
ずっと気になっていた作品、やっと入手読了した。
著者ブルボン小林となっているが、コラムニストとしてのペンネーム。
芥川賞作家・長嶋有、である。(俳人・長島肩甲でもある)
だが、(そんなことに関係なく)評論として、本書は質が高い。
そのレベル、中条省平クラスか、それ以上、と思われる。
もちろん、切り口が全く異なるけど、そこが面白い。
(表紙は寝転んで本を読むハットリくん・・・これが著者の姿勢、スタンスを表現している、と思う)
内容は非常に細かい点を突いてるんだけど、これが作品の核心だったりする。
以下、興味深かった箇所を紹介する。
P42「ガラスの仮面」に生じたねじれ
あまりに長期間にわたって連載されているので、過去の作品と現在の風俗が合わなくなっている。
例えばテレカ→ポケベル→携帯、と世の中進化した。
「ちびまる子」だと登場人物が成長しないが、「ガラスの仮面」は成長している。
それをどう調整するのか?
(関係ないけど、ドイルがシリーズ後半、ホームズに電話を使わせた、ってのを思い出す)
P47あとがき漫画について。
美化も、過剰なデフォルメもない佐々木倫子のあとがき漫画に驚いている。
以下、著者の言葉。
本編の面白さもだが、あとがきのドライさ一点だけで、僕はこの作者になんだか一目おいてしまうのである。きっとこの人にはなにかある。
P102
「キャラ」という言葉だが、僕の定義ではこれは「個性」と似て非なるものだ。
たとえば野球もので『ドカベン』は主としてキャラの漫画だが、『キャプテン』は主に個性を描いた漫画である。
P104
八十年代、ジャンプ漫画の主人公の多くには共通点があった。「女の子に甘く」「明るいお調子者」だが「やるときはやる」。
著者によると、その後傾向に変化が見られるそうだ。
まず「女子に甘い」どころか、女子に興味がない(作中に女子があまり登場しない)。冷静で「お調子者」でもない(脇役にもお調子者は見当たらない)。「やるときゃやる」だけは発揮されるが、「やるときゃ」という軽みは感じられない。
(中略)
これはあれだ、安直な見立てだが、草食系男子だ。
少し前から指摘されている、少年漫画の「少年」読者減少のせいだろうか(外野から眺めていても、ここ十年ほどのジャンプ漫画の人物造形は女子ウケのする美少年ばかりだ)。
P140
「ハチクロ」について書かれている。
絵本作家の佐野洋子さんの感想を引用している。
「私が美大生のころの方が楽しかった」、と。
(漫画相手に)負けず嫌いなことをいってるのも格好いい!
そしてこの漫画が恋愛以上に「楽しさ」を描こうとしていることを正しく見抜いたということも。
『ハチクロ』は僕も楽しく読んだ。他『のだめカンタービレ』など読み終えて思う。最近(といってもここ十年ほどさかのぼるが)の少女漫画には特徴がある。「だらしない生活ぶりをあえて描く」「オタクギャグを散りばめる」「人物の画にリアル調とギャグ調とあって、展開によってスピーディに使い分ける(描線が二つあることでなく、切り替え速度が今風)」。
P170
萩尾望都さんとの対談について。
「大物」というのは偉そうに振舞うから大物なのではない。この人こそ手塚治虫と同時代に大活躍して文化を築き上げた存在であり、今なお現役で大作に取り組んでいる、あの人だという圧倒的な「情報量」が、こちらを畏敬の念ですくませるのだと思う。
とにかく萩尾さんのおかげで笑いのたえない対談だったが、一瞬だけその場の全員に陰のさした瞬間があって、それは『テレプシコーラ/舞姫』の千花ちゃんが亡くなった話題のときだった。
P180-183
花輪和一は宮崎駿のやりたかったことを易々とやってしまった、と。
エコロジー作家だなんで思われたくないという宮崎駿の気持ちは分かる。だが『もののけ姫』はそのせいで、さらに重い「テーマ」をまとってしまった。
(中略)
絶対に宮崎は花輪をうらやましいと思っているはずだ。マイナーな雑誌で、変な期待をされることなく好きに描けるということの自由さを。
P189-193
浦沢直樹について。
様式で衝撃を与えることが悪いわけではないが、浦沢直樹のそれは「うますぎる」。うまいことはいいことだが、すぎるとどうなるか。口に運ぶと、味と同時にシェフの自信ありげな顔が浮かぶ感じがする。
P201
読み込んだ漫画ですら、覚えているのはほんの一場面ということが多い。だから我々はときに「再読」ということをする。忘れてしまっているから思い出すためにする再読もあるけど、そうじゃなくて、覚えているあの一場面や一キャラクター、一セリフをもう一度みたいとう欲求が多いのではないか。
漫画というのはそういう一コマがあれば、もういいんじゃないかと思うときがある。極論のようだけど。小説なんかもそうだ。我々は小説を暗記できない(よほど頑張らないと)。でもページをめくるたびにあのキャラクターが(記憶と同じ)台詞をいっていたり、何かのしぐさをしている。物語とかテーマではなくて、鮮烈ななにかを一箇所でも読者に残すことができれば、それは成功だ。
【ネット上の紹介】
『美味しんぼ』の山岡さんと栗田ゆう子の結婚をなげき、『デトロイト・メタル・シティ』をデーモン閣下目線で語り、『ぼのぼの』の激やせを心配、『臨死!江古田ちゃん』Tシャツを着て、「少年ジャンプ」主人公たちの草食男子化を考え、骨川スネ夫の自慢を分類・統計化する。最強のスーダラ・コラムニストが入魂の書き下ろしを加えて贈る、マンガをマンガとしてもっと楽しむためのアイデア68本。