■コスト面での比較
緊縮財政とミサイル防衛により、平成17年度予算における陸上自衛隊装備費は、昭和62年以来の低い水準となった。結果、89式装甲戦闘車の調達は平成13年度以来年間1輌という、文字通り最低水準での細々とした調達が為されており、MLRSの車体部分が89式装甲戦闘車と同型であった為に調達が継続されていたというイメージが大きい為、いよいよ第11普通科連隊必要分も整備できないまま調達終了となりつつある。
96式装輪装甲車も16年度の31輌からほぼ半減し16輌となったが、軽装甲機動車は調達数が19輌増加し202輌となる見込みだ。 対して、アメリカ陸軍の調達量は、ストライカー装輪装甲車だけで2006年度予算要求では240輌分が要求されており、アメリカの国防予算の潤沢さを物語っている。一方で、アメリカ陸軍は予備部隊や州兵を加えた77個旅団をストライカーにより機械化する構想を掲げている為、今後更に調達数が増加する点を示唆している。 だが、ストライカーの単価は2004年調達価格で日本円に換算して1億6500万円程度と高価である。96式装輪装甲車の単価は、企業努力によって低減され、平成16年度単価は1億3000万円へと低下している。ストライカーの対地雷性能や駆動系、また照準器やデジタル通信機能が充実していることを差し引いても軽装甲機動車一輌分の価格差に当たるかというと議論の分かれるところである。一方で、96式装輪装甲車導入当時、わが国の軍事評論家の少なくない方々が高性能高価格の8輪式ではなく、何故4輪式の装甲車によって総数を充実させようとしなかったのか、という論調があった。
96式装輪装甲車も、VABやコンドルよりは当然高い生存性を有しているし、不整地突破能力では、ピラーニアやストライカー、フクスといった各国の装輪装甲車よりも致命的に低いというデータはない。 最後に、ストライカー旅団一個を創設するコストであるが、約50億㌦を要するという。陸上自衛隊装備調達費の全額を投じても達しない予算額であり、陸上自衛隊が他の装備系統を削ってストライカー旅団を編成したとしても、中期防一期分の予算的措置が必要となろう。ストライカー旅団の機動性は、各方面隊に一個旅団配置するだけで、かつての機械化混成団に求められていたような機動打撃としての防衛力を期待できる。しかし、コスト的にはあまりにも非現実的な構想であると結論付けたい。
(続く)
執筆:HARUNA
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