う可能性は否定できない。
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