――解散・総選挙で政治空白をつくるのは震災の復旧・復興に悪影響を与えるは口実に過ぎない――
衆参ねじれ状況にあることから、民主党単独で重要法案をスムーズに通過させる力がなく、野党の協力を取り付けて6月20日に成立させた復興基本法にしても、8月11日に衆議院本会議で採決され参議院に送付された赤字国債発行法案にしても国会通過に却って時間がかかっている。
では、大連立となれば法案の成立に時間短縮が期待できるかというと、各党とも選挙のときのために自党の存在感を示し、宣伝する必要上、自身の案を少しでも採用させようとする利害を働かせるから、結果的に各党の利害が噴出、一つの法案を纏めるにも却って時間がかかることになりかねない。一つ一つの法案成立に多くの時間を費やさなければならないその時間消費も一種の政治空白と言え、その総量は無視できない政治空白の積み重ねとなる。
民主党内でさえも、例えば消費税増税派と反対派の利害衝突が存在し、どちらかに決定することもできずに多くの時間を費やしている。決定するまでの時間的な政治空白は膨大なものとなるに違いない。
そこにきて大連立となると、さらに利害主体を増やすことになる。自党に不利益となる行動は決して取るまい。例外的に取るとしても、ここは譲るから、あちらは譲ってくれといった取引きによって自らの利害を主張し、実現を図るといったことが生じる。
与党が野党との取引で自党の主張を引っ込めるということは国民の信任を受けた与党としての主体性の放棄であり、その政治空白も大きい。
政治空白とは時間的なものだけではなく、責任の履行・不履行に関しても言うはずである。
このことは自らが掲げた政策を切り売りし、最初の姿を失わせている主体性喪失に最も現れている。
大連立を行っても、野党が決して与党民主党の果実になるだけの協力はしない利害を招き、先々まで続くこのような政治空白と比較した場合、例え解散・総選挙行っても新しい民主党代表が首相に指名されて組閣した内閣が選挙の結果が出るまで復旧・復興に内閣としての責任を果たさなければならない中で選挙運動に時間を取られるとしても、その時間的な政治空白にしても責任上の政治空白にしても、一時的な現象で終わるはずだ。
解散・総選挙で政治空白をつくるのは震災の復旧・復興に悪影響を与えるとする主張が当らない、いわば口実でしかないとするなら、民主党は新しい内閣が誕生したなら、解散・総選挙を行う義務と責任を負う。
なぜなら、2005年に小泉首相(当時)が郵政選挙を行って以来、安倍晋三、福田康夫、麻生太郎と内閣がほぼ1年おきに代ったことを国民の信任を得ていないことを以って政権担当の正統性がない、政権たらい回しだと散々に批判してきたからである。
いわば民主党は選挙によって国民の信任を経てこそ、政権担当の正統性を得るとするルールを主張した。
《鳩山代表 総裁選前倒しを批判》(NHK/09年6月20日 19時26分)
仙台市の街頭演説。自民党内で麻生太郎では選挙は戦えないからと総裁選前倒し論が出ていることに言及。
鳩山代表「衆議院選挙をやらないまま総理大臣が3人も代わり、さらに『麻生総理大臣も代えよう』というさもしい発想が自民党内にあるようだが、目くらましにだまされてはいけない。今の政治をどう思うか、国民に信を問うのが憲政の常道であり、麻生総理大臣はみずからの手で解散・総選挙を行うべきだ」
選挙で国民の信を得てこそ、正統性ある内閣と言えると主張している。
菅直人公式サイト
「キムタク総理」(2008年7月31日 07:24)
〈 福岡に国のかたちの合宿研修会に来ている。今日は九州大学の水素エネルギーの研究機関を視察する予定。
7月も今日で終わり、明日から8月。福田総理は内閣改造、臨時国会の召集時期に関し相変わらず優柔不断な態度をとり続けている。05'年9月の総選挙から3年が経過。この間総理は小泉、安倍、福田と3人交代。国民の多くは自民党内の政権たらい回しではなく、選挙による政権選択を求めている。テレビドラマのキムタク総理のように、速やかに解散総選挙を行うべきだ。
「政権交代」(2000年11月 5日 00:00)
〈政権交代には与党の中で総理だけが替わる「たらい回し型」と、それまでの野党が政権を握る「本格型」とがある。森政権は危険水域には行っているが今のままでは政権交代があっても「たらい回し型」を越えない。しかし総理というものは本人が辞めないと頑張れば国会での不信任案可決以外に辞めさせる道はない。もし与党の中で不信任に賛成するグループが出れば与党は分裂する。1993年の政変の時はそうなって、「本格型」の政権交代につながった。果たして今回はどうなるか。今のところ与党の分裂は余り期待できない。しかし自民党が丸ごと残る政権では、今日本に必要な構造改革は絶対にできない。自民党の本質が既得利益擁護の族議員の集合体だからだ。〉
「総理というものは本人が辞めないと頑張れば国会での不信任案可決以外に辞めさせる道はない。もし与党の中で不信任に賛成するグループが出れば与党は分裂する」は最近菅本人を対象に代えて似たような現象が起きている。
マスコミも「たらい回し論」を煽った。《解散・総選挙―首相は堂々と信を問え》(『朝日』社説/09.7.1)
〈衆院の解散・総選挙に向けて、麻生首相がようやく重い腰をあげようとしている。
・・・・・
安倍、福田と2代の首相が政権を放り出した。その後を引き継いだ麻生首相も含め、自民党は3代の首相が国民に信を問わないまま政権を乗り換えてきた。これ以上、首相のいすのたらい回しが許されないのは当然のことだ。〉――
そう、国民の信を問う選挙を経ない政権の乗り換えは政権のたらい回しであって、許されないことだと言っている。
《衆院:政権選択へ、あす解散 首相4人、たらい回しの4年》(毎日jp/2009年7月20日)
麻生太郎が7月21日に衆院解散を行うことを決定。
〈05年に当時の小泉純一郎首相が「郵政解散」に踏み切ってから4年。この間、首相は安倍晋三氏、福田康夫氏、麻生氏へと1年おきに3回代わり、自民党の総裁交代による政権のたらい回しへの批判も強まった中での衆院選となる。〉――
当然、鳩山政権を引き継いで、その発足から9ヶ月足らずで菅内閣を発足させたとき、国民の信を問うべき責任と義務を負っていたはずだが、それを果たさずに自分たちが散々に批判してきたたらい回しを菅のツラに小便でやらかした。
鳩山辞任後の2010年6月の代表選に出馬会見したとき、菅は首相に就任した場合のこの責任と義務を果たす予定があるかとマスコミに突かれて、次のように答えている。
《【民主党代表選】菅出馬会見詳報4完「もう一度予算、国民は理解」》(MSN産経/2010.6.3 23:56)
記者「自民党政権で首相が辞めたときに、野党時代の民主党は民主主義として国民に信を問うべきだと批判を繰り広げてきた。首相に就任した場合に、早期に衆院解散をする考えはあるか。もし、ないのであれば、その理由と、これまでの発言との整合性について教えてほしい」
菅直人「これもあまりまだ何とも言えない。いろんな仮定の中で断定的なことを申し上げるのはできるだけ控えたいと思いますが、私は去年の政権交代は、もちろん鳩山代表を先頭にしての選挙を戦って支持を得たわけですけれども、一方では長く長く続いた自民党中心の政権に対して、政治に対して、一度は民主党にやらせてみたいと、そういう思いで政権交代を選択していただいたと思っております。
もちろん、総理が代わったときに、ある段階で信を問うということは、それはそれとしてある意味では一つの考え方でありますけれども、まだ民主党は、ある意味で民主党としての政権としては、まだスタートを切ったばかりでありますので、私はそれがどの程度の時期になるかまでは申し上げにくいわけですけれども、少なくとも例えば、もう一度予算を組むとか、あるいはいくつかの政策を実行するとか、そういうことまではしっかりとやっていっても私は国民の皆さんに理解をしていただけるのではないか。
特に参院の選挙もありますから。もちろんこれは大変厳しい状況にこれまであったわけで、そういう点ではなかなかこうした新しい状況でも楽観できるとは思いませんけれども、少なくとも新たな総理が私であるかどうかは別としても、選ばれたときに、その総理のもとで戦われる参院の選挙もですね、一つの国民の皆さんのその政権に対する一つの審判であるわけですから。それも踏まえて、先ほど申し上げたようなことも踏まえて、その段階で考えていきたいと思います」
最初から果たす覚悟を持っていなかったことが分かる。自分たちが主張したルールでありながら、「スタートを切ったばかり」だとか、「もう一度予算を組むとか」といった口実を設けて責任と義務から逃れようと必死になっている。当時から言葉多くして中味なしであることも見て取れる。
しかも1ヵ月後に参議院選挙で国民の信を問うたものの、国民からノーを突きつけられながら、その責任も取らなかった。
そして2010年9月の代表選。《【公開討論会・詳報】(9)完 小沢氏「総理の職責は健康的には十分やり抜ける」》(MSN産経/2010.9.2 17:01)
記者「自民党政権時代、民主党は一貫して政権のたらい回しを批判をし、解散・総選挙を主張してきた。解散・総選挙はどうするのか」
小沢元代表「うん、そういう意味の、私どもがたらい回しという言い方をしてきたことは事実だと思います。ただ、総選挙するのは、判断は内閣総理大臣ですから。私はまだ、一回のただのヒラ議員ですから、当選後に、もし当選したらそのことも含めて明確に皆様にお答えしたいと思います」
菅直人「衆院の任期、まだ3年あります。私は再選をさせていただいた中では、この3年間というものを大事に考えて、しっかりと政権を担っていきたいと思います」
小沢氏は「もし当選したらそのことも含めて明確に皆様にお答えしたいと思います」と言っているのだから、“明確な説明”とするには内閣の正統性を得るルールを果たす意志がなければならない。
もし果たさなければ、如何に言葉を巧みに用いたとしても、巧妙な口実をいくら並べ立てたとしても、自分たちが主張したルールの“明確な説明”とはならない。
だが、菅は内閣の正統性に触れずに衆院の任期で誤魔化している。
次期首相として有力視されている野田財務相は大連立でねじれを乗り切ることを主張し、大震災を口実に解散できるはずはないと言って、例え自らの内閣を発足させたとしても国民の信を問う意思がないことを示している。
いわば代表に当選した場合、菅内閣に続いてたらい回しのまま正統性のない内閣を運営する意思でいる。
総選挙しても、参議院は野党優勢でねじれは残るとする意見があるが、国民はねじれによる政治の停滞と政治空白を見て政治不信に陥っていることと菅内閣支持率と政党支持率から国民が内閣も民主党も評価していないことを考え併せると、総選挙があった場合、ねじれを解消させる方向の投票行動が強く働くはずだ。
このことが一番の政治空白・政治停滞の解消方法かもしれない。
国民に信を問う解散・総選挙の義務を民主党は負わなければならないという理由からだけではなく、兎に角も日本の政治を軌道に乗せるにはやはり答は大連立よりも総選挙と言える。
軌道から外した主たる罪人は菅仮免を措いて他には存在しないはずだ。
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