ペッカ・オルパナ駐日フィンランド大使は臆することなく自国礼賛に終始した。それだけ自国を誇りにしていることを強く感じさせた。その誇りは国連調査による国民幸福度ランキングを近年五年連続して世界第一位ということが裏付けているようだった。
※ 講演をするベッカ駐日フィンランド大使です。
ペッカ大使は1時間という短い時間の中で「自然と幸せの国 フィンランド」と題して、多岐にわたってフィンランドのことを私たちに紹介してくれた。その冒頭、フィンランドのジェンダーフリーがいかに進んでいるかについて触れた。現在の首相が女性のサンナ・マリン氏であることは、フィンランドのNATO加盟を申請したことを表明した際にメディアに露出したことで私たちも知ることになったが、ペッカ氏によるとフィンランドでは現在首相だけではなく、主要政党5党の党首が全て女性だということなのだ。これにはいささか驚いたが、フィンランドにはしっかりとした裏付けがあったのだ。フィンランドにおいては1906年(日本では明治30年)に性別に関係なく男女平等に選挙権、被選挙権が与えられ、翌1907年には初の女性議員が誕生しているそうだ。そして現在では政界のトップに次々と女性が就任しているという。例えば1990年には国防大臣、1995年には財務大臣、2000年には大統領、2003年には首相がそれぞれ初めて女性が就任したそうだ。このこと一つとっても男性中心の政治の世界から抜け出ていない国とは、国の形そのものに大きな違いがあるのかもしれない。(だからと言って我が国の政治の世界の現状を直ぐに変えるべきなどという拙速さは望んでいないが…)
※ 現在のフィンランド主要5政党の党首たちです。真ん中がマリン首相です。
そしてペッカ大使は「幸福度ランキング」について触れた。フィンランド国民は、きれいな空気と新鮮な水がある環境や安定した社会に満足しているという。そして世界でも最も自由な選挙制度や汚職が少ない国であることも誇りに感じているという。ちなみに我が国の幸福度はなんと世界62位だそうだ…。
さて精神的にフィンランド国民は幸せを感じているということだが、それを裏付ける経済の面はどうかというと、フィンランドの国民一人当たりのGDPは約5万4千ドルで。世界的には第13位に位置している。対する日本は一人当たり役3万9千ドルで第28位のようだ。
教育についても触れられた。フィンランドがOECDの「学習到達度に関する国際調査」(PISA)において、世界最高ランクに位置していることは有名なことである。そのことに関して、ペッカ大使はフィンランドの教育の現状を次のように話された。平等な教育の機会確保のために、就学前教育から専門学校、大学まで、フィンランドとEUの市民には無償で教育の機会を提供しているという。そして、学習成果の地域格差や社会格差を小さくする努力を重ねているとした。
※ フィンランドでは1940年代から給食費が無料ということです。
またソーシャルイノベーション(社会変革)については、次のように述べた。フィンランドは世界でも最も革新的な国の一つであり、安定性があり、行政が良く機能していると胸を張った。その背景には社会の様々な課題を解決してきたという。その例の一つとして、1938年(日本では昭和13年)に子どもを産んだ母親に「育児パッケージ制度」が導入されたという。「育児パッケージ」とは、育児に関する全ての物品が収められたもののようだ。このようにフィンランドではいち早く全ての母親に社会保障が行き渡ったという。
※ 説明では分かりませんでしたが、この図を見るとフィンランドでは子どもが誕生すると、給付金か育児パッケージを受け取るか選択できる制度になっているようです。
一般に北欧というと、社会保障が行き渡った国が多いというイメージがある。ということは国民が負担する税も相当なものだと思われる。54年前に私がフィンランドを訪れた時にはそのことについてフィンランド人と話す機会はなかったのだが、スウェーデンに滞在していた時に、スウェーデンのサラリーマンとお話する機会があった。税の負担についてお聞きした時、彼は「税の負担が大きいのは大変だが、将来高齢となった時に国がお世話してくれる制度なので不満はない」とのことだった。こうしたことはきっとフィンランド人にも共通のことなのではと推察する。
大使の話は多岐に渡ったが、先日も触れたように最も感じたことは自国への誇りが言葉の隅々から伺えた。つまり自国に対する “肯定感” であろう。
一般に日本人は自国に対しても、さらには自分自身に対しても “肯定感” が低いと言われている。このことを良く捉えると「まだまだ」あるいは「今以上に」という “向上心” の表れと捉えることも出来る。しかし、世界的に見ても我が国は相当に進んだ国であり、ある程度安定した国ではないだろうか?どの国、どの地域でも一定の不満は存在する。その解決を目指しつつも、自国を、自分自身を肯定的に考える必要性を私はペッカ大使の講演から受け取ったのだが…。