昨年末から続く豪雪災害により、NHKの報道によれば犠牲者が80名を超えたとの報道があった。
報道によれば災害派遣として陸上自衛隊が除雪や交通の確保の目的で被災地に投入されている。しかしながら、テレビ報道を見る限りにおいて住民からはもっと部隊を、とかうちの村落にも部隊を、という声が上がっている。テレビ報道はミクロ的問題をマクロ的に拾い上げ報道するという克服しがたい命題を抱えている為被災地全体の声とは必ずしも合致しないことを踏まえてもやはり不満はあるようだ。
一方で災害派遣要請を首長や県議会などが渋っているという状況も幾つか報道されている。
自衛隊法に定められているように自衛隊は独断で出動を掛ける事は出来ない。これはシビリアンコントロールの徹底により旧軍でしばしば見られた独断専行による部隊展開や緊張状態の形成という反省から来たものである。この場合、被災地と災害派遣要請を出来る立場の人間(首長)の意識の相違が問題である。
一方で、災害派遣を行う自衛隊の規模にも限界があるということを考えなければならない。災害派遣に用いられるヘリコプターや豪雪の場合用いられる雪上車の数量には限度があり、加えて他の地域からの部隊派遣にも限度がある。土地勘のない部隊を大量に派遣させても宿営地設置などで逆に非効率な状態が生じる可能性があるため、一部で言われているように余裕のある地域からの転地というのは容易ではない。
こうした中で、一般市民が出来る危機管理としては“知ろうとする”事である。皆さんの身近にある駐屯地や基地の事を特に革新と呼ばれた人たちは自衛隊や軍隊というだけで忌避する傾向があるが、そうではなく知ろうとする事が大切である。仮に民間防災自主組織というようなものがあって、大地震や豪雪、台風というような事態に遭っても自己完結で迅速に大量の人員を投射できるような状態であればこうした必要はないが、効率と事業評価が重視される現代社会にあっては自己完結と豊富な器材を有する自衛隊に頼るところが大きいはずだ。写真は81式自走架橋装置とよばれるもので、数時間で数百メートルの橋を架橋できる装備である。こうした装備が自衛隊にはあるということも知っておいて損はないはずである。
有事といえば戦争を髣髴させる方が多いようであるが平時の公共サービスが途絶する災害時は有事そのものである。
また、自衛隊の能力にも限界があることを忘れてはならない。写真のC-130H輸送機は救急車などの緊急車輌も輸送できる輸送機だが日本には16機しか配備されておらず、国際貢献任務と平時の各航空基地への輸送任務を兼任しており、写真のように災害時には災害派遣にも供される。他により小型のC-1輸送機が26機程あるがこれを加えても輸送能力には限界がある。輸送機以外にも外洋航行が可能な輸送艦は日本全体で3隻しかなく、陸上自衛隊も国土の広さに対して部隊は必ずしも充分ではない。こうした点も留意しておかなければならないと考える。
最後に、自衛隊の最大任務は国土防衛であり、災害派遣や国際貢献は実質的にその付随的任務であるという事を忘れてはならない。憲法の下の平和国家としての位置付けも外的から防衛されている事で憲法が機能していることであり、有事において外敵により占領された地域には主権が及ばず、結果的に憲法も機能しなくなる。災害派遣ばかりを見ていると自衛隊はあたかもサンダーバードのような国際救助隊と錯覚されるような方がおられるようだが、航空自衛隊は航空阻止と航空優勢確保を行い海上自衛隊は制海権の保持を遂行、陸上自衛隊はいわば本土決戦(専守防衛を貫けば自ずからこの表現となる)における陸上防衛の遂行が第一の任務である事を忘れてはならない。
サミュエルハンティントンがいうように日本はミリタリープロフェッショナルに対して敵対的な姿勢を戦後一貫して貫いてきたが、これについてはそろそろ、イデオロギー的な議論はさておき、“知る”という方向に転換しても良いのではなかろうか。
HARUNA