京の辻から   - 心ころころ好日

名残りを惜しみ、余韻をとどめつつ…

雨なれば、大田の沢のかきつばた

2021年05月05日 | こんなところ訪ねて
五月五日、静かに雨が降り続いた。

『枕草子』【10】では、「五月五日は、くもりくらしたる。」とあって、五節句の節目を中心に、その季節美を「…をかし」と描いている。(岩波の日本古典文学大系による)
菖蒲の節句とも言われるこの日、サトイモ科の根の長い菖蒲を軒の瓦に葺いて(挿して)、その香りを楽しんだ。曇って湿度があるほうが、香りはより引き立つものだ。そこで、この日は曇っている方が好ましい、趣深い、ととらえていたのだろう。


雨なので「大田の沢のかきつばた」を見に、大田神社に行ってみることにした。大田神社の参道東側に、カキツバタの群落があるのだ。



ここのカキツバタは古代から咲き続けた花と言われており、2万5千株が自生しているという。京都がまだ湖だった頃の面影を残す泥炭地であることから、昭和14年に国の天然記念物に指定されたことが解説板に記されていた。


    神山や大田の沢のかきつばた深きたのみは色にみゆらむ

神山(上賀茂神社のご降臨山)の近くにある大田神社のカキツバタに(人々が)よくよくお願いする恋事(いろ)は、この花の色のようになんと一途(一色)で美しく可憐なのだろうか。
平安時代の歌人・藤原俊成の歌を引用し、今に多くの人を誘ってきた。平安時代からこの地がカキツバタが咲き乱れる名勝地であったと知れる。
ここ大田神社の湧水でしか生きていけないというタゴガエルが生息しているのを知った。足元から、すぐ脇の溝の流れの中から、くぐもった鳴き声だけがしきりに聞こえてくる。

雨には雨の風情があり、いとをかし。
コメント (6)
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