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京都防衛フォーラム:榛名研究室/鞍馬事務室(OCNブログ:2005.07.29~/gooブログ:2014.11.24~)

【防衛情報】米中戦争備える太平洋軍:JLTVにNSM搭載とU-2機新運用,F-35続く第六世代機

2021-06-01 20:19:44 | 先端軍事テクノロジー
■特報:世界の防衛,最新論点
 自衛隊が中国から日本の領域やシーレーンを防衛する際、現在の防衛の取り組みは果たして十分なのか、予算は限られていますがそれ以外に何か不充分なものはないか。

 アメリカのバイデン政権は中国との全面対峙を念頭にアフガニスタン撤収などインド太平洋軍の強化を進めていますが、このアフガニスタン撤収支援の為に北東アジア地域から一時的にアメリカ海軍航空母艦が払底する、皆無となる状況が生じるようです。これは近くオースチン国防長官が横須賀のロナルドレーガンの中東派遣命令を出すとの報道に基づく。

 ロナルドレーガンの中東派遣は、現在中東方面へ展開している空母ドワイライトアイゼンハワーが重整備へ7月にも中東を離れる運用に呼応するもので、バイデン大統領は9月11日までにアフガン撤収を完了するとしている事から、撤収に併せ活性化した武装勢力への抑えが必要とされる為で、北東アジア地域での空母空白は数カ月程度持続する見通しです。

 クイーンエリザベス空母戦闘群が南シナ海と日本周辺へ展開しますし、佐世保にはF-35B戦闘機を運用する強襲揚陸艦ワスプが展開していますが、多数のイージス艦とE-2C/D早期警戒機や空母航空団を運用するニミッツ級航空母艦の打撃力は破格に大きく、十月ごろまで続くロナルドレーガン展開の空白をインド太平洋軍がどのように埋めるのか、関心事です。
■インド太平洋軍の図上演習
 インド太平洋軍と紹介しますとインド軍の太平洋艦隊と云うような印象を与えてしまうのですがアメリカ軍の話題です。

 アメリカインド太平洋軍は台湾防衛に関する図上演習を定期的に実施、将官級指揮官は勿論高度政治判断を求められる状況に備え政治家も参加し実施しています。この図演では2018年と2019年に太平洋軍が中国軍に敗北、その反省を反映し2020年には勝利しました。この条件を元に2030年まで太平洋軍の優勢を維持する為に様々な新戦術や新装備を模索中です。

 自衛隊は専守防衛という枠組とともに行動や運用が極めて制限された状態での強大な中国による攻撃からの防衛を模索しています、これは自衛隊が中国軍を中国本土基地無力化を含め圧倒できる状況では成り立つものですが、現実はシーレーン維持さえ懸念すべき状況となっています。アメリカの非常に踏み込んだ研究には、参考点が多いかもしれません。
■U-2戦略偵察機担うF-35支援
 古い装備でも卓越した性能が何かあるならば開発当時思いもしなかった運用が2030年代にも通用する、そんな一例です。

 アメリカ空軍はU-2戦略偵察機とF-22,F-35等の第五世代戦闘機とのデータリンク試験を実施しました。U-2偵察機は1950年代に開発された高高度偵察機ですが、上昇限界高度は27000mとRQ-4グローバルホーク無人偵察機の17000mよりも遥かに高く、また搭載可能なセンサー重量も遥かに大きく、AI副操縦士の搭載など改良を重ね当面は現役です。

 U-2偵察機にはOSG次世代通信システムを搭載し、F-35やF-22のIFDL飛行滞空データリンクとMADL高度多機能データリンクを接続しました。F-35はF-35同士のデータリンク能力を有していますが、機体間データリンクには見通し線上にF-35が滞空する必要があり、第五世代戦闘機の分散運用という運用前提には必ずしも適合しないものがありました。

 F-35やF-22同士を結ぶ、従来は人工衛星等を用いていましたが安全な戦域外の21000m以上の高高度を滞空するU-2偵察機を低高度の人工衛星に代えて通信中継に用いる事で従来数分を要したデータリンク及びデータ送受信を数秒にまで短縮する事が出来たとのこと。F-35の情報は洋上の艦隊や地上の陸軍部隊とも連接する為、この情報共有にも寄与します。
■アメリカ級揚陸艦四番艦情報
 F-35キャリアーとして新しいポテンシャルを獲得しつつある強襲揚陸艦が更に一隻建造されます。

 アメリカ海軍はアメリカ級強襲揚陸艦四番艦についてハンティントンインガルスインダストリーズ社の間で建造に関する事前契約を更新しました。この契約更新は1億0700万ドルであり、これまでの金額を併せると4億5700万ドルとなります。アメリカ級強襲揚陸艦は最新型で、二番艦トリポリが2020年に竣工、現在は三番艦ブーゲンビルが建造中です。

 アメリカ級強襲揚陸艦は10隻が建造予定、ハンティントンインガルスインダストリーズ社は初の強襲揚陸艦イオージマ以降、アメリカ海軍へ強襲揚陸艦を供給しています。アメリカ級はワスプ級強襲揚陸艦ボノムリシャールが2019年の火災事故により全損被害を受けており、両用作戦群即応体制と強襲揚陸艦勢力を回復させるために建造が求められています。
■NGAD次世代航空支配航空機
 絶対航空優勢を維持するには戦闘機、という従来の通念ですがアメリカ空軍の視点からは必ずしもそれが唯一の回答ではないもよう。

 アメリカ空軍はNGAD次世代航空支配航空機の概念図を公表しました。NGAD次世代航空支配航空機は無人戦闘機と有人戦闘機の過渡的な運用を想定した機体であり、F-22戦闘機やF-35戦闘機などの第五世代戦闘機を補完する航空機であり、部分試作として2019年から2025年までに90億ドルの開発費、2021年だけで10億ドルが計上されています。

 NGAD次世代航空支配航空機の概念図は現行のノースロップB-2爆撃機の主翼を大幅に短縮化しF-22戦闘機に似た水平尾翼を装着したもので、技術的には空軍が開発しているB-21爆撃機の技術要素が翅いされるといい、基本的な航空機を開発した上で順次不具合を運用しつつ修正する、電気自動車の開発と運用方式を参考としたアプローチが組まれるもよう。

 F-22戦闘機やF-35戦闘機などの第五世代戦闘機を補完する航空機という位置づけの通り、NGAD次世代航空支配航空機には戦闘機としての格闘性能のような要素を盛り込むかは現時点で未定であり、B-2とF-22を併せた形状についてもあくまで概念図であるとのことで、更に初飛行の時点についても未知数、そもそも第六世代戦闘機かという点も未知数のよう。
■F-15Eを高速輸送機に応用
 自衛隊が同じ様な運用を行えば高コストで無駄と自称識者に批判されそうですが奇想天外でも手堅い案ならば実験するのが、米軍の強みだ。

 アメリカ空軍はF-15E戦闘爆撃機を用いた精密誘導弾薬高速輸送実験を実施した。これはアメリカ中央軍が検証する試験で戦闘爆撃機に兵装架以外にもJDAM精密誘導爆弾を搭載し、第一線基地へ高速輸送するというもので、任務飛行に搭載できる限界の二倍のJDAMを15発輸送、爆撃任務には対応しないが脅威状況下でもまた極めて短時間で輸送できる。

 F-15Eは第494戦闘飛行隊より6機が実験に参加、2月下旬に在英米軍のレイクンヒース基地からUAEアラブ首長国連邦のアルダフラ空軍基地へ輸送した。有事に際してはJDAMを使い果たした飛行隊のF-15EがAMRAAMにより航空優勢を維持し、その掩護下で大量のJDAMを短時間で第一線に輸送するという。F-15Eの搭載能力は戦術輸送機並みに高い。
■島嶼部防衛はJLTVにNSM
 米軍は島嶼部防衛に軽量装備を分散展開させ目標攻撃の際にミサイルのみ現場に集合する運用を本気でとり組んでいます。

 アメリカ海兵隊はNMESIS海軍海兵遠征部隊阻止システムとして、JLTV統合戦術車輛からのNSM海軍ストライクミサイル発射試験を成功させました。JLTVはアメリカ陸軍と海兵隊に装備されるハンヴィー後継の耐爆車両で、ミサイルを搭載、これは陸上自衛隊が軽装甲機動車に12式地対艦誘導弾を搭載するような極めて異例の運用となっています。

 NSM海軍ストライクミサイルはノルウェーのコングスベルク社製地対艦ミサイルであり、艦載型はNATO海軍はもちろん、アメリカ海軍のLCS沿海域戦闘艦にも暫定搭載され、射程は185kmに達します。今回NMESIS海軍海兵遠征部隊阻止システムとして投入されたJLTVは無人型となっており、離島防衛へ新しい防衛システムの構築が目指されたもの。

 NMESIS海軍海兵遠征部隊阻止システムが開発された背景には、中国海軍及び海軍歩兵部隊による太平洋進出を受け、島嶼部防衛を海兵隊全体で取り組み必要があり、海兵隊2030構想としてアメリカ海兵隊は戦車全廃を含む踏み込んだ改編を全力で進めています。NSMのJLTV搭載は小規模戦闘部隊でも対艦戦闘に参加させる運用改革の一環に挙げられます。

北大路機関:はるな くらま ひゅうが いせ
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