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21世紀の資本(トマ・ピケティ):国家のP/LのGDPの成長率とB/Sの純資産の利回りを比較は新鮮

2015-03-17 04:54:42 | マクロ経済

 話題の本で知的興奮がある。訳は仏語から英語、日本語でこなれていない上、分担で統一がいまひとつ。術語については英語併記が欲しい。(日本語では何のことか分からない)

体系的章立てが印象的で、資本と所得、資本/所得比率の動学、格差の構造、21世紀の資本論となっている。

 データについても下記のサイトにまとめられており便利だ。

http://piketty.pse.ens.fr/en/capital21c2

 

 内容はマクロ経済や政治学、公共経済学など多岐にわたる。基礎知識がないと読めないだろう。特徴的な観点は国家のP/LをGDP(Income)とし、B/Sを資本(Capital)と定義した、複式簿記のような構成だ。これは卓見だ。P/LとB/Sでは歴史的に見てB/Sが原因で格差が生まれたと資産の利回り分析(これがどうも分かり難い)から結論づけているのが特色だ。

その内容は、GDP成長率をg(Economic Growth)とし、資本収益率をr(Rate of Return on Capital)としてこれを分析している。有名な結論はr>g (資本収益率は経済成長率を上回る)というもので、行動経済学でも時間選好率θのプレミアムが乗ると、さらっと証明している。そのため、rは4~5%で安定となるが、gは1%程度となっている。

定義:β=Capital /Income Ratio 

 歴史的には1930~50の世界大戦のときに低下する「U字曲線」となる→政治・社会動向が経済に絡む証拠として3つ目の要点に挙げている

第一法則:α=r×β=GDPのうち資本からの収益の割合を示す

第二法則:β=s/g=長期的には貯蓄率(資本成長S=I)/経済成長(賃上げ)で均衡する

 構成の基本は上記で、難しくもなんともない。資本を持つものが、より富を増やすという結論で、政策や課税などの歴史が関与しているという解明もある。更に、富が上位階層にシフトしている事実がある。これは資本主義の矛盾で、持たない階層の努力や起業などやる気をそぐ悪循環を生むと結論づけた。

格差では、相続でモジリアーニの「ライフサイクル仮説(有名な三角形)」や、利権としてのRent概念、ロールズの「格差原理」、センの「Capability Approach」が紹介されるが、社会学としての分析は浅い。

 公的債務問題につては資本税、インフレ、緊縮財政を対策としているが、資本税を格差是正とともに推している。インフレは富を再配分しない、つまりは運用に長けた階層をより豊かにするとしている。

 結論は、格差是正には累進資本税が有効で、そのためには国際的な課税体制の協調(抜け駆けがあると富が移転する)が必要と説く。

 全体にジャレド・ダイヤモンドみたいな大風呂敷であり、昔の世界資産の算定などに確かさに難点もあるが論旨としてまとまっている。しかし、P/LをGDP(Income)とし、B/Sを資本(Capital)と定義した場合の資本からの収入(株式、債券、経済地代など)の算出に疑問がある(GDP算出の不確かさと国家による違い)更に、時間軸を導入し、政治・社会変動を経済の要素として重視しているのは立体的な把握だ。

 更に、政治や社会科学を導入した「政治歴史経済学」を提唱している。これは正しい。都市経済学でも制度やコーホートという社会バイアスとの歴史だった。

 個人的見解として、資産の利回りを更に深耕した分析が欲しい。

 実に面白い、英文で読んだ方がよかった

コメント
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