森の中の一本の木

想いを過去に飛ばしながら、今を見つめて明日を探しています。とりあえず今日はスマイル
  

ハロウィーン・ナイト―カラスの微笑み

2008-11-01 12:11:17 | 詩、小説

「月は赤く、森は緑」の続きです。>  

  

   季節はどんどん変わっていった。

 森は色づいて、雨のように枯葉が落ちていく。

           

「どうして行かないなんて言うんですカァ。」と朝からカラスが煩くて叶わない。

「今日はハロウィーンなんですよ。一緒にまた街まで行きましょうよ。」

「おいら、・・じゃなくて、僕は行かないよ。」

「何ですか? その『僕は』って。」

「あの少年が言っていたじゃないか、『僕が』って。この先、おいらは頑張ることにしたんだよ。ああ、言った傍から間違えた。何を頑張るのかって言うとさ、自分をしっかり育てることにしたんだよ。そうして、10年、30年、100年、200年経った時、『おいら』じゃ、ちょっと可笑しいだろう。」

「100年、200年の木が『僕』って言うのも似合いませんがね。まぁ、好きにしたら良いんじゃないですか。」

そう言って、カラスは行きかけたが、また戻って来た。

「うっかり話をはぐらかされてしまいそうになりましたぜ。だから、夜、街に行こうと言う話はどうなったんでしたっけ。」

 お・・、僕は諭すように言った。

「だって、カラスよ。行こうと思っても魂を移すガラクタがもうないだろう。」

「ワタクシだって、そこの所は考えていますよ。イヤね、もっと早くに気が付けば良かったんですが、そうすりゃ若くなってしまっただんなも、危ない目に遭わなくても良かったんですよ。
 ガラクタがワタクシとその仲間で持ってきやす。それで使い終わったら、若くなってしまっただんなはここに帰ってきて、その後、ワタクシ達で、街に戻します。もちろん、あまりに大きなものはダメですが、足りないところは森の小枝を使ったらいいじゃないですか。
小枝とか、・・・・・・!」

「だめだよ、絶対にそんなことをしないって約束してくれ。だって、森にガラクタを運ぶところも、街に返すところも誰かに見られたら、お前達がどんな誤解を受けて、どんな酷い目にあうか、考えただけでも震えが来てしまうから。」

そういうと、カラスはあっさり引き下がった。
「分かりやした。
ところで、今気が付いたのですが、若くなってしまっただんなの周りには、あまり小枝や葉っぱが落ちていませんね。」

「小さな木だもの。落とすものも少ないんだよ。」

「それはいけませんね。秋が過ぎると寒い冬が来る。その時根元にもっと葉っぱが落ちていたら、暖かいってものですよ。それに春が来る頃、それらは養分にもなりますからね。後でワタクシと仲間で根元にどっさり届けて差し上げましょう。」

 そう言って、カラスは飛び立っていってしまった。

確かに毎年冬はちょっと寒かったな。そういうことを言うのなら、それこそ早くに気が付いてくれればいいものを、とちょっぴり僕は思ったね。

 

 少し立つと、やたらカラスの仲間がやって来て、僕の根元に葉っぱを落として行った。ちょっと多すぎるだろうというくらいの分量だ。

その後カラスがまたやって来て言った。

「ちょっと、多いように感じますがね、明日は強い風が吹きそうだ。ちょうどいい分量になりますよ。」

「だけどこの葉っぱたちは本当に落ちていた葉っぱなのかい。やけに綺麗な色をしているけれど。」

「ところで、若くなってしまっただんな。」カラスはそれには答えず、話を変えた。
「どうして、街に行かないなんていうんですか。」

「だって、毎年は行ってなかっただろう。最後に行った年から何年たったことやら。それに行った所で本当は綺麗な不細工ブチ猫も、ハンサム黒猫もいないんだよ。行った所で仕方がないよ。」

 「せっかく今年は、ハロウィーンの仮装コンテストもあるのにな。」

「出るわけないだろう。」と僕は呆れて言った。

「街を歩いているものを、勝手に審査してくれるんですよ。それに若くなってしまっただんなは、死んでしまった猫達の事ばかり思っているようだけれど、あの時逃がしてあげた三毛猫や白猫のことは気にならないですか。あの時森にやって来た少年の事は、気にならないんですか。『僕は』なんて言っている位だから、気にならないわけないですよね。
 という訳で、ワタクシは先に言っていますから、気が向いたら足を運びなさいって。」

「だから行けないし、行かないって言っているのに。」と、僕が言い返したときには、カラスは隣の大木の梢に飛び移って、ニヤリと笑うように
「カア」と鳴いた。

 

                   

 

 それから数ヶ月後のある日、カラスがなんだか上機嫌でやって来た。

口に何かを銜えて(くわえて)いたが、それを僕の小枝に突き刺した。突き刺したのは古新聞だった。カラスは勝ったかのように声高に、その新聞を読んだ。

「『ハロウィーン仮装、優勝者はリーフ・マン!』」

僕はじっと黙っていた。

「何か?」とカラスは言った。

「何が?」と僕は言い返した。

 カラスの瞳が輝いて、カラスは嬉しそうに、そして満足そうに微笑んだように見えた。

「その続きがあるんです。『三ヶ月の間に優勝者が名乗り出なかったら、その賞金は森の清掃に当てる。』

ちょっと油断をしていたら、森の入り口がまたやられちまったんですよ。このリーフマンが名乗り出るとは思えませんからね・・・・。お陰で先日すっかり綺麗になりましたよ。」

「それだったら、最初から僕に頼めば良かったじゃないか。」

「おや、リーフ・マンは若くなってしまっただんなですか?」

「・・・・。」僕は黙った。

「でもそれじゃワタクシにとって、あまり意味がないんです。ワタクシはこう言いたかっただけなんですよ。
『願いは叶いました。ありがとう。』
今、森では静かなブームなんですよ。だから、いつかワタクシも言ってみたいとものだなと思っていたのです。

頼んでしまっては、喜びも半減するって言うもので。しかも、若くなってしまっただんなが、分かっていて街に出かけたら、たぶんエラク緊張するか、または余計に張り切って良い事なかったと思いやす。

願いが叶うと言うことは、なんて嬉しいことなんだ。と言うことは願いを持つと言うことが嬉しいことなんだな。」

カラスは饒舌に語ると去っていった。

 

してみると、僕の今の願いはなんだろう。そんなことを考えていたら、トロトロと眠くなってきてしまったよ。

おや、空からなにやら白いものが落ちてきた。そうすると明日の朝には森も景色を変えるのか。

ちょっと、僕はまどろんで、白い少女の夢を見よう。

 

                 

                         リーフ・マン

 

                

                     


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