今回もまたまた感動させてもらった。札幌演劇シーズンの特別版として毎年上演される高校演劇を、私はいつも楽しみにしている。今回の大麻高校と啓北商業高校の演劇も十分に満足させてくれる舞台だった。
札幌(道内)で活動する演劇集団が集中的に演劇を公演する「札幌演劇シーズン」の特別ゲスト的な立場で演劇を披露するのが「北海道高校演劇Special Day」である。この舞台で演ずるのは前年の北海道高校演劇大会で最優秀賞と優秀賞に輝いた2校が演ずる。
数年前までは最優秀校だけだったのだが、最近は2校の舞台を観劇できるようになった。今年の出演は最優秀校の大麻高校と優秀校の啓北商業高校だった。
そのSpecial Dayが昨日(6日)午後と夜にかでるホール(北海道立道民活動センター)で開催され、私は午後の部を観劇した。
私はこの高校演劇がことのほか好きで、2017年から毎年のように観劇している。何故好きなのか考えてみると、一般の演劇に比して訴えようとしていることがストレートに伝わってくるところに一番の魅力を感じている。演劇集団の演劇を観劇したこともあるが、一般的に言ってどうも難解に思えるところがあって足を向ける気にならないところがある。
さて舞台の方である。最初に登場したのは江別市にある大麻高校の「Tep‐Off」と題する舞台だった。Tep‐Offとは、バスケットボール用語で試合開始の際のジャンプボールのことで、「始まり」を意味している。ここで彼らが劇の概要を紹介する文章が見つかったので、それを紹介すると…、
「これから始まるんだよ、俺たち。 舞台は、コロナが収束し、卒業生たちが母校にやってくることから始まります。彼らは、すべての学校が臨時休校となりインターハイ等が中止になった時の3年生。主人公の浩太は当時バスケット部のキャプテンでしたが、急きょ行われた代替大会で親友の京介とぶつかり、仲違いしたまま卒業、別々の道に進みます。…それからの3年後の彼らを描きます。」
バスケットボールに青春をかけた浩太たちが未曽有のコロナ禍に遭遇し、キャプテンとして苦悩し傷つき己を見失った浩太。一方、思わぬ事故からバスケが出来なくなってしまった京介。そんな二人をなんとか仲直りさせようと心を遣う同じバスケ部だった元女子生徒たち。浩太は周りの気遣いから頑なだった気持ちを氷解させ、再びバスケに立ち向かおうとし、京介は車椅子バスケに挑戦することを誓う。「これから始まるんだよ、俺たち」と…。そんな青春群像がけれん味なく描かれていた。特にお涙頂戴的には見えない舞台だったが、会場内にはハンカチを手に涙する姿が目立った。私の中にもじわじわと感動する気持ちが湧きあがってきたのだった。
一方、札幌啓北商業高校は「七夕」という舞台だった。こちらも演劇の概要を紹介する文章を記述する。
「もうおばあちゃんを一人にしないから、だから…。 夫に先立たれ一人暮らしをしている松ばあちゃんの家で、まるで孫のように振る舞うセールスマンの真。そこへ高校生の孫の姉妹がやってくる。久しぶりに会う孫たちのためにご飯を炊いて待っていたが、二人はすぐに出かけるという。能天気な姉の由紀と生真面目な妹の美里。美里は真を怪しく思い、松に忠告するが…。今日から「七夕」…、隣家の小学生のはるかちゃんからもらった短冊に、松は何を書くか。」
こちらも老人の一人暮らしと、それに取り入ろうとする詐欺まがい人物を登場させるという時宜を得た題材である。「七夕」の短冊な何と書くかより、年に一度しか再会しない織姫と彦星のように松ばあちゃんに会うことが少なかったこと(この劇では2年ぶりの再会だったという)に自責の念を感ずる美里が「もうおばあちゃんを一人にしないから、だから…」と呟かせ、高校生たちに親や祖父母たちの存在の尊さを訴えかける内容だった。
高校演劇ばかりではないが、演劇の巧拙を左右するのは何と言っても脚本によると私はいつも思う。今回の場合も「Tep‐Off」は大麻高校演劇部顧問の山崎公博先生の脚本によるところが大きいと思った。また、演ずる生徒たちのレベルも相当高いと感じた舞台だった。「七夕」もまた現代的な課題を考えさせられる舞台であり、生徒たちも熱演していた。ただ、北海道大会の成績が物語るように、大麻高校の脚本が若干勝っていたかな?と思えた今年の北海道高校演劇Special Dayだった。来年のSpecial Dayも楽しみである。
※ 掲載写真は全てウェブ上から拝借しました。