我が国では「南海トラフ地震」の発生について声高に語られることが多いが、本講義において「千島海溝超巨大地震」や「日本海溝地震」など、北海道が直接影響を受ける巨大地震が切迫していることに対して警鐘を鳴らされた講義だった。
※ 本稿で使用した写真は、一枚目以外は全てウェブ上から拝借した写真です。
北大の全学企画である公開講座「ウィズコロナの時代をどう生きるか “備える”」の第3回講座が6月17日(木)にオンラインで配信された。
第3回講座は「北海道を襲う超巨大地震にどう備える?」と題して、北大理学研究院附属地震火山研究観測センター教授の高橋浩晃氏が講義を担当された。
高橋氏はまず「地震を予知することは不可能である」と述べられた。風水害は事前情報がもたらされ予知が可能であるのに対して、地震の場合は突発的であり予知することは不可能であると断言された。(だから “備え” が大事であるとの講義の趣旨と理解した)
現在北大では、理学・工学・文学の各研究院が横断的・統合的に地震研究を推進しているが、それによるとマグニチュード9(以下M9と表記)クラスの「千島海溝超巨大地震」が切迫しているという見方で一致しているという。M9というと3年前の北海道胆振東部地震がM7だったが、地震エネルギーはその時の実に1,000倍というとてつもなく巨大なエネルギーだという。そのエネルギーは「全道一円でこれまで経験したことのない強く、長い揺れが続く」とされ、さらには太平洋沿岸では20mを超える巨大な津波にも襲われると高橋氏は指摘した。そしてその切迫度はここ30年以内で最大40%の確率であるとされた。
こうした巨大地震に見舞われることが想定される中でどうした “備え” が必要かという点について、高橋氏は①命を守る、②地域経済を守る、という2点の備えが必要であると強調された。
そしてここからが高橋氏が単なる科学者ではなく、総合的に地震の危機を訴える科学者ではないかと敬服した点である。高橋氏は “備え” の中の①については、ある程度全道各地の自治体でもその対応策が進められているのではないかとしたが、高橋氏は問題は①と共に、②も非常に重要であると強調された。というもの、北海道の場合は「島」であることで、津波によって太平洋側の港湾が壊滅的な打撃を受けると、本州との物流がストップしてしまうと指摘した。それは北海道にとって死活問題であると指摘された。だからこそ、そのことに対する “備え” を今から十分にしておくことこそが重要であると強調された。
私は2016年に富士山登山のSea to Summitで富士市を訪れた時に、海岸近くに高さ10数メートルもの「津波避難タワー」を見たことがあった。私にとっては初めて見る造形物であった。来るべき「南海トラフ地震」への “備え” であろう。事程左様に東海、関西、四国地方などでは、来るべきときに対する “備え” が進められているようである。対して北海道ではその “備え” がまだまだ不足していると指摘と高橋氏は指摘した。
そして高橋氏は最後に、2011年の「東日本大震災」は想定外だった。しかし、来るべき千島海溝巨大地震は想定済みだと強調された。「想定されている災害にどう対応するのか?」それが問われていると言う。そして発災した後から復興するのではなく、「事前復興」こそが地域を守る重要な視点であると強調され講義を終えた。
私たちが住む札幌は海岸に面していないから、などと呑気なことは言っておられない。港湾が津波の被害を受けで物流がストップしてしまったなら、私たち道民全体の生活そのものが脅かされる危険を本講義で知ることができた。地震災害への “備え” がどのように進められていくのか、注意深く見守っていくことの大切さを教えられた本講義だった。