
「はは、よく来たな」その気持ちの現れに対する謝辞の言葉を発しようとした時である。間髪入れずに「来いと言ったじゃないですか」「来て手品でも見せろよと言ったじゃないですか」彼の脳裏には私に命令されたから行かなければいかんという服従意識が働いたのである。働いたといっても七割位だろう。残りの三割は妻が買い物に行った時にでも私の居場所を聞いた上での判断だったろう。合計して考えてもやはり見舞いには行こうという心配する意識が働いたのは事実である。
いや待てよ。ただ手品を見せびらかしたいだけだったかもしれん。まあそれでも有難いことではないか。
私がこの彼が手品をすることを何時知ったのかということである。
たまたまテレビを点けてみると「えー」テレビの向うに見た顔がニコニコして話をしているではないか。しかも早く歯を入れろよと言っているにも拘らずそのままにしている口を大きく開けて笑っているのである。その横には一段と背の低い、これまた満面の笑みをたたえて何か喋っている。そう、この二人は手品師の両親である。もう老夫婦の域に入っているかもしれんが。