京の辻から   - 心ころころ好日

名残りを惜しみ、余韻をとどめつつ…

江戸の戯作 出版事情

2025年02月20日 | 日々の暮らしの中で

毎日寒いこの頃です。寒さで総毛だっているわけではなく、トロール人形というらしいです。
はだかんぼうでは寒そうです。



「一茶さん、ご紹介しますよ、鈴木牧之(ぼくし)さんです。越後塩沢のかたでね、俳人ですよ」
三七、八というところか、屈強の男で、律儀そうな眉だった。縮みの仲買人です、と自己紹介する声音と言葉は、一茶の耳にしたしい越後訛りである。名字帯刀を許された家柄だというが、絵も描き、詩作もし、俳諧にも親しむ。


「実はもうここ七、八年ばかり著述を続けております」
「京伝先生、一九先生、馬琴先生にもお願いしているのですが、皆さんそれぞれにお忙しくて…」
いつかは世に出したい。しかし江戸の出版業界は動いてくれない。

『北越雪譜』を世に出した鈴木牧之と一茶との接点があったのかと、『ひねくれ一茶』(田辺聖子)を読んで記憶に残った(史実を確認してはいない)。

一茶の故郷の信濃では、十一月の初めから白いものがちらちらする、人々は悪いものが降る、寒いものが降る、と口々に言い罵るのだ。やがて、三、四尺も積もれば牛馬のゆき来は、はたと止まり、長い冬が来る。だから初雪を村人はどんなににくむか、〈初雪をいまいましいとゆふべかな〉
などと田辺さんは描いたが、江戸と遠く離れた越後の様子も江戸に知られてはいなかったのだ。
豪雪地帯で人間の生活がどういうふうに宿命を受けているのか。興味深い民俗習俗行事にも触れて綴られた『北越雪譜』は岩波文庫で読める。

「もう7、8年」とあるが、10年をかけて綴ったようだ。
原稿は山東京伝に渡った。知らなかった雪国の風俗に興味をもち、出入りの版元に出版を頼むが無名の作者で利益が出るどうかかわからないと渋られる。(1年間そのままだったので一旦返してもらった、と牧之と一茶の会話にあった)。


どのような過程を経て刊行に至ったのだろう。
ひたすら書いて、刊行までには40年がかかったという。
40年かけて、著書を江戸でベスタセラーにした。
木内昇さんの『雪夢往来』でそれが読めるようだ。
「江戸の出版界に翻弄され続けた」「世に出るまでの風雪」と帯に読める。江戸の戯作者たちのライバル心、出版事情が描かれるようだ。


江戸後期の出版人・蔦屋重三郎を主人公にしたNHKの大河ドラマが始まっているが、この物語は初代蔦屋の没後に始まっているというから大河の関連本とは異なる。



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2 コメント

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寒そうなトロール人形君 (Rei)
2025-02-21 20:52:27
この人形君初めて聞きました。
流行っているのですね。

木内昇さん>昔は男性作家と思っていました。
私の好きな作家のひとりです。
櫛挽道守、漂砂のうたう、他読みました。
当時、木曽へ行き櫛まで(お六櫛)買ってきました。
亡夫が信州出身でもあり、何か惹かれるものがあります。
「信濃では月と仏とおらが蕎麦」
長い間一茶の作と思っていましたが
後に詠み人知らずと知りました。

江戸の戯作>苦手分野で何も書けなくてごめんなさい。
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木内昇さん  Reiさん (kei)
2025-02-21 21:56:15
「のぼり」さんですね。
私も「櫛挽道守」「漂砂のうたう」読みました。
どちらもいつか再読してみたいと思う作品です。

少し前に読んだ『阿蘭陀西鶴』でも、版元の利益にかける思惑やら駆け引きなど描かれていましたが、
その後、山東京伝が活躍するようになって、洒落本、黄表紙は後退し、読本に移行…。
滝沢馬琴の活躍があります。と、私も文学史的な理解で追うだけです。
40年かけて出版にこぎつける過程を読みながら、知ることもあるだろうと期待します。
方言が強く出ていて、まだ読みなれません(笑)
口にしながら読んでいるという感じですが、楽しみです。

娘に「こんなものが出てきたわ」と写真を見せましたら、トロール人形というのだと教えられました。
もともと髪は逆立っているのです。今もあるようですね。
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