魚がこれだから肉にあってはこれ以上に手間と暇を掛けているに違いない。
視点を変えて作る側に立って考えてみよう。
普通、料理をする側は美味しくて喜んで食べてもらえるものを作るはずだ。それが病院食を作ると言う仕事になるとそういう訳にいかないのだろう。魚を料理せずに旨味の総てを下水に流して形だけを残して食べてもらう。給食の現場の料理人には食べる側の我々には到底理解できない辛い苦労があったのではあるまいか。このような病人食を作る人はさぞ無念ではなかろうか。
ベッドの上で運ばれてくるのをただ待つ我々は料理(と言っていいものか)されたものに文句を言うのだから撥が当たるというものではないか。
CT、MRI、造影剤、これらを使えば背中の中なんて一目瞭然である。首から腰にかけて脊髄の白い繊維が束になって見えている。ところが私の場合、腰椎の1,2,3番の部分でその白い繊維が見えないのである。見えないどころか途中で無くなっているようにも見える。「実はこうこうこうで・・・」と話すと「相当長い間じわじわと圧迫されていたんですね」「普通ならこの4,5番が変形していくんですが」「はあ」どうも私は普通の人間ではないらしく損傷する場所も数も異常のようだ。しかし、話の内容はそれ程深刻でもないようではある。
「ここをこうしてこのようにして医師団で方針を決めてこの様に手術しましょう。相当長い間圧迫されていますので手術後すぐに元に戻るとは言えませんが、まあ神経自体は傷 ついていないようですから」
「何時しますかね。8月24日に入院して翌日25日一番で手術できますが」「どうされます」
「それでいいですよ」
私の肩口から妻が即座に返事をした。その唐突な妻の横槍に医師も私もあっけにとられて二人で妻の顔をまじまじと見つめてしまった。医師はいいのかなという顔で私を見た。
「じゃあそれでいこうか」