日々是マーケティング

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「広告」という基本のあり方を考えさせた、オリンピックエンブレム騒動

2015-09-02 22:18:05 | ビジネス

2020年東京オリンピックのエンブレムパクリ?疑惑。
ご存じの通り、デザイナーの佐野氏からの取り下げで、とりあえずは「一件落着」した。
今回の騒動で、このエンブレムに対してデザインを仕事とされる方と、そうではない方との間で、随分意見が分かれた。
審査委員である永井一正代表は「専門家の間では、オリジナルなものだと分かり合えるが、一般ではわかり合えない」とコメントしている。
なるほど、デザインの世界では「オリジナル」ということのようだ。
同じデザインの世界で活躍されている方から、「パクられた」と言われても、違うらしい。

ただ、この「専門家」と「一般」の間を埋める努力というのは、されてきたのだろうか?という、疑問がある。
デザインをされた佐野氏は、広告という世界で活躍をされてきた。
「広告」というのは、「伝える」ということが一番大切な目的である。
まして、ポスターとなると一目で何を訴えているのか?ということが、わかりやすく表現されていないと、受け手である一般の人には、伝わってはこない。
今回のポスターの様に、丸や四角、三角といった図形を用いたデザインは、どこか似てしまう部分がある、というのは想像ができる。
何故、そのような図形を用いたデザインにしたのだろう?
広告表現というのは、とても自由なはずだ。
もしかしたら「業界のトレンド」というものを意識した結果として、そのようなデザインになってしまったのかもしれない。

とはいっても「広告」という仕事をされてきた方なら、「業界」と「一般」の間を結びつける「共通言語」としての「広告」という視点の重要性ということを、十分認識していたはずだと思う。
それが「業界」という、仲間内の言葉だけでデザインをしたような気がするのだ。

広告の中でもポスターは、一目で多くの人にわかりやすくメッセージを伝える、という目的がある。
そこに込められるメッセージは様々だし、表現の仕方も様々だ。
まして今の様に、インターネットで様々な情報を「検索」できるような時代になると、その表現方法も難しい部分はあると思う。
それでも、オリンピック誘致で使われた「リース」のポスターは、今でも一般的な評価は高い。
おそらく受け手となる市民の多くが、そのポスターを見てイメージするコトとオリンピックを、素直に結びつけるコトができるからだろう。
その理由はおそらく「コンセプト」が、はっきりしていたからかもしれない。

広告における「コンセプト」というのは、「伝えなくてはならない要点」だ。
その「伝えなくてはならない要点」が、業界関係者には理解でき、評価されても、一般の人たちに「理解」されなくては、意味がない。
広告というのは、そのようなモノなのだ。
いくら業界関係者が「良い広告」と言っても、テレビCMや雑誌、新聞などに掲載された広告が「意味不明」だと生活者が感じたら、その広告は「良い広告」だとは言えない。
ましてオリンピックのエンブレム(以前は「シンボル」と呼んでいたと思うのだが)には、キャッチコピーなどが使えないなどの、様々な制約があるはずだ。

「伝える」という広告の難しさや、「(あらゆる)業界視点」で考えるコトの危険さ、ということを今回のエンブレム騒動は、教えてくれたような気がする。