京の辻から   - 心ころころ好日

名残りを惜しみ、余韻をとどめつつ…

父からの手紙

2022年01月18日 | こんな本も読んでみた
薄日の中で小雪がちらつく。


春先に咲く馬酔木の愛らしい花がとても好きだが、今、秘められた盛んな活力のみなぎりで装いが進んでいた。


大型店舗の進出や世の不景気で小さな町工場や個人営業は仕事を奪われ経営難、家族の生活が守れない。父親の失踪と焼身自殺。この二つの物語がどこで接点を持つのか、ミステリー仕立てで巧みな構成に引きずられ、夜遅くまで読み進めた『父からの手紙』(小杉健治)。

【父失踪後10年となる今年も、24歳になった麻美子に父からお祝いの手紙が届いた。手紙を通し麻美子は父を身近に感じてきた】 この父からの手紙の謎。
【過去と一切の縁を断ち切って、「焼身自殺」の裏の秘密を守るべく神経をすり減らして生きねばならない日々が、果たして幸せだろうか】
【自殺などすべきではなかった。何を選択すべきだったのか。いかなる困難や試練にも負けずに生きていくこと】だった、と描かれる。
真実に目を向け、そこに自分を奮起させる希望を見出すことが、遺された者がそれぞれに背負う試練を乗り越える唯一の力となるのかもしれない。

セルビアの難民の報道だったか。家族が生きるために、食べるために、5人の末っ子3歳の女児を“嫁がせた”父親がいた。成人するまで育てる約束で先方から前金として3分の1に当たる33万円を受け取った。また、自分の臓器を売りに行った父親がいた。患者が出れば連絡がくるのだと。
遠く離れた地の傍観者は、胸ふさがれる思いで見ていた。

彼らの命が救われるためには、どんな縁が花を咲かすだろう。
コメント (2)
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