北大路機関

京都防衛フォーラム:榛名研究室/鞍馬事務室(OCNブログ:2005.07.29~/gooブログ:2014.11.24~)

政府専用機不具合-G7サミットへ菅総理大臣訪英直前,放置されてきた政府専用機予備機の問題

2021-06-10 20:15:41 | 防衛・安全保障
■ボーイング777-300ER
 イギリスでのG7主要七か国首脳会談の席上にどういった論点が交わされるかは安全保障上大きな関心事でしたが、そのまえに長年の問題が土壇場で判明する事となりました。

 菅総理大臣はまもなくイギリスで行われるG7主要七か国首脳会談に向けて政府専用機にて、羽田空港を出発、こうNHKが報じたのは1907時なのですが、1929時になりNHKニュース7の最後の段階で今はいったニュース、という報道に、政府専用機に不具合が発生した為、菅総理大臣が搭乗する機体を交換する可能性がある、などと報じられました。

 政府専用機故障、G7サミットへ出発直前という状況で器材不具合が判明するというのは非常に残念ではあるのですが、問題は前々から指摘されていました、それは政府専用機の予備機材の少なさ、という問題です。もともと政府専用機は要人輸送に際しては、任務機と副務機の2機で運用されます、しかし政府専用機は2機だけしか導入されていません。

 ボーイング777-300ER、政府専用機は北海道千歳基地の航空自衛隊特別航空輸送隊第701飛行隊に配備されています。この特別航空輸送隊は1987年に最初の政府専用機導入が決定した際、政府専用機を導入した総理府には大型輸送機を運用する実動組織が無い為に、防衛庁に運用を移管したことで創設されています。その前は日本航空を利用していたのです。

 日本航空は中曽根内閣時代まで長らく半官半民の半分国有という航空会社でしたので、政府は首相外遊や邦人救出など緊急に航空輸送が必要となった際には日本航空が当時100機以上を保有していたボーイング747旅客機などをチャーターし、対応していました。しかし、イランイラク戦争邦人救出に際し日本航空は安全上の理由で拒否したという歴史が。

 総理大臣が搭乗する政府専用機、といいますと贅沢だ、と反論される方もいるようですが、導入の経緯をみますと分かりますように、政府専用機とは航空自衛隊が運用する大型旅客機を転用した人員輸送機に他ならず、総理大臣だけの専用機ではなく、過去には自衛隊員のイラクへの輸送、北朝鮮からの拉致被害者救出輸送にも運用された、輸送機なのですね。

 政府専用機は、1980年代、日本国民の経済活動範囲が地球規模で拡大すると共に国として必要な場合に即座に運用できる航空機として導入されるとともに、また、当時政治問題化していた日米貿易摩擦の相殺に大型旅客機を日本政府が保有する、という意味合いも含め導入されています。しかし、日本の財政は有限であり、政府専用機に問題が生じました。

 三機体制、要人輸送は一機に閣僚全員が搭乗し、万一の事態となった場合は取り返しがつきません、過去には国連事務総長や国家元首が搭乗したVIP専用機が墜落した事態も実際に発生していますので、国家としてはリスクを回避せねばなりません、その為に、任務機と副務機の2機で運用する原則があるのですね、閣僚と随行員と首相は別々に移動する。

 任務機と副務機の2機、航空自衛隊はそれで2機体制で運用するには、一機が定期整備中に移動する必要が生じた際、また、一機が故障した際に対応できない為、任務機と副務機に加えて予備機の3機体制が必要である、と主張し続けてきましたし、実際、ボーイング747-400を政府専用機として導入した際には実際に、予備機を防衛庁が要求しています。

 大蔵省は、しかし予備機を導入する必要はないとして査定の際に調達を認めませんでした。ただ、航空自衛隊も要人輸送の重責を担う為に、そのまま予備機無しの状態でそのまま放置、という訳にも参りませんので、過去には政府専用機のボーイング747-400に加えて中古のボーイング767旅客機2機を導入する案も示しましたが、財務省は認めませんでした。

 U-4多用途機という、航空自衛隊には要人輸送にあてるビジネスジェットを3機保有しています、2008年の北京五輪には当時の福田総理大臣が政府専用機ではなくU-4に登場し北京を訪問しています、ただ、こちらは航続距離が7800kmしかなく、これはビジネスジェットとしては優秀なのですが、太平洋横断や今回の訪欧には十分とは言い難い性能です。

 現在であれば、2000年代に導入したC-2輸送機やKC-767空中給油機などが航続距離も長く、またKC-767などがありますが、政府専用機が故障したと云って即座に代替に充てられるようにはなっていません、KC-767は旅客機に準じた人員輸送用の客席こそ有していますが、給食設備などは欧州や北米までのVIPの長時間飛行を想定したものではありません。

 任務機と副務機、報道されている限りでは報道員は任務機に搭乗しており、この後に菅総理大臣が搭乗して出発、というところで故障が発覚し、報道陣は副務機に乗り換える事となったようです。すると、今回の訪英はボーイング777-300ERの副務機だけで先行する形で派遣し、不具合が判明した任務機は修理完了後にそのまま派遣、となるのでしょうか。

 政府専用機、しかし、上掲の通り2機体制では不充分であると指摘され続けていますし、防衛省も3号機の導入を幾度も要求してきました。なにしろ日本の政府専用機は単なる大型人員輸送機であり、アメリカのエアフォースワンのような大統領が個人的にも利用できるVIP専用機ではないのです、もう1機を追加したとしてもそれ程負担にはなりません。

 G7サミット訪英へ菅総理出発のその瞬間に、政府専用機故障、もっともアメリカのバイデン大統領もエアフォースワンが大発生したセミの影響で出発が遅れたという椿事も同時に発生しているのですが、敢えて政府専用機の予備機予算、第701飛行隊の3機体制というものを、補正予算ででも考えてみてはどうでしょうか、今がその時機だとも考えるのです。

北大路機関:はるな くらま ひゅうが いせ
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