北大路機関

京都防衛フォーラム:榛名研究室/鞍馬事務室(OCNブログ:2005.07.29~/gooブログ:2014.11.24~)

ウクライナ軍春期反撃準備と不気味なロシア航空宇宙軍の温存-F-16供与要請に関するアメリカの危険な楽観論

2023-04-27 20:20:29 | 防衛・安全保障
■F-16戦闘機の必要性
 アメリカは制空権を前提としたドクトリンが固定化し現在のウクライナ軍がF-16戦闘機を求める切迫感を理解していないのではないかと危惧します。

 ウクライナ軍の春期反撃、この論点について少し考えてみましょう。レオパルド2主力戦車の引き渡しが開始され、この三週間程度はウクライナ軍の砲兵も活動が抑えられており、大規模攻勢に向けて備蓄が進められていると考えられています。ウクライナ軍は過去に情報保全によりハリコフ奪還やキエフ防衛戦、ヘルソン奪還と反撃を成功させてきています。

 ロシア空軍。問題は今回の反撃に一つの不確定要素が含まれているということで、それは現在のロシアウクライナ戦争が空軍不在の奇妙な戦争という状況です、これが今後も続きうるのかという視座なのです。BBCはウクライナ軍がドニエプル川東岸に布陣しており攻勢に適した位置であるとのISWアメリカ戦争研究所の分析を報道しています。しかし。

 しかし、問題はロシア航空宇宙軍が本格的に空軍力を発揮するのが近いのではないか、という懸念があるためです。するとみなさま疑問に思われるでしょう、なぜ21世紀の戦争にも関わらず空軍がまともに投入されないかという現状を。理由は簡単で、ソ連時代に開発されロシア軍とウクライナ軍が運用するS-300地対空ミサイルが強力すぎるゆえでした。

 S-300地対空ミサイル、広大なソ連本土を防空するために非常に射程が長く、もちろん対レーダーミサイルのような装備、これは自衛隊にも欠けていると1990年代から指摘され続けているが放置されている問題だ、こうした防空制圧装備があれば無力化はできないことはないのですが、ロシア軍とウクライナ軍はともにこの能力が欠けていました。重大です。

 空軍を投入するにも双方のS-300ミサイルが協力であり、そして互いにこれを圧倒できる決定打となる防空制圧能力が欠けている為に、S-300にねらわれない空軍の運用、ウクライナ空軍は最前線から離れた首都キエフを巡航ミサイルなどから防衛する局地防空、そして最前線ではロシアとウクライナが低空飛行可能なSu-25攻撃機を散発的に使う現状です。

 ミサイル備蓄、さてSu-25攻撃機が散発的に近接航空支援を行う程度というのが現状なのですが、問題はウクライナのS-300地対空ミサイルがそろそろ枯渇する現状です。これは、ロシアがカリブル巡航ミサイルや、イランから大量導入した特攻ドローンによる無差別攻撃の迎撃任務などかなりを使い切ってしまった現状があります。そして補充はありません。

 ペトリオットミサイル、ウクライナへはドイツから西側の長射程地対空ミサイルであるペトリオットの供与が開始されました。これによりある程度の防空能力が確保されたといえるのかもしれませんが、問題はそ射程です。S-300の射程は300kmでペトリオットは100km、それは運用思想の違いなのですが、ペトリオットミサイルについては、大幅に射程が短い。

 唯一の楽観要素はSu-30戦闘機にしてもMiG-29戦闘機にしても搭載ミサイルの性能から対地攻撃能力がそれほど高くない、ということでしょう。そして1998年ユーゴ空爆の際にNATOがさんざん経験したのですが、隠れている戦車を空から見つけだすのは簡単ではありません、そこに地対空ミサイルや防空砲兵部隊がいるならばなおさらといえるでしょう。

 京都駅から北大路駅は直線8km程度、よく例に挙げるのですがヘルファイアミサイルの射程が8kmですのでほぼほぼ届くこととなります、すると例えば35mm高射機関砲の射程は3.5km程度ですから圧倒できるようにおもえるのですが、さて、それならば仮に眼下の東山の森林に87式自走高射機関砲が6両隠れているとして、見つけられますか、と。

 航空機は飛行しているのですから丸見えです、北大路駅あたりを攻撃しようとして気づかず目の前の清水五条あたりから機関砲でたたき落とされるということがあり得る。こう考えると防空制圧の難しさというものと、難しくともやらねばならない現実の厳しさを突きつけられるのですが、一方でロシア空軍がほぼ無傷ということもまた現実なのです、ね。

 ソ連空軍とソ連防空軍の時代を思い出せばロシア空軍戦闘機の数はかなり減っている、けれどもMiG-29/35が273機、防空用のMiG-31が130機とSu-27が359機、多用途戦闘機のSu-30/34/35が367機、戦闘爆撃機であるSu-24が273機、それに対置攻撃機であるSu-25が192機、超音速爆撃機Tu-22Mが66機、戦略爆撃機Tu-160は15機、Tu-95も。

 ロシア海軍航空隊でさえSu-27が53機にSu-30/33が48機とMiG-29が22機、ウクライナ空軍よりも数と質において優勢です。ロシア空軍は緒戦において稚拙な運用から戦闘機など80機を喪失しています、がそのあとは戦闘機を前に出さないという異例の運用を採っています。しかしウクライナの地対空ミサイルが枯渇しつつある今、次が問題となる。

 F-16戦闘機、アメリカはウクライナ政府が繰り返しもとめているF-16戦闘機の供与を、戦争が拡大させる要因、機種転換訓練に時間がかかりすぎる、こうした二つの点を理由に拒否し続けています。結果的にウクライナは、昨今ようやくスロバキアとポーランドからMiG-29戦闘機が供与されたのですが、空軍力が不足している状況はそのままでもある。

 ペトリオットミサイルのようなある程度の射程のあるものを大量に供給できれば、多少打つ手はあるのかもしれませんが、ペトリオットミサイルはF-16戦闘機などの防空体系の最終段階を担うもので、これはあたかもゴールキーパーだけ準備してサッカーの試合に臨むようなもの、DFとMFを担う戦闘機はどちらにしても必要なことにかわりはない。

 アメリカ海軍で退役しているF/A-18C/D戦闘機、F/A-18E/Fの数が揃い退役しました。これを映画の“インディペンデンスデイ”のように簡単に機種転換できるとは考えませんが、これを政治的に供与が難しいならば二年間の貸与でも検討すべきではないか、そもそもアメリカは制空権を前提とした戦いが固定概念となっておりF-16供与を棚上げする危険性、現状を認識できていない事を懸念するのです。

北大路機関:はるな くらま ひゅうが いせ
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自衛隊ミサイル射程900kmの意味:中国海軍航空母艦の太平洋進出と12式地対艦誘導弾能力向上型量産開始

2023-04-27 07:01:01 | 先端軍事テクノロジー
■太平洋からの脅威へ
 12式地対艦誘導弾能力向上型というのは防衛上重要な間に合った装備にカテゴライズされるのかもしれない。

 中国海軍航空母艦の太平洋進出、現在保有している航空母艦は遼寧と山東の2隻体制ですが、2024年には空母福建が竣工する見通しであることから、3隻によるローテーション体制、重整備と補給整備と稼働空母という、1隻の空母を常時遊弋させる体制が完成すると考えられます。まさに日本は小笠原諸島などの防衛を再検討する時期が迫っている。

 12式地対艦誘導弾能力向上型、僥倖というべきかもしれませんが今年から射程900kmという12式地対艦誘導弾能力向上型の量産が開始されます。この900kmという射程は重要で射程500㎞を超えるミサイルは、大量破壊兵器運搬技術拡散防止レジームに抵触する関係上、第三国への供与に制限があり、これらの装備の国産技術は非常に重要なのです。

 900㎞の射程のミサイルであれば、長大な小笠原諸島であっても二か所に配備することでほぼ全域をカバーすることが可能です。そして小笠原諸島には戦闘部隊は展開していませんが、海上自衛隊の硫黄島航空基地、海上自衛隊父島基地、分遣隊が置かれるのみですが南鳥島航空基地など、自衛隊が用地として使用できる拠点は一応整備されています。

 第73航空隊の硫黄島航空分遣隊としてUH-60J救難ヘリコプターも常駐しています、そして小笠原諸島は日本本土から離れている分、無人航空機試験や電子妨害装置試験など、本州で行えば航空法の問題や携帯電話を含む通信ネットワークを麻痺させかねない実験も可能であるとして、一応戦闘機部隊や評価試験、実験部隊の往来は頻繁に行われています。

 宇都宮の第6地対艦ミサイル連隊廃止は、先走りすぎた決定でした、2001年に新編され2011年に僅か10年間で廃止された東部方面隊直轄部隊です。例えば硫黄島か父島、南鳥島、この二か所に地対艦ミサイル中隊を派遣するだけで射程900㎞のミサイルは、少なくともここは日本領土であると強烈なプレゼンスを航空母艦へ行使することが可能です。

 南鳥島は東京から1860㎞の距離にあり、南鳥島と千葉県あたりに12式地対艦誘導弾能力向上型を配備しますと、中央部分に若干空白地帯は残りますがほぼ全域を射程内とできます、そして父島から東京までは980㎞、他方父島から沖ノ鳥島までは967㎞で若干届きません。一方硫黄島から沖ノ鳥島は723㎞、射程900㎞であれば充分届くのです。

北大路機関:はるな くらま ひゅうが いせ
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