北大路機関

京都防衛フォーラム:榛名研究室/鞍馬事務室(OCNブログ:2005.07.29~/gooブログ:2014.11.24~)

南シナ海は第二のオホーツク海となる【5】21世紀核軍拡と竹のカーテンを前に専守防衛再考

2019-06-10 20:12:12 | 国際・政治
■重要なのは既成事実化阻止
 専守防衛という施策からは南シナ海は遠い異世界の話なのかもしれませんが、抑制的な防衛政策が必ずしも憲法が定める平和的生存権に繋がるとは限りません。

 竹のカーテンが南シナ海に降ろされるのを回避するにはどうするべきか。南シナ海にヴェトナムやフィリピンから武力奪取した環礁の軍事施設化が資源獲得ではなく戦略ミサイル原潜聖域確保であったとするならば、既成事実を構築される前に、関与の姿勢と関心の誇示を続け、中国政府へ日本政府の厳しい姿勢を示唆し、次善策を求める他無いでしょう。

 日本側が示す関与の姿勢とは、例えばアメリカの航行の自由作戦に参加する必要はないが、宣言せずとも平時から公海としての扱いを重視する方策、また友愛ボートとして継続される自衛隊と非政府団体との協力による東南アジア地域での人道支援訓練や民生協力の拡大、国内で充分確保出来ない行進間戦車射撃場等の訓練移転の当該地域への借用等考えられる。

 専守防衛からの逸脱とならない範囲内で、しかし、専守防衛が本土決戦以外不可との防衛政策ではない点を再確認しつつ、抑制的な防衛政策に限定した上でも、南シナ海への中国海軍戦略ミサイル原潜聖域化を目的とした、南シナ海の閉塞化、恰も東西冷戦下でのソ連によるオホーツク海閉塞化に並ぶ施策の再来となった場合の影響は計算しておくべきです。

 シーレーン防衛という観点からは、勿論南シナ海地域での任務が求められる可能性はあります、例えば戦略ミサイル原潜防衛の為に、緊張が一定程度高まった際に商船等の航行が南シナ海全域で制限された場合には、南シナ海を唯一の海上航路とする諸国との交通が大きく途絶する事を意味します、その際に自衛隊へ海上警備行動命令が発令される可能性も。

 海上警備行動命令ですが、南シナ海の様な遠隔地域に発令されるのかと問われた場合、過去の実例としてソマリア沖海賊対処派遣任務について、遠く離れたアフリカ沖での任務ながら海賊対処特別措置法成立までの暫定措置として、自衛隊法に基づく海上警備行動命令が発令された実例があります。また更に厳しい情勢では防衛出動命令の可能性もあります。

 原潜聖域を突破する、重要な視点は中国軍が戦略ミサイル原潜の聖域を構築し、その上で戦略ミサイル原潜を使用する瀬戸際という緊張状態まで待って、その上で商船の航行が阻害された為に海上警備行動を発令するまで、待ちの姿勢であっては、状況を悪化させる可能性があるという点で、これは攻められるまで待つ従来の防衛戦略の転換を迫られる事に。

 予防外交、抑止戦略、我が国が戦後堅持した専守防衛政策は、地域紛争が小火の内に安定化するという施策を自制してしまい、取り返しのつかない状況まで防衛力を用いられないという建前が、最高法規である憲法に明示している為、必ずしも平和維持と平和構築を求めず、手段が平和、結果は平和の保証なし、という状況で推移した歴史が戦後ありました。

 南シナ海は第二のオホーツク海となる、本特集ですが重要なのは、南シナ海は第二のオホーツク海となった、という主題ではないという点です。我が国シーレーン防衛を考えた場合、南シナ海が第二のオホーツク海となる以前に抑止する事が望ましい。これはオホーツク海がソ連核の聖域となった1950年代当時と違い、我が国には拒否する選択肢があります。

 核の海を拒否する選択肢、別に米中の軍事衝突や核戦争位は無視して日本は平和主義を貫けばよい、と反論があるでしょうが、中国は核拡散防止条約に加盟しており、2003年の加盟国会合において核拡散防止条約に明記された核兵器国の核軍縮義務を中国代表はNPOとの拡大会合議事において中国も義務を負っている、と発言し、記録されているのですね。

 南シナ海を核の海とし、これまで試験運用に留めていた戦略ミサイル原潜を量産する事は、広島長崎原爆投下から七十年以上経て、更に冷戦構造が終結した後の三十年を経て、米ロ両国が抜本的な核軍縮を進める中で、中国が新しい核軍拡を行う事は人類への背信としか言いようがありません。この正論だけでも国際公序として中国施策を拒否する権利がある。

 日本が採り得る具体策は何か。アメリカ海軍のように年に数回の頻度で航行の自由作戦を繰り返しても本質的な解決とはなりません。勿論中国大使館で平和を訴えるという事もあまり意味がありません。しかし、水陸機動団により中国人工島付近を遊弋させるとか、中国空母へ潜水艦隊が模擬襲撃運動を繰り返す、という施策でも、やや性急すぎるやもしれない。

 ただ、中国の核軍拡への反対と海洋自由原則に反する戦略ミサイル原潜聖域構築への反対姿勢は、国際公序に沿ったもので、世界の賛同と場合によっては参画も得られるものでしょう。その上で、竹のカーテンにより南シナ海閉塞が現実のものとなった後では手遅れであり、南シナ海を核の海とさせぬ為に可能な施策は何か、専守防衛の再論が必要でしょう。

北大路機関:はるな くらま ひゅうが いせ
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19 コメント

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Unknown (流線形)
2019-06-11 22:00:43
南シナ海は、国際物流の大動脈であり、かつ、その航路の殆どが公海上にあります。
公海であるにも関わらず、国際法が適用されず、中国のコントロール下にあると公言してますよね。
中国が決めたルールに従っている限りにおいては、航行に制約は無いと言っている。
問題は、各国が平等、対等に扱われるFairで予測可能性が担保されたルールの存在を排除しているという事です。
中国によるDominationを認めてしまえば、中国以外の国の利害と、中国の利害が衝突した場合、中国の利害が無条件で通る環境を作出してしまうのです。
つまり、現在の国際法の下の平等、対等、予測可能性といった安定性が損なわれる事になるのです。
Fairな法的安定性が担保されない環境において、健全な経済活動は望めない=日本の凋落は決定的になってしまいます。
そういった意味において、国際法を遵守し、擁護、実効性を担保する為の活動に日本が参画していく事は、
自国、自国民を守る事に繋がります。(なので、PKOに日本が積極的に関与し、国連の機能を維持していく事は、自国、自国民を守る事になるのです)
また、TTP推進やWTO改革を通じたFairな世界貿易体制強化への関与は、特定の国家によるDominantを防ぐ意味においても重要な施策の一つになりうるでしょう。
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Unknown (人民の目)
2019-06-11 23:11:49
カリブ海がアメリカの内海のような扱いを受けているのに、なぜ中国が南シナ海で指導的立場になる事に文句を言うのであろうか?答えは明白だ。差別だからだ。
白人の欧米国がやるのは許されるが、アジア最強の国がやるのは許さない。人種差別を覆い隠すカーテンこそ問題にあげられるべき。
中国は徹頭徹尾、南シナ海をカバーするべきだ。断固たる決意で
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国際公序 (はるな)
2019-06-12 19:09:33
流線形 様 こんばんは

海洋自由原則は第二次大戦後の国際公序であり、ここに21世紀に入り挑戦があるとは、ある意味驚きです。ただ、第二のオホーツク海となる問題は、単に原潜聖域が世界有数の海上通商路に敷かれ閉ざされるのみならず、冷戦時代にオホーツク海に面した北海道の緊張が、南シナ海沿岸に再来する懸念が、あるのですよね
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グローバルな視点から (はるな)
2019-06-12 19:13:33
人民の目 さま

海洋自由原則はグローバルな視点です、誰のものでもない、故に国際公序たりえる

なお、カリブ海では海洋閉塞化は行われていません、もっとも麻薬密輸は取り締まりがありますが、沿岸国が主体です

ところで、アジア最強ならば何をしても良い、それは当然、戦前の日本にも当てはまる、とお考えなのですよね?特に他意はないのですが、ふと
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Unknown (Dicotheque)
2019-06-13 02:55:25
>人民の目

どこのアメリカがカリブ海の低潮高地を埋め立てて人工島にし、そこに軍事力を駐屯させてミサイルなどを配備していると言うのか?具体例上げて言え。相変わらず儒教圏人特有の他人には許されないことも自分達には許されるという何の根拠もない不平等な優越意識に満ちた見解だが、お前少しは気狂いを止めたらどうか。世界の諸国民は断じてお前らの不平等な優越など認めはしない。肝に銘じておけ。
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Unknown (流線形)
2019-06-13 22:17:40
カリブ海の公海において、米国が自国法が適用されると宣言した事はありませんよ。
それから、はるな様も補足されていましたが、カリブ海の公海上で麻薬取締を行なっておりますが、
これは、沿岸国との協力により実施されています(情報の共有や、取締能力構築支援など)。
また、取締活動の主体は、沿岸警備隊です。
実際の臨検は、国際海洋法などに基づき実施されています。
よって、米国がカリブ海を自国法の下に置いているという主張は、根拠がありません。
軍事プレゼンスと公海を自国法の下に置くという事を混同した主張でしょう。
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Unknown (人民の目)
2019-06-13 22:18:52
Dicothequeへ与えるコメント

まずはその非礼な物言いについて謝罪と撤回をするよう要求する。

お前はアメリカのキューバ政策や中米諸国への露骨な武力干渉を知らないで発言しているのか?無知であるなら恥じよ。
歴史を学ばない者に何かを語る資格は無い

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Unknown (ドナルド)
2019-06-13 22:55:50
人民の目様

おっしゃる通りです。中国もベトナムに露骨な武力干渉をしているし、フィリピンから米軍が撤退した瞬間に、係争地の島を突然占領しましたよね?あと、インド・パキスタンとも戦争していますよね?違いはないかと。

その上で、アメリカはただの岩礁を埋め立てて自国の島だと主張するような国際法違反はしていないし、対空ミサイルを配備もしていない、ということです。


ちなみに、第2次世界大戦以降、日本は一切そういう行動をしていません。それで第2次大戦の侵略が消えるわけではありませんが、ここ75年間に限れば、アジアにおいて中国よりもはるかに平和を守ってきたことは事実です。

事実に基づいて議論しましょう。
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時際法 (はるな)
2019-06-13 23:18:37
市民の目 さま

時際法という概念をお忘れなく。ルーズベルト大統領が砲艦外交を行なった、だからこそ国際法成文化の流れが進み、不戦条約と国際連盟規約が構成されました、市民の目さんが言うアメリカの中南米への露骨な介入は国際連盟時代の話です。いまは21世紀、中国も清帝国ではありません

歴史を学ぶことことは大切ですが、歴史から戻れなくなっては意味がありません、そして清帝国ではなく中華人民共和国は国連加盟国であり、国連海洋法条約に批准しています、だからこそ、国連海洋法条約に反する人工島の島嶼化や、国連憲章に反する他国環礁の武力奪取は、許されないのではないでしょうか

勿論、中国が国連より優位にある、というならば別の話ですよ
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価値観は出身文化に形作られる (はるな)
2019-06-13 23:31:48
市民の目 さま

>非礼な物言いについて謝罪と撤回をするよう要求する

第三者への命令口調、丁度日中共同制作の”蒼穹の昴”が再放送していたからか、前の表現からあなたは清帝国の時代の価値観で錯覚し語られているような印象を感じたのですが、上記表現も相当失礼ですよ?

何を書いても許される、と錯覚してはいませんか?価値観は出身文化に形作られるのですが、第三者にどうしたらば不快感を与えず議論できるかを学んでください

貴殿表現へ、こうしたお声を幾つか頂きました、これを受けての、管理人としての”指摘”です
返信する

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