Sightsong

自縄自縛日記

ピーター・エヴァンス『House Special』

2018-05-11 20:05:09 | アヴァンギャルド・ジャズ

ピーター・エヴァンス『House Special』(2015年)を聴く。なおbandcampで無料。

House Special:
Paul Wilson (p, syn) 
Peter Evans (tp)
Sam Pluta (live electronics) 
Levy Lorenzo (perc, electronics)
Kassa Overall (drumset, drumpad)

48分間一本勝負のインプロヴィゼーション。無料だからアレなのかなと思ったがまったくそんなことはない。

サム・プルータらのエレクトロニクスはもはや普通のジャズ要素になっているし、それを含めても、ジャズ・フォーマットでの熱演と言ってよいだろう。サウンドは次第にヒートアップしてゆき、いい意味でグループが一体化する。興奮必至。

20分過ぎにピーター・エヴァンスのトランペットとポール・ウィルソンのシンセがハモったり、30分過ぎにエヴァンスのソロに焦点が当てられたり、35分ころにエレクトロニクスがリミッターを外したり、37分ころにエヴァンスとエレクトロニクス群とがやりあってお互いに痙攣したり、これは会場にいたら確実に動悸が激しくなり鼻血を流していただろう。エヴァンスのトランペットは一貫してマッチョであり完璧そのもの(絶賛)。随時介入するウィルソンのピアノもまた効果的。静かになってもドラムとエレクトロニクスが心臓の鼓動のように息づいており、ふたたび周囲の生命に活力を吹き込んでゆく。

なお本演奏は、NYのThe Stoneにおいて2015/9/22-27に行われたピーター・エヴァンスのレジデンシー最終日になされた。プログラムは以下の通り多彩であり、わたしもそのうち3つを観ることができた。(それにしても、ここにもデイヴィッド・ブライアントが参加していたのだな。恐るべし)

今年9月にエヴァンスが来日する予定だが、ぜひ、日本ならではの刺激的なプログラムが組まれてほしい。

9/22 Tuesday

8 pm Evan Parker’s US Electro-Acoustic Ensemble:(クレイグ・テイボーンは欠席)
Evan Parker (ss), George Lewis (electronics, tb), Ikue Mori, Sam Pluta (electronics), Ned Rothenberg (bcl, cl, shakuhachi), Peter Evans (tp)

10 pm Rocket Science:(クレイグ・テイボーンは欠席)
Evan Parker (ts, ss)
Peter Evans (tp)
Sam Pluta, Ikue Mori (electronics)

9/23 Wednesday

8 pm Peter Evans, Amirtha Kidambi, Leila Bordeuil and Brandon LopeZ Amirtha Kidambi (voice), Peter Evans (tp, piccolo tp), Leila Bordeuil (cello), Brandon Lopez (b)

10 pm Quartet Improvisations:
David Byrd-Marrow (french horn), Peter Evans (tp), Anthony Orji (bcl), Brandon Lopez (b)

9/24 Thursday

8 and 10 pm Pulverize the Sound:
Peter Evans (tp), Tim Dahl (b), Mike Pride (ds)

9/25 Friday

8 pm Peter Evans Quintet:
Peter Evans (tp, compositions), Ron Stabinsky (p, syn), Tom Blancarte (b), Jim Black (ds, electronics), Sam Pluta (electronics)

9/26 Saturday

8 pm Zebulon Trio:
Peter Evans (tp), John Hébert (b), Kassa Overall (ds)

10 pm Zebulon + David Bryant:
Peter Evans (tp), David Bryant (p), John Hébert (b), Kassa Overall (ds)

9/27 Sunday

10 pm: House Special: (コレ)

Paul Wilson (p, syn), Peter Evans (tp), Sam Pluta (live electronics), Levy Lorenzo (perc, electronics), Kassa Overall (drumset, drumpad)

●ピーター・エヴァンス
マタナ・ロバーツ「breathe...」@Roulette(2017年)
Pulverize the Sound、ケヴィン・シェイ+ルーカス・ブロード@Trans-Pecos(2017年)
Pulverize the Sound@The Stone(2015年)
Rocket Science変形版@The Stone(2015年)
エヴァン・パーカー US Electro-Acoustic Ensemble@The Stone(2015年)
トラヴィス・ラプランテ+ピーター・エヴァンス『Secret Meeting』(2015年)
ブランカート+エヴァンス+ジェンセン+ペック『The Gauntlet of Mehen』(2015年)
エヴァン・パーカー ElectroAcoustic Septet『Seven』(2014年)
MOPDtK『Blue』(2014年)
チャン+エヴァンス+ブランカート+ウォルター『CRYPTOCRYSTALLINE』、『Pulverize the Sound』(2013、15年)
PEOPLEの3枚(-2005、-2007、-2014年)
ピーター・エヴァンス『Destiation: Void』(2013年)
ピーター・エヴァンス+アグスティ・フェルナンデス+マッツ・グスタフソン『A Quietness of Water』(2012年)
『Rocket Science』(2012年)
MOPDtK『(live)』(2012年)
ピエロ・ビットロ・ボン(Lacus Amoenus)『The Sauna Session』(2012年)
ウィーゼル・ウォルター+メアリー・ハルヴァーソン+ピーター・エヴァンス『Mechanical Malfunction』(2012年)

ピーター・エヴァンス+サム・プルータ+ジム・アルティエリ『sum and difference』(2011年)
ピーター・エヴァンス『Ghosts』(2011年)
エヴァン・パーカー+オッキュン・リー+ピーター・エヴァンス『The Bleeding Edge』(2010年)
ピーター・エヴァンス『Live in Lisbon』(2009年)
MOPDtK『The Coimbra Concert』(2010年)
ウィーゼル・ウォルター+メアリー・ハルヴァーソン+ピーター・エヴァンス『Electric Fruit』(2009年)
オッキュン・リー+ピーター・エヴァンス+スティーヴ・ベレスフォード『Check for Monsters』(2008年)
MOPDtK『Forty Fort』(2008-09年) 


Shuta Hiraki『Afterwhile』

2018-05-11 18:52:44 | アヴァンギャルド・ジャズ

Shuta Hiraki『Afterwhile』(2018年)を聴く。

よろすずさんである。

前の作品(『Unicursal』『Ftarri 福袋 2018』)では、複数の音のレイヤーがあって、それらが自律的に代替可能なサウンドだという印象があった。つまり聴いていると無意識に誘い込まれ、いつの間にかレイヤー間を移動しているというような。

本盤の印象はちょっと異なる。相互並行な音世界は敢えて構築されていないように思える。

アンビエントドローンにより幻視される世界があって、その背後に、誰か「中の人」が移動し、息づいているような感覚がある(自然音のサンプリングなのかな)。その大きな幻視のためか、それとも「中の人」により目の前の世界にブリッジが架けられているためなのか、奇妙な多幸感を覚える。そしてよりナチュラルな仕上がりになっていて、なぜか聴いていて安堵する。

思い出すこと。90年代初頭に、再開発前の汐留に、パナソニック(当時は松下電器)が東京P/N(パーン)というショールームを開いていた。ヒトの脳内でアルファ波を出すという音楽も流れていて、うさん臭く思いながらも最先端を愉しんでいた(きっとみんなそうだったろう)。そんなものはやがて消えた。しかしそれは消えたのではなく、人の共有的な記憶や地下世界で熟成されて、いつの間にか別のリアルをまとって、二周まわってここにも姿を現したのではないか。まあ知らないし妄想です。

●Shuta Hiraki
『Ftarri 福袋 2018』(2017年)
Shuta Hiraki『Unicursal』(2017年)


マシュー・ルクス(Communication Arts Quartet)『Contra/Fact』

2018-05-11 16:11:28 | アヴァンギャルド・ジャズ

マシュー・ルクスの「Communication Arts Quartet」による『Contra/Fact』(Astral Spirits/Monofonus Press、-2017年)を聴く。

Mikel Patrick Avery (ds, perc, g, mellotron)
Ben Lamar Gay (cor, electronics, melodica, perc)
Jayve Montgomery (ts, clarinumpet, fl, samples, perc)
Matthew Lux (b, syn, g, chirimia, perc)

ベン・ラマー・ゲイが目当てで探したようなものだが、いや想像以上に愉快。

皆がエレクトロニクスや妙な楽器を使いまくってのたゆたう宇宙サウンド。フィールド感もあり現代的に生々しい。

マシュー・ルクスのベースは下から下品に場を響かせ、ジェイヴ・モンゴメリーのテナーにはファラオ・サンダースの咆哮が入っている。いやカマシ・ワシントンみたいに真面目にファラオをやるより、脱力してナチュラルにあやしいこっちのが正しいと思うよ。

もちろんゲイのコルネットもウェットに響いている。そこだけ雰囲気がオールドになったりして、気持ちいい。シカゴいいなあ。

●ベン・ラマー・ゲイ
ベン・ラマー・ゲイ『Downtown Castles Can Never Block The Sun』(-2018年)
ジェイミー・ブランチ『Fly or Die』(-2017年)


サイモン・ナバトフ『Tunes I Still Play』

2018-05-11 09:31:48 | アヴァンギャルド・ジャズ

サイモン・ナバトフ『Tunes I Still Play』(2017年)を聴く。

Simon Nabatov (p)

2017年、台湾でのソロピアノ演奏。

タイトル通り、ナバトフが「いまも弾いている曲」がプログラムに集められている。どれも面白いのだが、こちらが馴染み深いジャズ曲と比べると(しかも癖が強い)、その面白さが引き立ってくる。セロニアス・モンクの3曲、それからハービー・ニコルスの「Lady Sings the Blues」と「2300 Skiddoo」。

ニコルスのすぐれたカバー演奏といえば、ダック・ベイカーのギターソロや、ラズウェル・ラッド、スティーヴ・レイシー、ミシャ・メンゲルベルク、ケント・カーター、ハン・ベニンクの『Regeneration』を傑出した作品として思い出すのだが、それらは、ニコルスの重力圏に身を寄せたように単線のラインによるものだった。一方、ここでのナバトフは、複数のきらびやかなラインを華麗に紙縒り合わせてゆく。こんなニコルスをはじめて聴いた。

●サイモン・ナバトフ
サイモン・ナバトフ@新宿ピットイン(2017年)
サイモン・ナバトフ+マックス・ジョンソン+マイケル・サリン『Free Reservoir』(2016年)
藤井郷子オーケストラベルリン『Ninety-Nine Years』(JazzTokyo)(ナバトフとマティアス・シューベルトとの共演作について)
サイモン・ナバトフ+トム・レイニー『Steady Now』
(2005年)