雅工房 作品集

長編小説を中心に、中短編小説・コラムなどを発表しています。

子供が手招きする ・ 今昔物語 ( 27 - 3 )

2018-10-25 14:50:12 | 今昔物語拾い読み ・ その7
          子供が手招きする ・ 今昔物語 ( 27 - 3 )

今は昔、
桃園というのはいまの世尊寺のことである。まだ寺になる前は、西の宮の左大臣(源高明。醍醐天皇の第十皇子。)が住んでおられた。

その頃の事であるが、寝殿の辰巳(タツミ・東南)の母屋(モヤ・寝殿の中央部分で、庇の内側にある部屋。)の柱の木に節穴が開いていた。夜になると、その木の節穴から小さな子供の手が出てきて、人を手招きした。
大臣(オトド)はこれをお聞きになって、たいへん不思議な事と怪しみ驚かれて、その穴の上に経文を結び付け奉ったが、やはり手招きをする。仏の絵像を掛け奉ったが、手招きすることは止まなかった。
このようにいろいろ試してみたが、どうしても止まず、二夜、三夜を隔てて、真夜中の人が寝入った頃になると、必ず手招きするのである。

そうした時、ある人がもう一度試してみようと、征矢(ソヤ・戦陣で用いる矢。)を一本その穴に差し込んでみたところ、その征矢がある間は手招きすることがなかったので、その後は、矢柄は抜き取って、征矢の身(やじり)だけを穴に深く打ち込んでみると、それから後は、手招きすることはなくなった。

これを思うに、何とも訳の分からないことである。きっと、物の霊などの為せることであろう。
それにしても、征矢の霊験が仏像や経文に勝っていて、これを恐れるとはどういうことなのか。
されば、当時の人はこれを聞いて、どうも怪しいと疑った、
となむ語り伝へたるとや。

     ☆   ☆   ☆

コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 赤い単衣 ・ 今昔物語 ( 27... | トップ | 融左大臣の霊 ・ 今昔物語 ... »

コメントを投稿

今昔物語拾い読み ・ その7」カテゴリの最新記事