ケイの読書日記

個人が書く書評

「金時計」 ポール・アルテ 平岡敦訳 ㈱行舟文化

2019-10-23 09:53:47 | 翻訳もの
 名探偵オーウェン・バーンズシリーズ作品。表紙に、カバーイラストは著者直筆!って書いてある。イラストは図書館というより誰かの書斎みたい。本だけでなく、いろんな置物・小物があって、素敵な書斎のイラスト。ポール・アルテって多才なんだ。そういえば前作のあとがきで、ギターも堪能とか書いてあったっけ。すごいなぁ。

 1901年の中年女性殺害事件。1911年の女性実業家殺人事件。1991年劇作家アンドレの奇妙な体験。それら3つが絡み合って物語は進行する。
 メインの事件は1911年の雪に閉ざされた森の中で、ヴィクトリア・サンダースの死体が発見された事件。容疑者は、彼女の招きで山荘に集まっていた人々。ヴィクトリアのろくでなしの弟、有能な社員、その妻、その美人秘書、ヴィクトリアのインド人執事。
 動機は色々あるようだが、最大の謎は、彼女の死体の周りは雪で覆われ、被害者の足跡しか残っていなかった。つまり雪密室。だからこそ、オーウェン・バーンズの出番なのだが。

 最終的には、きれいに図解で謎は解かれるが、ちょっとミステリアスな雰囲気が足りないね。物語としては1991年の事件の方が面白いと思う。
 
 劇作家アンドレはスランプに陥っていた。そこから抜け出すために、子供の頃観たホラー映画を是非ともまた観たいと熱望していた。その映画は、少年時代の彼に強烈な印象を残し、劇作家としてデビューする彼に、多大な影響を与えた。
 しかし、なにせ子供の頃の話。しかも予告編だけ観ただけなので、探してもみつからない。
 うろつく人影、雨に打たれた屋敷、恐怖におののく女、ゆっくり回るドアノブ、らせん階段…etc

 しかし読者はだんだん不安になってくる。劇作家がここまでこの映画に執着するのは、ただ自分の創作の源泉となっている作品を観たいだけなのか、本当はもっと他の理由が(本人も意識していない)理由があるんじゃないか。
 劇作家は、映画マニアの哲学者モローを訪ね、彼の精神分析を通じて、少年時代に立ち返っていく…。

 1901年の事件と1911年の事件が繋がってるだろうことは予想がつくが、それが1991年の事件とどう繋がるんだろうと、色々頭をひねる。だって80年90年の隔たりがあるんだものね。
 それを、あっと驚く東洋の思想が結び付けて…。舞台がインドだったら分かるけど、イギリスだから驚く。キリスト教世界にも、こういった思想ってあるんだろうか?

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