「あーこの手ですね この手が千円札をコピーしてるんですよ」
「はあー コピー」この遣り取りの間担当はどのような顔をしているのだろうか。また何を考えているのだろうか。一言もないのだが。
「コピーですよ コピー」と言いながらもぎこちなく右左に左手を動かしている。私は担当がどのような顔でこの様子を見ているのかなと思って担当の顔を見ようとした瞬間、
「いいかな」
「コピー終わったんか」と、ベッドの上を見ると千円札が消えていたのである。
「おー この手品成功じゃあないか」
「違いますよ 関係ありませんよ 直しただけですよ」盗られるとやばいとでも思ったか、この野郎は。
再度「いいですかー」
「おー」あの、よれよれの紙が見事に千円札に変わったではないか。
「おー」担当君の声である。初めて手品に反応したのである。手品師は彼の感動したような声には敏感であった。ニコッと笑うやいなや即座に千円札を一万円札に変えたのである。
「おー」担当君の声が一段と高くなる。手品師もその反応には大満足のようだ。
「ちょっと待てよ」と水を差す。
「なんですか」
「お前一万円札はコピーしてなかろうが どうしてそうなるんか」
「はー」答えが返ってこずにもう次のショーに取り掛かろうとしている。ここぞとばかりに担当君を虜にしようとしているのだろう。私の質問には全くの無視である。私も別に答えを返してもらおうとは思わなかったし、茶々入れただけだから。