アメリカ合衆国は世界各地からの移民がつくってきた国家である。したがって、アメリカは植民地時代の初期から多文化社会であった。しかしその現実は複雑である。現在の姿となる過程ではさまざまな軋轢を重ねて今日を迎え、多くの問題を抱えていることもまた事実である。アメリカ社会はどこへ向かっていくのか?研究者からお話を聴いた。
11月9日(土)午後、武蔵女子大学の「武蔵教養セミナー」が開催され参加した。テーマは「分断するアメリカ~多文化主義、ポピュリズム。民主主義~」と題して同大学の専任講師である木下なつき氏が講座を担当した。
まず私の不明を恥じたのは、アメリカの植民地時代には〈普通の白人の移民〉、〈白人年季奉公人〉、〈黒人奴隷〉と三つの階級が存在したということだ。私が初耳だった〈白人年季奉公人〉とは、本国で貧困にあえいでいた白人が新天地アメリカに契約で雇われ、自由を奪われる形で農場などに奉公し、契約の年季を終えると普通の移民同様に扱われるという制度だったという。(17~19世紀)
このようにアメリカでは国の成り立ちの時代から、身分に差がある制度が存在していたようだ。そして彼の悪名高き「黒人奴隷制度」である。1861年から1865年まで続いた「南北戦争」により北軍の勝利により黒人への差別は無くなったかに見えたが実態はそうではなかった。(戦争中の1863年にはリンカーン大統領によって「奴隷解放宣言」が発せられたが…)その実態について、ここでは省略する。
黒人への差別が根強く残るアメリカだったが、経済的には世界を凌駕するような発展を見せ、超大国への道を突き進んだ。
そうした豊かな国アメリカを目ざしてヨーロッパはもとより、アジア、中南米など世界各国から移民が殺到した。それらの移民に対する差別も存在し、日本から渡米した人たちもその差別に苦悩しながら移民の国アメリカに溶け込んでいった。
さらに今、中南米からの移民がアメリカでは政治問題化している。
ここまで表層的にアメリカへの移民、そしてそれらに対する差別化についてざーっと辿ってきたが、公開講座は講師の木下氏が非常なスピードでその内実も含め説明してくれた。それは普通の講座の3倍くらいのスピードではなかったろうか。そのため私はその内容を十分に咀嚼できたとは言いかねる状態だったが、時はアメリカ大統領選挙の結果が判明した直後だった。
当選したトランプ大統領の言動を振り返ってみると、彼の主張は移民を認めず、その上白人優先主義的主張も繰り返していたように思う。アメリカはこれまで多くの矛盾を抱えながらも、少しずつ少しずつ多文化を認め、民族的な対立も解消の方向へ歩みを進めていたと私は理解していた。しかし、トランプ新大統領の主張はその歩みを逆行させる方向に舵をきるかのように聞こえてくる。
現代はアメリカのみならず、ヨーロッパにおいても、その他の地域においても、自国優先主義の主張がまかり通るような状況になってきたのではないだろうか?
我が国だって他国を非難できる立場にはない。過去には朝鮮人民を差別したり、現代においても基本的に移民を認めないなど、多くの問題を抱えている。
人間の “本性” として、他より優位に立ちたいという性を誰もが持ち合わせているのではないだろうか?それを “理性” でもってより理想的な社会を築くために先輩たちは営々と努力を重ねてきたのが現代の姿だと私は理解している。それがもしかして音をたてて崩れ去ろうとしているのだとしたら……。
講座の内容を詳しくレポすることはできなかったが、講座の受講を終えて前述のようなことが私の頭の中を駆け巡った。
※ 私は残念ながら「武蔵教養セミナー」3講座のうち、都合で本講座のみの受講となった。